…………だから、俺はいったい………何を考えていたんだろう………  
 
 
 
薬箱をとりながら思わず大きな溜め息が出てしまった。  
 
 
 
あれからなるべく彼女には会わないようにして来ていたというのに。  
 
最後にふたりきりで会ったのは、彼女が俺に謝罪して来たあの車の中。  
あの日彼女を…むさぼるように抱いて確信したんだ。  
 
これ以上はダメだ。  
 
彼女を離したくない  
誰にも渡したくない  
 
…この気持ちが  
 
 
認める訳にはいかない  
 
そういう感情だと  
……………………  
 
 
彼女は事務所の後輩だ。それ以上ではけして無い。  
そう言い聞かせて接してきた。  
時折彼女が何か言いたげに見つめてきたが、全て嘘の笑顔でごまかして…  
忙しいフリで連絡もとらないでいた。  
 
それなのに俺は演技に行き詰まり  
暗闇の中でもがくうちに  
彼女の差し伸べてくれた優しさに癒され………  
 
つい、あんな頼みをしてしまったのだった  
 
「元気の出るお弁当をもらいついでに  
もう一つ できればもらいたいものがあるんだけど…」  
 
「…え…?何ですか?」  
 
「…君の 今夜の 時間と身体…」  
 
とくん とくん とくん  
 
ひさしぶりの敦賀さんの部屋。  
ひさしぶりのコロンの香りで大きく深呼吸した。  
 
最近なんだかずっと、タイミングが悪いのかぜんぜん会えなかった。  
たまに事務所で会うといつも通りに優しい敦賀さんだったけど…  
 
なんでだろう。  
あの嘘つき眩い笑顔とも、少し違う笑顔…  
 
少しとまどう感じの…  
 
でもきっとそれは、敦賀さんが演技で詰まっていての苦しい時期だったせいで  
私なんかでは何の役にもたたないから…  
 
…正直いうと  
私も少し安心していたのかもしれない。  
 
最後に敦賀さんに抱かれた…あの車の中での抱擁が  
あんまり優しくて…幸せで…蕩けてしまいそうだったから  
 
アブナイ コノママジャ ワタシ マタ…………  
 
ブレーキをかける気持ちと、会いたい気持ち。  
せめぎあって訳わかんなくなりそうだった。  
 
敦賀さんが忙しくて…ほっとしてた部分もあったかもしれない。  
このまま、敦賀さんにもう…触れるコトが無ければ…  
 
この感情も無かったことにできるのかもしれない。  
 
 
でも、苦しんでる敦賀さんに…  
 
ほっとけなくて  
少しでも…何か敦賀さんの力になりたくて…  
 
でもあの言葉を言われた時  
私の中の警報と同時に  
一緒に…またいられる…嬉しさが込み上げてきたのだ  
 
「…君の 今夜の 時間と身体…」  
 
 
…演技のお稽古につきあって欲しいだけだとわかった時は  
ちょっと不機嫌になってしまったくらい………  
 
ちょっとがっかりしてる自分にとまどった。  
 
またあの腕に…あの唇に  
私をゆだねて…一緒に…何よりも誰よりも近くに  
敦賀さんを感じる事ができると………  
 
私は………  
 
 
 
…………ああ!!何考えてるの!!私ってば!  
これでいいんじゃない!もう!!!  
 
 
 
この子はホントに…もう…。  
 
なんて無茶するんだ、まったく。  
赤く腫れ上がったくるぶしを目の前にしながらため息が出た。  
 
ダークムーンごっこ…につきあわせたのは俺なんだが、彼女の使命感は恐れ入る。  
恐れ入ると言うか…  
 
……………はぁ。  
 
あのなりゆきで彼女がおとなしく引き下がるとは思ってなかったけど…  
女の子がやると思わなかったよ…あんな悪質訪問販売員みたいなこと…  
 
まったく……この子は…  
 
嘉月として、美月としての言葉の応酬をしながら  
 
痛々しい彼女の足につける薬をガーゼに出して  
それをつけようと彼女の足をとった時  
ドアの外で少し冷えた感触が手のひらに伝わってきて  
滑らかな肌が吸いつくようで  
 
ふいに彼女の…あのしなやかに呼応する身体を思い出し  
 
思わず細い足首を撫でてしまった。  
 
「…!?せ・先生?」  
 
はっ…  
 
………俺は…今、何をした????  
 
「あ、や、ごめん…」  
 
じゃない。何を謝ってるんだ俺は。  
 
 
今俺は敦賀蓮じゃないんだ。嘉月…この子の先生なんだ。  
そしてこの子も…彼女も美月。最上キョーコじゃないんだぞ。しっかりしろ!蓮!  
 
そんなつもりで呼んだんじゃない。  
第一その感情は…もう封じこめるはずだったじゃないか。  
 
まるで自分自身のシチュエーションのように  
嘉月と美月………愛を語りあうことが許されない。  
 
 
この子はダメなんだ。  
 
「い・いや、本郷、薬つけるから、もう少し前に足を出してくれるか?」  
 
「あ・は・はい…こう…ですか?」  
 
さくり  
と割れるように彼女の足が開いた瞬間に太ももの奥までちらりとのぞく。  
 
思わず目をそむけた。胸がドクッと鳴る。  
顔が思わず赤らむのがわかる。  
 
だから何をやってるんだ俺は!  
これじゃあ盛りのついた高校生だろ。  
 
なるべく見上げないように彼女の白い足の傷を見る。  
足首から滑らかな曲線を描く彼女の足が、妙に扇情的で、  
自覚はしたくないが完全に欲情しているのがわかる。  
 
気付かれないように  
息を整えて、そうっと傷にガーゼをあてる…  
 
「…!ひゃぅっ…」  
 
ビクンと彼女の足が跳ねる。  
しみるんだろうけど、俺はまったく別の想像をしてしまい、ますます自分で混乱してきていた。  
 
ああ、頼む…頼むから美月…そんな声を出さないでくれ  
 
理性が飛びそうになる…  
 
「…ありがとう…先生…あの…具合はどうですか?風邪だって聞いて…」  
 
美月は無邪気に笑いながら話し掛けてくる。  
 
この子は教え子。この子は婚約者の親戚。そして…この子は絶対に好きになってはいけない子…  
 
敦賀蓮としての俺にとっても  
この子は………  
 
喉がからからになってる。  
彼女の問いに答えられない。  
 
演技の練習だといったばかりなのに  
 
…………嘉月  
お前ならどうするんだ。  
 
愛しい女を目の前にして  
堪えられるのか?…この状況で  
 
 
彼女の足首を支えながら  
かすかに自分の手が震えてくるのがわかる……  
 
 
 
 
……………………焦がれるほど欲しい………  
 
 
このまま  
力づくでも  
自分のものにできたなら………  
 
誰もいない。  
誰も見ていない…………  
 
誰も来やしない……ここには。  
 
「?せんせ…?」  
 
美月……お前を    このまま……………  
 
する…っ  
彼女のひざの裏まで手を滑らす。  
 
ビクンと彼女の身体が震える。  
 
気付けば俺は彼女の足にくちづけをしていた………  
 
 
 
「せんっ…せっ???……!…」  
 
顔を真っ赤にして、何がおこったかわからない彼女。  
 
理性と本能がせめぎあう。  
 
でもどうしても唇が…彼女の足から離れない。  
上に下に、夢中で這わせる。  
 
「…やっ…は…ッ…せん……ッつ・敦賀…さっ…あんっ…」  
 
熱い唇が痛むくるぶしに押し当てられる。  
それだけで背中まで電流がかけのぼったようになった。  
 
これは演技なの?それとも本気なの…?  
どうしていいのかわからない  
 
でもうごめく唇に完全に意識は集中してしまい、思わず敦賀さんの名前を口走ってしまった。  
 
いけない 嘉月なのに  
嘉月………なのに…………  
 
嘉月………操さんの婚約者…  
私の………好きな…先生…  
 
ああ 美月  
あなたならどうするんだろう…こんな時  
 
大好きな先生の唇がこんなに…熱くて… 気が遠くなる……  
 
ダイスキナ………センセイ………カツキ……  
ダイスキナ………ツ…ルガ………  
 
 
 
これは演技なのか、それとも本気なのか  
 
彼女もわからずとまどっているようだが…俺も同じ。  
 
 
 
いけない。  
もうやめなきゃ。  
もう終わらさなきゃ。  
 
頭ではわかっていても…止まらない。  
 
もう唇は彼女のひざのあたりにまできていて内股に這い出してゆく。  
 
 
ダメだ…いけない…  
この子はダメなんだ……!!!!  
 
もうそう決めたはずじゃないのか!!  
 
 
嘉月としての自分と、敦賀蓮としても気持ちが重なってくるのがわかる。  
 
「や・あっ…んっ…あ・ああんっ…っ敦賀…さ…」  
 
苦しまぎれで顔をあげた時、彼女の真っ赤になって感じてる顔が目に入った  
 
その顔を見た時、ぐっと歯を食いしばった。  
ざっと立ち上がり、背中を向けた。  
 
息が整うまでほんの少しの時間があいた……  
 
 
「…………っ?つ…るがさ…ん?」  
 
まだ息の荒い彼女の声に我に帰る  
 
「…自分で…あと、やってくれるか?本郷…その…包帯…  
俺ちょっと………気分が…」  
 
「え…?は・はい……あの…つ…、せ…先生?大丈夫ですか?」  
 
「ああ。少し横になるよ。悪いが手当てをしたら帰ってくれ。  
悪かったな本郷。…………熱があって…君と操さんを混同してしまった…」  
 
 
今すぐ、この場から消えなければ。すぐ。  
 
 
君を……本気で抱き締めてしまう前に。  
 
なあ…嘉月。そうだな。  
あの子に触れてはいけないんだ。  
 
今の俺にはとてもお前が理解できるよ。  
 
こんなに苦しいなんて。  
 
 
 
なんで………  
 
寝室にいってしまった敦賀さんを見送って  
自分がすごく落胆してることに気付いた。  
 
イヤだ私、演技の練習だっていうのに、また敦賀さんに優しく抱かれることができると期待してたんだ。  
 
あさましい。  
敦賀さん、きっと怒っちゃったんだ。  
 
だって私…つい…敦賀さんって呼んでしまった。  
あの時愛撫を受けていたのは私じゃなく美月だったのに。  
 
あの時……このまま抱かれたいと思ってしまったのは美月じゃなく…私。  
 
美月だったらきっと………操さんに悪くてそんなマネできなかっただろう。  
 
 
……私はまだ…女優になり切れてない。  
敦賀さんにはそれがわかってしまったんだ……  
 
ぱたっ………  
スカートの上に涙が落ちてきた。  
悔しさと情けなさと…嫌われてしまったかもしれない悲しさで  
涙がポロポロこぼれ落ちる  
 
……悔しい…あれだけ敦賀さんのコトは  
これ以上はダメなんだと思ってきたのに。  
 
唇が…………覚えてる愛撫が  
私の身体に火をつけて…また敦賀さんを欲しがっていた。  
 
いやだ  
役者として失格だと敦賀さんに思われて  
このまま見捨てられるのなんてイヤだ。  
 
そばにいられなくなるなんて…イヤだ  
 
身なりを整えると自分で足に包帯をまき、  
きゅっと唇を噛み締めて敦賀さんの寝室の前に立った。  
 
この部屋で何度も抱かれたことがある。  
でも私は最上キョーコじゃない。  
 
今は…美月。  
先生を心配してる……生徒。  
 
すうっと息を吸い込んで…ノックをした。  
 
 
 
台所で何か探してる音がする。  
 
さっきてっきり帰ったと思ってた彼女が、もう一度顔を出したのには驚いた。  
彼女は美月になりきって…何か作るから…でもお粥の作り方がわからないといって涙ぐんだ。  
 
「先生のご飯が作りたいんです…だからお願いします…  
…また 『帰れ』なんて言わないで…」  
 
………これは……罰だろうか……………  
 
演技にかこつけて…俺の………奥底にある…よこしまな欲望をごまかした……  
その結果がこうだ……  
 
彼女の温もりにふれ…潤んだ瞳が  
思わず「抱き締めたい」衝動に駆り立てる  
 
一度は知り合った身体だ  
触れただけでそのまま一つに溶け合う感覚がよみがえる  
 
自分がこんなにモロい人間だと思わなかった………  
 
モウイチドフレタラ…オレハキットトマラナイ。  
 
 
 
ガシャーン  
 
台所から大きな音がした。  
 
なんだろう?  
美月、どうかしたのか?  
 
深呼吸して立ち上がる。  
 
嘉月。俺は嘉月なんだ。  
 
 
 
台所から小さな悲鳴が聞こえた。  
 
俺は自分ではそうとは知らず  
またも引きずり込まれるとも知らず  
 
運命のドアを開けたのだった………  
 
 
 
………腕の中に すっぽりおさまる細い身体  
やわらかな髪 誘うような甘い香り  
 
過去  
この腕に『彼女』達を閉じ籠めてきた経験で  
 
女の子がそういうものだとは知っていた……  
 
けれど  
 
その感覚に 感触に 香りに  
胸を締めつけられる事はなかった………  
 
こんなに それが   
 
 
愛おしいなんて……  
 
 
 
 
思う事はなかった……  
 
 
 
 
収納棚からふるい落とされた彼女を思わず抱きとめて  
この腕の中におさめてしまうと  
もう 何がなんだかわからなくなってしまった  
 
彼女を包み込む腕に力がはいる。  
彼女の髪に唇を埋める  
 
倒れこんだまま身体が密着している  
重なりあった場所に神経が集中しているかのように  
息づく彼女の身体の起伏がそのまま感じられて  
しびれてくるようだ………  
 
このまま…このままずっと抱き締めていたい  
 
この身体を思うまま…  
 
 
 
こっ………  
ここでぎゅうなの????  
 
えっと…あれ?  
 
確か収納棚から滑り落ちて…  
そう、これは頭と足を打つわ!と覚悟したのに  
痛くないどころか………敦賀さんの……あの香りに包まれてるのに気付いて  
目を開けたら  
 
こうなってて……  
 
嘉月が私…美月をかばってくれたのはわかった。  
でもきっとこのあとは  
 
『…あ…っ…ご・ごめん…っケガは…?』  
 
と、あわてて離れるんじゃないかと…  
 
 
それなのに ぎゅう???  
 
敦賀さんは今、嘉月として行動してるはず。  
心の中で待ち焦がれた抱擁であっても私は今、私じゃないの。  
 
美月……  
 
……でも美月にとっても大好きな先生…  
 
ああ どうしよう…この手を…嘉月の背中に回してもいいの??  
 
「…あ…の… せ…先生ぇえ…???」  
 
どうしよう…抱き締めていいの?先生…??  
 
 
 
「先生ぇえ…???」  
 
呼びかけられて瞬間からだが硬直した。  
 
 
………!  
何を してるんだ俺は…!!  
 
離さなきゃ  
 
…いや…っ待てダメだ…!!  
 
抱き止めて転倒したあとすぐ離れるならともかく  
抱き締めた後急いで離れたんじゃ  
『思わず抱き締めてしまった』と言ってる様なものだろう…!!  
 
それは…ダメだ…!!  
こんな所で気付かれる訳にはいかないんだ  
 
     俺の  気持ちは…!!!  
 
 
どう  
どうしたら…  
 
 
ツウ…ッと彼女の唇を指先でなぞる  
 
何かが俺の中に降りてきたような感覚  
 
…………そう、これは俺じゃない……  
 
 
 
「…君…………さ…  
………キスした事……ある…?」  
 
 
 
「…………っ……」  
 
そんな事、あなたが一番知ってるじゃないですかぁぁぁ  
 
………と、違う。これは私と敦賀さんの会話だ。  
これは美月と嘉月の会話。  
 
美月は………したことあるんだろうか……  
 
「…え…い…え…  
…ありません…けど…?」  
 
…に……  
 
嘉月の唇が小さく『ウソツキ』と動いた  
 
 
!!!  
 
……誰?これは  
 
敦賀…嘉月の顔がものすごく近くにある。ドキドキがだんだん大きくなって顔が赤くなるのがわかる  
 
なんだろう…でもこれは…  
敦賀さんでも…嘉月でもない、他の…全然知らないひとみたいで…  
 
 
 
「…教えて あげようか…………?」  
 
 
 
え…?  
え!?  
え!!?  
え!!??  
え!!!???  
 
ちょっと待………っ  
先生??  
つ・敦賀さん??  
 
いつもの大魔王じゃない  
そんな怖さとは別な怖さ  
 
…この…妖艶な笑みは…?  
 
よ・夜の帝王????  
 
 
パニックを起こす私の唇に嘉月の…敦賀さんの唇がゆっくり降ってきた……  
 
 
いつもの優しいキス  
高ぶった時の濃厚なキス  
むさぼるような激しいキス  
怒った時の荒々しいキス  
 
敦賀さんのキスはいろんなキスがある  
 
でも今日のこれは  
なんだか全然知らないひとのキスのよう  
 
軽く唇で唇をなぞり触れるか触れないかでくすぐったい感覚かと思えば  
唇を軽くついばんでくる  
なんだか少しほっとしたかと思うと軽くアゴをひいて口をあけさせた  
すき間の開いた歯の間にゆっくりぬめりと敦賀さんの舌が侵入したかと思うと  
私の舌をからめとってゆっくり弄ぶ  
 
「ん…む…はむ…ぅ」  
 
息が苦しい  
身体の中の空気が全て吸い出されていくように気が遠くなる  
 
されるがままになってる…私……美月。  
美月として…美月として…そう一生懸命心の中でくり返す  
でも…だめ  
このままこうしてくちづけてると  
私の手は自然と敦賀さんを抱き締めてしまいそうになる  
 
逃げなきゃ。  
ここで逃げなきゃダメ  
またがっかりさせてしまう…  
 
「…んっ…ぷぁっ…せ・せんせえ…っ  
わ・私は…操さんじゃ……っ…ありません…よぉぅ…んっ…」  
 
びくん  
嘉月の動きが止まる。  
ゆっくり唇を離し…私の顔を驚いたように見つめた…  
 
しばらくまるで凍り付いたような時間が流れ  
あげくに笑い出した敦賀さん…いえ、嘉月を  
 
バカにされたような悔しい気持ちと、少しほっとした気持ちで見げていた。  
 
まだ押し倒されたままだが、さっきまでの…あの…妖しい敦賀さんの様子はなくなって  
私は少し余裕が出てきた。  
 
「先生…私をからかったんですね…」  
口を尖らせて抗議すると  
笑い過ぎて涙まで出してる敦賀さんがしばらく私を見つめてからにっこりと笑った。  
 
「…違うよ からかったんじゃない」  
 
ゆっくりと敦賀さんの顔が近付いてきて  
両腕で私の頭を囲む  
サラ…と敦賀さんの髪が私の額にかかる  
 
綺麗な目が…一瞬優しく微笑んだあと  
 
 
スゥッ……と暗く光った  
 
 
身体が硬直する  
 
さっき見たばかりのとても妖しい光を宿した敦賀さんの目だった。  
顔が熱くなる  
 
「…おしおきしたんだ。」  
「…は…?」  
「教師の言う事聞かないで…家に帰ろうとしないから」  
 
どんどん顔が近付いてくる  
 
「女の子が…一人暮らしの男の家に  
のこのこ上がり込む行為がどれほど危険か…………」  
 
「…あっ……」  
 
ゆっくりと敦賀さんの顔が目の前をかすめていったあと  
耳もとで囁くような声になって  
思わず身震いしてしまった…  
 
「……知らしめてあげようと思ってね…」  
 
「ひぁっ…やっ」  
 
耳たぶを軽く噛まれて口に含まれる  
声が…吐息が……  
 
ぞくぞくするの……  
 
「つっ…つる……っ……  
せ・先生……っ……ごめん……なさ…………は・あぁんっ!!」  
 
「…だめだよ」  
 
え?  
 
「もう…遅いと思わない?  
いったん火がついてしまった男はね  
 
もう 目の前の獲物は食べてしまわないとおさまらないんだ  
 
君はもう  逃げられないよ」  
 
 
 
「…むっ…ふっ…ぅんっ…ぁふ…」  
 
たっぷりのくちづけですっかり顔が上気してしまってる彼女  
耳もとで囁く言葉にいちいちビクビク反応してるのがかわいい  
 
「柔らかい…甘い唇だね…」  
「君の小さな舌を出してごらん…ほら…俺の舌で絡みとってあげる…もっと…ほらもっと俺に味あわせて…?」  
「うなじが感じるの?言ってごらんよ…君の気持ちいい所を感じさせてあげる…」  
 
胸元のボタンを一つ一つはずす度に  
 
「…ひ…ッ」  
 
と上がる声が羞恥と快楽のはざまでどうしたらいいのかわからなくなってる彼女を物語る  
 
…そう、俺は今別人なのだ。  
ダークムーンの嘉月……彼女にとってはそれを演じている俺だろう……けれどほんとうは違う  
 
どうやっても手にはいらない…手を出してはいけなかったものを  
心置きなくつかみ取れる………………免罪符を見つけた気分だ。  
この手にまた彼女を抱ける事に、これ以上ないほどの喜びを感じてるんだ。  
 
まったく信じられなかった  
とっさに彼女を抱き締めてしまった事を  
嘉月としてじゃなく、俺自身がごまかそうとして演技を忘れた  
 
そしてテンパった俺は…まったく想像だにしていなかった方法でごまかそうとしたんだ  
 
そして自分自身で嘉月をつかんだことがわかった…  
その上、彼女に自分の感情も何もかもごまかして…  
それでいて思うがまま彼女を自分のモノにできるかもしれない『手』を思い付いたのだった  
 
このまま  
嘉月として……  
美月としてなら………  
 
もう一度彼女のすべてを自分のモノにできる  
 
もう一度狂おしいこの気持ちをごまかしたまま  
思う様彼女を抱く事ができる  
 
それがどんな卑怯な手であれ、  
 
かまうものか。  
 
彼女に触れられない方がどれだけ苦しいか。  
たとえ自分自身のほんとうに気持ちをごまかしてでも  
そばに彼女をおいておけない事以上の苦しみなんてない。  
 
鬼畜なまねだと責めたいなら責めてくれ  
 
彼女を失いたくないんだ  
 
身体だけでもつながっていたいんだ…  
 
 
すっかりはだけた服の中に手を差し入れる  
薄い小さな布で包まれた小ぶりの乳房を包み込む  
 
「…あ…ん…」  
潤んだ目で俺を見上げる彼女  
 
布の下の頂きはもう固く尖っていて、指で少しこねると面白いように声が上がる  
 
「…ああん…ひ…ぁ…っや…あっ」  
布地をずらして赤いつぼみを露出させ  
軽く指先で触れる  
 
「ひゃっ…あ…せんせ…え……………っ…わ…私…あの…」  
 
かわいい彼女は必死で俺の『演技』に合わそうとしてる  
 
 
シッ  
 
 
唇と唇を触れ合わせ言葉を遮る  
 
「…いや…?」  
 
断れない  
断らせるつもりもない  
 
 
彼女は少し泣きそうな顔になったあと  
手を伸ばして俺の頭をかき抱いた  
 
そして  
 
答えのかわりに深いくちづけをしてきたのだった  
 
 
「や……っはっ…はぁん……ああぁっ…や…ん…っ」  
 
欲しかった抱擁  
最初は敦賀さんが敦賀さんじゃないようで怖かった  
 
抱き締められてから後の敦賀さんが…  
 
全然知らない男みたいで………  
 
「せんせ…っ…私……あっ…や…っ…ああんっ」  
 
でも触れてしまえば妖しい雰囲気とは裏腹に  
肌に触れる敦賀さんの愛撫はいつもと同じように優しい…  
 
冷たい台所の床から、寝室のベッドに運ばれる  
ベッドに腰掛けた敦賀さんにブラウスはすっかりはだけられ  
立ったまま胸をむさぼる敦賀さんの頭をかき抱く  
敦賀さんの大きな手が私の胸を下から支えあげ  
熱い唇が 舌が敏感なつぼみを嬲り、吸い上げ、軽く噛む  
 
「あああああっ…や…だめっ…ああっ…んんっ先生っ……やあああっ!」  
 
必死で…かろうじて美月の演技のように見せかけて『先生』と呼んではいるが、もうそんな余裕はない  
でもまた背中を向けられるのが怖くて  
口先だけの演技を続けている私  
 
いつのまにかすっかり上半身につけているものがなくなってからは  
敦賀さんの腕の中でただ踊り狂うマリオネットになったよう  
 
「やああっ…あああんん……せんせ…え…あっ……ひッ…やぁっ…」  
 
「………かわいいよ…こんなに感じてる…  
ほら…ここもこんなに熱く……」  
 
ふいに下半身に強い快感が走る  
下着の上から クッと押さえられただけで背中が波打つほどの刺激があった  
 
「ひああああっ………やっ!だめぇっ…そんな…っ」  
 
敦賀さんの指先は確実に敏感な芽を探し当て  
軽く ごく軽くさするように  
 
その度に電流が走ったようになる  
 
「本郷…気持ちいいんだ…かわいいな…もっと?もっとして欲しいかい?」  
 
いじわるな質問ばかり浴びせかける  
 
でも…ヤダ…その言葉に  
いままでなかったくらい…感じてきて……  
 
自分でもわかるくらいに………あそこがとろけてきてる……  
 
ああ ああ    あぁあん………  
 
足が…腰が…もう 立っていられない…っ  
 
「あ・あ・やぁぁっ………だめえっ…もう…あああんっだめえ!!!!」  
 
びくびくびくっ  
 
「ひあああああっっっ…………」  
 
かくっ……  
 
足の力が抜けて崩れこんだ私をしっかり抱きとめて  
 
「…まだだよ………本郷………まだ許してあげないよ」  
 
敦賀さんは首筋に顔を埋めた  
 
「…っ……ひ…んんっ…ふっ…はっ…あ・はんっ…」  
 
ベッドの上で彼女を抱きかかえ後ろから抱き締める形で座らせ  
彼女の弱い背中をゆっくり味わう  
首筋から背中から胸元から…  
赤い花びらがちりばめられたように無数のしるしをつけ  
後ろから回した手は彼女の乳房を包み込みながら休む事なく頂上を責め立てて  
操り人形のように彼女を踊らせている  
 
すっかり身につけているものをはぎとってからは  
彼女のからだの熱さが徐々にその肌を染めあげて  
荒い息とともに下半身が少しずつうごめき出した  
もどかしげにせつなげに…もとめるように動くのもきっと…彼女の意志じゃあるまい  
 
まだそこには触れずにいた  
きっと熱く蕩けているだろう事は  
触らなくてもわかる  
 
徐々に閉じておけなくなって開いてきた彼女の両足の付け根の方は濡れたように光っている  
 
「や…ぁん…あんっ…も…もう……あ・あぁ…もうっ…」  
 
ゆっくりベッドに横たえると もう身体のどこにも力ははいらず、ほんとうに糸の切れた人形のようだ。  
 
「は…っあぁ…あ…ん…」  
 
それでも絶えず声がもれる  
もう身体のどこに触ってもすべてが性感帯のようにせつなげに身体をよじるのだ  
 
ゆっくりしなやかな両足を持って広げる  
サクリと開いた彼女のソコは  
 
もう赤く充血したようになっており物欲しげに口をあけてるようだ  
そうっとその場所にくちづけると  
 
「…っひっ…」  
背中をそらして彼女が跳ねた  
 
「本郷…ほら…もうこんなになってるよ  
意外と淫乱なんだな…君のココは……」  
 
舌を差し込んでゆっくり抽送する  
蜜を啜り…なめ回す  
 
「あああっ…ひぁっ…やっだっめ……ぇぇっ…」  
 
足が暴れてばたつくのを太ももを抱え込んで押さえ込むと  
かわりに弓なりになって背中が跳ねる  
 
やがて小さな真珠のような突起を探り当て  
じらすようにそのものを刺激せずそのすぐ回りをゆっくりねぶりあげると  
 
「んーっ………あああんッ……んーんっ……やあっ…や…せんせ…ッせん…ッ」  
 
指を噛み頭を振って啼く彼女  
 
一番感じたい所に触れてもらえないのが  
苦しいようなせつないような…  
 
眉間にしわを寄せ顔を振る彼女は、イヤイヤをするようにしながらも、  
腰は舌先を追いかけてせつなげによじれる。  
 
「どこがイイの?どこを舐めて欲しいの…本郷…  
もしかしてこのいやらしく大きくなってるコレかい?」  
 
ちゅっ…っとそれを吸い上げると悲鳴が上がった  
思わず俺の頭を両手で押さえ込む  
 
「ああんっ!!ダメえ!敦賀さんっそこダメッッ!!…い・イっちゃうう」  
 
離さないのは君なのに    
 
さすがにもう演技はしていられないみたいだね  
良く頑張ったよ  
 
ごほうびをあげよう………  
 
ゆっくり、でも思いきり舌で嬲った  
彼女はまるで下半身を狼に食われているうさぎのように身体を跳ねさせ  
 
かん高い声をあげて彼女は何度も達した  
 
 
 
息が荒く上がってしまってる彼女を見下ろして  
この華奢な身体のどこに自分がこんなにも惹き付けられ  
こんなにも狂わされるのかと不思議になる  
 
でももう焼けるように胸が苦しい  
彼女をこうやって啼かせる事ができて…からだが震えるくらい嬉しくてたまらない  
 
くちづけを一つ…彼女に落とす  
 
「美月………」  
(………キョーコ…………)  
 
呼べない名前  
ごまかさねばならない心  
 
欲しいものを  
欲しいとは言えないもどかしさ  
 
「………愛してるんだ…………」  
 
許されない思い  
………それは嘉月と同じ………  
 
このまま…演技と言う鎧でごまかしてでも  
 
君が欲しい  
 
 
 
 
「このまま………君を………俺のものに……俺だけの…」  
 
まだもうろうとしてる彼女のなかに  
俺は自分のすべてを突き立てた  
 
 
 
「んああっ…ああっあっ…あっあっ…やっはぁあっ…ひっあ・んんっ!!」  
 
身体全部を密着させて  
どの一部ももう絶対はずれないようにして  
敦賀さんが私を突き上げる  
 
「……っ………………っ…美月…っ………!!」  
 
せつなげな顔の敦賀さん………嘉月は私を突き上げながら…愛しい…女の名を呼ぶ  
 
今私は美月で…  
………でもホントはキョーコで………  
 
やっと敦賀さんとこうやって一緒になれた喜びと  
ほんとうの意味でも私を抱いてもらっているわけじゃないさみしさと  
ぐちゃぐちゃになって  
なおさらかけのぼってくる快感が倒錯的で…おかしくなりそう…  
 
身体の奥深く私を蹂躙するモノは  
 
熱くて  強くて  楔のように私に食い込んでいる  
 
「あああッ…いっ…ああンっ!…せんせ…っせんせえッ…いいっ…ああっ!んンッ…いいいっ」  
 
揺すりあげられるたびに 奥深いところからどんどん求めてきて  
私のなかから  
 
もっと…もっと欲しい!!!  
望んでいた快感を  
そうやって手繰り寄せてきてるようだ  
 
「やあッ…!い・いいのぉっ…先生ぇ…っ  
もっ…っ!!  
 
あ・あああんっ…」  
 
敦賀さんの動きが急に止まった  
 
「…っ?……っ…な・あん…で…っ…?」  
 
息をはずませている敦賀さんは何かに堪えるように眉間にしわを寄せ、じっと動かない……  
 
「…やっ……だめっ…こんな…こんなのぉ…っ」  
 
奥の方からむずむずともどかしさが渦巻いてくる  
知らず知らずの腰が動こうとする………なのに敦賀さんが押さえ込んでて動けない…  
 
「せっ……せんせぇ…っお願いぃぃ…ッ」  
 
「……本郷…いけない子だな……  
こんなになって………中がひくひくしてるよ…?」  
 
「や・やあああっ…」  
 
「そんなに欲しい?俺に動いて欲しい?…どうなの…?」  
 
「………し…」  
 
「ちゃんと言ってごらん?ほら……」  
 
つながったまま敦賀さんが…私の両足を抱え上げて…  
じわり もっと奥までそれが突き刺さる  
 
「ひぃぁっ…あ・や・ひぃっ…」  
 
身体ごとくの字に押しつぶされる苦しさと子宮ごと突き上げられる快感でぶるッッと身体が身震いした  
 
「言うんだよ…本郷…もっと感じさせてあげるよ…ほら」  
ほんの少し敦賀さんの腰が回された  
 
「ひッッぁああああああンッ!い・いいっ!!やああ!!」  
 
それだけでもう…もう  
 
「やっ…はあっ…や・やだぁぁ…お願いぃ先生ぇ…ッ」  
 
「もっと…?」  
 
「もっと…もっとしてぇ…っ私を…もっとめちゃめちゃにしてぇッ…」  
 
 
「…合格」  
 
めちゃめちゃに…?それこそが…俺も望んでた事  
 
もう止められない  
 
力をこめて揺さぶりあげる 彼女が悲鳴をあげる  
 
「いやああああああっ!!!い・あう…っだめえっ  
も…もぉ…っもう…っ」  
 
「…みっ…つき………っ」  
 
叫び声をあげるその口を無理矢理くちづけて塞ぐ  
彼女が俺の首にしがみついて自分からむさぼるようにくちづけてくる  
 
その間も打ち付ける腰に反応して  
もう俺の髪をぐしゃぐしゃにしてかき抱き  
 
彼女のからだが跳ねることをやめない  
何度も何度も痙攣したようにびくびくする  
 
声にならない叫びが喉の奥で唸っている  
 
もうどこも全て彼女と溶け合っていることで  
極上の喜びがかけのぼってくる…………  
ビクンと彼女がイクたびに  
彼女の中は熱くやわらかくなり…そしてその後なおさらきつく締め付けてくる  
 
搾り取られるような錯覚  
堪え切れないくらいの……絶頂感……  
 
唇を離す  
 
「ふはぁっ…はっ…あぁあっ…ひぁっ」  
 
彼女はもう言葉にすらならない  
うわ言のようにとめどなく声が洩れる……  
しがみつく手は強く…また弱く  
 
ふわりと目があった  
潤んだ…もう泣きじゃくったような目  
ぼんやり焦点のあわなくなったような目が瞬間優しく笑った  
 
「…っふ……っ…つ・る…がさ……ぁん……っ」  
 
 
「……っ…キョー…!!」  
 
その瞬間  
込み上げる愛しさも残酷な現在も  
伝えられない想いも  
すべてを彼女の中に吐き出すように放った………  
 
 
 
シーツの上  
ついさっきまで まるで…美しい獣のようだった敦賀さんが寝息を立てている  
 
そうっとベッドを降りて下着と…脱ぎ散らかした制服をつけていく  
 
「…っつ」  
身体が軋む  
まだ身体の中に何かが入ってるような感じ…まるで初めて…のSEXのあとのよう…  
 
胸元の赤いキスマークがひりひりする…だけど甘美な思いでいっぱいだった  
 
こうなることを望んでた  
あれは演技の延長だったけど…  
 
敦賀さんと…また一つになれたことの喜びが…まだ身体の芯に残っている  
 
 
「…どこ行くの…?」  
 
スカートの裾をつかまれて振り向くと  
敦賀さんが目を開けていた  
 
「……先生…もう私帰りますね…」  
とっさに美月の演技をした。  
 
敦賀さんは一瞬驚いたような顔をして…眩しいくらいの笑顔を見せてくれた…  
 
「………最上さん」  
 
え?…あ…れ?  
 
「今…」  
 
『最上さん』………そう言った?『本郷』じゃなく…?  
 
「…今夜はありがとう…つきあってくれて」  
 
「つ…るがさん?それって…お稽古終わりってことですか?」  
 
柔らかく笑顔をくれた…  
 
「あ…あの…あの…それじゃあ敦賀さん…嘉月が…」  
 
「……演れそうだ…」  
 
 
良かった!ああ、私もお役に立てたんだ!!  
本当に良かった…!!  
 
 
嬉しくて嬉しくてにっこり笑いかえすと、ぐいと腕を捕まれ  
倒れこんだ私にくちづけが降りてきた。  
 
優しくて…蕩けそうなキス…  
敦賀さん…のキス  
 
唇が離れて目をあけると………そこに見たのは  
な・なんで?????  
 
さっき見たばかりのとても妖しい光を宿した敦賀さんの目だった。  
 
「つ………るがさ…??」  
 
「ありがとう本当に…君がいなけりゃつかめなかった……」  
 
ビクッ  
敦賀さんの手がまた、あの時のように唇をなぞる  
耳もとでゾッとするぐらい色っぽい声で…ささやいてくる  
 
「君にはたっぷりとお礼をしなきゃね…」  
 
お礼って…………お礼ってあの…???  
 
「嬉しいよ、君もすごく感じてくれてて…」  
 
カアッッと顔に血の気が昇る  
 
「や・ああああああああああのっ………」  
 
「……俺はいつだってOKだからね…?また欲しくなったらいつでも言って…」  
 
!!!!!!  
ひいいいいいやああああああああああっっっっ  
 
「ああああああああのっっわっ…私!し・失礼しますねっ!!お・お邪魔しましたああああ!!」  
 
 
ばひゅーーーーーーーん!!!!!  
 
思わず飛び出して猛ダッシュで逃げてしまった  
 
ドキドキする…  
お役に立てたことは飛び上がるほど嬉しい…  
そ・その後の……あの…夜の帝王のごとく微笑う艶かしいさっきの………  
 
…『また』って言ってた……  
もしかしてまた……敦賀さんに抱かれることがあるのかもしれない……  
 
ドキドキが………止まらないよ……  
 
 
 
く・くくっ……くくくっ…  
 
「……知らなかったな〜〜〜  
俺って素で『テンパる』と都合の悪いことはああしてごまかそうとするんだ…」  
 
ははははは  
 
あれが俺の本当の姿だ『嘉月』でも芸能人『敦賀蓮』でもない  
 
包み隠してない本当の姿……  
 
…………そして手に入れた『嘉月』のキャラクターと  
彼女を捕まえておくための…仮の自分…  
 
「…………こんな仮面をかぶらなきゃ……あの子には触ることもできないなんて…」  
 
不器用も極まれりだな…  
 
…ふと見ると床に彼女の制服のリボンが落ちていた  
 
バカだな…あわてて帰るから  
 
くすりと笑ってリボンを拾う  
サテンのすべらかな手触りが…まるで彼女の肌のようだ  
 
「キョーコ……」  
 
愚かな俺を嘲笑ってくれ  
そして………救ってくれ  
 
愛おしげにそのリボンにくちづけた…  
 
 
 
 
end  
 

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