「・・・キョ・・コ・・・っ」
彼が甘く密やかに私の名前を呼ぶたびに私は幸せな気持ちに包まれる
眼で、耳で、肌で彼を感じて、ようやく私は実感できるのだ
彼が私の傍にいるということを
私を見てくれていることを
彼の眼が私を写し、彼が途切れ途切れに私の名前を口唇に乗せる
彼の熱い吐息が私の肌をすべり、彼の繊細な長い指が私を翻弄するように縦横無尽に動く
微かに顰められた眉に、ほんの少し昂揚した頬
抱きしめると背中にまわされた腕は、優しく包み込んでくれ
キスをすれば私の口内を探る舌は、どこまでも優しくて 眩暈がした
「あっ・・・つるが・・さっ・・・はっ・・」
だから私も彼の名前を呼ぶ
彼にも私と同じ気持ちになってもらいたくて
私が彼を求めるのと同じぐらい ううん たとえほんのちょっとでも
彼に私を求めてほしくて
私に、彼を求める資格なんて無いのに
暖かな気持ちが体中を満たしていく感覚
つい最近知ったこの気持ちは 確実に俺を蝕んでいる
麻薬のような 中毒になりそうな程の気持ちよさ
知ってしまったらもうやめられない
彼女をもっと知りたい
貪欲に溢れてくる欲求は止まることを知らず
俺はそのはけ口を探して彼女を抱く
満たされたと思った欲求は次の瞬間また別のものに成り代わって
結局俺の欲求は満たされることが無い
溢れ出すその気持ちのまま
彼女の名前を呼ぶ
愛しくて 何度も何度も“好きだ”と彼女の耳元で囁いた
名前を呼ばれるたびに その眼に見つめられるたびに
そして、 優しく触れられるたびに
私は切なくってどうしようもなくなること
貴方は知っている?
貴方を全身で感じるたびに 私は胸が締め付けられる
きゅって萎縮したように 落ち込んだみたいに
萎んでいくのが自分でも分かる
どうして?今とても幸せなのに
幸せ だから
このまま続くわけが無いと思っているから
だから、貴方のことを好きだって 口には出せない
私は好きという感情を捨てたのだから
今の私に、好きという言葉は重いから
アイツに好きと言って 言い続けて
それは自然なことだと思っていた
好きだって相手に伝えること とても大切なことだと思った
思っていた
アイツは何も言わないから
私が傍にいることを許してくれたから
私の好きは受け入れられているって 伝わっているって 思っていた
いくら愛してたって いくら好きだって口に出したって
相手も私を愛してくれる保証なんてないのに
そんなことすら分からなかった 馬鹿な自分
アイツには 私の好きは重すぎたんだ
好きだっていっぱい言い過ぎちゃったんだ
ただアイツに黙って従って アイツが傍にいてくれることだけを望んで
そうすれば 今こんな気持ちを味わうことも無かったのに
傍にいてくれるだけで良いって 思っていられたのに
いま
敦賀さんに、傍にいてほしいと願っている自分
駄目、好きだって言ってはいけない
私から求めちゃいけないんだ
敦賀さんに 傍にいてほしいから
好きだって言ってしまえば さらに彼を拘束してしまう
私の気持ちを押し付けてしまう
嫌だ
敦賀さんが離れてしまう
私はまた背を向けられてしまう
そんなの、もう嫌だ
だから
私は敦賀さんを求めてはいけないんだ
好きって言っちゃいけない
母も アイツも 私の好きを蹴散らして
私の言葉はどこかへ行ったのか分からなくなってしまった
好きって言う言葉は だから私には言えなくて
なのに 何故? 貴方は私に“好き”って言うの?
そんなに何度も言わないで
私が勘違いしてしまう 期待しちゃうでしょう?
思わず私も好きだって、大好きだって 言ってしまいそう
好きだという代わりに 私は貴方の名前を何度も叫ぶ
何度も 何度も 敦賀さん って
私の“敦賀さん”は、”好き”って意味なんですよ?
知っていました?“敦賀さん”
彼の愛撫は優しくって それに翻弄されて
私は意識を手放してしまいそう
彼は今 少なくとも私が傍にいることを許してくれるから
もうこれ以上 望まない
望まないんだ
彼は何度も私の中に入ってきて
私の頭はもう溶けていて
そして 自分が叫んでいたことに気付かなかった
「あっぁ・・・敦賀さん・・・っす き・・・っ」
私と貴方の好きでは きっと私の勝ち