「うん・・・今回はさすがの僕も苦労した・・・」
「・・・お疲れ様でございます・・」
額の汗をハンカチで拭き拭き、ため息をつく社に、キョーコは同情を禁じえなかった。
ここはLMEのフロア、ぱったり会った社とキョーコが世間話をしている。
蓮はやはり社長室に呼ばれてそこにはいなかった。
「いえいえ、社長の命令なら仕方のないことだし。調整難しかったけれど、なんとかしたよ・・。それに僕もラ○ドは久々だし、当日は慰労を楽しむよ。・・キョーコちゃんはやっぱり蓮とまわるんだろ?」
「うーん、どうでしょうか。社さんも敦賀さんも、お仕事お忙しいから少し遅れるんですよね?」
「そうだね・・・どうしても夕方からの参加になっちゃうね」
「私、モー子さんと一緒にと思っていたんですが、モー子さん、おうちで今回のことがバレてしまってご家族全員お見えになるらしいです。なので・・仮病使ってでも来月は不参加するつもりらしいです・・・(涙)」
「へえー。そうなの?事情がよく解らないけど、琴南さん来ないんだ。残念だね」
「他に親しい人もいないし・・・マリアちゃんは多分来んじゃないかとは思うんですけど・・・。誰かに会うまでは、一人でのんびり堪能しようと思っています」
始まりは先月。
LMEの創設者であり代表取締役社長のローリィ宝田が突然発表した、「LME創設○周年記念・ディ○ニーランドフェスティバル」で社内の話題は持ちきりだった。
・LMEで開園から夜11時まで1日貸切。
・マスコミ完全シャットダウン、参加可能なのは社員・契約社員・もしくはその家族又は恋人に限る。
・社員絶対強制参加。
・パレードはローリィが演出。
・その他サプライズが多々あるらしい。
という点で、表向きは社員の慰労の一環とされているが、関係者は「絶対社長の趣味だ・・・」とこっそりため息をついていた。
「キョーコちゃんと蓮のデートが、まさかここまで発展するとはね・・・。社長らしいというかなんと言うか」
「社長もディ○ニーがツボだったんですね・・・」
「まあ、仕方ないさ。・・・それよりキョーコちゃん知ってた?ラ○ドって隠れミ○キーが沢山いるんだよ。どこかの壁の穴を覗いたらミ○キーがいたりとか。そういうの探して廻るのも楽しいかもしれないよ」
「そうなんですか。凝ってますね」
「うんうん、それに混みも心配しなくていいから、アトラクションも自由に乗り放題できるだろうし、僕個人としては楽しみだよ。到着する前にメールするから、合流しようね」
「はいっ。そういえばあの部屋もミッキー沢山いたし、こんなところに、ってびっくりしてました。私も楽しみです」
「・・・・ん?あの部屋って?」
「・・・・あ・・・・・」
口がすべってしまったキョーコ、単純な疑問を投げた社にうまく返事ができず、ゴボゴボゴボ・・・と俄かに赤くなってしまい・・。
何となく察した社も一緒に赤くなり、ちょっと気まずい空気になってしまった。
そこへ
「キョーコちゃんっ偶然だね」
と声がかかる。
キョーコと社が振り向くと、ブリッジロックのリーダーが立っていた。
「あ、光さん、おはようございます」
「おはよう。敦賀さんのマネージャーさんですよね。おはようございます」
「確かブリッジロックさんだよね・・・。おはよう」
挨拶をしながら社は少し驚く。
キョーコちゃん、ブリッジロックと仲がいいんだ???
「キョーコちゃん、これから収録に行くんだろ?一緒に行かない?」
「あ・・・。そうですね、でももうちょっと余裕があるので、ラブミー部に顔を出していこうと思っているんです」
「待っているよ」
ニッコリ笑うリーダー。
「あ・・・。は、はあ・・・」
「それよりさ、聞いた?来月のデ○ズニーの件。良かったら一緒に廻らない?慎一も雄生も、彼女連れてくるからさ、俺一人ぽっちなんだよね」
「一緒に、ですか?」
「誰か他に廻る人、いるの?」
最近、妙に押しが強いリーダーに、ペースをとられ気味のキョーコである。
『キ、キョーコちゃん、何?収録って。てか、ブリッジロックと何でそんなに親しいの?一緒に移動?一緒にラ○ド??ヤバイよそれ、蓮にバレでもしたら・・・!!!』
驚愕の面持ちで2人を伺う社、ビクビクしながらそっとキョーコに忠告しようとしたその時。
「おはよう。なにやら盛り上がっているね」
蓮が、いつの間にか後ろに立っていたので、ある。
どこから聞いていたのか、極上高級スマイルを浮かべながらも、とりまく空気は既に絶対0度の世界。
社もキョーコも、突然のことで固まったのだが。
「おはようございます。敦賀さん。今京子さんをデートに誘っていたんです」
慣れていないせいか空気がよめないリーダー、挨拶をしながら思いっきり爆弾発言を落とす。
「えっ・・・!デ、デートォ?・・・ですか???」
キョーコ、何のことか?とオロオロ動揺を隠せない。
「うん。当日は丸一日オフとってるんだよ。キョーコちゃんはどうなの?そういえばこの前、しばらくラ○ドには行きたくないって言ってたよね。でも強制参加だから一度は顔をださなきゃいけないだろうし、つなぎででも、オレにつきあってよ」
「・・・・残念ながら、それは無理そうだよ」
冷ややかな声がキョーコの頭から降って来た。
蓮が笑顔をキラキラさせながら言う。
「最上さんね、社長のご指名でパレード参加が決まっているらしいよ。だから当日は朝から準備と衣装合わせがあるらしいから」
「パッ!パレードですかっっ????」
キョーコ、一瞬恐怖も忘れて素っ頓狂な声を出した。
「そう。今聞いた話だから。シンデレラか白雪姫かは知らないけど」
「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!本当ですかっ!うっ、嬉しいっ!!」
舞い上がるキョーコ、今の危機的状況などすっかり忘れてしまっている。
「へえ〜〜っキョーコちゃんすごいね。王子役は決まっているのかな?まだなら・・・」
スウッ・・・。
更に空気がさがり、さすがのリーダーも何かを感じ口をつぐんだ。
な、何だ?この空気・・・。
オレ、何か悪いこと言ったのかな・・・。
「と、言うわけで・・・。えーと光くん、だっけ?これから最上さんは社長に呼ばれているので、連れて行っても良いかな・・・?」
ソフトながらも氷点下のオーラでにらむ蓮に、リーダーは何も言えず固まったままであった・・・。
「つ、敦賀さん、社長室はこっちじゃ・・・」
呆然としているリーダーと社を置きざりに、キョーコの腕をつかんだまま歩く蓮。
人気のいなくなった廊下の適当なドアを開けると、無理矢理キョーコを連れ込み、鍵をしめた。
「・・・・嘘に決まってるだろ?」
明かりのない狭い部屋は何かの小道具を置くそれらしい。
「さっきの、どういうことか説明してもらおうと思ってね」
「さっきのって、どのことですか????私にもよくわからないんですぅ・・・」
「今から彼とどこにいくのかとか、どういう関係かとか、デートに誘われたこととか、ラ○ドに行きたくないとか・・・色々だね?」
「そ、それは・・・」
「説明ないと、どうなるか、解ってる・・・?」
蓮はキョーコを棚に押し付け、身体で動けないよう固定した。
何か言おうとする唇を、噛み付くように口付けをし、ブラウスの中に手を差し込む。
「んっ・・・んんっ・・・ふぅ・・」
キョーコはされるがままでいるしかなかった。
あれから何度となく身体をあわせてたが、まさか事務所でこういうことを・・・。
「敦賀さん・・・、私が・・・悪いんですか・・・?あっ・・やめて・・」
続く蓮の愛撫に我慢をしていたキョーコだが、耐え切れず半泣きで懇願する。
衣服は乱れ、胸元は赤い跡が点々とあった。
蓮はキョーコの耳たぶを弄びながら囁く。
「キョーコがあんまり鈍くて、可愛いからいけないんだよ・・・・。で、これから奴と収録って何・・?答えによっては、夜まで続きは待ってあげるけど?」
「・・・」
「・・・返事がないね」
スカートの中に手が差し込まれた。
「あっ、嫌っ・・!敦賀さん・・」
キョーコの膝ががくがく振るえ、つま先立ちになる。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、やめて・・」
「謝ることしてるんだ?」
「意地悪・・・っ」
自力で立てなくなり、キョーコは蓮にしがみついた。
蓮の乱暴に重ねてきた唇を、自ら迎え入れる。
しばらく無言で抱き合い、弄りあった後、蓮は少し笑ってキョーコを縦抱きにし、部屋の更に奥に連れて行った。
(終わり)