窓を殴るような豪雨。
時折雷鳴が轟いた。
PM10:00を時計が指し示す。
「大丈夫だった?」
伺うように、雨の中歩いてきたキョーコに尋ねる。
「あ…はい。」
しかし、制服が雨にぬれて透けていた―
タオルで濡れている髪や腕を拭く。
(このままだと…)
少し考える。
「風邪引いちゃうから、シャワー浴びて身体を温めておいで。」
「えっ・・で・・でも…」
口篭もるキョーコに、やんわりと言い諭す。
「身体が資本なんだから、用心出来る事は用心しておこう。ね?」
キュラキュラと笑顔を浮かべ、否定できない様に追いやる。
身体が資本―その言葉が何よりも大切だと。
「わかりました。」
パタパタとバスルームに向かう姿を確認し、コーヒーを沸かす準備をする。
ドォォンと雷鳴が轟く。
「…停電したらまずいな…」
とりあえず、前準備として懐中電燈を探し出す。
チカチカと蛍光灯が雷鳴の影響で点滅する。
―ザァァァと、温かいお湯が身体に浸透していく
奪われた熱が戻ってくるのを感じる。
「気持ち良い…」
石鹸を泡立てて身体を洗う。
ふわりと、石鹸の良い香りが匂い立つ―
遠くでドォォンンッ!と激しい音が響き、目の前が暗くなる。
「え!?えぇ!?」
突然の暗闇。
その所為か、石鹸が足元に滑り落ちたー
シャワーの音が響く。
そんな中、ちらっちらっと白い光がドア越しに見えた。
「キョーコちゃん…大丈夫?」
伺うように声を掛けると、
「は…はい。…て…停電ですか?」
恐る恐る聞き、確認をとる姿―
「みたいだけど…」
ドア越しに浮かび上がるプロポーション。
少し、エロチシズムを感じてしまう。
ドアの隙間からバスタオルを渡そうとした時―
つるんっと、土踏まずに石鹸が嵌る。
「ひゃぁぁっ!」
悲鳴を上げる同時に、腕を引っ張られた。
「−っ」
庇うように抱きしめられる。
正直、こんなオチになるとは思わなかった―
転びそうになった彼女を救えたのはいい。
頭から降り注がれるシャワーのお湯―
恐る恐る目を開けるキョーコ。
「ご…ごめんなさいぃぃっ」
直面した事件に平謝りしている姿が可愛くて―
まだ暗い闇の中、ほんのりと懐中電燈の光と、キョーコの肌の白さが際立って―
「も…もう大丈夫ですから…っ…」
よくよく考えると自分は裸―
暗闇の助けがあっても恥ずかしい。
「一緒に入る?」
悪戯に囁かれ、クイと顎をしゃくり上げられてしまう。
シャワーのお湯が髪の毛を濡らし、艶を増したように見えて。
視線が暗闇でも熱となって注がれる。
「さっ…先に上がっていますぅぅっ!!」
バスタオルを探り当て、バッとバスルームから出て行く。
小さく笑い、
「いじめすぎちゃったかな…」
ビッと、濡れそぼったシャツを無造作に引きちぎり、床に脱ぎ捨てる。
濡れた髪の毛を掻き揚げて、自分の内の火照った熱を冷まさせる。
「…君しか…もういらないんだよ。」
小さく呟いた言葉がシャワーの音で掻き消えた―
先に上がると言ったものの・・暗闇で何処がどうだか判らない。
一応、用意して貰ってあったシャツを着て手探りでうろうろする。
「えっと…」
壁に手を当てて突き当たったドアというドアを開けて部屋を歩いて行く。
カツッと足元に何かが当たる。
金属の冷たさ―
「テーブル…よね。」
少し奥に行くと、もう1枚のドア。
後ろからパタパタとスリッパの音が響く。
目隠し鬼をしているようだと感じた。
停電なのに何か楽しさがある。
「ふふっ…」
口元から笑みが零れる。
捕まったら…どうしよう。
あの腕に閉じ込められたら…
バスルームで抱きしめられた温もり―
チラチラと視界に入る白いシャツ。
「全くもう…」
鬼ごっこをしていると気付いたら、口元が笑んでしまう。
こんな事態に新しい楽しさを見つけだすなんて―
たどり着いた場所はベッドルーム。
目の前にほんのりと浮き上がるシーツの白色。
ドキリと胸が反応する。
「あ…」
急に自分のこれからを考えて不安を覚える。
するりと後ろから抱きしめられた。
「捕まえた。」
耳元で囁かれた声が低くて掠れた―
すごく胸が締め付けられる程好きな声。
「−っ…」
不安と期待が入り混じる心―
腕に包んだぬくもりは、小さく震えていて―
不安が強いのは理解できるし、自分なりに待つ覚悟も出来ていた。
大切にしたいと思う心は間違いない―
いつもキスだけで子供扱いされているような感じがして…
相談してもモー子さんは溜息を吐いてばかりで…
自分が守備範囲外になっているのかって不安。
首筋に口付けを落とす。
―このまま抵抗されても自分の物にしたいと思うのは…独占欲なのかもしれない―
押さえきれない衝動を押さえ込む。
「ぁ…」
小さく漏れる声。
「キョーコ。」
耳元で囁くと必ず振り向いてくれるから―
そのまま啄むようにキスをして―
「っ…んっ…」
口腔内に侵入する深いキス。
鼻に掛かった甘い声―
自分のシャツを着せて、露になった足がまぶしく感じる。
白さが仄かに発光しているから余計に―
トサッとそのままベッドに追い詰める。
緩く止めているシャツの衿から覗く鎖骨―
華奢な身体が見て取れて。
キスを何度も繰り返し、やんわりと自分の手を胸元へ滑らせる。
小さく跳ねる身体―
ゆっくりと感触を楽しみながら、ボタンを外す。
小さくぷつりと尖った乳首。
シャツ越しに指の腹で撫でる。
「−っ・・」
もどかしさが劣情を駆り立てる。
少しずつシャツを脱がせ、ほんのりと浮き上がる肌の色―
「怖い?」
悪戯に耳元で囁いて、反応を確認する。
「こ…怖く…ない…デス…」
するりと、自分の手を下腹部からパンティへと滑らせる。
「ひゃ・・っ…」
「いいの?」
少しだけ、恐怖心を煽る様に促す。
自分を受け入れてくれるのは嬉しい。
だけど、怖くない訳がないと思っているから…正直に言って欲しくて意固地になる。
「…っ…蓮じゃなきゃ…嫌…だから…」
声が小さく震えていた。
「嫌って言ってもやめないよ?」
まだ待つ自信はあった筈なのに―
その言葉を聞いて待つ事をやめてしまった現金な自分―
キスの雨を上にも下にも降らせ、やんわりと濡れそぼった肉壁を嬲る。
肉芯を暴き、舌先で転がすように愛おしむように愛撫を施して―
「やっ…ぁ…ん…」
小刻みに足先が震え、目元と言わず、肌が仄かに色づいて見えて。
ピタッと、自分の楔を、未開の場所へ当てた。
その気配に気付いて、ビクッと身体を強張せるキョーコ。
「良い?」
確認するのが気恥ずかしく、自分でも赤面しているんじゃないかと思う程―
小さく頷いたのを確認して、ゆっくりと身を沈めた。
ビクビクと身体が強張り、痛みを喉で殺しているのが見て判って―
侵入を謀ると、一つの壁に突き当たる。
「−っ…あ…っ…」
手が白くなるくらいにシーツを握りしめて痛みを堪える様が堪らなく煽情的で。
「キツイなら、俺の腕とか肩に爪立てていいから。…キョーコの痛みを俺にも教えて?」
軽く顎を上げさせて、少しでも負担を減らすようにして、壁を突き破る。
グッと爪が肩に食い込み、柳眉を顰めて涙目で見つめてくる表情―
「っ・・イタ・・っ…」
痛みが脊髄を走り、動いたら裂けるんじゃないかと思う位余裕のない身体―
それでも、痛みの代わりに肩に爪を立てて―
「ごめん…」
零れ落ちる涙をキスで吸って、これからの事を先に詫びる。
「…蓮…は?」
途切れ途切れでも、溢れている涙。
「痛く・・ない?」
「−ッ!!」
キョーコのその言葉が余計にキテしまう。
「駄目・・だ・・・」
自分の中の理性という綱がブツッと音を立ててちぎれたのを確認できた。
無理矢理腰を掴んで、痛いという言葉を金繰り捨てて自分の欲望を満たす為に動く―
脊髄を駆け巡る快感。
手に入れれた征服欲。
爪の食い込む痛みさえ悦楽になる。
荒い息の中、ボロボロと泣き崩れて沈んでいるキョーコ。
「っ…わ…っ…私じゃ…駄目・・?」
理性を捨てて、自分だけの欲望に走ったのは初めてだと痛感。
「ごめん。…キョーコの初めてを貰えて…暴走しました。」
正直に白状すると、余計に涙を溢れさせる。
肩や腕に残った爪あとを見つけて、小さくキスをするキョーコ。
「…っ…跡…残って…ごめんなさい…」
消沈するように言って、伺うように見つめてくる。
この跡はキョーコが自分のワガママに付き合ってくれた、彼女の痛みの名残。
「キョーコの痛みが少しでも、コレで理解できるようになりたいよ。」
指を絡めて見つめる。
「気持ち良くさせてあげないで自分だけ楽しんでごめん。」
心の底から自分のワガママを謝罪する。
やんわりと口付けられる。
「今度から、ちゃんと私も楽しませて下さい。」
ピシッと口元に指を差し出され、愛しさがこみあげる。
―いつまでも、君だけを感じていたい―