「はい、カット。OK、キョーコちゃん」
連続するシャッター音が一段落すると、声がかかった。
「少し休憩です。次パレオと花つけて待機してください」
「ありがとうございました」
キョーコは少しホッとして、海からあがった。
帽子を被り、パーカーをはおって木陰へ向かう。
「キョーコちゃんお疲れ様〜。はいお水」
社がキョーコにミネラルを差し出した。
「ありがとうございます。すいません、私にまでお手間かけさせてしまって・・・」
「いえいえ、お水くらいいつでもお安い御用だよ〜、ねえ、蓮?」
社がニコニコしながら後ろを振り返る。
が、誰もいない。
「あれ、さっきまでいたのに・・・?」
「日差しがきつくなってきたので、お休みに行ったのかも・・・。あ、お水いただきます」
キョーコはペットボトルをあけ、美味しそうに飲んだ。
今回はウィスキーのCMとグラビア撮影に、キョーコと蓮はコンビで沖縄に来ていた。
DM放送後、ダークな役柄のオファーが多かったキョーコだったが、今回のCMは大きなイメチェンを狙った仕事になる。
本来ならスポンサーは蓮と百瀬逸美を指名していたが、監督の黒崎がキョーコを推して抜擢となったのだ。
が、撮影に入ってからというものの、蓮が何気に不機嫌な様子で・・・。
「あいつ、キョーコちゃんだけ水着撮影があるって知らなかったんだよね、だからっていなくなること無いのにな」
キョーコは苦笑した。
「夏の沖縄=海=水着、だと思ってましたから、私は予想してましたけど」
ビジネスを兼ねて旅行に来た男が少女と出会い恋に落ちる、という設定らしい。
「でもお仕事ですし、可愛い水着が着れて私はとっても嬉しいです」
キョーコはニッコリ笑って社に言った。
蓮は不機嫌だった。
しかし自分の感情が理不尽なのは自覚していたので、出番まではとコテージへ引き上げていたのだ。
仕事とは言え、キョーコが水着で全国の男どもに晒されるのは良い気がしなかったし、自分だけ知らなかったというのもプライドに触った部分でもあった。
「れーん、ここにいた」
社がやってくる。
「こんなところで何してんの。男小さいよ、君」
「日差しが強いのでこっちにきただけです。妙な誤解はやめてください、社さん」
サングラスの向こうから、負けずに紳士スマイルで答える蓮。
「それは失礼しました。・・・でもあれだね、キョーコちゃん、すごい水着似合ってたし可愛かったよね。スタイルも意外に良いし」
「意外に、って失礼じゃないですか?」
「ああ、ごめんよ。確かに失礼だ。・・でも素のビジュアルでも予想を大幅に裏切られて、素直に驚いているんだよ俺。実力派の黒崎監督のCMだし、ますますキョーコちゃん、時の人になるかもね」
「良いことですよ」
蓮は興味ないと言った風に、無表情で答えた。
撮影は夕方まで続いた。
海に沈む夕陽と暮れた海岸が舞台である。
触れるか触れないかのさりげない距離で、焚き火を見つめる二人。
燃える紅い火と影が二人のコントラストを高くし、照らされた唇や、肌が妖艶な色気を放つ。
どちらからともなく、見つめあう二人は目を細め、少しずつ接近した・・・。
「OK、カット。本日は終了」
黒崎監督が声をかける。
固唾を飲んでいたスタッフの空気がほうっと和らいだ。
「後は明日もう少し撮ってから終了だな。できれば雨も撮りたいんだが、まあそれはお天道様に任せるとして・・・。良い絵が撮れたよ。二人ともお疲れさん」
「ありがとうございました」
二人とも礼を言うと、何事もなかったかのように、それぞれ着替えに戻った。
夜、ホテルのビーチに散歩する蓮とキョーコの姿があった。
キョーコが行きたがったのだ。
社にも是非と誘ったキョーコだったが、社は冗談じゃないよ〜と蓮に耳打ちし、そそくさと部屋に引き上げていた。
寄せては返す波打ち際を、ステップを踏むように歩くキョーコ。
ゆっくりついていく蓮。
大分遅い時間なので他に人影も少ない。
「あそこまで行ったら伊勢海老っていますか?」
キョーコは湾曲になった浜辺の先の岩場を指差した。
「沖縄に伊勢海老はいないだろう・・・」
「そうなんですか。残念。じゃ、星の砂はあるかな。見つけるとお願いごとが叶うらしいんですよ」
「星の砂?」
「さんご礁のかけらでできた砂です。星の形をしているらしくって」
「さんご礁って岩場にあるの?しかしこういうビーチにあるのかな」
「わかりませんです・・・」
蓮はぷっと噴出した。
全く、子供というか、単純と言うか、無垢と言うか・・・。
大人の関係になった今でもキョーコのメルヘン度は昔のまま、どころか逆に蓮に対し心が砕けてきたために強まっている。
付いていきにくい時もあるが、今はふわふわと浮き上がるキョーコを身体ごと腕の中に閉じ込めたり、夢の世界を語る唇を塞いだりするのも、蓮の楽しみのひとつになっていた。
「ちょっと行ってみましょう。すぐ帰ります」
キョーコは蓮の手をとってひっぱった。
「お付き合いいたしましょう」
実はホテルの窓から見える場所より少し離れたかった、と言うのが本音だったのだが、二人は二人ともそれを言わなかった。
「今日はありがとうございました、敦賀さん」
「・・・ん?何が?」
「とっても撮影が順調にいきました。セリフが無くて難かったんですけれど、敦賀さんのおかげで自然に演技できました」
「別に俺のせいじゃないよ。最上さんも上手に役を作っていた」
「ありがとうございます」
とっても嬉しそうに笑うキョーコ。
「そのせい?とてもご機嫌みたいだけど」
「そうですね。それもあります。それに・・・久しぶりに敦賀さんと一緒にお仕事できましたし、沖縄料理はすっごく美味しかったですし。・・・それに」
キョーコはつないだ蓮の手の指に自分のそれを絡み合わせた。
「敦賀さん、今日ちょっと怒ってたでしょう?だから」
「別に怒ってなかったけど?」
「だから、幸せだなあって」
「だから、怒ってないよ。というか、どうして俺が怒ると幸せなんだい?」
「どうしてでしょう?何だか嬉しかったのです」
ビーチも端の方になると、ホテルからの明かりは木立に遮られてまばらにしか見えない。
少し大きく強くなってきた白いさざなみが、蓮とキョーコの場所では一番明るい光源だった。
「潮、満ちてきてますよね」
「そうだね。大分水位があがってきている」
真っ黒な水平線から流れてきた風はキョーコの柔らかいティアードスカートの裾を吹き揺らす。
足の下で白い砂がキュッキュと鳴いた。
雪の平原を踏みすすんでいくような音だった。
「う・・・ん。砂が入っちゃいました。敦賀さんみたいなしっかりした靴の方が良かったかも・・」
キョーコはちょっと迷った様子だったが、サンダルを脱いで素足になった。
ほんの少しだけどヒールがあるので逆に歩きづらいらしい。
そしてスカートを片手で巻き上げて、波に脚をひたした。
「今から泳ぐ?」
沖へ向かってすすんでいくキョーコに、蓮が声をかけた。
自分も靴を脱ぐか迷った。
「それもいいですね。冷たくで気持ち良いです。でも真っ暗でちょっと恐いですので、次の機会にします」
キョーコは振り返って極上の笑顔で言うと、波を蹴りながら歩き始めた。
蓮は距離を開けたまま、同じ方向に歩いた。
「気をつけてね」
「はい」
3mほど離れた平行線を二人で歩く。
キョーコの鼻歌が蓮のところへ微かに届いた。
『THE LITTLE MERMAID』の『Dreaming』。
何年か前にどこかの地で聞いた覚えがある歌だった。
膝上でまとめたスカート、ほっそりと伸びた脚、風で揺れる髪。
時々振り返りながら微笑むキョーコ。
蓮は以前、ずっとお互いこの距離のまま、交わることのない道を歩いていくのだと思っていた。
が、今は望めばすぐ近寄り手を伸ばすことができる。
暗いはずの景色も鮮やかに美しく見える彼女の笑顔は、確かに幸せそのものだ。
「ひゃっ??」
キョーコが素っ頓狂な声をあげて立ち止まった。
「どうした?」
「いえ・・・。なんか足にあたったので・・・クラゲ?・・ってまだ早いですよね。海藻かしら」
「あがった方がいいんじゃないか?」
「そうですね・・・」
そろそろと足元を気にしながら蓮の方へ向くキョーコ。
暗くて何も見えないので、ゆっくりになってしまう。
「きゃっ!」
ぐらりと身体が傾いて、キョーコは慌てて片手で自分を支えた。
腕とスカートが波につかってしまった。
「あ、びっくりした・・・。大丈夫です敦賀さん、やっぱりワカメっぽいです」
心配しているだろう蓮の方へ顔をあげる。
「最上さん!後ろ・・・」
蓮の声が終わらないうちに、キョーコの周りの水位がいきなり上昇し・・・。
振り返ると目の前に真っ黒い波の壁があった。
大きな波がキョーコに被さったかと思うと、すごい勢いで引いて行き、そこに彼女の姿はなかった。
「最上さん!」
蓮が波に入って追いかけたが、第二波で自分も膝上まで水をかぶり、よろめいた。
「嘘だろう???どこだ!?」
焦って懸命にキョーコを探す。
黒い波が引いた時、少し沖合いに波に伏せているキョーコを見つけた。
蓮は大急ぎで走り、キョーコの腕を何とかつかまえ、引き寄せた。
第三の波が容赦なく二人の頭上に迫った。
ドウン、という音と共に、水に巻き込まれる。
恐ろしい力でキョーコが連れて行かれそうになったが、必死でたぐりよせた。
何とか地に踏ん張り、波が引くのを耐えて待った。
二人がやっと海からあがり、抱き合って砂浜に転がったのは、それから間もなくのこと。
「・・・・っ・・。びっ・・・くりしま・・した・・・」
「・・それは、こっちのセリフだよ・・」
腕の中でずぶ濡れで震える娘を抱き寄せ、蓮は深い安堵のため息をついた。
「毎度君には驚かされるが、今回のは勘弁だ」
「すいません・・」
謝りながら蓮にしがみつく。
「無事で良かった。怪我は無い?」
本当に恐ろしかったのだろう、黙って頷く。
滴る水滴をはらいながら、蓮はキョーコの髪をなでた。
脚の間にしゃがんだ細い肢体が、濡れた服をまとわりつかせながら、しっとりと身体の線を浮き彫りにしていた。
しばらく黙って抱き合っていたが、そっと蓮がキョーコの身体を離した。
「・・・落ち着いた?」
「はい・・すいません」
「もういいよ。君のせいじゃない」
そっと頬に口付けをする。
舌をすべらせ、唇を軽く噛むと、苦い潮の味がした。
軽く唇を触れ合わせたまま、二人は見つめ合った。
「敦賀さんも・・びしょ濡れです。助けてくれてありがとうございます」
キョーコはそっと蓮の口元に両手を添え、ついばむように自らキスをした。
手は滑り、蓮の首筋を撫でた。
グレイのコットンシャツが水を吸い重く身体に張り付いている。
キョーコは肩や二の腕や、胸に現れたラインに、仕事中に見た蓮の輝く筋肉を思い出した。
焚き火に照らされた肌は象牙のようになめらかに光り、キョーコをどきまぎさせていた。
何度か仕事を忘れてしまい、見惚れてしまったほどである。
あの時の静かに瞳の奥で燃える火を、蓮の中に再び見つけてキョーコは震えて俯いた。
蓮はキョーコを引き寄せ、深く唇を重ねた。
甘い舌を味わい、唾液を吸った。
おずおずと応えてくる刺激にたまらず、蓮はキョーコの肩と首を支え、砂にできるだけ汚れないように彼女を横たえた。
そっと動く舌が愛しくてより深く口付ける。
貪りながら蓮は、キョーコのカットソーをたくしあげ、柔らかい胸をあらわにさせた。
キョーコは少し動揺した。
力強い身体が自分を愛撫しながらも守ってくれているのを感じ、うっとりと眼をとじていたのだが、さすがに脱がされるとまでは想像していなかった。
離れているとは言え、ホテルの明かりが見える。
広い砂浜に横たわる影は、注意すれば気がつく人もいるだろう。
「つ、敦賀さん・・・。ちょっと、ここでは・・・やめて・・・?」
キョーコの言葉を無視し、追いかけて唇を塞ぐ。
掌は乳房をもみしだき、先端を強くつまんだ。
「んっ・・・ふうぅっ・・ん・・んっ!」
キョーコは手で蓮の背中を叩き、くぐもった声で蓮に抗議するが、一向に止めてくれそうにない。
首を振り、無理矢理唇を外したキョーコは、静止の言葉をだそうとしたのだが。
「ああっ・・・・!!・・・つ・るが・・さ・・っ・・!」
蓮の顔が降りて、乳首を含んで強く吸い上げたのだ。
服もブラジャーも胸の上でまとまり、キョーコは自分でも驚くほどのあられもない声を出していた。
胸に触れられただけで、ここまで感じたのは初めてだ。
キョーコはあの時から、撮影で蓮の隣に座った瞬間から、この時を待ち望んでいたことに気がついた。
だから、蓮が濡れたスカートをたくしあげた時も抵抗ができなかった。
撫で摩られる感触にたまらず、もじもじと太股を擦り合わせてしまう。
掌はそっと脚を割り、蓮の膝を入れさせるスペースを作った。
指はすすみ、下着の上から割れ目にそってゆっくり動かされた。
乳房も吸われ、期待していた刺激を与えられて、キョーコは嬉しくて自分を解放してしまいそうになる。
蓮も頭の奥がしびれるような感覚で、キョーコの身体をなぞっていた。
キョーコとの行為の中で、彼女が必死で快感を押し隠し恥ずかしげに耐えている姿、それが崩れていく瞬間が一番気に入っていた。
誰も見たことのない表情、敏感になっていく肌、何度味わっても新鮮でたまらない感覚。
だが、今は外だというせいか、キョーコの反応が少し違っている。
抵抗も、しがみついてくる腕の力もいつもより強く、身体の感度も研ぎ澄まされているようだ。
こんな場所でここまでやるつもりは全くなかったのだが、キョーコの反応に蓮自身も興奮してしまい止めるきっかけがつかめずにいた。
下着越しに、海水とは違う濡れが滲み出ていた。
これ以上は・・・と頭の中で警告がガンガンなっていたが、指は止まらず脇から中にすべって侵入した。
「んんんっ・・!」
キョーコが反射的に蓮の手を押さえる。
力いっぱい手を引き出そうと抵抗したが、かなう筈もなく、手も腰も震えわななくだけが僅かな抵抗になった。
ぬるっと愛液に溶けた肉は、キョーコの意志と反して、蓮の掌に吸い付いた。
粒を揉み、下に指をすすめると更にその律動は強くなる。
奥まで到達した指は、きつく締められ痛いほどだ。
蓮は指の動きと合わせて乳首に吸い付く舌も激しく動した。
「や、やめ・・て、敦賀さん。やだ・・・ぁぁぅ・・」
下半身は熱く痛いほどにうずいて、キョーコは必死で哀願した。
脚を閉じようにも波がくるぶしのところまで来ていて、崩れて流れる砂に力が抜けた。
腿の奥からお湯が滲み出てくるように、快感が腰から頭までじんわりと広がっていく。
「ん・・・あぁん・・・っ!」
内股が痙攣をはじめる。
達するのはもう目前だった。
そこへ突然、邪魔が入った。
ザバアッッ!!
突然、波が二人に激しくかかった。
「キャッ!」
頭から水かぶってキョーコは悲鳴をあげた。
ぼたぼたと、髪から水をしたたらせながら、蓮も動きを止めた。
波はザーッと引いていき、また押し寄せた。
あたりを見ると少しの間にかなり潮が満ちてきていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
呆然と見つめ合う蓮とキョーコ。
再びぐしょぬれになり、服は砂でどろどろに汚れている。
しばらく無言だったが、どちらからともなく笑みが漏れ、抱き合いながら大きく笑いだした。
「・・・部屋に戻ろうか」
「そうですね」
まだクスクス笑いながら、キョーコは蓮の助けを借りて立ち上がった。
腰を抱き合い、時々立ち止まってキスをしながら、二人はホテルに向かった。
部屋に入りロックをかけると、二人は待ちきれずに抱き合った。
深く深く口付けをしあい、吐息を漏らす。
壁にもたれあってお互い服を脱がせあう。
濡れた服は身体から剥がれにくく、手元を焦らせる。
ようやく全裸になると、蓮はキョーコを壁に押し付けて背後から手を廻した。
「えっ・・?・・・敦賀さん、シャ、シャワーを・・あびさせてください・・・」
背筋を舐めながら、キョーコの乳房を強く揉み歪ませる蓮。
「駄目・・・」
「でも、・・・砂だらけです・・・っんん・・」
「ここ・・・こんなに濡れているのに流すのかい?・・もったいないよ」
再び指が脚の間にすべりこむ。
クリトリスを掌で圧迫しながら、膣の壁を二本の指で交互に擦って刺激を与える。
水音が響き、太ももをつうっと水が流れていく。
「あっ・・あああんんぅ・・!!!」
キョーコはたまらず声をあげた。
蓮はキョーコの細腰をつかみ、自分にひきよせる。
つきだした臀部に体重をかけながら、硬くなったものをそこに当てた。
重みすら快感で、すぐに満たされるであろう期待に、キョーコは歓喜の表情で声を乱す。
蓮と向かい合っていてはなかなか出せない表情だった。
と、蓮が動きをすっと止めた。
「・・・しっ。誰か、来るよ」
「え・・・」
キョーコは身体を硬くして耳を済ませた。
コツ、コツ、コツ、コツ・・・。
ドアの向こう、廊下で確かに足音が近づいてくる。
部屋の奥でなく、ドア一枚しか隔ててない近距離では、声はすぐに聞こえてしまうのは間違いなかった。
しばらく二人とも動かずに外の様子を伺った。
が、何を思ったのか蓮は、キョーコの腰をつかんでいきなりぐいっと自分自身を進めてきた。
「・・・ああっ!!!」
キョーコは思わず声を荒げる。
快感で胸と腰があられもなくぶるるっと震える。
「しっ・・黙って。聞こえるよ」
耳元で囁きながら、更に侵入してく。
「あっ!・・・・ぁぁっ・・・!や・・やめてください・・ん・・んふぅ・・・」
必死で小声で懇願するキョーコ。
充分に濡れているため、すんなり蓮の全てを受け入れてしまい、キョーコは切羽詰った息を吐く。
コツ、コツ、コツ・・と足音はすぐ近くにやってきた。
「すごいよ・・すごく締まってくる・・・キョーコ。好きだよ」
呟くと、蓮は静かに動きだした。
キョーコは壁に手をつき、唇を噛んで耐えに耐えた。
静かな交わりは、すぐに二人を燃え上がらせた。
肉をうちつけず、ゆっくりと、大きく、丸く腰をグラインドさせ、水音をおさえた。
動きを抑えた分、腰を支えていた腕は離れ、また乳房に戻り、キョーコの身体中を這い回る。
最後に乳首とクリトリスにおさまり、そこを優しく揉みつぶした。
『駄目・・ダメ・・・、これ以上触られたら・・声が漏れちゃう、やめて・・・』
キョーコは心の中で叫んでいた。
壁に爪をたて、涙がポロポロ頬を伝う。
はしたなく自分から突き出した腰が、蓮の動きにあわせているのに気がついていない。
ほんの少しの悪戯心で身体をすすめた蓮だったが、予想もしない快感と興奮に加速がつき、止めることができなくなっていた。
キョーコの蠢く肉に包まれ、締めつける力に、腰が熱くなり勝手に動きが大きくなる。
キョーコの耳朶を弄り、肩に歯をたて、思い切り跡をつける。
明日の仕事のことは一欠けらも思考に残っていなかった。
まるで初めての行為のように、思考は飛び、まとわりつく刺激に脳がじんじんとしびれた。
『お願い・・・敦賀さん!!!・・ああっだめ、本当に・・・ああ、もう・・・っっ!!!』
キョーコは気が狂いそうだった。
足音などどうでもよくなり、思いのまま声をあげられたらどんない良いか。
誘惑に耐えられなくなり、口を開いた瞬間。
足音は蓮の部屋の前でピタッと止まった。
コンコン・・・。
部屋に大きく響いたノック音に、ビクッと二人の動きがとまった。
まさか、自分達の部屋に用がある人間だったとは。
『だ、誰???・・・んんあっっ・・だ、だめえっっ・・・・・!』
キョーコはパニックになり、どうにかしなければと慌てて太股に力を入れて耐えたが、間にあわなかった。
「・・・っっ!!!・・・」
ガクガクと全身が震え、身体中の隅々まで強烈な快楽が駆け巡った。
声が漏れたのか、耐えて我慢できたのか、それとも叫んでしまったのか、自分でもわからない。
蓮が入っているそこだけが、感覚の全てになり、キュウキュウと締め付けてしまう。
『ああぁっっ・・・』
閃光が目の奥ではじけ、激しい眩暈で力が抜けていった。
もう一瞬でも立っていることができなくなっていた。
蓮は倒れこむキョーコを支えて抱いた。
ドアの外では誰かが疑問系の独り言を言っていた。
声から社さんだと蓮には見当がついた。
少し沈黙した後、足音は静かに去っていった
気がついたとき、キョーコはバスタブの中、蓮に抱かれてシャワーにうたれていた。
「・・・あ・・・」
明りがまぶしく眼がチカチカする。
暖かいお湯が粘ついた身体についた潮と体液を流していく。
「大丈夫か?」
心配顔の蓮がキョーコを覗き込んだ。
何のことだか理解できないキョーコはしばらく蓮を見あげていたが、はっと我に返り、真っ赤になって泣き出した。
「ひ、ひどいです。敦賀さん・・・っ!あんなこと・・・っ・・やだっ!もうやだっ!!」
拳で何度も叩き、蓮の胸から逃れようともがく。
バスタブにたまったお湯が跳ねてこぼれた。
「ごめん。あんなになるとは思わなかった」
「・・・っ、ばか・・ばかぁっ!敦賀さんなんか嫌いっ!」
恥ずかしくてたまらないキョーコは、両手で顔を覆い泣きじゃくった。
まともに蓮の顔を見ることなんかできない。
「ごめん・・もうしないよ。無理させてすまない」
「・・・っ・・・」
蓮は優しく抗議も身体も抱きとめた。
お湯の中でキョーコはしばらくしゃくりあげていたが、優しい声と掌に、少しずつ落ち着いていった。
肩に頭をのせてキョーコはぼうっとする。
波打つお湯はいっぱいまでたまってきている。
背中を撫で髪に頬擦りしながら、蓮はもう一度言った。
「ごめん、ね・・」
「・・・本当に、もう、しませんか?・・」
「約束するよ」
「・・・本当に、これからは、私が嫌だと言ったら・・・やめてくれますか?」
「わかった」
「じゃ・・いいです・・」
キョーコは蓮の肩にキュッとしがみついた。
バスローブを借りてキョーコはベットの上に座っていた。
腰は重く、身体がけだるい。
横になりたい気分だった。
「お水、とお茶。お好きなほうをどうぞ」
蓮がペットボトルと缶を置く。
「ありがとうございます・・」
キョーコはまだぎこちなかった。
さっきの痴態を思い出しそうになっただけで、かあっと顔が熱くなってくる。
蓮がボトルをあけ、隣に座った。
腰を浮かして距離を開けようとするキョーコをつかまえて引き寄せた。
「どうした?何で避ける?」
「いえ・・・。深い意味はないんですけど・・・」
目を伏せるキョーコを、下から無理無理覗きこみ、軽くキスをする。
「さっきは、綺麗だったよ」
「・・・っ・・・」
火照る頬を隠そうとするキョーコに、蓮はそっと身体を寄せ、ベットに押し倒していく。
「・・っ、敦賀さん。きょ、今日はもう・・・」
深くて馴染んだキスと、バスローブに滑り込んだ手に、みたび反応しそうになるキョーコは慌てて言う。
帯はほどかれ、胸も脚もあらわにされた。
「約束です、嫌だと言ったらやめてください」
蓮は手を止めて、キョーコを見た。
「・・・本当に、嫌なの?」
キョーコは言葉につまる。
「・・・ほ、本当です・・」
「そうか・・・。わかった。でも俺、まだだったんだけど、本当に本当に、嫌?」
「え?まだって・・まだ、だったんですか?」
「あのままじゃ生だったし」
「・・・」
蓮の掌がまた動き出す。
過激な絶頂の後の身体は軽い動きにも簡単に火がつきそうになった。
「あ・・っ・・・」
「またこんなに濡れているし」
キョーコの膝を割り、蓮は身体をすすめていく。
熱くて硬いものがぬるりと侵入してきた。
「ああっ・・!敦賀さん・・・・。ぁ・・・ぁ・・あ・・・っ!」
自分の中がまだこんなに敏感なことにキョーコは困惑した。
両肩に手を差し込まれ、キョーコは抱き起こされた。
向かい合ってつないだ形になる。
蓮はその体勢で下からゆるゆると突き上げた。
「今度は思う存分、声だしていいから」
「・・・っ・・!!」
全身に滲み出る汗を飛び散らせながら、二人の裸体が蠢く。
くちゅくちゅと繋がったところから粘っこい音が響く。
はしたなくM字型に開脚したキョーコは、羞恥でつぶれそうだった。
あまり動かずにいたいのだが、自分の体重が奥にあたる敏感な場所にまともにかかってしまい、揺らめいてしまう。
乳房は硬くしこり、蓮の胸板に擦れてはじいた。
すぐに太腿に震えが走り出し、蓮の腰をしめつけた。
震えはまた、腰からじんわりとひろがっていく。
「あぅんんっ!・・あっ、あっ、あっ・・・や・だ、嫌・・」
蓮の動きがピタリと止まった。
「本当に、嫌?」
「・・えっ・・・??」
「嫌ならやめる約束だよ」
ニッコリと、紳士スマイルで微笑む蓮の顔がそこにあった。
キョーコは真っ赤になって蓮をにらんだ。
「・・・やっぱり、あなたは酷い人です。敦賀さん。本当に・・」
両腕を首にそっと巻きつけ力をこめる。
「もっと・・・して・・。止めちゃ嫌です・・」
蓮は笑って抱き合ったまま横になった。
強く大きく動き始めた律動に、キョーコは声をあげた。
我慢ができなくなり、羞恥を捨てて溶けていくキョーコ。
蓮が最も好きな瞬間の一つであった。