「ちょっと、キョーコっ…!」  
あわてて顔をそらし、蓮は転がるようにしてキョーコの手と舌から逃れた。  
心臓は早鐘、舐められた後はなんだか熱くて…理性がぐらついているのがよく分かる。  
「にゃーーー」  
不満げなキョーコの声が聞こえるが、それどころではない。  
「何か、気をそらせるもの…」  
番組の中でキョーコが気に入っていた「ねこじゃらし」や「ボール」をもらってきていたはずだった。  
「おもちゃを持ってくるから、ここでおとなしくしているんだよ」  
それだけ言い残し、そそくさと蓮は荷物を取りに寝室へ向かった。  
 
「ふにゃあ」  
次にキョーコの声を聞いたのは、蓮がベッド横の床に置いたカバンの中からボールを取り出した時だった。  
「ついてきたの…」  
呆れながら振り返り、キョーコに向かってボールを軽く投げる。  
「にゃあん!」  
四足から中腰になり、キョーコはキャッチしようとしたが、跳ね返ってボールはベッドの上へ。  
「にゃ!」  
キョーコはベッドに突進し、ボンという跳ね返り音ととスプリングの軋む音を立てつつボールに飛びついた。  
「にゃぁ〜〜ん」  
楽しそうに鳴き声をたてながら、丸くなってボールにじゃれ付いている。  
無邪気な笑顔を見せる姿は蓮の目に毒なほど可愛かったが、すっかり猫になりきった様をただ眺めているのも気が引ける。  
…楽しそうだし、俺が食べ終わるまでこのままにさせておくか…  
ため息をつきながら蓮は食卓へ戻ろうと後ろを向いたが、キョーコの手に呼び止められた。  
手は猫らしく丸まっている。  
「何?」  
「にゃん」  
床を見つめてから蓮を見上げる。どうやら、ボールが床に落ちてしまったから拾ってくれということらしい。  
蓮はベッドに座って身をかがめ、ボールを拾う。  
困った顔で見つめてくる姿が可愛くて、いたずら心を起こす。  
「ほら」わざとそのまま渡さずに、腕を伸ばしてキョーコから離す。  
「にゃあ!」  
思ったとおりキョーコはボールへ向かって飛びついてきたが…  
蓮は、キョーコは猫ではない、だが今は人間の意識がないと言う事実を甘く見ていた。  
気づいた時には、手加減無しに飛びついたキョーコの勢いで、腕どころか上体もつられて押し倒されていた。  
 
これじゃ、わざわざボールをとりに来た意味がない。  
即飛び起きようとしたのだが、至近距離にあるキョーコの顔についつい見入ってしまう。  
キョーコの目はじっと一点を見つめていて…  
と、またも蓮の口元を舐め始めた。まだソースが残っていたようだ。  
「ちょ…」  
驚く蓮の肩に手をかけて、  
「にゃぁ・・・」  
キョーコはソースの味を追ってか、唇にまで舌を這わせ始めた。  
動揺する蓮の意識には、舌だけでなく、肩にかけられた手、  
すりよせられる体や胸の感触までもがだんだんと存在を増していく。  
――まるで、押し倒されて愛撫をされているような…  
これで理性を保てというほうがどうかしている。  
とにかく、止めなければ!  
キョーコを制止するために蓮は言葉を発しようとしたが…  
それこそ誤算だった。  
まず腕で彼女を引き離すべきだったと後悔すべきところだろうが、  
もう今の蓮にはそんな意識の働く余地はなかった。  
はずみで口内に侵入したキョーコの舌を捉え、思う様貪ることばかりに夢中だった。  
 
ぎり、と、肩に食い込む爪の痛みが蓮を我に帰らせた。  
しまった…!  
自分のしでかしたことに驚き呆れながら、蓮はキョーコの唇と舌を解放した。  
キョーコは潤んだ瞳で息を荒げている。  
「ごめん…」言いながら身を起こし、キョーコを引き離そうとするが、キョーコの手は離れなかった。  
爪はもう立てていない。  
「え…」とにかく離れなければと蓮は焦るのだが、キスの感触を忘れられない理性の崩れたままの意識は、  
未だ至近距離にある潤んだ瞳に魅入られてしまう。  
が、キョーコはきょとんと蓮を見つめて「にゃあ」と一声。  
未だ意識は猫のまま、どうやら先ほどの事は苦しかったから爪を立てたという程度に過ぎないらしい。  
キスの意味をわかっていないのはこの際好都合かもしれないが、理性の崩れた想いからはなんだか複雑で、  
「もう、どうしてくれようか、この子は…」  
つい声に出してつぶやきながら、蓮はがっくりと肩を落とす。  
 
そんな蓮の気持ちなどつゆ知らず、キョーコは「にゃあ…」と相変わらずの鳴き声をもらしながら、またも蓮の口を舐めようとしてくるのだった。  
甘い鳴き声、引き寄せる腕の力、寄せられる頬と唇…  
姿だけならまるで甘い恋人のそれ。  
ただし意識は猫。  
無邪気でいたずらな子猫ちゃん。  
「人の気も知らないで」蓮の気持ちはこれに尽きる。  
ぷっつりと、いつかのように、何かが切れた。  
 
キョーコの顎を捉えて、首筋を撫でる。  
「猫は、この辺を撫でてあげるものなんだっけ?」  
「にゃぁ…」  
キョーコは、くたりと身から力を抜いて、蓮にもたれかかってきた。  
気持ちいいらしい。  
撫でる手を止めると、喉で何やらうなりながら、蓮の首元へ頭をすりよせてきた。  
「喉を鳴らしているつもり?君は人間なんだから、無理だよ…」  
「にゃあん」  
何か抗議するようにキョーコは一声鳴いて、うまくいかないのが悔しいのか、またうなりだす。  
「ダメだよ。喉を痛める」  
唇を寄せて、キスした。  
もしかしたら噛まれるかなと一瞬ひるんだが、先ほどの感触を覚えていたのか、舌は従順だった。  
眩暈のするような想いで、蓮はキョーコをかき抱き、身を倒してその体を組み敷いた。  
 
唇を離した時には、キョーコは既に半裸になっていた。  
まさかここまで理性にブレーキがきかないとは、と蓮は苦笑しつつ少し身構える。  
キョーコの唇から何が漏れるかと…  
「にゃん」  
表情も無邪気な子猫のままだった。  
むしろ窮屈なものが取れて身軽になったとでも言うように、のびまでしてみせる。  
…もう、この子は…  
落胆したのか安堵したのか。蓮はため息をつく。  
そんな蓮の顔を覗き込んで、「にゃあん」とキョーコが鳴く。  
これが邪魔なのとでもいいたげに、丸まった手が胸の下着を…  
ぎょっとした蓮だったが、キョーコの手に自らの手を添えてその望みを叶えてやった。  
続いて下肢も解放してやる。  
今なら、キョーコが我に帰っても「脅かし」で済む。  
そう思って始めた行為ではあったが…  
もはや口実に変わっていることを、蓮は意識の外で理解した。  
 
「にゃ…っ」  
色づいた胸の先を指先でもてあそぶと、鳴き声が変化した。  
「猫でも…気持ちいいんだ?」  
くすくす笑いながら、舌先でなぶる。  
「にゃぁア…ん…」  
甘く、なっていく。  
手に、口に触れる柔らかな感触がたまらなくて、愛撫はエスカレートする。  
従順で甘えるようなしぐさのキョーコ。  
意識が猫のまま、何も理解していないのだとしても、まるで許されているようで。  
次々にキョーコが声を溢れさせるように、指で突起を押しつぶし、舌でなぞり上げていく。  
「にゃ、にゃぅ…にぁあ…」  
巧みに蓮が作り上げてゆく、初めて知る気持ちよさに、すっかり夢中になっていく。  
胸を優しくもみさすりながら、また蓮が唇へキスをしようと顔を寄せると、キョーコは嬉しげに頬をすりよせた。  
 
舌を絡めながらも蓮の手はくまなく体を探る。  
本当に猫であれば知るはずもない感触を、感覚を覚えこませていく。  
キョーコの口からは、鳴き声の他に、弾んだ息も漏れ始めた。  
「はぁっ、は…にゃあ、なぁん…は…っ…」  
「可愛いよ…」  
蓮の指先が、もう止め処もなく濡れている部分に触れる。  
「大丈夫…」  
ゆっくりと人差し指を進入させた。  
キョーコの内部は温かく、流れ出す蜜に沿って滑り込んだ蓮の指を圧迫する。  
「にゃぁっ、なぅ…」  
ゆっくりと動かされるたびに、なんだか感覚が違うと分かるのか、キョーコは首をふるふると横に振る。  
それでも抵抗があるわけではなく、こみ上げ続ける愛液に助けられて、蓮は難なく3本までに増やした指を動かす。  
「な…にゃん…」  
まだ快感を感じるまではいかないらしく、潤んだ目は不可思議そうに蓮を見つめている。  
蓮は中に入れた指はそのまま、体をずらし、キョーコの秘所へ舌を這わせた。  
「にゃん…ッ」  
予想外だったのだろう、驚きの声が上がる。  
 
「ゃ…ぁ…っ」  
隠された突起を舌先で探ると、困ったような、それでいて明らかに感じていると分かる声が上がった。  
内部はひくりと震えて蓮の指を締め付ける。それに答えて指を動かすと、  
「ふ…っあ…ゃっ…」  
甲高い、甘い声が上がった。  
も…我慢できない…  
蓮の自身は限界まで高まっていた。  
もう引く気はなかった。  
「あ…ぅ…っ!」  
キョーコの中から指を抜き、服を脱ぎ捨て、より深く愛するために準備を整えた。  
 
とろんとした瞳で横たわるキョーコ。  
蓮は再びその体を抱き締める。  
キョーコの瞳には戸惑ったような色が浮かび、  
「に…にゃあ…」これも戸惑った声で。  
蓮は深く口付けると、ゆっくりと足を開かせた。  
腰を上げさせて、体勢を整えるとキョーコの手が力なく蓮の体を押しとめるように動くが、もう止まれるはずもなかった。  
「ぃやぁあああ…っ!」  
悲鳴も、抵抗も予測していた。  
今出来るのは、なしうる限り、自らの欲望を暴走させずにキョーコの苦痛を抑えようということだけ。  
蓮はさっき覚えたばかりのキョーコの悦ぶ場所総てを手のひらで探り続けながら、  
緩やかに動き、時に止まりつつ、自らを確実に奥へ奥へと進ませて行った。  
「ふ…ッう…にゃ…にゃあ…ッ」  
苦しげだが、甘さをとどめたままのキョーコの声が嬉しくて、  
蓮は「とろけそうな」と誰もが言うであろう笑顔でキョーコを見つめる。  
「…つ…」吐息を漏らして頬を赤らめ、キョーコは蓮の首にすがりついた。  
もうキョーコの内部は蓮の熱さを覚え始めて、苦痛と赤い涙を生み出しながらも、快感に震えだしていた。  
 
小刻みな変化を蓮が分からないはずもなく、動きが徐々に激しくなり始めた。  
「にゃあ…ア…ッ…にゃーアァぁん…」  
より強い快感を覚えさせようと、蓮は繋がった場所に近い、もうすっかり膨れ上がった突起にも激しく愛撫を施した。  
「キョーコ、好きだ…」  
繋がった喜びと、快感の悦びに、タブーも何もかなぐり捨てて、蓮はつぶやいていた。  
「にゃぁっ、はっ、はあっ、にゃー…んっ」  
そんな蓮にすがり付いてキョーコは鳴き続ける。  
甘い声で、瞳から涙を流しながら、切なく。  
限界が訪れるのはたやすかった。  
「にゃ、…はっ、ぁ、やぁ、も…ぁ、ああっ、ああぁーーーっ…」  
悲鳴のような声と共に動きを止めたキョーコの体に、蓮は共に達したことを知った。  
 
 
軽い眠りに落ちていたようだ。  
目を開けると、傍らにくったりと蓮に身を預けたまま横たわるキョーコがいる。  
無邪気な寝顔は、一体猫のままなのかあの少女に戻っているのか、判別しがたかった。  
こんなことをするつもりではなかったのに、と後悔する気持ちがないではない。  
が、蓮の心は凪いでいる。  
猫になりきったキョーコにすりよられながら、蓮の心にはひとつの疑問があった。  
――猫というのは、こんなに人懐っこいものだった?  
撮影やドラマで多くの猫とも何度も共演し、大抵は懐かれた蓮ではあるけれど、  
そんな「プロ」でも、こんなにすりよられたことはない。  
まして、人から聞く猫体験の中には、威嚇されたり噛み付かれたり、悲惨なものは少なくない。  
もちろん、キョーコの中の猫像が人懐こいかわいらしいものばかりである可能性もあるが…  
「嫌がられてはいない」と確信するのには充分だった。  
 
「それに、ね」  
蓮は一人キョーコに語りかける。  
ずっと自分の本気を間違えていた自分だから、「恋」についての自信はあまりない。  
だけど少しは確信が持てる。  
「君、最後まで猫だった?」  
俺は、演技の見極めだけは、誰にも負けないつもりだからね…  
くすくす笑いながら、蓮はもう一度眠りに付いた。  
目覚めた時のキョーコが猫でも、恋する少女でも構わない。  
かわいい子猫ちゃん、  
そして、かわいい恋人。  
 

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