明日はキョーコの仕事が休み。
先日の電話でそう告げられたから、付き合いだして二月になる彼女に「泊まりにおいで」と言ってしまった。
彼氏彼女の関係になってからキョーコが俺のマンションに泊まるのは初めてのこと。
付き合う前は平気で泊まっていたというのはある意味問題かもしれないが、
男女の関係になることはなかった。
そう、これまでは。
けれど、たぶんキョーコも気付いているはず。
俺が彼女の身も心も自分だけのものにしたがっていることを。
二人きりで過ごしていても、深い口づけをかわしていても、
どこかそれ以上の関係になることを恐れているようだった彼女。
紳士を装っている俺としては無理をさせたくない。がっつきたくもない。
そう思う一方で、俺の中の獣がキョーコを欲しがっていた。
キョーコの躰に焦がれていることを知って欲しくて、
不意打ちのようにランジェリーショップへと連れていったりもした。
嫌われてしまうのではないかという恐れもあったが、
少しでもその日に近づければ……という醜い欲求には勝てなかった。
過去には何人もの女性と付き合ってきたが、こんなことは初めてだ。
それは相手が皆、俺よりも大人だったということもあるのだろう。
付き合うことがそのままセックスにつながることを『彼女』達は了解していた。
むしろそちらが目的で近づいてきた者もいたのではないかとさえ思う。
だから俺は、手を出せないまま悶々とするばかりの自分に驚いている。
これが終わったら彼女と……。
それを励みにして、仕事を予定よりも1時間早く終わらせた。
監督や共演者から飲みに行こうと誘われたが、先約があると言って断り、
法定速度ギリギリで車をとばした。
自宅の玄関をあけるとそこには最愛の少女が待っていて、思わず、
『おかえりなさい。ご飯にします? お風呂にします? それとも……』
昔の俺なら鼻で笑いそうな、低俗なセリフを期待してしまった。
だが……。
「おかえりなさい」
彼女の言葉はそれだけで、俺は彼女に悟られないように肩を落とした。
「ただいま、キョーコ」
抱きしめて額に口づける。
本当は深いキスをしたかったが、自制が効かなくなるのがわかっていたから我慢した。
食事の準備がまだだと言って詫びるキョーコを遮り、
俺は冷水のシャワーを浴びて、はやる自身を落ち着かせた。
下着の上からバスローブを羽織ってキョーコが用意してくれた夜食を食べる。
いつものように「おいしい」と言ったものの、正直なところ味なんてまったくわからなかった。
俺が本当に食べたいの思っているのは彼女自身なのだから。
片づけが終わると、シャワーを浴びるために彼女が席を外す。
俺は寝室に入り、この日のためにあらかじめ買っておいた避妊具を取り出した。
いくつあれば足りるだろうかと、ついついそんなことを考えてしまう。
本音を言えば、体力の続く限り何度でも放出したい。だが、初めての彼女に無理はさせられない。
迷ったあげくベッドの脇のテーブルに3つだけ乗せて、残りは箱ごとベッドの下にしまった。
余らなければいいなと思いつつ、足りなくなったらいつでも取り出せるように……。
「……お待たせしました」
ほのかな湯気をまとったキョーコが寝室の入り口に立ったのを見て、
俺は頭を冷やすために読んでいた台本を取り落とした。
慌てる俺の様子を不審に思ったのか、キョーコは今にも泣き出しそうな声で
「変……ですか?」と言って視線を床に這わせる。
キョーコが身につけていたのは、彼女に内緒で購入しておいた俺のイチオシの下着。
一緒に行った店で同じ袋に入れてもらったものの、実は以前に一目惚れして買っていたものだ。
いつか着ているところを見たいと願っていたが、
まさか今日この日にお目にかかれるとは思っておらず、なかなか次の言葉が出てこなかった。
キョーコの華奢な体を包んでいるのは真っ白なベビードールと、お揃いの紐ショーツ。
カシュクール風になった胸元から伸びたストラップを首の後ろで結ぶ作りで、
裾は三段切り替えの華やかなフリルとレース遣いになっている。
デザインだけならルームドレスと言っても通用するだろう。
ふわふわでひらひらでさらにはキラキラ。
カタログでこれを見つけた時、キョーコが好きそうだなと思って深く考えずに注文した。
色は純白。俺は花嫁衣装にも通じる清楚さが気に入っていた。
だが届いた品物を見て戸惑った。
生地が薄すぎるのだ。これでは体の線が透けてしまう。
清い付き合いをしているキョーコに渡せるはずもなく時間だけが過ぎていき、
意を決した俺はランジェリーショップを隠れ蓑にしてそれを渡した。
隠した、つもりだったのだが……。
俺の邪な想いは見透かされていたのだろうか?
いや、きっと彼女もデザインを気に入ってくれただけだろう。
無理矢理にそう言い聞かせてキョーコを見た。
確かに彼女にその下着は似合っている。
純白のドレスからのぞく細い手足はほんのりと火照って色づき、
薄い布地から透ける局部を手のひらで恥ずかしそうに覆っている。
その姿は俺の理性をガンガンに揺すぶった。
俺はこの穢れなき少女をめちゃくちゃに壊してしまいたい衝動に駆られた。
「とても可愛いよ。よく似合ってる」
なかなか部屋に入ってこないキョーコにしびれを切らし、目の前に立つ。
両頬に手を添えて顔を上げさせ、唇をふさいだ。
「んっ……あ」
キョーコの口から苦しげな声が漏れる。
つま先立ちして首にすがりついてくる彼女を抱き寄せ、
左手で体のラインをなぞりながら下へ下へとおろしていく。
腰を抱き、体を密着させると、俺の中で育まれていた黒い感情はあっけなく臨界点に達した。
「ごめん。あまりにもキョーコが可愛いくて、我慢できない」
有無を言わさずキョーコの体を抱きかかえて、荒々しくベッドに縫いつけた。
ついばむようなキスの雨を降らし、角度を変えたり上唇を噛んだりしながら深く濃厚にしていった。
舌を口内に侵入させ、奥に引っ込んでいたキョーコの舌を絡め取る。
最初は驚いていた彼女も、しだいに俺に応えようとしてくれるようになった。
「んっ、はぁっっ……。んぁ、ん」
キョーコの唇はどちらのものともつかない唾液に濡れて、おさまりきれない分が端から垂れていった。
ほっそりとした体から力が抜けていくのを悟ると、俺は手を彼女の胸に当てた。
手のひらにすっぽりおさまってしまう小さな膨らみ。
それをすくい上げるように下の方から揉みほぐしていく。
「……っふぅ、っ、あ……ん」
ちゃんと感じてくれているのが嬉しくて、もっと甘い声を出させたくて、
俺は固くなった頂上の突起をつまんで弄んだ。
「はぅあっ……ひゃん、っっふぅぁ……、ぁん」
「キョーコ、可愛い」
目を閉じて必死に声を殺そうとしている顔。これは結構くる。
保たないかもしれない。
そう考えた俺は、俺だけが知る潤んだ艶顔に別れを告げることにした。
体を徐々に後退させ、わざとらしく水音を立てながら舌で首筋をなぞり、
鎖骨の間を通ってサテン地に包まれた丘陵をのぼっていく。
そして薄い布越しにもはっきりとわかる突起を口に含んだ。
舌で転がし、歯を立てて甘噛みし、キョーコの切なげな吐息を誘う。
口で乳首を苛める一方、空いた右手でキョーコの太股を撫であげた。
しっとりと吸い付くような柔肌を楽しんでから、指先を小さな布の下にすべりこませる。
「ひゃうっ!」
潤んだ彼女の秘処に触れたとたんに悲鳴が漏れた。
「濡れているね。愛撫だけで感じていたの?」
俺は手探りでクレバスをなぞり、皮を被った小さな陰核を探り当てた。
「……――!?」
「ここ、感じるんだ?」
キョーコの中からあふれた愛液を指に絡ませて、円を描くように割れ目の中を撫でる。
決して入口には触れないまま、指先を小刻みに震わせて陰核を刺激する。
「ひゃうぁあ……ん」
腰を浮かせてよがるキョーコをもっと見たくて、俺の行動はエスカレートしていく。
彼女の宝石をつまみ、弾き、押さえつけ、その度にあがる嬌声を楽しんだ。
キョーコが何度目かの波にさらわれるのを見届けてから、
俺は彼女の一番深い場所への侵攻を開始した。
柔らかな襞を広げ、ちゅく、と音を立てて指を突き立てる。
だが、入れることができたのは第一関節までだった。
その先にある『何か』が邪魔をして、それ以上は進めない。
俺はキョーコが処女である証を確かめると同時に、彼女の入口を広げるための刺激を与え続けた。
「つ……がさん、あっ、ひゃ、わたっ、なんか変……、ひゃふぅっ、っん」
キョーコは未知の快感に浮かされて腰をガクガクと震わせた。
誰も到達したことのないキョーコの最奥がどくどくと波打って、
振動が入口を攻めていた指先にも伝わってきた。
「あぁ――――っ!」
一際大きな波に飲まれて、キョーコの躰がビクンとしなった。
「イったね」
キョーコははぁはぁと肩で息をしている。
ちょっと飛ばしすぎたかもしれない。俺はほんの少しだけ反省して指を引き抜いた。
上体を起こし、上気して桃色になったキョーコの頬に口づける。
「胸とあそこ、どっちが良かった?」
「そんなこと……言えな」
「ん? どっち?」
「……あそこ、です」
「そう。じゃあもっともっと可愛がってあげなくちゃね」
恥ずかしい言葉を強要されて真っ赤になった顔もそそる。
ベビードールは俺の唾液で、ショーツはキョーコの中からあふれたものでびちょびちょに濡れ、
ぴったりと肌に張りついている。もはや透けるどころか丸見えだ。
「あの……ごめんなさい。私、胸ちっちゃくて」
そろそろ入れてもいいかな、そう思いはじめていた俺に、彼女は蚊の鳴くような声で囁いた。
「……すぐに大きくなるよ」
そんなことを気にしたこともなかった俺は、不意を付かれて返事が遅れた。
キョーコの顔が曇るのを見て、慌てて付け加える。
「Cカップは恥じるほど小さくないと思うけど?」
「ああいうお店は本来のサイズより1、2サイズ大きく言うんです!
帰宅して開けてみたら、ブラの中にパッドが二つも入っていたんですから」
憤るキョーコ。じゃあ本当はAかBってことか。
ん。でも、どちらにしても俺は全然構わないんだが。
「キョーコの胸、可愛いよ。横になっても崩れないよね。形がきれいなまま上を向いてる」
「それは小さすぎて重力の影響も受けないだけなんです!」
キョーコはふてくされて俺に背中を向けてしまった。
何故? 俺は誉めたつもりだったのに?
わからないながらも、拗ねている彼女を背後から抱きしめた。
キョーコの耳元に顔を寄せて囁くように言う。
「俺はキョーコの胸じゃなくてキョーコ自身が好きだよ。それじゃ駄目?」
「私、胸だけじゃなくて色気もないですよ?」
「そんなことないよ。現に、俺は興奮してる」
「それはこの格好のせいでしょう?
どうせ私はメイクや衣装の力がないと、地味で平凡で可愛くもないつまらない女なんです」
「じゃあ賭けをしようか」
「え……?」
「俺が衣装を全部脱ぎ捨てた本当のキョーコに興奮するかどうか。嫌?」
「や、じゃないです……でも」
言葉尻に潜んだ否定の気配を俺は見逃さなかった。
「もしかして急ぎすぎた? まだ嫌なの?」
内心の落胆を押し隠して尋ねると、キョーコは首を振った。
「じゃあ、俺とするのが嫌?」
「違いますっ!」
「なら、何が嫌なの?」
「自信がないんです。胸も小さくてグラマーとはほど遠いし、キスもヘタだし、
こういう経験もないから、どうやったら敦賀さんによろこんでもらえるかわからないんです。
がっかりさせるだけならまだしも、幻滅されたらどうしようって考えるだけで……」
ああ、俺の恋人はなんて可愛いのだろう。
まっさらなキョーコだからこそ教え甲斐、育て甲斐があるのに。
俺が君を自分色に染め上げようと企んでいることに、まったく気付いてないんだな。
「キョーコがそんな心配する必要はないんだよ」
そんな心配しなくても、ちゃんと俺専用の躰に仕込んでみせるから。
声だけは優しくしたものの、諭した時の俺の顔には意地の悪い笑みが浮かんでいただろう。
キョーコが見たら、きっとまたいつかのように絶叫だけ残して逃げ出したかもしれない。
もちろん、背を向けていた彼女には見えるはずもなく、
たとえ見られていたとしても逃がしてやる気などなかったが。
耳、うなじ、背中と口づけるたびにキョーコは全身を震わせた。
体中が性感帯なのかと思えるほど、キョーコの躰は俺の行動にいちいち反応を返してくれる。
見えないのをいいことにたくさんの所有印をちりばめて、
その刺激を誤魔化すために、後ろから鷲掴みにした乳房を揉みくちゃにした。
「ふぁ、あひゃ、はぁっ……、つるがしゃ――ひゃん!」
嬉しい声を聞きながら、俺はベビードールのストラップをくわえた。
するすると引いて結び目をほどき、両手を上げさせて一気に引き抜く。
仰向けにしたキョーコにまたがると、眼下に素晴らしい光景が広がった。
「キョーコ、手が邪魔だよ」
必死に胸を隠そうとしている両手を掴んで頭上に押しつける。
「見ないでくださぃ……」
「やだ」
駄々っ子のように言い放って、淡いピンクの真珠を口に含んだ。
直に味わうそれは布越しに触れていたときよりもはるかに過敏で、
押さえつけていたキョーコの両手が暴れた。
だが、しばらく続けてやることでキョーコの体からは力が抜けていった。
俺は抵抗の消えた膝を掴んで脚を開かせると、その間に体をねじ込んだ。
キョーコの下肢の付け根に顔をうずめてショーツの端を結ぶリボンの一片を噛む。
軽く引っぱっただけでそれは簡単にほどけ、はだけた白い布片の下から可愛らしい茂みが現れる。
邪魔なショーツを片方の脚に寄せると、目にも鮮やかなピンクがオレンジの間接照明の下に晒された。
おそらく自分でもまともに見たことのないそこを暴かれ、キョーコは脚を閉じようともがきだす。
「やっ……」
「キョーコの可愛いところをもっと見せて」
羞恥に歪んだキョーコの表情が劣情をいっそう煽る。
俺は膝を押さえつける手に力をこめた。
舌は柔らかな草原を越えて深い谷を下っていった。
指で広げるとこの世のものとは思えないほど美しいオアシスが、餓えた旅人と化した俺を迎えてくれた。
泉に顔を近づけて、直に甘い水をすする。
水面を揺らす波紋のようにひくひくと蠢くキョーコの秘処。
ずっと見たい、触れたいと思っていたものが目の前にある。
すぐに入れてしまいたかったが、俺は入口のすぐ上にある陰核に目を留めた。
まだまだ夜は長い。
俺だけが愉しむのではなく、初めてのキョーコにも快楽というものをたっぷり教えてやらなくては。
そんな想いから小豆大の陰核に舌を這わせた。
「ひあっ、……っるがさん、やぁ、ああぁあん!! あっ、あっ、あぁっ!」
充血し肥大化したクリトリスに歯を立てて苛める。
すぐ下にある入口からは俺を誘うような匂いとともに、艶めく蜜が滴っている。
俺は秘処をしっとりと濡らす雫を丁寧に舐めとり、キョーコの味を堪能した。
幸いにもキョーコの感度は抜群にいい。
軽い刺激を与えてやるだけでいくらでも湧いてくる。
先ほど指で苛めた穴に舌を差し入れて、俺はとめどなくあふれ出る愛液をすすった。
口内に広がる甘美な蜜は度数の高い酒のような酩酊感をもたらし、
俺は普段理性で押さえつけている『獣』を解き放ってしまいそうだった。
表面を覆っている『紳士』の化けの皮さえ剥がれ落ちる寸前だ。
これ以上耐えられないと思った俺はキョーコの秘処から身を離し、
羽織っていたバスローブとその下に穿いていたボクサーパンツを脱ぎ捨てた。
「ほら、よく見てごらん。キョーコがあんまり色っぽく誘うから、
こんなに興奮しちゃってるよ? やっぱり賭は俺の勝ちだったね」
取り出したものを見てキョーコが息をのんだ。
力強く天井に向かってそそり立った雄。
自慢じゃないが、平均的な日本男性のものよりは確実に大きいと思う。
初めての彼女には、ちょっと、いや、かなりキツイかもしれない。
「入れるよ」
確認ではなく宣言をして、ベッドの脇のテーブルに手をのばした。
しかし、避妊具を掴もうとした手は彼女によって阻まれる。
「敦賀さん。私、大丈夫ですよ? 今日に備えてちゃんと……おくすり飲んできましたから」
潤んだ瞳をまっすぐに向けてキョーコが言った。
俺は彼女の言葉の意味をすぐには理解できず、間抜けにもそのまま固まってしまった。
「モー子さんが、敦賀さんなら心配無用だろうけどって言って、教えてくれたんです。
飲んでいればその……付けなくても赤ちゃんができないからって。
私、敦賀さんとの初めてを思い出に残したいから、全部受けとめたいんです」
もしかして、このままでいいと言っているのか?
生で、中に出してもいいと?
それはもちろん願ってもない話だ。だけど、本当にいいのか?
性病とかHIVとか、心配すべきことは他にもあるだろう?
もちろん俺は変な病気なんて持っていないが、このくらいの気遣いは、やって当然だ。
……だが、キョーコがいいと言うのなら、ありがたく、いや、やっぱり……。
めちゃくちゃにしてやろうと思っていたはずなのに、
無邪気に微笑むキョーコを見ていると、瀕死だったはずの紳士が勢いを取り戻して決意が揺らぐ。
だが、檻に閉じこめていたはずの獣を解き放ったのもキョーコだった。
俺の迷いを見透かすように、「どうぞ」と言って目を閉じる彼女。
キョーコもそう言っていることだし、と獣が囁く。俺自身もその意見に全面的に賛成だった。
最後まで抵抗していた紳士は獣に引き裂かれ、猛り狂った獣が俺に乗り移る。
「ごめんね。優しくしてあげられそうにない」
俺は脚をいっそう大きく広げさせてM字に曲げると、膝の裏に通した手をベッドに沈めた。
あられもなく性器を露出したまま、蝶の標本よろしく固定されてしまったキョーコ。
これでもう脚は閉じられない。俺からも逃げ出せない。
完全にキョーコを捕らえた俺は、高ぶった自身を彼女の入口にあてがい、
ゆっくりと中に沈めていった。
「いっ、痛……っ! やぁあ……ぁ!!」
キョーコの可愛らしい顔が破瓜の痛みにひきつった。
眉を寄せ、額に汗を浮かべ、目尻にはじんわりと雫がにじんでいる。
破裂音さえ聞こえてきそうな勢いで彼女の処女膜を貫いた俺は、
苦しみ悶えるキョーコをよそに、一切の手加減をしなかった。
いや、正しくは夢中になりすぎて手加減できなかった。
「――痛ッ! んん、……ゃぁあ、っん。つるがさ――! あっ、はぁぁ、あんっ」
顎をそらし、半開きになった口からは悲鳴とわずかなあえぎ声が漏れる。
少し手加減しなくてはと思うものの、彼女の声が、しぐさが、俺にアクセルを踏ませてしまう。
「すきっ。つるがさっ……、すきなの、っん! あぁぁ……っ!」
辛いはずなのに、次第にキョーコの声には俺を求める言葉が増えていった。
必死の彼女は何が何だかわからないまま思いついた言葉を口にしているだけなのだろう。
わかっているのに、名前を呼ばれるだけで許されていると勘違いしてしまいそうになる。
「俺も、好きだよ、キョーコ。愛してるっ!」
愛、嫉妬、独占欲、猜疑心……。キョーコと出会ってから俺はいくつもの感情を知った。
そして、今この瞬間にも、新しい感情が生まれていた。
それはどす黒くよどんだ嗜虐心。
涙を浮かべて痛みに耐えるキョーコの顔を見ていると、たまらなく興奮する。
もっとキョーコの歪んだ顔が見たい。
もっとキョーコを啼かせたい。
その一心で狭い道を無理矢理に押し進めようとする。
わずかに進むたびに聞こえるぎちぎちと何かが軋むような音。
おそらくは引き裂かれるキョーコの躰が上げている悲鳴だろう。
それをもっと聞きたくて、ぐっとさらに押し込んだ。
「んっ」
きつく締まる膣口の気持ち良さに、俺の口からも声が漏れた。
セックスそのものは初めてじゃない。
相手を数えだしたら両手の指では足りないくらいには経験してきた。
なのに、これほどまでの快感を得た記憶はない。
とんとご無沙汰だったからだろうか。
いや、そうじゃない。相手がキョーコだから特別なのだ。
キョーコ以上に深く愛した女はいない。だからこそ余計に感じているのだろう。
そう結論付けてはみたものの、キョーコは俺が今まで抱いてきた『彼女』たちと明らかに違う。
これまでのセックスが『入れるだけ』ならば、
キョーコとの行為は『どろどろに溶け合う』くらいの差があった。
違いを感じる理由は、おそらくメンタルな面だけではない。
俺は彼女のナカが俺の知る女体とは違うことに気付いた。
入口の締め付けがキツイのはわかる、初めてなんだから当然だ。
だが、その先。比較的ゆるいと油断していた彼女の膣内に、再びきつく締まる場所があった。
「二段締め――!?」
違う。さらに奥にもう一箇所。
合計三箇所で俺の欲棒をぎゅうぎゅうに締めつけてくる。
咬みちぎられそうなほど強力に迫ってくるかと思いきや、
少し進めると、今度は奥に誘うようにざわざわ蠢く場所が現れる。
そんな矛盾した場所が交互に出現しては、俺を翻弄する。
まるで別の生き物を飼っているかのような、キョーコのナカ。
進むのを止めても、迫ってくる壁がやわやわと俺を包み込んでじっとしていられない。
「すごっ……」
散々自信がないなんて言っていたくせに、イイものを持っているじゃないか。
初めて味わう感覚に手玉に取られそうになりながら、俺はキョーコの一番深いところへと辿り着いた。
その頃にはすでに息もあがり、経験者の余裕など吹き飛んでいた。
「キョーコ。全部入ったよ」
俺自身を下の口でくわえこんだキョーコは全身を赤く火照らせていた。
汗をにじませた二人の肌はある一点で繋がっている。
「あんなに大きいものをどこにやっちゃたんだろうね」
「そんなの、しらな……」
ぐちょぐちょに濡れた結合部を見るようにうながしたが、
ぐったりとベッドに沈み込んだキョーコは首を振るばかりで、目を開こうともしない。
「動いていい?」
返事を聞く前に俺は動いた。
嫌だと言われても止める気なんてない。
半ばまで引き抜いて、勢い良く突き上げる。
「――――!?」
大きく目を見開いてキョーコが声にならない悲鳴をあげた。
長い間人目に晒されず、空気さえ触れられなかった聖域に土足で踏み込んだのは俺。
傷つけられたその場所を何度も固いモノに擦られて痛みを感じないはずがない。
最初は優しくしてあげようと思っていたはずなのに、
解き放たれた獣のサガには勝てなくて、俺は本能のおもむくままに何度も何度もキョーコを貫いた。
キシッ、キシッ、キシッ……。
律動に合わせてベッドが軋む。
くちゅ、くちゅっ、ぐちゅ、ぐちゅ……。
掻き回されたキョーコの中で粘液が卑猥な音を立てる。
はぁぁぁんっ、あっ、あっ、あっ、ああぁ……んっ!
そして、俺が最も聞きたかったキョーコの嬌声。
動き始めた直後は苦しげなうめきが多かった彼女の声にも、
律動を繰り返すうちに甘いものが戻ってきた。
「あぁっ! あん、あぁ、はぁっ……るがさん、すきっ、はぁ……あん、もっと……」
腕を俺の背中に回してしがみつき、いつしか自分からねだるようになったキョーコ。
耳元で繰り返される切なげな喘ぎ声がたまらない。
キョーコの昂揚に比例して、キョーコの中も動きが激しさを増していった。
まるで数千の蛇が不規則にうねりながら巻き付いているかのような感触。
まったく先の読めない動きで、俺自身からすべてを搾り取ろうとするように蠢いている。
限界だ。
俺は何も考えられなくなり、猛った部分から、ため込んでいた欲望を数回に渡って放出した。
放出を終えてもまだ満足していなかった俺は、乱れてしまった息を整えて
意識を手放したキョーコを繋がったまま向かい合うかたちで膝に抱え直した。
「……っく!」
達したばかりの彼女の局部は小刻みな痙攣を繰り返していて、
同じく達したばかりの俺の局部は、そんな彼女の動きに煽られて再び固くなっていく。
腰を振って下から突き上げるたびにキョーコの小振りな胸がぷるんと揺れた。
「ん……」
激しく繰り返される俺の動きに、キョーコの意識が浮上する。
「おはよう。第二ラウンドはもう始まってるよ?」
「!?」
キョーコはさっきと体勢が違うことに驚いたようだったが、すぐに俺の動きに合わせて喘ぎはじめた。
腕を首に回されると俺が支えてやる必要はなくなって、空いた両手を両の膨らみに添える。
「キョーコも、腰、動かして」
「や、ムリっ……」
「一緒に気持ちよくなりたくないの?」
「なりた……けど、そんなことできな――ああぁっ!」
「どうして? まだ恥ずかしがっているの? もう俺、キョーコの恥ずかしいところ全部見ちゃったのに?」
「むーーーーっ」
「お願い。キョーコ」
キョーコが似非紳士スマイルと命名した笑顔を浮かべて懇願する。
この顔を見せると彼女は拒めない。
渋々と、しかし次第に嬉々として腰を振り、俺たちは快感という名の海に溺れていった。
座位でのセックスでキョーコは再び昇天してしまった。
俺も気が遠くなってしまったが、それは短い時間だったように思う。
幸せそうな顔でまどろむキョーコの頬を撫で、汗で前髪の張りついた額にキスを落とすと、
キョーコが小さく身じろいだ。
「つるがさん……だいすき」
未覚醒の状態での可愛いつぶやき。
こんな嬉しい言葉を貰ってしまっては、もっともっと可愛がってやりたくなるじゃないか。
衝動に身を任せてこのまま彼女が目覚める前にいたずらしてやろうかとも考えたが、
さすがにキョーコのナカがすごいことになっていたので、一旦結合をとくことにした。
まだまだ元気なソレをゆっくりと引き抜くと、蓋をするものがなくなった狭い道から、
俺の吐き出した欲望が一気に流れ出てダークグレーのシーツに広がった。
ふと、白濁した粘液に混じる一筋の赤いものに目が吸い寄せられた。
それはキョーコの破瓜の証。
俺がつけた傷口からにじんだもの。
そのことに罪悪感を感じているのは紳士を気取った『敦賀蓮』。
彼女を征服した喜びに打ち震えているのは猛々しい『獣』。
素の自分が獣に近いということを、俺は嫌というほど知っている。
醜い感情という名の嵐が吹き荒れた跡を見てしまった俺は、いたたまれなくなって視線をそらした。
そこで不自然に握られたキョーコの拳に気付いた。
破瓜の瞬間も、抱き合って頂点を目指していた時も、彼女の手は背中にまわされていた。
自分の欲求を満たすことに夢中で気づかなかったが、そういえば、爪を立てられた記憶がない。
まさかと思い、固く結ばれた指を一本ずつほぐしてやると、
その下から爪が食い込んで赤くなった手のひらが現れた。
「爪……、俺の背中に立ててくれれば良かったのに」
芸能人は体が資本だということを気にしていたのだろうか。
いや、彼女のことだから、俺が敦賀蓮ではないただの男だったとしても、
恋人の肌に傷を付けまいと耐えるだろう。
獣には不釣り合いなほど尊い乙女。
キョーコのメルヘン思考が伝染したのか、そんな構図が俺の脳裏に自然に浮かんで、
傷ついた手のひらに敬愛を表す口づけを落とした。
内股にまとわりつくそれをティッシュで丁寧に拭き取っているとキョーコが気付いた。
「あ……、すみません。私……」
「起きなくていいよ。まだキツイだろう?」
息を吹き返した紳士のおかげで、キョーコに優しい言葉をかけてやることができた。
「少しつらいけど、大丈夫です」
そう言って、キョーコは俺の気遣いを断って身を起こした。
「敦賀さんにしてもらって、とても気持ちよかったです」
そして俺に「敦賀さんは?」とでも尋ねているかのような上目使い。
誘わないでくれ。
ようやく獣が眠ったんだから。
アイツを起こすと、またキョーコを襲うことになるのは目に見えていた。
「俺も、すごく良かった。ごめんね、初めてなのに俺ばかり夢中になって。
次からはもっと優しくするから」
「敦賀さんは充分優しいです。私みたいな子を愛してくれるんですから」
それはどういう意味?
キョーコはまだ自分に魅力がないと思っているのか?
色気も女らしさもないと言い切った愚かな男の言葉に捕らわれたまま、
俺が百万回の讃辞を贈っても、アイツの一言には遠く及ばないのか?
急に黙り込んでしまった俺をキョーコが不安そうに見上げていた。
「もしかして、私、また敦賀さんのイラツボ突いちゃいましたか?」
「怒ってるわけじゃないよ。ただ、どう言ったらキョーコに自分の価値を
気付かせることができるのか考え込んでいただけ。
……ちゃんと拭いてあげるから、もう少しじっとしてて」
俺は繚乱の後始末を続行するため、粘液がべっとりと付着したキョーコの下腹部に手をのばした。
「……はぁ、っはぁ、ん。つるがさんの手つき、いやらし……です」
「そんな声を出して……。まったく、君は俺を誘ってるの?」
「誘ってません!」と言われるのを覚悟してたたいた軽口だったが、
キョーコはいつまでたっても言い返して来なかった。
「どうしたの?」
キョーコの目はティッシュを掴んだ俺の手に向けられている。
「敦賀さんの体、私がきれいにしてあげます」
「は!?」
キョーコはベッドの上に脚を投げ出して座っていた俺の胸に顔を寄せた。
俺がやったことの真似だろうか。
小さな舌をぺろりと出して、首筋から鎖骨、鎖骨から胸の頂き、腹筋のくぼみをつたって臍へ……。
そしてさらに低い位置、さんざんキョーコを苛めた凶器のもとへと降りていく。
キョーコの顔の前ではさっきよりもわずかに小さくなった俺自身が自己主張していて、
彼女は情事の名残りをまとったそれを、少しの迷いもなく口に含んだ。
「!?」
突然のことに俺は驚いた。
初めての彼女がこんなことをするなんて、一体誰が思うだろうか。
両手を竿に添えて、舌をちろちろ動かして、欲望の残滓をきれいに舐め取っていく。
「キョーコ。何、してるの?」
「こうすると男の人は悦ぶって聞いたから。敦賀さんはお嫌いでしたか?」
「いや。嫌いではないよ。うん……、まあ、嫌がる男はいないだろうね」
それどころか、大抵の男は小躍りするに違いない。
俺もいつかはキョーコにこれをさせたいとは思っていたが、
まさか最初から、しかもキョーコの方からしてくれるなどとは予想もしていなかった。
「こんなことどこで覚えたの?」
「モー子さんに……」
キョーコは言いにくそうに口ごもった。
琴南さん。何も知らないキョーコになんてことを吹き込んでくれたんだ。
いや、責めるわけじゃないが、どうせなら俺が一から教えたかった。
「琴南さんって、もしかして遊んでる人なの?」
「まさか! モー子さんは勉強家なんです! いつか演技の役に立つかもしれないからって
小説や脚本もすごくたくさん読んでるし、古今東西の映画やドラマも
速読と速聴をマスターしてて……。それで色々、助言を……」
俺が黙っていたせいか、キョーコの声は小さくなっていった。
琴南さんの守備範囲には官能小説やAVでも含まれているんだろうか。
キョーコに閨房術を教えるのは俺だったはずなのに。
再びムッとしてしまった俺に、キョーコの顔色が変わった。
「あの、私、何か間違ったことをしているんでしょうか?」
「そんなことないよ。だから、もっと、して?」
キョーコはにっこりと笑って俺の股間に顔をうずめた。
わずかにざらついた熱い舌の表面が敏感な先端にまとわりつき、腰が震えた。
丁寧にスロートを繰り返すキョーコの淫らな表情に煽られ、そこは瞬く間に成長していく。
俺は上手に奉仕してくれるキョーコの頭を撫でた。
髪に手櫛を入れ、さらさらと流れる栗色の糸を指に絡める。
「上手……だね。本当に、初めて?」
「初めてですよ。他の人になんか、頼まれたってしません」
「じゃあ、俺が頼めばしてくれるんだね」
「敦賀さんが望むのなら」
下半身を染めていた二人分の愛液をきれいに舐め取ると、キョーコは大きく膨れ上がった亀頭を口に含んだ。
丁寧に、丁寧に、肉棒を慈しむキョーコ。
唇と歯と舌を使って丁寧に刺激を与えながら、くちゅ、くちゅ、くちゅっ、と音を立てる。
キョーコは上目使いで俺の顔色を窺いながら、イイいところを確実に攻めてくる。
先走りを飲み下され、俺はこらえきれずに言った。
「っは、……気持ちイィっ……」
急速に下半身に血が集まっていくのがわかる。
そのときが近いことを悟った俺は、彼女の頭を掴んでぐっと下半身に押し付けた。
高ぶった俺自身を喉の奥へと押し込まれ、キョーコの顔つきが変わった。
「んがふ……っ!? はぁ……、ぇ……っ!」
息が苦しいのか、彼女は涙を浮かべて暴れる。
これまで愛してくれていた俺自身を引き抜こうとする。
「まだダメだよ」
強引に根本まで咥えさせて、腰を動かす。
激しい律動の後、全身を毛穴を開かせてその衝動はやってきた。
「っ……キョーコっ。全部飲んで!」
そして俺は本日三度目の絶頂を迎えた。
げほげほと咳き込みながらも、キョーコは俺が放ったものを飲み干してくれた。
口の端からこぼれた精液を手の甲で拭うと、酷いことをした俺に向かって微笑みさえ浮かべてみせる。
「気持ちよかったですか?」
「怒らないの?」
「なぜですか? 敦賀さんに悦んでいただけるのなら、私、もっともっとがんばれますよ」
まいったな。
俺の中で獣が元気いっぱいに駆け回っている。手が付けられそうにない。
無邪気な顔でもっとがんばると言われて、紳士までもがぐらぐらと揺さぶられている。
「次は何をしたらいいですか?」
あくまで主導権は俺に握らせてくれるつもりらしい。
君はいったいどれだけ無防備なんだ? 男というものの生理をまったくわかってない。
琴南さんから色々教わったと言っていたが、男はオオカミという格言だけは聞き逃したのか?
不思議に思った俺は思ったとおりに聞いた。
「琴南さんには他にどんなことを教わったの?」
「何も……」
「本当に? 官能小説を読んだり、AVを鑑賞したり、
彼女に直接レクチャーしてもらったりなんてしてないの?」
キョーコはぶんぶんと首を振る。
だが、俺は彼女が嘘を付くときの癖を見逃さなかった。
うしろめたいことがあるとき、キョーコは目を合わせてくれないのだ。
純粋無垢な少女だと思っていただけに、これは結構ショックだった。
「本当に、これ以上は何も聞いてないんだね?」
嘘がばれているとは気付かずにこくこくうなずくキョーコ。
「じゃあ、俺がもっとすごいことを教えてあげるよ」
本当はもっと時間をかけて一つずつ開拓していくつもりだったが、そんな決意など忘れることにする。
これからすることは、俺に嘘をついた罰だよ。
キョーコを四つん這いにさせて、お尻を突きださせた。
キョーコの顔は羞恥に歪んでいる。
だからそんな顔したって、俺を悦ばせるだけなんだって!
「やだっ……恥ずかしいです。見ちゃ、ヤ……んっ!」
俺はひくひくと誘うように蠢く秘処に指を入れ、あふれる蜜をかき出した。
トロトロの粘液を指に絡め、艶やかな牡丹の上に咲いた雛菊になすりつける。
「ん……、ふぁ……っふ、つるがさんっ、んっあぁ、そこっ……ィイっ! っん? ……ひあっ!?」
俺を欲しがっている入口ではなく、本来一方通行のはずの出口を攻めると、
彼女の口から戸惑いがちな悲鳴があがった。
「キョーコの3つ目の『初めて』も、今ここで頂戴?」
「な。つるがさ……、どこに、指っ! そこ違っ……、あぅッ!」
「今日はここまでする気はなかったんだけどね。
キョーコがあんまり可愛いから、我慢できなくなっちゃった」
「やっ、――痛っ!」
「お尻も公平に愛してあげるよ」
悲鳴を聞かなかったことにして、俺は親指をぐっと押し込んだ。
「――――!」
今度の絶叫は声にもならない。
付け根まですっぽりと埋めると、びちゃびちゃに濡れた牡丹にも指を這わせる。
「イャぁあぁぁ、きたな……やだぁっ。つるがさ、やめ、……抜いてぇ」
「キョーコの躰に汚いところなんてないよ。だから俺に全部任せて」
親指はお尻、中指と薬指は膣に入れ、彼女の躰を中から揺すった。
うすい壁一枚を隔てて指が動いているのがはっきりとわかる。
自身を挿入していたときはわからなかった小さな凹凸、触れるとヒクつく肉壁、
それらを触診さながらに一つ一つ確かめていく。
激しい動きにキョーコは体を支えることもできなくなり、だらしなく上半身をベッドに沈めた。
臀部だけが高く掲げられ、同時に与えられる強烈な刺激に脚をガクガクと震えさせる。
淫らな穴からはとろとろと蜜が流れ出し、俺の手首をつたって流れ落ちた。
「あひゃ……っん!! っ…あ、あっ、あっ、あっ、ヒィっ……!」
「もう少しがんばって。最後に俺のを入れなきゃいけないから、
ちゃんと指で慣らしてあげる。ほら、一本増やすよっ」
一旦すべての指を彼女の中から取りだして、お腹の下にクッションをあてがってやる。
いい具合に俺に向けられたお尻の穴に、蜜でどろどろになった指を再度ねじ込んだ。
「あ”あ”あ”ぁっ――!?」
ちょっと可哀相かな。
でも、こうしないと俺のが入らないし、いきなり入れるよりはいいよね?
ぐりぐりと穴を広げるように何度も角度を変えて攻める。
「――ったひぃ。こわ……れりゅ、ヤぁ、ひゃめ! ……っ、ひゃけりゅ、裂けゆぅ――」
キョーコは回らない舌で何事か訴えている。
「おねが……、つるが……ぁん、ゃめて、ひゃめぇぇぇえ……」
一つになる瞬間に想いを巡らせていた俺は、キョーコの嬌声を無視し続けた。
その後、とうとうキョーコは声を上げて泣き出した。
獣と紳士と一緒になってキョーコを苛めぬいていたものの、
そのあまりに悲痛な叫びに負けて征服を断念した。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
悪のりしたのは俺の方なのに、キョーコは謝罪をやめない。
「俺こそごめん」
泣き続ける彼女を抱き寄せる。
「キョーコが嫌がるならもうしない」
なんでも受け入れてくれるような錯覚に陥っていたが、
俺はようやく彼女がついさっきまで処女だったということを思い出した。
純潔を失い、口の中まで犯され、その上お尻まで。
初めての行為でこれはやりすぎたったと、今さらながらに気付いた。
だが、俺を責めてもいいはずのキョーコの口から、暴挙をなじる言葉は出てこない。
「敦賀さんごめんなさい。敦賀さんの期待に応えられなくて。次はがんばりますから……だから」
そこで涙をためての上目使い。
これが計算だとしたら怖いが、キョーコがそんなことをするはずもなく。
「嫌いに、ならないで……。私を置いて、どこかに行ったりしないで」
俺はすがりついてくる細い体をぎゅっと抱きしめることしかできなかった。
最低だ、俺。
キョーコは初めて手にした愛を前にして戸惑っているのに、
二度と失うまいと必死になっているのに、
俺は彼女の不安に気づきもせず、何をしても許されるような気になっていた。
彼女に無理を強いて追いつめていた。
「嫌なときは嫌だと言って。俺はそんなことくらいじゃキョーコを嫌いになったりしないから」
俺はキョーコを愛さなかった母親とは違う。キョーコを捨てたアイツとも違う。
俺は昔からずっとキョーコを見ていたのだから。
「ん……。だけど、敦賀さんにもっと悦んでほしかった」
「十分だよ。キョーコはよく頑張ってくれた。ごめんね。こんなことでお詫びになるとは思えないけど
散々俺が好き勝ってした分、今度はキョーコのお願いを聞くよ」
何かして欲しいことはある? 何か欲しいものはある?
俺はどんな願いでも叶えてやるつもりで言った。
キョーコの願いは――。
「――んんっ! あぁ……ぁぁんっ。はぁ、はぁっ、はぁあぁん……」
腹這いになったキョーコの腰を掴んで背後から何度も貫く。
クッションに崩れ落ちて意識の朦朧としたキョーコからは恥じらいが消えて、
素直に俺の欲望を飲み込んでくれる。
パンパンという軽快な音を立てて、あっと言う間に慣らされてしまった秘処に出入りする。
「すき、つるがさん、すき……すきなんですぅ!」
「俺も好きだよ。キョーコのことを愛してる!」
――キョーコが願ったのは、ただひたすらに俺に愛されること。
乱暴でも優しくてもかまわないから、もっと愛されたいと彼女は願った。
そんなこと、わざわざ頼まれるまでもなく、俺はキョーコを愛し続けるのに。
けれど不安にさいなまれている彼女と、罪の意志にさいなまれている俺の考えることは一つしかなく、
肌を重ね、躰を求め続けた。
「キョーコ、出していいっ!?」
「ぁん! つるがさん、イってェェェっ!」
互いを貪ることしか考えられなくなった頭で思い描くのはたった一人の最愛の人。
そして、俺たちはどろどろに溶け合って一つになった。
彼女を抱く前と後で確実に変わったことがある。
俺でさえ持て余していた獰猛な獣が、まるで子猫にでもなったかのように喉を鳴らして甘えている。
いつか俺の紳士の皮を見破ったように、獣まで飼い慣らしてしまうなんて、
やっぱりキョーコはただものじゃない。
キョーコは俺が離れていくことを恐れているが、きっとこれからは俺の方がその恐怖に怯えることになるだろう。
この想いは、この快感は、知ってしまったら手放せない。
気付かされてしまった俺はいっそう深く彼女を貫いた。
この躰に俺を刻み込んで、二度と忘れることができないように。
二度と、遠く離れることがないように、愛してるの言葉とともに。
―― 完 ――