「マジカル☆ファッション♪…?」
キョーコの置いた資料を見ながら蓮がつぶやく。
自分の部屋で久々にゆっくりした時間を過ごせると期待していたのに、
その相手、キョーコは床の上で急に入った仕事の資料を広げている。
「アニメとかゲームとか…とにかく今、小さな女の子に大人気のキャラクターなんです。
主人公は二人組の女の子で…私とモー子さんがイメージガールに選ばれたんです!」
「そう…」
キラキラと輝くキョーコの目は資料に向いたまま。
女優として好評価を得始めた彼女に仕事が入るのは嬉しいが、蓮の心中は複雑だ。
このままそばに居てくれる程度の忙しさであって欲しいというのは自分のワガママ。まあそれはなんとか押さえられる。
押さえにくいのは…
せっかくのこの時間に、仕事に夢中になってしまうキョーコへの不満。
そっけない返答を察してか、
「ごめんなさい…イベントは月末なんですけど、今ある程度掴んでおかないと他の仕事とスケジュールあわせにくくて
…私が未熟なのがいけないんです!」
ソファーの蓮を見上げて、涙目の謝罪が始まる。
さすがにこれには蓮も折れるしかない。
「わかった、わかったから。…まだまだ時間はあるしね。」
苦笑交じりの言葉にキョーコは笑顔になる。
「はい、できるだけ早く終わらせますから!」
キョーコはやけに大きなスーツケースを抱えて隣の部屋に駆け込んでしまった。
「って…君、何をしてるの?」
取り残された蓮は呆然と声をかけたが、ごそごそと物音がするだけで、返答はない。
仕方なく資料へ目を通す。
A4サイズのパンフレットはカラフルで、ショートカットとロングヘアーの二人の少女のイラストが大きく描かれている。
「マジカル☆ファッション♪」
今女の子達に大人気のこのふたり!
キュートでちょっぴりロマンティックな苺♪
ちょっぴりセクシーでカッコいい愛☆
ステキなファッションに変身してマジカルに大活躍!
そんな「マジカル☆ファッション♪」の世界がマジカル☆ランドに降りてきた!
あなたも苺♪と愛☆と一緒に変身よ!
マジカル☆ランドに会いに来て!
どうやら、少女向けキャラクターショーのようなものらしい。
とは言っても子供向けというだけの間口の狭いものではなく、モデルやアイドルも起用するなど企画段階からLMEも関わっていて、規模もメディア展開も人気も相当なもののようだ。
今回は3周年企画のスペシャルという事で、開催施設も大きなところが選ばれた大掛かりなイベントになっている。
そこでキャラクターに扮するのが、今回ラブミー部員に来た仕事というわけだった。
「敦賀さんっどうですか!」
再び蓮のもとに姿を現したキョーコは…
ピンク色のお姫様ドレスを身につけていた。
「こうやって色んな服に着替えるんです。この服、プリンセスバースデイ、って言うんです!」
目は爛々と輝いていて、もはや既にメルヘン国の入り口が見えている。
…一瞬思いっきり噴出した蓮だったが、不機嫌になるキョーコを察して即気持ちを切り替える。
ティアラとドレスを身につけたキョーコは、その衣装の見かけに反して粗末な材質を充分に補うほど愛らしい。
憧れのお姫様姿を身にまとっているという喜びがキョーコを輝かせている。
笑ってしまうのは、その姿にはいかにも不似合いだった。
蓮は乱れたシャツの胸元を正しながらソファーから立ち上がり、
「失敬。姫君、お誕生日おめでとうございます」
恭しく礼をしながらキョーコの手をとる。
とっさながらも見事な仕草に、キョーコはぱっと赤くなる。
「どうか私に、記念すべき日の最初のメヌエットを踊る光栄を授けていただけませんか…?」
ひざまずき、キョーコの手の甲に唇を寄せて、ささやく。
瞬間キョーコは、背中のジッパーで留めただけの、レースやリボンを印刷しただけの、ドレスの粗末な実体を、忘れた。
蓮の背後にメルヘン国の入り口が開いていた。
キョーコは、高貴な姫のようにうなずいて、ダンスに応えるため一礼する。
立ち上がった蓮が、優しく肩を抱いた。
…約5分後。
「…っ、時間…っ!」
我に返ったシンデレラ姫ならぬキョーコは、ばっと身を離して隣の部屋に駆け込んでいってしまった。
ダンスの最中シンデレラ姫に去られた王子のような心境で、蓮はキョーコの落としたガラスの靴ならぬ簡素なティアラを拾い上げ、テーブルの上に置く。
「ごめんなさい敦賀さんっ、まだ他にもたくさんあって…早く終わらせますから!」
ごそごそと音を立てながらキョーコの声が飛んでくる。
「いいよ、俺こそ時間とらせちゃったね」
「いいえ…夢がかなったみたいで、嬉しかったです…」
照れた声が聞こえてきて、蓮は腕の中のお姫様キョーコを思い出しひとり微笑む。
「可愛かったよ…」
今度は、その言葉を耳にして頬を真っ赤に染めた…ナース姿のキョーコが現われた。
こんな仕事になら、邪魔されても悪くないな…と蓮は思ったのである。
借りてきたリハーサル用の衣装は、元々キャラクターショー用で薄っぺらく粗末なつくりなのだが、
ぱっと見は子供を夢中にするだけはある見事なデザインとなっている。
浴衣(キュートな撫子柄)
カジュアルウェア(ポップなプリントのパーカースタイル)
パーティドレス(ブルーのサテンにふわふわファーとリボン装飾)
体操着(もちろん?下はブルマ)
着物(豪華な友禅)
制服(セーラー・ブレザー早変わり)
チャイナドレス(鮮やかな赤に金糸の刺繍)
これらを次々と身にまとい、魅力的なキャラクターを表現するキョーコがたまらなく可愛く美しいのは、蓮にとって言うまでも無い。
他にも、スーツ、キャビンアテンダント、婦人警官、ウェイトレス、などなど…
が、思いの他量が多く、しかも衣装ごとにちょっとした決めポーズがあったり、中には寸劇までやるものがあってややこしい。
あまりの数の多さに悪ノリする余地はなくなって…
中盤からはキョーコは部屋の移動はやめ、蓮のいる居間のついたての影で着替えるようになっていた。
着替え終わればキョーコはひょいと蓮の前へと姿を現し、
「敦賀さんどうですか!」
「いいよ、すごく似合ってる。でも決めポーズはもう少し違うみたいだな」
「こうですか…?」
キョーコの姿と仕草を楽しみつつも、ふと気づけば蓮は演技指導役のようになっている。
キョーコはさくさくと着替えて段取りを頭に入れ、二人は次々と数をこなしていく。
――しかし、その姿には蓮は固まらずにいられなかった。
「…どうしたんですか、敦賀さん…やっぱり、似合いませんか…?」
「いや…」
無表情になるのは…キョーコは気づいていないが、照れている証拠。
ピンク地に白のストライプのビキニスタイル。
さすがにこればかりはまともな布地とつくりの普通の水着であった。
キョーコの七変化を楽しむより、ほぼ仕事モードになっていた蓮にはまさに目の毒…
深い関係になってまだ間もない二人であって、つまり蓮は、ここまで露出度の高いキョーコをそうそう見たことはなかった。
こんな明るいところでは。
「似合ってるよ」
無表情なまま蓮は口にし、同時に(メインターゲットは子供だといっても…水着もか…)と複雑な思いになる。
このようなイベントであれば最初から予想すべき出来事ではあった。
それでもだんだんと押し寄せる苛立ち…心に溢れるのはどうしようもない独占欲なのだ。
しかも決めポーズは少しかがんで膝に手のひらをつくというもの。
軽く下を向いた胸が強調される、その手のポーズだ。
今までの段取りの確認どおり淡々とキョーコはこなすが、見ている蓮の心中は大時化であった。
「私の胸じゃ…様になりませんね…」
キョーコがしょんぼりとつぶやいて胸を下から支える仕草をするに至っては、
うかつに口を開けると何を口走るか分からず、右手に持ったパンフの愛☆と苺♪が老婆になるまで深い深いしわをがっちり刻んでから、
「大丈夫だよ。…ああもう次で終わりみたいだね、早く済ませてしまおうよ」早口で蓮は言ったのだった。
――全く、この子はもう――…!!
最後の黒いビニール袋を持ってついたてに姿を隠すキョーコを見送り、蓮はため息をつく。
思えば、場所は自分の部屋で、相手は自分の彼女で、何を耐えなければいけないのかと言う話でもある。
が…無邪気なキョーコの前で抑えられなくなる自分の感情は、いかにも不似合いなほどドロドロしているように思われて、
思うままに暴走させてしまうには抵抗がある。
そしてまた、キョーコは仕事の邪魔をされるのを嫌がるのだ。
その気持ちは良く分かるだけに、
せめて、あと少し、全て終わらせてしまわないと…
気にしすぎではないかと思いつつも、ひとり悶々とする蓮なのだった。
しかし、一方のキョーコはと言えば、
…どうして水着の時だけあんなにそっけないんだろ…やっぱり、私じゃ色気がなくて駄目なのかな…
ついたての陰でビキニのホックを外しながら、こちらも重いため息をついていた。
脳裏に浮かぶのは先ほどのそっけない返答と無表情の蓮。
付き合い始めてまだ短いけれども蓮はやさしくて、やっと恋人らしくもなれた。
しかし、あの「敦賀蓮」にとって、自分はあまりにも不似合いな子供なのではないだろうか。
と、何度も繰り返してきた悩みをまた引っ張り出してきてしまったのだった。
いつもなら恥ずかしくて隠してしまっただろうビキニ姿を、好都合とばかりに仕事にかこつけて、勇気を出して…
キョーコとしては精一杯のアピールをしてみたつもりだったのに。
私のプロポーションじゃ、無理か。
大きいとは言えない胸を見下ろして、肩を落とす。
水着を脱ぎ捨ててキョーコは、視線の先にあった黒いビニール袋を引き寄せた。
これが一番下に突っ込まれていた最後の衣装だった。
がさごそと音を立てて中身を取り出す。
分厚いと思われたのは、台紙の役目をしている段ボール紙だと分かった。
中身は思った以上に薄いらしい。
そして…セロテープを外して出て来たそれは…
「な、何これー!?」
ついたての向こうから上がった奇声に、蓮はとっさに立ち上がる。
「…最上さん!?」
「いやっ、服、服ください…っ!!」
…服?
あたりには、先ほどまで使っていた衣装が、後はスーツケースに入れるだけの状態で一つずつまとめて置いてある。
一体何を意味するのか分からない。
それよりも、何やらただならぬキョーコの声。
「どうしたの!?」
「いやーっ!来ないでーっ!!!」
ついたての向こうへと足を踏み入れた蓮がまず見たものは、
飛んできた段ボール紙。
そして、飛ばずに床へ落ちていく黒いビニール袋。
そして、すっ裸をとっさに薄い布で隠し、
蓮がダンボールに気をとられているうちにと、必死でリボンを結ぼうとしている、キョーコ。
…身につけられた白い布は、良く見れば、…エプロン…だった。
「どうしたの…それ…」
蓮はしばしの沈黙の後、ようやくそれだけ言った。
「だ、だから来ないでって言ったのに…っ!」
若干薄手で白い、胸元と裾に少しフリルがついているだけの、何処にでも売っていそうな普通のエプロンだった。
キョーコの胸と膝上20センチくらいまでは隠れているが、後は当然ながら大胆に空いている。
胸も隠れているといっても、横幅は乳首を覆う程度で、脇にかけての滑らかなラインは丸出しだ。
首と腰のリボンを結び終えたキョーコは、何とか露出部分を隠そうと正座した足の上の布を引っ張ったり、
胸元へ手をやったりともじもじ忙しい。
「び、ビキニ脱いで、き、着替えようと思ったんですけど、最後の袋、これしか入ってなくて、他の着替え、ここに今なくて…だから…っ」
しどろもどろに言葉をつなぎ、恥ずかしさのあまり前かがみになってうつむいてしまう。
首のところと背中のリボン結び以外、滑らかな背は丸見えで…それはそれで、はっきり言って逆効果だった。
「だから、着替えお願いします…」
震えた声でキョーコが更に要求する。
「わ、わかった…」
蓮は服を探そうとするが、ギクシャクとしてあまりの光景に目が離れようとしない。
素裸のキョーコ、身につけられた日常的な、しかし組み合わせとして激しく非日常的な、白いエプロン…
当然ながら、水着で動揺した以上のショック、だ。
「でも、おかしいね、下に着る服とか揃ってなかったのかな…」
おどおどと話してごまかす。
と、下に落ちたビニール袋が目に入った。
この衣装の入っていた袋だ。
一箇所になにやら書かれたラベルが貼ってあるのを認めて、蓮はそれを手に取り、見つめた。
…あ、あれ?なんでセンサーが反応するの…?
漂う冷気、喜ぶ怨キョたち。
これは紛うことなく、降臨の予感。
状況がつかめなくて恐る恐る顔を上げるキョーコ。
「…最上さん…」
「ひいいっ!!!」
かがみこんだ蓮の目に、案の定魔王が降臨していた。
とっさにかしこまってキョーコは固まる。
「な、なんですかっ!!」
「これは…どういうことかな…」
蓮は、ビニール袋のラベルを示す。
眼差しは冷え冷えとしていて、見られているだけでちくちくする。
「は、っはいっ」
キョーコは勢い良くそれを覗き込み、そしてまた奇声を上げた。
「なななななな、何これーー!!!」
ラベルには”裏メニュー1:裸エプロン”と、あった…
裸エプロン。見てそのまま字の通り、今キョーコがしている姿、通常は有り得ないあられもない姿が、それ。
ラベルは、このエプロンが「今日はパティシエ気分!」や「ママとクッキング!」などとは似て非なる…
いや、まるっきり縁の無い物であるとはっきり物語っていた。
「裏メニューって、何…?」
「わ、分かりませんっ…」
ぐるぐると目を回しながらキョーコはぶんぶん頭を振る。
子供向けイベントに、一体何故こんなものが?
訳が分からない。
「本当に…?」
床の上、膝を進めて蓮が近づいてくる。
射すくめられたように、キョーコは動けない。
…お、怒ってる、怖い…っ!!
ふっと蓮が笑顔になった。
ただし、あの似非紳士笑顔で。
…ど、どっちにしても怒ってるー!!
「…仕事は、用心して選ぶようにって、いつもあれほど言ってるのにね…」
涙目になったキョーコの顔を引き寄せて、耳元へ蓮がつぶやいた。
「約束したよね。俺以外にむやみに肌を見せないって」
「ご、ごめんなさいっ…!!」
このエプロンについてはキョーコのせいではないはずなのだが、こうなった蓮が相手ではとにかく怖くて謝るしかない。
恥ずかしいのも忘れてキョーコは土下座の姿勢をとる。
蓮はゆっくりとその姿を見つめて…更に言う。
「それとも…仕事を受けてしまってから、事後承諾にでもしようとしてたのかな…?」
「そ、そんなこと…っ!」
むっとして反論しようとしたキョーコの唇を、蓮はふさいでしまう。
「駄目。…お仕置きだよ」
凄絶に色っぽい瞳で見つめられて、キョーコは思わず魅入られたようになるが…
とんでもないセリフに、遅れてぎょっとした。
「お、お仕置きって、ど、どうしてー!?」
腕をつかみ、叫ぶキョーコの体を、逃げられないように毛足の長いカーペットの上に押さえ込んでしまう。
「ん…?二度とこんな仕事を請けないように、ね」
「そんな…っ」
濃厚な口付けに、キョーコの声も押さえ込まれた。
「やだっ、ほどいてください、敦賀さんっ…」
キョーコの腕は、衣装の梱包に使われていた幅広のリボンできっちり巻かれ、頭上に上げた状態で拘束されていた。
蓮はそ知らぬ顔でキョーコの首筋に唇を這わせている。
「は…っ、敦賀さん、お願いっ…」腕の自由がきかないので、体をよじり、足を動かそうとするが、
蓮は抜け目なく押さえてしまっている。
「やだ…っほどいて、ほどいてください!」と仕方なく叫ぶけれど、
「ひ…ゃぅっ…」無防備な両脇をたどられて、キョーコの体はびくりと反応した。
エプロンの薄い布の下で揺れる胸を眺めて、
「…駄目。ほどかない。」蓮は低い声でつぶやくように言い、脇から胸のラインを、エプロンの境界に沿って撫でる。
薄い布地と、滑らかなキョーコの肌の感触。
体全体ですっぽりとキョーコを覆ってしまって、キョーコの温かさを探っている。
愛撫と言うにはささやかな感触だが、徐々に熱くなって、声も漏れ始めて…
明るい部屋の中確実に高まっていく感覚にキョーコは焦る。
抵抗したくとも抵抗できない、蓮はキョーコの無防備な体を更に追い詰める。
「ああんっ!」
薄い布地から透けて見える、色づいた胸の先端を親指で探ると、キョーコの唇から淫らな声が漏れる。
「はっ…嫌あっ…あぁあん…」
薄い布地ごしに、それは直ぐに尖って存在を主張する。
軽く右側を指先でなでながら、蓮はエプロン越しにもう一方を口に含む。
「やあああん!」
ちゅくちゅくと唾液の音を立てながら、蓮は舌先で布を、そしてキョーコのそれをもてあそぶ。
濡れた布と蓮の舌、口中とで擦られる感触は何となくいつもよりも大胆で…
「やっ、やっ、…ああっ…」
更にもう片方も蓮に吸われて、キョーコは身悶える。
「あっ、あっ、あぁん、あ…」
朦朧と声をあげたその後…突然愛撫が止んで、キョーコはぎゅっとつぶっていた目を開ける。
かすむ視界の中、蓮が笑いかける。
「すごく、良さそうだよ、キョーコ…」
言いつつ、指先でつんつんと胸の先をつつく。
唾液で濡れた布はすっかり透けてしまって、キョーコの両の突起を色鮮やかに浮かび上がらせていた。
「やっ、敦賀さん、見ないで…っ」
耳まで真っ赤になってキョーコは叫ぶが、制止しようにも腕が動かない。
たとえ腕が自由になったとしても…今の蓮が聞くはずも無かった。
これ見よがしに、透けたその突起に指を絡め、舌を絡めて…蓮はキョーコを煽る。
爪先で、唇で…くりくりといじられる度に、その様を見てしまうたびに…
電流のように快感が走って、求め始める自分が分かる。
「やあ…きもち、いいっ…ぁあ…ああぁ…だ、め…ぇ…」
いやいやと首を振るキョーコの声を聞きながら、蓮の右手はエプロンを下へとたどって行った。
そして、わずかな布で隠れた秘部に届く。
「こっちも…」
キョーコから溢れるもののために、こちらの布もしっとりと透けていた。
とろりと濡れた指をキョーコに示して、にっと蓮は笑む。
「すごく、いやらしい…」
「やだぁっ、いやあぁ…っああ…っ」
恥ずかしいのに…喘ぐことしかできない…
息を荒げるキョーコの体をうつぶせにし、拘束された二の腕を床につけて腰を上げさせ、四つんばいの体勢をとらせる。
首もとと腰で結んだリボンだけを身につけた背が蓮の目の前にある。
胸元のみ覆われ、腰からは申し訳程度に布が垂れ下がっているだけで、丸い尻も秘部もむき出しになって。
蓮は背後から抱き締めて、背中に唇を這わせ、わざと布の上から、秘部と胸とを愛撫する。
胸を揉まれ、秘部を指で弄られて、そのたびにぴくぴくと震えながら、甘えた吐息を漏らす…
いつもなら決して見られない姿のキョーコ。
明るい部屋の中で、それはこの上なく扇情的だった。
お仕置きなんて、どうでもいい。
キョーコを傷つける気など、最初から全くない。
ただ…こんなキョーコを見て何もしないなんて、出来るはずないのだ。
どこまでも追い詰めたくなる。
蓮はキョーコの足を広げてゆっくりと腿を撫で、丸く柔らかな双丘に吐息を吹きかける。
「ゃ…っ」
体を震わせてキョーコは反射的に逃げようとするが、足はしっかりと捕らえられ、腕はもとより自由がきかない。
「ダメっ…そんなの、ダメ…っ」
腰を高く掲げられ…
泣き声をたてながらも、なす術もなくそこは蓮の舌の侵入を許した
蓮はキョーコの狭まった中へ更に進もうと、甘い果実をしゃぶるように蠢かせ始める。
濡れそぼったそこは違和感を感じて閉じようとするが、小刻みに動く熱い感触に負けて…
「っめ…やだぁあ…っやぁっ、やあっ、」
言葉とは裏腹に、大きく震えて蓮を飲み込もうとしていた。
「んぁあ…みちゃゃだ、やだ…っ!!…敦賀さんみない、で、、いや…あっ、ああ、ゃあぁあん…」
貪られている部分からは、果汁と蓮の唾液が混ざって、ぽたぽたと滴っていく。
足を伝って流れていくのも、分かる。
ぴちゃぴちゃと響く音だけでも羞恥で意識が飛びそうなのに、こんなところを…
蓮に、余さず、見られている。
「やだぁ…っ…ぃや…明かり、消して…っ消してくださ、い…あっ!」
せめてそれだけは…と、朦朧とした意識の中でキョーコは懇願する。
しかし…涙声で聞こえてきた言葉の内容が、決して行為を否定していないことに、蓮は満足の笑みを漏らす。
ついに溢れてしまったドロドロした感情は止められるものではなくて、キョーコの希望を叶えられない。
「お仕置きだからね…」
口実と分かっていながらも蓮はそう言い、なおも、甘美に震えるキョーコを味わう。
縦横に動くぬめぬめとした感触と、羞恥にどんどん追い詰められて…
「ふぅぅ……あぁ…!!…っ」
がくがくと震え、キョーコは蓮に腰を抱えられたまま、床に崩れ落ちた。
荒く息をつくキョーコの腕のリボンを緩めて今度は後ろ手に組ませ、蓮は床に横たえたその頬にキスを落とす。
息を抑えたキョーコの唇が震えて、代わりに漏れた言葉は、
「私…っ、そんなに、色気が無いですか…?」
「…?」
意味が分からず、蓮は怪訝な顔をする。
「だって…胸もないし、子供だし、スタイル良くもないし…」
眉根を寄せた切なげな顔でキョーコは言う。
「こんな格好でもしないと…喜んでもらえなかったのかなって…」
予想外の言葉に、蓮はあっけに取られる。
「なんでそんなことを…」
「だって、さっき、水着の時…他の服より褒めてくれませんでした」
すっかり誤解している。
蓮にとってみれば水着に不満を持つなんて有り得ないことだが、
かわいい恋人の頭はコンプレックスで凝り固まっていたらしい。
慌てて蓮は答える。
「逆だよ。あんまりに目に毒だったから」
「目に毒って…」
「だから、あのまま見てると…君の仕事の邪魔をしそうで…って、もう邪魔してるけど」
苦笑する蓮を見て、キョーコは自分の勘違いと「邪魔」の意味を悟り、真っ赤になる。
水着やキョーコのプロポーションが不満だったのではない、むしろ逆で。
いつも夜は優しい蓮が、こんな暴走をしてしまうほど…
「君のどんな姿も見ていたいと思うよ。水着や、こんな姿は…刺激が強すぎるけど…一番見ていたい。」
蓮は正直に告白して、続ける。
「だって、俺にしか見せない姿だろう?」
蓮は微笑み、完全に照れてしまったキョーコの目を反らさせないように、その頬を手で包み込む。
「だから…本当に仕事はよく選んで。君のこんな姿は俺以外の誰にも見せたくない。」
「って、見せませんよ、見せるわけないじゃないですか!!」
当然ながらキョーコは叫ぶ。
きっとこれは何かの手違いに違いない。
事務所の売り出し戦略はお色気系とは無縁なのだ。
何より本当にこんな物を着なくてはならないのなら、仕事なんか受けない。
「そう、約束するね…」
「もちろんですよ…」
敦賀さん以外になんか、絶対見せません。
心でつぶやいて、キョーコは自ら蓮に唇を寄せて、キスした。
まだした事のなかったそれは、キョーコの胸のうちの嬉しさと同じくらい、蓮を喜ばせるはずだった。
が。
「ア…っ!」
蓮は抱き起こしたキョーコの胸元に唇を寄せ…乾き始めていたところをまた舌で弄っている。
「や…っ、敦賀さんっ…!」
「…まだお仕置きは終わってないよ」
にーっこりと胡散臭いまでの笑顔を浮かべて、蓮が言った。
「っ、まだお仕置きなんですか!?嫌です!!変なところ見られるし…」
蓮としてはお仕置きは口実であり、それほどひどいことをしてはいないはずなのだが、
明るい部屋、見られる事が純粋なキョーコにはかなり堪えると、分かっていてこれを始めた。
その証拠に、今やキョーコは見られることにこだわってばかりで、縛られた腕の事には、全く触れていないのだった。
嫌がられるのは承知の上、でも離すつもりは無い。
こんな姿のキョーコを見つめて、抱き締めていられるなら。
何よりまだ解放されない蓮の熱は高まっていくばかりだ。
「嫌です、明かり消してくれないと…嫌です!」
ぷんぷんと怒りながら言うキョーコの言葉に蓮は噴出した。
だって、それって…
「じゃあ…消したら…するの?」
「え…?」
妖艶な瞳でキョーコを射て、蓮は…
「ううん…して欲しい、かな。俺に何をして欲しい…?」
「…!!」
言葉のあやで追い詰める。
蓮には分かっていた。
そして、キョーコにも、心の奥底で…分かっていた。
明かりを消さないと、いや。
…明かりを消して、蓮に、来て欲しいと、いうこと…
まだ終われないと。
蓮が、足りていないと。
「…イジワル…っ」
しゅんとしてキョーコが下を向く。
「言ってごらん…どうして、欲しい…?」
指先が、透けた布地をくすぐっている。
その動きに、消したと思っていたはずの火が、驚くほど強く燃え始めて…
「敦賀さん…」
体が熱い。キョーコは戸惑いながら、考えられずにただ言葉を声に乗せる。
「敦賀さんに…、……抱いてほしい…」
消え入りそうな声でのささやき。
だが蓮が愛しい彼女の言葉を聞き逃すはずは無かった。
ずっと欲しかった言葉を。
自分から求めてくる、キョーコの言葉を。
キョーコは服を脱ぎ捨てる蓮の姿を見て、とっさにそっぽを向く。
そして明かりが消されるのを待つ。
が、蓮は準備を済ませるなりキョーコをさっと抱きすくめて座り込み、強引に膝へ乗せてしまって…
「や…っ、消してって、言ったのに…!」
向き合っているために否応無しに目に入る蓮の裸体から目を反らそうとする。
そんなそぶりをそ知らぬふりで、蓮はキョーコの腰から背中を右手でがっちりと支え、
左手で首のリボンを外し、さらりとエプロンの胸元をはだけさせた。
「やだぁ…っ!」
むき出しになった胸をもまれながら、キョーコは焦った口調で言う。
蓮の手が、優しく胸をもみしだき、とがった先端をいじるのが、見えてしまう。
「どんなところも見ていたいって、言っただろう…?」
くすくすと笑って、蓮は上気して染まったキョーコの突起を舌で転がす。
「ふあぁ…っ」
恥ずかしくてぎゅっと目をつぶってしまう。
なおも蓮に反抗しようとしたキョーコだったが、一度快感に溺れた体がまた求めていってしまうのを、止められない。
それどころか、前よりも感じてしまう。
「ん、ふ…っああっ、敦賀さん…はぁっ…ぁん…」
また熱くなったところから、溢れ出して行く…
蓮がキョーコの足を横へ大きく広げさせると、キョーコはびくびくと震えながらも切ない声で哀願する。
「ゃです…あっ、はずかしぃい…あぁ…見ちゃ、…めぇ…」
「…キョーコは、俺が欲しくない?」
「っ…え…」
目を開くと、微笑んで…真剣な瞳でキョーコを見つめる蓮。
「俺は、キョーコが好きだ。だから、欲しい。そして、見ていたくなる…」
…キョーコの瞳から、涙が零れ落ちた。
「敦賀さんは…ずるいです…」
神々しいほどの笑顔で、そう言うから…
こんな時なのに、見つめていたいって、思ってしまう。
キスしたいって、思う。
うつむいて、キョーコは言った。
「腕…ほどいてください。敦賀さんに、触りたい…」
解かれた腕でキョーコが蓮の首にすがりついてキスをすると、
蓮はその腰を抱え上げて、自らの楔で繋ぎとめた。
「あああっ、あぁん…!」
待ち望んでいたように、キョーコは蓮を受け入れていく。
重みで深く貫かれて、意識が白く焼ける。
「あん、あ…あっ、あぅう…」
蓮はキョーコの頬に軽くキスをした。
恥ずかしさのあまりぎゅっと閉じた目で…それでもキョーコは察した。
見られている。
腰から下を薄い布で隠しただけで胸をさらけ出し、腕の中、貫かれて喘ぐ姿を。
顔をゆがめ赤らめて、快楽に溺れていく姿を。
「はぁんっ…やぁ、ぃや…つるがさん…あんっ…」
恥ずかしくて、恥ずかしくて、たまらない。
そんなキョーコに、蓮がつぶやく。
「かわいいよ…キョーコ…っ、はっ…す、っごく…」
荒い息をつきながらの声に、つい目を開けて…
キョーコは気づいた。
自分が見られているように、キョーコからも蓮が…見える。
肌に汗をかき、眉をかるく寄せて、恍惚の色を浮かべた蓮の顔が。
どっと、愛しさが胸に溢れる…
「ああ…っ!敦賀さぁん、すき…!」
いつもでは有り得ない状況に、キョーコは涙を流して乱れた。
蓮の動きが激しくなる。
キョーコにはキツイほどの激しさに思われたが、無意識に腰を蠢かせ、応えていく。
「あっ…いぃ…っ、んぁ…きもち、いぃっ…、すきぃっ、つぅがさ…ん、ゃぅんっ、すき…ぁあ…」
淫らな声で想いを伝えて…
それがまたどうしようもなく蓮を燃え立たせる。
互いの与える快楽にばかり夢中で、それがいつ弾けたのか…二人とももうわからなかった。
「…今日はごめんね。俺のわがままで」
寝室のベッドの上で眠りにつく前のまどろみの中、蓮が言った。
「…もう、お仕置きなんていやですからね!」
ぷんとそっぽを向いてキョーコは言う。
「君が変な仕事を持ってくるからいけないんだろ?」
くすくすと笑って蓮は言う。
決して嫌がられるばかりでなかったと、むしろ悦んでくれたと、分かっているから、軽口が叩ける。
「違いますよ…!明日、事務所に言ったら文句言わなきゃ。モー子さんだってあんなの着る訳無いもの!」
「そうだね。しっかり文句言っておいで。本気でやらせようとしたら絶対断るんだよ」
「そんな睨まなくても、断りますから!」
険しい表情を緩めて蓮は笑い、キョーコを抱き締める。
「また…君の色んな姿をみたいな。今度は、どんな格好で、する?」
夜の帝王の微笑みに…キョーコは逆上する。
今度はって、どんな格好って、何てこと言うのよーー!?
「ちょ…っ、もうっ、敦賀さんの変態っ、絶対、嫌ですからねー!!」
調子に乗った蓮の言葉に怒鳴りながら、複雑な気持ちでキョーコはあのエプロンの事を思う。
とんでもなく恥ずかしくて嫌だったけど…一つのきっかけではあった。
胸に灯る新しい愛しさをもらった。
そのことだけは、このハプニングに感謝すべきなんだろうか?なんて。
明るい部屋の中で…
蓮が、とりえのない自分の体にあんな風に執着するなんて、初めて知った。
どんなに熱い目で、どんなに狂おしく見つめてくれているかということも…
…あれが、敦賀さんの、私にしか見せない姿ですよね…
そんな、温かな愛しさ。
あの蓮をもう一度見たいとこっそり思いながら…
これ以上調子に乗らせないように、絶対に言ってやるもんかと、キョーコは密かに意地を張るのだった。
翌日。
蓮は社長室に呼び出されていた。
「…で、何なんですか、用って」
まるで宮殿のごとく非常識に豪奢なつくりの室内にはもう慣れていて、淡々と蓮は問う。
「ん?」
フランス国王さながらの扮装のローリィが長いローブを引きずりつつ、蓮の前の黄金に輝くテーブルの横に立つ。
テーブルの片隅にはまた豪華な刺繍の入った布がかけられ、何か下に置いてあるのかこんもりと盛り上がっている。
硬い音を立てて、ローリィがブランデーグラスを置いた。
「やるか?」
「…これから仕事がありますから。」
「そうか。」
蓮のテーブルの斜め横、玉座を模した椅子にどっかりと座って、ローリィは口を開く。
「最上君に持たせた衣装の事だが、お前に渡す裏メニューの分が混じっていた上に説明を忘れていた。悪かったな」
「…はい?」
「なんだ、「マジカル☆ファッション♪」のことだが…聞いていないのか?」
「いえ聞いていますが、…裏メニューって…」
顔をゆがめる蓮を見て、納得したようにローリィは続ける。
「そうかやはり聞いているか。あれはな、今度は別枠のアダルトゲームで似たような企画が進行していると聞いてな。
開発の資料用に使われていた衣装をもらってきたんだ。」
テーブルの上の布をどけてみろという仕草を受けて、蓮がそれに従うと、
現われたのは、ボンデージ、バニーガール、ベビードール、その他、目を疑うような露出度の衣装がいくつか…
「本当はエプロンのほかにそれもあったんだ。ビニールに入れ忘れていて用意が遅れてな。」
「っ、彼女にそんな仕事をさせるつもりですか…!」
さっと気色ばんで睨みつける蓮を見て、ローリィはぽかんと口を開ける。
「まさか。…資料用だと言ったろう。いいか、蓮、どうせお前のことだからぬるい付き合い方しかしてないんだろう」
「…余計なお世話です!」
思わぬ方向へ話が飛んで、蓮は目を白黒させる。
ローリィはふふんと余裕の笑みを浮かべて、
「たまにはこう言うのもいいぞ、蓮。お前はそんなだし、あの子もあの子だし、こうやって目先を変えてみるのも、な。
口説くのが難しいなら、仕事だとごまかすのもいい」
あくまでも悠々と笑いながら話すローリィを見て…
わなわなと震えながら蓮の脳裏に浮かぶのは、
見抜かれていた恥ずかしさなのか、
まんまと乗せられてしまった悔しさなのか、
全てお見通しのような社長の薄気味悪さなのか、
キョーコに衣装を用意したというその時に、何か不埒な想像をしやしなかったかという嫉妬なのか、
ともかく、社長室には、
「社長、あなたという人は―――!!!」
という蓮の怒号が響き渡り、LMEビルは謎の激震に見舞われたのだった…
終