「うーん…これはちょっと…」
キョーコはパソコンの画面に向かってぶつぶつと囁いていた。
蓮と暮らし始めて早や2ヶ月。
ようやく互いの想いを確かめ合い始まった2人きりの生活、キョーコにとっては毎日が充実したものだった。
自分が愛した人に、愛されているという事実。
過去の傷から、もう二度と誰も愛したくはないし愛されることもない、と思っていたキョーコだったが、蓮に出会ってそれが変わった。
そんな自分が信じられなくもあり、それがキョーコの今の幸せを一層煽った。
しかし。
最近そんな幸せが不安に思える瞬間がある。
蓮は優しい。
料理を作れば美味しいと微笑み、断っても片付けは一緒にしてくれる。
洗濯物もひとりでたたもうとするのを遮り手伝ってくれる。
エレベーターに乗る時も車に乗る時も、どうぞ、としなやかな動作でキョーコを促す。
とにかくすべてが完璧なのだ。
それに比べて自分は…。
「はああぁぁぁぁ?あんたそれノロけてんの?帰るわよ、ほんっとムカつくわね!」
「ま、待ってよモー子さあん…!私真剣に悩んでるのに…」
久しぶりに奏江を捕まえてカラオケボックスへ拉致したキョーコはそんな自分の悩みを打ち明けたのだが。
「要するに幸せなんでしょーが!なんだか愛されてるみたいだからそれに甘えてりゃいいのよ!」
「そ、そんなぁ…でも私、以前も何も考えずに相手の言うとおりにいつも行動して自分がなかったっていうか…
それでアイツに捨てられたわけだし…このままじゃきっと…
ほんとにどうしたらいいのかわからない…」
話せば話すほど暗くなり怨キョをまとい始めたキョーコを見て、さすがに奏江も少しの同情を覚えた。
「まあ…そういうのはギブアンドテイクってやつよ。
愛情もらってんだからさ、美味しい料理でも作ってやって、
あとはカラダで御奉仕して喜ばせてあげればそれでいいんじゃないの?
敦賀さんがなに考えてんだか私にはよくわからないけど」
「か、か、カラダで奉仕?!!!もももモー子さん何言うの?!!ハ、ハレンチよそんなの!!」
「ハレンチってあんた」
相変わらずの古い言語選択に奏江は吹きだした。
「一緒に住んでて何もないわけじゃないんでしょ?
相手のなすがままのまな板のマグロじゃなくて自分から喜ばせたらって言ってんのよ」
で、話は最初に戻る。
キョーコは蓮が帰るのを待つ間ネットで検索して、男を喜ばせる方法、だの、さまざまな体位、だの、
そんなサイトを青くなったり赤くなったりしながら研究していたのだ。
「なにこれ…こんなの無理よ!絶対無理!!
はあ…やっぱり別の解決策を考えよう。何か敦賀さんを喜ばせる方法…」
「ふーん、君はひとりにするとこういうサイトをこっそり見ているわけか」
いきなり耳元で囁かれてキョーコは驚きの悲鳴をあげた。
「つつつつつつつるがさんいつから見て…!帰ったなら帰ったと一言!」
「言ったよ、ただいま、って。君がそんなサイトを夢中で見ていて気付かなかっただけじゃないか」
冷気を漂わせた蓮はキョーコの顎をくい、と上げ、正面から見据えて呟いた。
「悪い子だね…俺とのセックスが不満ならそう言えばいいのに」
「そ、そんなんじゃありません!」
久々の怒っている蓮にキョーコは凍りついた。
「じゃあなに?」
「わ、私…敦賀さんに何もしてあげられなくて…魅力もないし、色気もないし、
お金だってほとんど出してもらってるし、毎日敦賀さんに与えてもらうばかりだし…」
恐怖から始まった告白だったが、次第に言えなかった本音が口からこぼれるのを止められなくなってしまう。
「怖いんです…また自分がなくなって……敦賀さんに嫌われるんじゃないかって」
「……」
目を伏せたキョーコを蓮はしばらく無言のまま見据えていたが、
大きなため息をひとつついて、キョーコから離れて背を向けた。
「イヤ、ですよね、こんなうじうじした女…嫌われても…当然です」
キョーコは声を震わせた。
心では名前を叫んでその背にすがりつきたいと思うのだが、
ただ黙って後姿を見つめることしかできない。
(呆れちゃった…のかな…)
何度も思い描いていたとはいえ、実際に嫌われると思うと辛くて胸が痛み、キョーコは涙が湧き出そうになるのを必死で抑えた。
…と、蓮の背が震えているのが目に入る。
「…あの…敦賀、さん?」
一瞬泣いているのかと思ったが、
蓮は笑いを噛み殺して震えていて、堪えきれない、といった様子で吹きだした。
「…ちょ、ちょっと敦賀さん!何笑ってるんですか!私は真剣に言ってるんですけど!」
「ご、ごめんごめん…ちょっと…お、可笑しくて…」
腹を抱えて震えている蓮に、キョーコは怒って頬を膨らませた。
「もういいです!知りませんから!ひどいです、私は真面目に」
「で、真面目にアダルトサイトを見てたの?」
はあ、とようやく息を落ち着いた蓮がソファに沈みながら質問した。
「う、だからそれは…」
「ほんとに君って子は…」
蓮は、おいで、とキョーコの手をとり、自分の膝の上にキョーコを座らせた。
髪をなで、耳たぶをゆっくりと触り、頬をいとおしげになぞる。
(ああほら、まただ…)
キョーコは自分の言った本音の恥ずかしさと蓮への愛おしさで頬を染めながら俯いた。
いつもこうだ…。結局私だけが、敦賀さんに与えられている…。
愛情も優しさも、自分が与えたいと思うのに、その隙が蓮にはないのだ。
「ほんと、バカ、ですね、私」
「そんなことない」
蓮は耳、頬、額、とキスを落としていく。
キョーコはそのくすぐったい優しさにまた泣きそうになった。
「いえ、バカなんです、私。わかってるんです。だけどどうしていいのかわからなくて…。
こんなに幸せなのも、怖いのも初めてで…また捨てられるんじゃないかって思えてきて」
「また?」
「あ…」
しまった、とキョーコは後悔した。が、もう遅い。尚の話は蓮の前では禁句だった。
「君は…俺といるときに、アイツのことを思っているのか?」
「そ、そんな!そんなことありません!そういう意味じゃなくて…」
「じゃ、どういう意味?」
「…ぁ」
蓮は頬や顎をなぞっていた指をキョーコの口に入れる。
人差し指、中指、と2本入れ、舌、歯茎と指を這わせる。
「答えによっては…許さないよ、キョーコ。聞かせてもらおうか?」
「ち、ちが・・・あ・・・」
答えようとすると指で舌を押さえられ、キョーコはただ呻き声を漏らすしかできない。
出てくる唾液を呑み込むこともできず、つつ、と口のわきから小さくこぼれる。
「許さないから」
蓮はこぼれた唾液を舌ですくいとり、指の代わりに自分の舌を強引に入れた。
「ん…んん…」
苦しいキスに抗議の声をあげようとするのを拒むかのように、隙間なくキスを貪られる。
声すらあげられない苦しさに、キョーコは腕を跳ね除けようと強く押すが、蓮はかまわず貪り続ける。
―――怒ってる!
普段の蓮は優しかったが、嫉妬や独占欲にかられた時だけはどうしようもない、
それはこの2ヶ月でキョーコが蓮からの愛情と同じくらい、嫌というほど味わったことでもあった。
ようやく吸われる唇を離されて、ぷはっ!と息を吸い込んだキョーコだが、
蓮はかまわず今度は首に吸い付き始める。
「ちょっ…と敦賀さん、待って…お願い…お願いです…怒らないで下さい、私…私…」
蓮は血が沸騰していくのを感じていた。
初めは本気で怒っているわけではなかった。
必死に蓮への想いを告白しようとして出てきた言葉。
自分を繋ぎとめようとして出てきた言葉なのだから、むしろ嬉しくないはずがない。
しかし、そこに不破の影がちらついたことだけは許せなかった。
これはキョーコに対する怒りではない、不破に対して。
奴に対する怒りをこの娘にぶつけるのは間違っている。頭で理解してはいる。
必死に言い聞かせてはみるのだが、一度ついた炎は簡単には消せそうになかった。
傷つけたくない気持ち、二度とあの男を思い浮かべて欲しくないという焦り、奴に対する怒り、
いろいろな感情が自分の中で渦巻いているのを感じながら、
しかし目の前のキョーコにすがりつくのに必死だった。
キョーコの耳に舌を這わせ、低い声で囁く。
「俺から逃げるなんて許さない…どこにも逃がさないから」
キョーコは蓮の言葉に混乱した。
「な…どうして私が、逃げ…あ…」
弁解の言葉は耳を這う舌の快感で空に消える。
蓮は同時にキョーコの胸に手を伸ばした。
薄いキャミソール1枚しか身につけていないため、尖った形が綺麗に浮き出る。
それをキュ、と強くつまみ上げて二本の指で擦り合わせる。
「やぁ…やだ、敦賀、さん…話を、聞いてく…んぁ、や、やだ…痛い…です…」
キョーコの抗議はもはや蓮には煽りにしか聞こえない。
再び首に強く吸い付き、胸へと降りていく。
「あ…そんなに…吸ったら、跡が、ついちゃ…いぁ…や…」
蓮はキャミソールをぐい、と無理に引き下げ、小ぶりなキョーコの胸を顕わにし、
その先端をじゅる、じゅる、と音をたて深く吸い、そしてと軽く歯を立てて噛んだ。
「あ!!」
いつもの優しい愛撫とはまったく別物の激しさにキョーコは眩暈を覚えていた。
しかも蓮をそうさせているのは自分の余計な一言。
後悔と痛み、しかし同時に今までに味わったことのない快感に頭が真っ白になっていく。
「あ…あん…や、いや、つる、がさん…やだ、どうし…あん…」
イヤイヤ、と首を振りながらも、心のどこかでもっと、と求める卑しい自分がいる。
キョーコは自分が戻れないところへ堕ちていくのを感じた。
「や…やだ敦賀さん…おねがい!許して…!ごめ、ごめんな・・・さい」
蓮はキョーコの胸に吸い付きながら、妖艶にとその表情を見上げていたが、
キョーコの謝罪を聞くとふ、とその口を離した。
「え・・・」
「そんなにいやか?」
そうつぶやくと、わずかに傷ついた表情で顔をそむける。
「嫌ならしょうがないな、やめてあげるよ」
蓮は不機嫌な様子で膝の上からキョーコを下ろそうと体をずらした。
「ち、違うんです敦賀さん!私の話を…私…嫌なんじゃなくて、もっと敦賀さんをその…」
「俺をなに?」
「…いつも欲しがってる私が、嫌なんです…もっと私が敦賀さんに、あの、ですから…あ…」
「俺が君を欲しがっていないと思うの?」
蓮はキョーコを膝から下ろすと自分はその前に跪き、
表情をじっと見ながら指でやわらかな腹をツツ、となぞり、スカートの上を飛ばして太腿へと這わせた。
そして右の内腿を上下に手のひらでさすり、上にあがって…
しかしその中央には触れずに今度は左の内腿へと這わせる。
「ひどいな君は…俺はいつも君が欲しくてたまらないのに。
俺の中はキョーコでいっぱいなんだよ。キョーコにもそうであって欲しい。
けどそれは、俺の勝手な欲だから、これでも必死に抑えてるんだ、こんな風に」
蓮は何度も何度も内腿をさする。しかし肝心のところには決して触れない。
「あ…ん、ん…」
キョーコはもどかしさで狂いそうだった。
触れて欲しい…思わず懇願しそうになるのを必死に抑え、ただ涙をぽろりと一粒落とした。
蓮は器用にスカートを下ろし、今度は何度もなでたその太腿に吸い付いた。
強く吸い、離して軽くキスをし、舌で線をひくように舐めあげる。
そしてやはりそこには触れずに反対の太腿へ…。
キョーコはたまらず叫んでしまった。
「つ、敦賀さん…!もう…もう…ごめんなさい…!許して!お願い…もう…やぁ…がま、でき、ない…!」
「…いやらしい子だ、キョーコ。じゃ、脱いでごらん」
「え…でも…」
キョーコは戸惑ってしばらく蓮を見つめたが、その目は拒否できないことを悟り、立ち上がって自ら下着へ手を伸ばす。
自分で脱ぐなんて…羞恥心で顔が燃えるように熱くなる。
「お願いです、見ないで…ください」
「いいから」
「…せめて明かり…」
「脱ぐんだ、キョーコ」
顔を赤らめ、おずおずとキョーコは自ら下着をおろす。
少しのあいだ逡巡したが、唯一最後に残ったキャミソールもゆっくりと脱ぎとり、再び蓮の前に浅く座った。
終始目をそらすことなくじっと見ていた蓮は、今度は意地悪く笑って質問する。
「さあ、どうして欲しい?」
恥ずかしさに耐えられず、キョーコは震える両手で顔を覆った。
「いや…!!」
「どうして?キョーコが望むことだったら、なんだってしてあげるよ?
ああ…もうこんなになってるね。触ってもいないのに。
知らなかったな、キョーコのここがこんなにいやらしいなんて」
ソファに座るキョーコの足を、ぐい、と横に広げる。
そこに顔を近づけて話す、その息がかかるだけで、キョーコはたまらず感じてしまう。
「や…やぁ…あぁ、んぁ…お願い、おねが…い…」
「なに?」
「お願い、です…あ…敦賀さん…」
「言ってごらん、どうして欲しいのか」
「…ゃあ…」
「言わなきゃわからないよ、目を見て、言って」
キョーコは泣きながら、指のあいだから蓮を見る。
夜の帝王の顔で待っている。言わなきゃ、言うまで何もしてくれない…!
恥ずかしさより、欲望が上回る。
「な、舐め…舐めてくだ、さい…私の…おねがい…!もう…!」
「仰せのままに」
じゅるじゅる、と激しく音を立てて蓮は蜜をしゃぶり取る。
「ああ!や…あん!やぁ・・・はぁ!あ、ああ、あん、あ!」
もはやキョーコは喘ぐしかできなかった。
ずっと焦らされていた分、恥らうことも忘れてただ歓喜の声をあげる。
力が抜けて落ちそうになる身体を、ソファに付いた手で必死に支える。
キョーコの声に煽られるかのように、蓮は夢中で舌を這わせた。
「すごいね、キョーコ。どんどん溢れてくる。飲みきれないよ」
言葉でキョーコをいたぶりながら、ふっと見上げて表情を楽しみ、今度は長い指をちゅぷ、と差し込む。
押し込んだかと思うと抜き、また差し込み、また抜く。
ゆっくり周りを軽くなぞり、しばらく焦らしたあとで、再び指を押し込み、また解放する。
苛めたい、しかし喜ばせたい、そんな蓮の矛盾した気持ちを表わすかのような繰り返しに、
キョーコは自分も苛められたいのか、あるいは優しくされたいのか、もう思考がうまく働かなくなってくる。
焦らされ苛められているのに、淫らな格好で喜んでいる自分。
押し寄せる羞恥の波は、同時に襲い続ける快感ですっかりさらわれてしまいそうになる。
蓮は指で弄びながらキョーコの表情と蜜の溢れ出る場所を交互に見つめていたが、
今度は溢れてくるそれをちゅぱちゅぱとわざと音をたてて綺麗に舐め取り、
その上にある大きく膨らんだ突起を舌で軽くつついた。
「あ…はぁん…ん、そこ…」
「ここ?」
「ん…そこ、好き…気持ち…いい、の」
「そう、じゃあ」と呟いて突起の上で指をくるくると回して円を描く。
「ああ!ん、あ…でも、だめ、です、よすぎちゃう、から…私、だけまた…」
「拒否しない」
蓮は執拗になぞり続ける。
キョーコの表情を凝視しながら、快感に浸りそうになるのを見つけるとそこから離れ周りだけに軽く触れる。
焦らされて唇を噛み、眉をひそめるのを見ると再びその蕾に戻る。
何度かそうしてキョーコを苛めると、今度はいきなり強くしゃぶりついた。
「あ!やあ!!」
突然の激しい攻めに焦ったキョーコは頭を押しのけようともがくが、蓮はかまわず激しくしゃぶり続けた。
今度は容赦なく攻め続ける。
「あ!あぁっ!…っだ、だめ、もう!つ、敦賀…さん、あ!
だめ、です、やぁ、…っちゃうから、やめ、ほんとに、や、あ…あ----------!!」
キョーコはソファから崩れ落ちたらしく、気付くと蓮に背中を支えられていた。
「大丈夫?」
髪を優しくかきあげる手を振り解き、キョーコはソファに顔を伏せて震える。
「キョーコ?ごめん、激しすぎたかな」
ふるふると首を振り、か細い声でキョーコは小さく囁く。
「違う、違うの…違う…」
声を震わせて泣きだしたキョーコに、蓮は戸惑った。
「どうした、キョーコ?泣いてちゃわからないよ」
優しく肩を撫でる蓮の手に、キョーコはますます胸を詰まらせた。
「―――いつも…いつもそうです。いつも私ばかりが与えられて…何もあげられてない…こんなの、こんなの不公平です、敦賀さん」
「何を…言ってるんだ、君は」
「だって…私ばかりが、好きになって、どんどん、敦賀さんに、なのに何も―――」
蓮はハァ、と大きくため息をついて、溢れそうになる喜びをなんとか抑える。
「わかってないな、そんなの誤解だよ。
俺が何も与えられていないって?冗談じゃない、
俺は毎日、キョーコとの幸せに溺れきってる自分に不安にさえなってるんだ。
キョーコが幸せそうに笑う瞬間が、どれほど俺を喜ばせているか…
君を不安にさせているのも気付かないほど溺れていたんだな、悪かったね」
「敦賀さん…」
キョーコはようやく顔をあげる。
「ほんとに…?私、敦賀さんにちゃんと、与えてるんですか?」
「たくさんもらってるよ、毎日、たくさん」
蓮はキョーコの背中に口付ける。背骨のひとつひとつを味わうようにキスを落としていく。
「あ…」
喜びを噛みしめる間もなく、再び始まった愛撫にさっきまでの快楽が脳裏に蘇る。
「俺はちゃんと、与えてる?」
「はい…たくさん…あ、ごめんなさい敦賀さんはまだ…あの……いいです、よ…来て、ください」
顔を赤らめて自分を促すキョーコに蓮は内心嬉しさに震えていた。
いつも極限まで追い詰めないと、キョーコは絶対にそんな台詞を吐かない。
だから淫らな言葉を言わせたくて、快感にたまらず喘ぐ声を聞きたくて、
蓮はその瞬間まで苛め抜いてしまう。
それが今、蓮のためにと頬を染め、言葉を紡ぎ、恥ずかしそうに小さな臀部をそっと突き出している。
少し前まで感じていたはずの怒りはすっかり冷めていたが、その姿は全てを許してしまうには充分だった。
しかし、蓮の中でまた、矛盾した感情が湧いた。
(まだまだ、だよ)
「いいんだよキョーコ、君はまだイったばかりだろ」
「でも…」
「それとも―――」
蓮は柔らかな臀部の真ん中に指を伸ばし、その中央をすっと撫で上げ往復させる。
「欲しいのかな?ああ、またこんなに濡れて…足まで垂れてる。驚いたな」
「あ・・・ん、はぁん、やぁ…」
「しょうがないな、待ってて」
わざと時間をかけて服を脱ぎ、柔らかな肉に口をつけて意地悪く囁く。
「キョーコに無理はさせたくないな、俺のわがままで」
「違います…私が、私が…」
「キョーコが?欲しいの?それならあげるよ、たくさん、ね」
蓮はすでに待ちわびて脈打つソレを後ろからキョーコの中央に突き刺すと、
声をあげさせる暇もなくキョーコの身体を抱え上げ、貫いたままでソファに座った。
「―――!!」
待ちわびた感覚が走った次の瞬間、急に視界が変わり気付けば蓮の上に座らされ、キョーコは自らの重みで奥まで突かれて背を反らした。
後ろから伸びる蓮の両手は胸に回され、両方の突起をつまみあげる。
肩から腕へ、そしてまた肩へと唇が這い、背中へと下りていく。
下りてはまた上がり、うなじに吸い付く。蓮に触れている箇所全てから何かが溢れてくる。
キョーコは今までに味わったことのない快楽に恥じらいも忘れて溺れ始めた…
―――が、それを蓮の低い声が遮った。
「前を見て、キョーコ」
「え…?」
うつろな眼で言われるがまま前を見ると、
カーテンの引かれていないベランダへの大きな引き戸の窓ガラスに、
明るい部屋で繋がれて喜ぶ自分の姿がくっきりと浮かび上がっていた。
「い、いやーっ!!!」
脱力しかけていた太腿に思わず力が入り、足を閉じようとしたところに蓮の両手が下りてきて両膝を捕まえる。
「ダメ、ほら開いて」
ぐい、と膝を広げられ、見ていられず慌てて目を伏せる。
が、下を向けばいやらしく広げる自分の足、
そして貫かれている部分が直に見えそうになり、
キョーコはどうしようもなくなってギュッと目を瞑り、両手で顔を覆って必死に頭を振り続けた。
「――いや!いや、やめて敦賀さん!!こんな…こんなの」
「なにがイヤ?欲しいんじゃなかったの?キョーコが欲しがったんだよ。忘れたとは言わせない」
「だ、だ、だって…こんな私…いやです…見たく、ない…し、見られたくない…敦賀さんに、見られるのいやぁ…」
「こんなキョーコって?いやらしいサイトを見ていたキョーコ?それとも乳首を硬くして感じていたキョーコ?
それとも…」
蓮はグッと腰を大きく一度突き上げた。
「ああっ!!」
「触ってもいないのにアソコをびちゃびちゃにしてひくつかせていたキョーコかな…ああ、お願いだから舐めてほしいって叫んだキョーコかな?それに」
「や…やめて…」
ゆっくりと腰を揺らしながらさらに続ける。
「舌だけでイっちゃったいやらしいキョーコか…俺のモノが欲しいってお尻を突き出してた淫乱なキョーコもいたね」
「や、やめてお願い敦賀さん…もう…んあ…それ、以上…言わないでぇ…!」
「どうして?言葉だけでイキそうだから?キョーコはいやらしいからね…今もほら、俺の動きに合わせて腰を揺らして、それに、ね、聞こえるだろ?」
「いや…いやぁ…ぁ…もう許してぇ」
くちゅくちゅと響く音に恥ずかしさがさらに増し、それまで目を隠していた手で必死に耳をふさぐ。
「ダメだよキョーコ、よく聞いて…目を開けて」
蓮はキョーコの両腕を取り、高くあげて後ろに回し、自分の首に絡めた。
「いや、いやよ見ない…見れない…恥ずかしいの、許して…!」
「俺が嫌い?」
「…え?」
突然止まった動きと言葉にキョーコは固まる。
「俺とキョーコの繋がってるところ、見たくないの?俺は全て見たいよ…いやらしいキョーコも全部」
「―――っっ!そ、そういう…」
これは蓮の巧みな詭弁だ、とキョーコは強く瞼を閉じたまま反論する言葉を必死に探すが、
蓮は軽く二の腕に噛み付き考える余裕を与えない。
「俺だけが…キョーコを愛してるんだな」
「ち、ちが…わ、わかりましたから…もう…っ」
負けとわかってはいるが仕方なく目をそっと開ける。恥ずかしさのあまり噛む唇が小さく震える。
ガラスに映る蓮は妖しく笑ってこちらを見ていて、憎らしい、とキョーコは思う。
いつも結局この人の術中にハマってしまう。
わかっているのに、拒めない。そしてそれが同時にたまらなく愛しいのも事実。
「違うよ、もっと、下」
思わず目を逸らそうとするが、蓮はキョーコの顎をクイっ、とつかむ。
「下、だよ」
「あ・・・」
キョーコは自分のその部分が、蓮のモノを深く咥え込んでいるのを見て顔を赤らめた。
「見える?キョーコが俺を受け入れてる」
「ん…ぁあ…」
蓮は再びゆっくりと弧を描くように動き始め―――
「そう、見ててキョーコ…ああ、じゃあもっと見せてあげるから」
そう言うと蓮はキョーコの膝下を掴み、両足を高く持ち上げた。
「あ、いやっ!!やめ…!」
「ほら、もっとよく見て」
持ち上げては下ろし、また高く持ち上げる。
「蓮…いやよやめて…!ほんとにや、やめ…あっやぁっ…あ、あん、ん、あ!んぁ」
大きくM字足を開いて淫らな声をあげる自分。
キョーコにこれまで感じたことのない大きな羞恥の波が襲う。
が、それは同時にかつて味わったことのないほどの快感を伴うものだった。
自分を占めているのが恥ずかしいという感情なのか、
あるいは気持ちいいというひたすらな快楽か区別すらつかず、
しかも到底自分の姿とは思えない淫乱な光景からなぜか目をそらすこともできない。
自分が蓮のモノを飲み込んでは抜かれそうになり、その度に音を立てて水がこぼれる。
意識が飛びそうになってただ声が漏れる。
「あ!あん…いゃぁ、蓮…ん…あ!ん、やぁ…!」
もはや焦らす余裕もなく蓮は激しく突き上げる。
「ちゃんと見た…ご褒美、だよ」
時折漏れる蓮の低い呻き声にキョーコの歓喜は増していく。
「はぁ…!ん…あん、や、やぁっ!もう…きちゃ…きちゃうよぉ…い、やぁ…っ!」
「いやじゃ…ないだろう?」
「あ…熱い…のっ!もぉ…がま、でき…だめぇ、また私、だけ」
「いいよ、一緒に」
自分が全てを解放してしまう瞬間に合わせ、蓮は繋がった部分の少し上にあるキョーコの膨らんだ突起を強く指ですりあげた。
「ーーーーっああっ!!」
「キョーコ…!!」
次に目を開けた時、キョーコはベッドに寝かせられ、脇に腰掛けた蓮に髪を撫でられていた。
「キョーコ、気分は?」
身体がだるく力が入らない。
気だるさが先ほどまでの行為を思い出させ、キョーコは恥ずかしさで死にそうになった。
かけられていた毛布にもぐりこむ。
「だ、大丈夫です。全然、ほんとに」
「そう、ならいいよ。シャワー浴びてくるから」
立ち上がろうとした蓮の腕を毛布の中から思わず掴む。
「どうした?」
キョーコの心に吹いた風は説明できない淋しさだった。
「わからない…ですけど…もう少し、そばに、いて…眠りたいんです」
珍しく素直な嘆願に蓮の顔が思わずほころぶ。
「いいよ、そばにいるよ、キョーコが眠るまで。いや、朝までずっと」
蓮は再びベッドに腰をおろし、キョーコの髪を優しく撫でる。
(ああ、ほらまた…)
「キョーコ、忘れないで。君の幸せが、俺の喜びだから」
「敦賀さん…」
「眠って。少し…反省してるよ」
「いいんです、また――」
キョーコは消え入りそうな声で囁いた。
「――また、苛めてください…」
くすりと笑って蓮が答える。
「仰せのままに」