俺が、バスケ部に殴りこみにいったときは別に、そんな好きとかじゃなかった。
ただ、鉄男たちと一緒にヤってやりゃ面白いかな、とか、それぐらいの気持ちで。
あの頃は何かをぐちゃぐちゃに壊して汚すのが大好きだった。
でも、あの頃の俺はもういない。髪を切って、すっぱりと過去を消し去ったはずだ、俺の中では。
「三井先輩ナイッシュー!」
スリーポイントを決めると、彩子は大きな声で声援をあげた。
きっと、彼女もあのことはまだ忘れきってないはずなのに、いつものように接してくれる。
ただし、それは他の奴らにも同じ態度ではあったが。
だいたい部内恋愛なんて後々とても面倒なことになるだろう。
第一宮城は彩子のことを一番に想っているし、アプローチも大胆だ。
彼なら、彩子と付き合ったとしても周りもああ、付き合ったんだ、と納得するだろうが、
それが俺となるとまた話は別だ。宮城に、もしかしたらまた喧嘩を持ちかけられるかもしれない。
(安西先生の前ではもう喧嘩はしないといったが)
だから、俺は隅っこでひっそりと彼女のことを想っておくのだ、あんな湘北を一度でも汚してしまった俺は、
そんな立場がお似合いなのである。
●
思い悩んでいた。
もしかしたら、俺は彼女の眼中には入っていないのでは?
それなら、話は早い。告白して、すっぱりと振られて、また次の恋の切り替えればいいのだ。
だから俺は告白することを決めたのだけれど、いかんせんタイミングがつかめない。
相手は同級生でもないから校舎は違うし、部活のときだって練習は多いし練習後は宮城がつきまとっていて、
ふたりきりなんていう都合のいいシチュエーションにはなかなか出会えないのである。
男なら、意地でも二人きりのシチュエーションにもっていくところだが、俺にはそんな根性はない。
恋愛経験だってそんなに多くはないし。
「はーあ・・・」
「何悩んでんですか?セーンパイ」
「うわっ!」
いきなり隣から顔を覗かせた彩子に俺はみっともないくらいに驚いていた。
望んでいたシチュエーションがとうとうやってきたのである。
ここは、正門前からすこし離れた花壇。下校時刻なんてとっくにすぎていて、正門からでてくる生徒の気配はない。
今だ。
俺は直感的にそうおもった。いや、誰でもそう思うだろう。
今が絶好のチャンスだ、今いわなければいつ言うのであろうか。
俺は、意を決して口を開く。
「あ・・あのさ・・」
「なんですか?」
「き・・・き・・気になるヤツとかいる・・か?」
「えっ?」
「あああ!いやいや、あの、その、今のバスケ部に将来的に気になるっていうか・・伸びそうなヤツ・・」
「うーん・・そうねえ・・世間的に言ったら気になるのは流川だけど、やっぱアタシは桜木花道が一番伸びそうな気がするわね、うん。
あの子はきっと伸びるわ。シュートもドリブルもヘナチョコだけど、あの身体能力は・・」
ちがう、こんな答えが聞きたいわけじゃない。
ぺらぺらと隣で彼女は将来的に気になる桜木花道についてつらつらと語っている。
なんというヘタレた人間なんだ俺は、隣でしゃべっている彼女の言葉すら耳に入らない。
また別の意味で頭を抱えていると、彩ちゃーん、という聞きなれた声が遠くから聞こえた。
「・・・って、ことになるわけよ。あっ、リョータ。じゃー、センパイ、そろそろアタシ行きますわ。また明日もがんばりましょーね」
まぶしいくらいの笑顔を俺にぶつけてくる。
それはただ、俺の苦痛でしかなかった。
ひょこひょこと彼女がスキップをするように歩く先には宮城がいた。
いつも、部活では彼のアプローチなんてさも気にも留めず、ハリセンでばしばしと殴っているように見えたが。
案外、まんざらでもないのかもしれない。
「・・・・やっぱ付き合ってんのかなあ・・アイツら」
隣には誰もいなくなった花壇の上で、ポツリと一人つぶやいた。
空はオレンジ色の上は青紫色に染まっており、今にも夜が落ちてきそうだ。