憧れの彼の姿を目に焼き付けたその時、私の心の中の止まっていた時間が再び動き出した。  
全日本ジュニア合宿に召集されていた流川君が、ついに湘北高校バスケ部に戻ってきたの。  
 
ガラガラガラッ・・・・  
「ちわす。」  
相変わらずそっけない彼の挨拶。だけど、その言葉だけでピリピリしていた場の雰囲気が一変したの。  
「おおおおおおお、流川だっ!!!」「流川が戻ってきたぁぁぁl!!!」  
湘北バスケ部はみるみる活気付いた。  
 
「おっ帰りー。流川、どうだった?全日本の合宿は。ジュニアとはいえ、レベル高かったでしょ。  
あんたも結構もまれて音をあげたりしてたんじゃないの?」  
彩子さんが笑いながら気さくに声をかける。全然気遣っている様子もなく、ホント羨ましいくらい自然な感じで。  
「別に・・・んなたいしたことなかったし。」  
流川君は頭をかきながらそっけなく答える。  
だけどこの他愛のないやり取りを見てる間にも、私の心の中で冷めかけていた熱い何かがまた芽生えだしていた。  
「やっと帰ってきたかよ流川、この野郎!さんざん待たせやがって!!」  
新主将となった宮城さんを初めとして、みんなが駆け寄る。  
今や流川君は、紛れもないチームの精神的支柱となった。お兄ちゃんのように。  
三年生で唯一チームに残った三井さんが口を開く。  
 
「よう、やっと帰ってきたか流川。たしかに、お前が帰ってきてよかったぜ。戦力的にも数段アップだしな。  
だけどこれだけは言っとく。俺はまだ完全にお前にエースの座を譲ったわけじゃねえ。それだけは覚えとけよ流川!!」  
そう言って、三井さんは流川君を指差す。  
「ハァ〜・・・。」  
「なっ何だこんにゃろう!!もう一度勝負しやがれこのガキ!!」  
「三井さん落ち着いて!!大人気ないっすよ!!」  
三井さんが暴れようとするのを宮城さんたちが必死で抑えようとしている。  
 
「流川、今日はね、改めてあんたに紹介したい人がいるのよ。おいで、晴子ちゃん。」  
!!!!  
 
私は彩子さんに呼ばれた。そして、気持ちの整理がつかない内に流川君の前に立つことになってしまった。  
 
「あんたにも一応紹介しとくわ。知ってると思うけど、マネージャーを手伝ってもらうことになった赤木晴子ちゃんよ。」  
「・・・・んー・・・・・ども。」  
その言葉だけを残して、流川君は少しだけペコリと頭を下げた。  
単に思い出せないのか、今初めて知ったのかわからない受け答え。別に何ともないといえば嘘になる。  
けど、IH予選以来ますますバスケ一筋の流川君にとって、私の存在が眼中にないのは、仕方のないことかもしれない。  
「もう。相変わらずねーあんたも。ちゃんと何度も試合観に来てくれてたじゃない。覚えてないの?」  
彩子さんが軽くハリセンで流川君の頭を叩く。流川君は頭をさすりながらスミマセンと小声で謝る。  
だけど変に私なんかのことで、バスケに懸けてる流川君を邪魔したくない。だから・・・今はこれでいい。  
 
「これで攻撃力に関してはほぼ問題ねえわけだな。問題は桜木の野郎だが・・・。赤木の抜けたリバウンド力を  
どうするかがやつにかかってくるんだが、間に合わないとなると痛すぎるぞ。」  
「それについてなんですけどね、朗報ですよ三井先輩!!桜木花道、予選に間に合いそうなんですよ。  
最初の試合は微妙かもしれないけど、文通してる晴子ちゃんからの情報だから間違いないですよ!」  
「ホント!?彩ちゃん。」  
「そうよ。これでもうすぐ、新生湘北のベストメンバー勢ぞろいってわけよ!頼むわよ新キャプテン!」  
「お、おう!任して彩ちゃん!!赤木のダンナの残した意思はしっかり俺が受け継いでいくぜ!!  
みんなにはっきり言っとく!!1年はもちろん、タメだろうと年上だろうと、遠慮なしにどんどんいくからなぁ!!」  
「(ムッこの野郎・・)おい宮城!得点源の俺の活躍あっての湘北だということをわすれんなよ!!」  
「(グッ・・まさに目の上のタンコブ・・)三井さん、そういうこと言うとパスしてやんないっすよ。」  
「何を!!」「何すか!!」  
「ハァ・・・もうすぐ、どあほう勢ぞろいか・・・。」  
「流川てめぇ!!!!」  
みんなひねくれてはいても、心の中では桜木君の復帰を心待ちにしているはずだと思う。流川君もきっと・・・。  
何はともあれ、流川君を迎えて、本格的な新生湘北の練習がスタートした。  
 
練習が終わり、みんなが疲れた表情でコートから戻ってくる。  
彩子さんはみんなの肩を叩き、スポーツドリンクを手渡す。  
その後姿からも、すっかりバスケ部マネージャーとしてのオーラがにじみ出ていた。  
私も、今はまだ未熟だけど、いつかみんなの心の支えになりたい。そう思った。  
 
 
 
「先輩。」  
帰ろうとした彩子さんを、流川君が呼び止める。  
「なあに?流川。」  
「俺まだ少し残るんで・・・練習手伝ってほしいんすけど。」  
「ふふ。まったく、あんたも少しは早くかえんなさい。ずっとそんな感じだと大会までもたないわよ。  
大体、あんたは国体メンバーにも選ばれるんだからね。すこし控えときなさい。」  
流川君は少し不満そうな表情をしている。彩子さんは少し私をみつめてニコッと微笑んだ。  
「そうだ。晴子ちゃん、今日時間ある?あたしここんところ用事があって忙しいから、流川の練習手伝ってあげて。」  
え・・・・。わ・・・・わたしが・・・・。思わず、頭の中が真っ白になってしまった。  
「何か不満ある?流川。」  
「いえ、別に・・・。」  
こうして、体育館の中にはわたしと流川君の2人だけが残ってしまった。  
流川君と2人だけ・・・胸の高鳴りが止まらない。  
この表情や仕草だけで、流川君にわたしの気持ちがばれやしないかどうか、それだけが心配だった。  
「ボール、貸せ。」  
流川君が手を差し出してくる。私はあわてて籠からボールを拾って流川君にパスした。  
 
その瞬間、もう流川君はゴールの前までドリブルして、シュートしていた。  
ただひたすらにゴールだけに向く視線を見て、またわたしは切なくなっていた。  
やっぱり、わたしの入り込む隙間なんてない。そう感じ取った時を思い出しながら。  
もしかしたら、流川君はこのままわたしの手の届かない所に行ってしまいそうな・・・何となくそんな気がした。  
けど、今のわたしにできることは、流川君をみつめることだけ。彼のプレーを、少しでも目に焼き付けておきたい。  
ただ、それだけだった。  
 
練習が終わり、2人で軽いモップがけをやった後、わたしは流川君にドリンクを手渡した。  
「サンキュー。」  
今日、初めて流川君が面と見てわたしに声をかけてくれた。自分で自分に何か変な期待をかけてしまうわたしがいる。  
別にこれ以上の進展がないってことは自覚してるのに。  
「おい。」  
高鳴る気持ちを抑え、わたしがそそくさと帰ろうとすると、流川君が呼び止めた。  
「遅くまで・・・わりい。1人じゃ危ねえだろ・・・送ってく。」  
つたない言葉の羅列だったけど、私の胸の高鳴りは最高潮に達した。  
「あ・・・う、う・・・。校門で・・・待ってるから・・・。」  
荷物を整理すると、私は急いで校門に歩き出した。後からついてくる流川君を待つ時間が、すごく長く感じられた。  
 
 
無言が続く帰り道。足元を冷たい風が通るようになったけど、全然気にならなかった。  
わたしの隣にいるのは、あの憧れの流川君。  
なんだか信じられないような気がした。だけど、紛れもない現実なんだ。  
「るっるっ流川君・・・。」  
緊張して舌が上手く回らないけど、せめて少しくらい話しておきたい。意を決して、私は話しかけた。  
「も、もうすぐ冬の選抜の予選があるね。きっ・・厳しいよね、たった1校しか全国に行けないなんて・・・。」  
「べつに。大体2位で全国なんて気にいらねー。1校で十分だ。」  
「あっ・・そ、そうなんだ。やっぱりすごいね・・流川君・・・。」  
ああ、どうしよう。やっぱり会話が続かない。思いついたことを少しでも言わなきゃ。  
「る、流川君。もうすぐ桜木君も帰ってくるし、やっとベストメンバーが揃ってうれしいよね・・・。」  
「ふん。もう帰ってくんのか、あのどあほう・・・・・ま・・・ちょびっと役に立つくらいだけど・・・。」  
そう言って流川君は夜空を見上げる。口ではそう言いながらも、流川君は、どこか笑っているようだった。  
 
気づいたら、家の近くだった。  
ちゃんと会話が成り立ったかどうかもわからない。言葉を搾り出すのに精一杯だった。  
何か最後はわたしばっかり喋っていたという感じで、流川君と会話ができたという実感はほとんどない。  
少し寒くなってきたというのに、背中がびっしょり汗で濡れていた。  
「じゃ、じゃあね・・・流川君。」  
はやく心の奥底に閉じ込めている感情が爆発しないうちに、急いで家に入ろうとした。  
その時、流川君がわたしの手をつかんだ。  
「おい、ちょっといいか。」  
「!!!・・・な、何?流川君・・・」  
「お前・・・何でおれのことジーって見てんだ・・・。前からそうだけど。」  
流川君は、やっぱり私の視線に薄々気づいていたようだった。  
「いやっ、その、わ、わたしも中学のときにバスケやってたし、  
流川君のプレイを少しでも見ておきたいと、思って・・・。」  
受け答えもぎこちなく、声も震えていた。ついつい顔を下に向けてしまった。  
このままじゃ、わたしの気持ちに気づかれちゃうーーー  
 
 
 
「ふーん。まっいいけど・・・」  
流川君はつかんでいた私の腕を、そっと放してくれた。  
「何か言いたかったら・・・直接話せばよくねぇ。遠慮すんな。」  
そういって、流川君は走って帰っていった。  
だけど・・・言えるわけないわ。わたしの本当の気持ちなんて。  
初めて屋上で出会ったとき、私のイメージは彼にとって最悪だったはずだから。  
(うるせえな、ほっとけよ。誰だ、お前。)  
そのことを思い出すたびに、胸が痛む。  
おしゃべりでおせっかいな女なんだって。何となくわかっていた。今は忘れてるのかもしれないけど。  
 
だけど、それから日々を重ねるごとに、私も何とかマネージャーの仕事が板に付いてきた。  
それだけじゃない。流川君の居残り練習を手伝う回数も、そしてパスを頼まれる回数も増えてきた。  
私の気持ちが届いてるのかって錯覚しちゃうような気分だった。  
流川君と言葉を交わすときも、以前はぎこちなくてすごくうわついてたけど、  
今も声は少しだけうわずってるけど、しっかり話せるようになっている。  
流川君の言葉を、少しでも多く聞いておきたいから。  
そしたら・・・何だか最近、流川君も前よりわたしを意識してくれたような感じがした。  
だから、それだけでもすごく満足だったの。  
 
いつものように、2人で軽くモップがけを終えて帰ろうとすると、流川君が私の所へ寄ってきた。  
私が流川君の持ってきた最後のモップを受け取ろうとすると、流川君はいきなり用具室の扉を  
いきおいよく閉めてしまった。そして逃げ道を塞ぐようにわたしの前に立ちはだかった。  
「る、流川君何を・・・。」  
「これで・・・もう逃げらんねーぜ。」  
「逃げるって・・・わ、わたしは別に・・・。」  
「お前・・・俺に何か言いたいことあんだろ。はっきり言えよ。言うまで帰らせねー。」  
「そ・・・そんな・・・」  
 
本当の気持ちなんて・・・言えるわけない。発する言葉が見当たらず、ただただ押し黙っていた。  
「もしかして・・・告白・・・ってやつ。」  
流川君の言葉が、胸に突き刺さった。  
 
 
「・・・・・・・」  
違うとはいえない。何も言えず、ただ流川君の言葉を待つしかなかった。  
ずっと握り続けている手は、汗でびっしょりになっている。  
流川君を正視することもできない。  
 
「前からそうだったけど・・・最近もっと増えた。」  
!!  
改めてショックだった。やっぱりそうだったんだ。  
けど、みんな思っていることは一緒。別に不思議なことじゃない。  
湘北の試合には、必ず見晴らしのよい席を取って応援する。  
そして、流川君の似顔絵を描いた旗やユニフォームを着て応援する。  
抜け駆けは許されない。  
 
そんな暗黙のルールの下で、流川君を応援している流川親衛隊。  
そして、流川君の活躍にひかれて告白してくる人たち。  
彼女たちのことを思うと、とても辛かった。  
自分の姿を見ているようだったから。  
 
でも、彼女たちと同列に見られるのは嫌だった。  
あの人たちのような軽はずみな気持ちで流川君のことを想ってるわけじゃないわ。  
傲慢ないいかたかもしれない。けど、中学時代に流川君をはじめて見てから、  
ずっと流川君のことばっかり考えてるの。ずっと。  
 
でも・・・そう強がっても中身は何にも変わらない。  
彼女たちと同じだった。  
 
「お前も・・・あいつらと一緒なのか。いっつもでっかい声上げて。」  
「それは・・・。」  
「あんなうぜーの、何でやんの。」  
やっぱり・・・流川君もそう思ってたんだ・・・。  
早くこの場から逃げたかった。それだけだった。  
 
「みんな・・・流川君のことが好きだからよ。わ、悪気があるわけじゃないわ。」  
「悪気がねえっつっても、俺には迷惑なんだけど。」  
まるで自分が怒られてるみたいにせつなくなる。つい、謝ってしまう。  
「ご・・・ごめんなさい・・・」  
「なんでおめえが謝るんだ。」  
自分でも何が何だかわからなくなった。もう死んでしまいたいくらいだった。  
「私も・・・流川君が好き。」  
自制心がかからないうちに口を滑らせてしまった。流川君は表情を変えなかった。  
もう慣れてるからだ。何度、同じようなことを言われたんだろう。百回?二百回?  
 
でも、流川君にとっては数多くの中の1回にすぎないかもしれないけど、  
私にとっては初めてなのよ。告白するのは。  
 
「そういうのは、もう飽きた。」  
!!  
その瞬間、私の中で、何かが高ぶった。自分じゃ抑えきれない何かが。  
「ち・・違う!!私は・・・そんな人たちとは違う!」  
「何が違うんだ。」  
「私は・・・中学時代に初めて流川君のプレーを見てから・・・ずっと流川君のことを  
考えてるわ。授業のときも、お風呂に入ってるときも、寝てるときもずっと・・・。」  
流川君はわたしの迫力に押されたのか、少し黙った。沈黙のときが長く感じられた。  
「何で俺のこと、そんなに好きになったわけ。」  
そんなこと聞かれても、理由なんて考えたことなかった。いや、理由なんていらない。  
「それは・・・よくわからないわ・・・」正直な気持ちを私は口にした。すごく楽になれた気がする。  
「その・・・自分でも何だかわからないうちに流川君のこと考えるようになってて・・・  
考えすぎて・・・何も手につかなくなったり・・・流川君にあえてうれしいとか、  
会えなかったから悲しいとか・・・流川君が帰ってくるの、すごく楽しみにしてたんだよ・・・だから・・」  
そこまで言いかけて、わたしは嗚咽でうまく喋られなくなった。  
涙が後から後から溢れてくる。流川君が驚いた表情で私をみつめる。  
 
自分の言いたいことは全部言えた。もう悔いはない。  
そう思った瞬間、流川君の唇が私の呼吸を塞いだ。  
あまりの衝撃に私は気を失った。  
 
目が覚めた。私は気を失っていたんだ。  
誰かの部屋に寝かされていることを認識する。だけど、自分の部屋じゃないことはわかった。  
「やっと覚めたか。」  
流川君が傍で座ってた。ここは・・・流川君の部屋・・・  
「あのままじゃ風邪ひくと思って・・・でもこのまま連れて帰っても誤解されるし。」  
「ありがとう・・・でも・・・お家の人にばれたら・・・」  
「心配ねー。家のやつらは家空けてること多いしな。今日もそうだし。」  
そうぶっきらぼうに流川君は言い放った。  
だけど、自分に何が起こったのかはまだ気が動転していてわからなかった。  
「お前の泣き顔を見たとき・・・何か俺の心の中ではじけた。陳腐な言い方だけど。」  
流川君は、目を閉じて淡々と喋り続けた。  
 
お前と初めて会ったときのこと思い出した。あの屋上のこと。  
口うるさくて、おせっかいな女だって。だけど、それっきりだった。  
クラスも校舎も違う。部活でたまに目があうだけ。  
わかったことも、赤木晴子っつー名前だけ。元キャプテンの妹。似てねー。そんだけ。  
だけど、お前がマネージャーになって何かすごく楽しかった。  
お前はバスケのことにもすごく詳しいし、NBAのことなんてなお更だ。  
だからお前と話してる時間がすごく楽しかったって今更気づいた。  
お前の気持ちにも、もう少し早く気づいてやればよかったなって後悔してる。  
本当は・・・キスだけで終わらせようって思った。だけど、こうしてお前のことを考えてるうちに  
俺は俺を抑えきれなくなってた。俺はお前にとんでもないことをするかもしんねぇ。  
逃げたかったら逃げていい。俺は止めないから。  
 
「流川君・・・うれしい・・・」私はまたはしたなく大粒の涙を流す。  
 
流川君は、しばらく私を見つめているとまた唇を寄せてきた。  
今度はしっかり心の準備もできていた。  
流川君が私に何をするのかは、何となくわかっていた。  
世間でいう男女の行為。まだわたしにはどんなものなのか想像もつかないけど。  
でも、私は流川君の全てを受け入れるつもり。だから平気。  
何がおこったっていいーーー  
 
時が止まったような気がした。  
私の口の中で、流川君の息遣いが響く。  
流川君が舌をつかって、口の中を嘗め回してくる。  
「・・・・・!!」声が出ない。  
流川君の舌がゆっくりわたしの歯をなぞっていく。  
体の奥底から来る痺れに抵抗できず、たじろいだ。  
けど、流川君はかまわず舌を絡め続けてきてたの。  
お互いの舌が交じり合う。口を離すと唾液がつー・・・と糸を引く。  
漫画やドラマで見るこんなキスに憧れてたけど、何もかもが違いすぎて・・・。  
ずっと濃密で、ずっと官能的だった。また気絶しそうになるけど、今度は逃げない。  
流川君の顔は上気して赤くなっている。怖くないといえば嘘になるかもしれない。  
けど、流川君のすべてを受け入れる覚悟があるから。  
 
流川君はまたくちづけしてくる。わたしはただ、流川君に身を任せるだけだった。  
目を開けると、流川君の顔がすぐ前にあって、くらくらした。  
流川君がわたしの背中に手を回して強く抱きしめてくる。  
流川君は舌を口から出すと、頬や鼻にも移動させてくる。  
そのたびに、私の体がうずく。自分の意識とは関係ないところで。  
流川君も、私の息に興奮しているみたいだった。  
「ほんとに・・・いいのか。」  
流川君が念を押して聞いてくる。私はただ黙って頷くだけだった。  
 
流川君が制服の下から手を滑り込ませる。  
そっと手を引き上げると、胸の辺りまで手繰り寄せ、ゆっくりと上着をとった。  
わたしの白い肌と淡い色の下着があらわになる。流川君はじっと見つめた。  
わたしは流川君の願いがわかった。だから、自分でホックを外した。  
流川君は左手で私の胸を弄びながら、右手を腰のラインに合わせていく。  
思わず体が反応する。体のあちこちで火花が飛んでいるように。  
最初は揉んでいるかどうかわからない触り方だったけど、だんだんと  
やさしく、それでいて激しくなった。  
そして、流川君の口が、わたしの胸を覆った。  
 
 
「あっ・・・あんん!!」  
流川君の舌が乳首に触れたとき、わたしは襲ってくる快感に我慢できなかった。  
ひたすら上を向いて、この情けない顔を流川君に見せたくなかったい一心だった。  
流川君の両手が、わたしのスカートに伸びてくる。  
流川君はゆっくりソックスを脱がせた後、スカートをめくった。  
足が勝手に抵抗しようともぞもぞと動く。だけど、流川君の腕力はそれを許さなかった。  
体がじわじわと融けていく。そして、じわりと秘所を濡らす感覚が 高まってゆく。  
最初のキスの時からそうだった。  
 
流川君がわたしの薄いショーツに指をかけ、つつ、と舐めるように引き下げてゆく。  
抵抗する力を失い、わたしはただ目を閉じて息をするだけで精一杯だった  
上気した頬が涙で濡れている。 ショーツをから引き抜くと、愛液がつ、と糸を引いた。  
 
「濡れてる・・・こんなに・・・」  
流川君が呟く。恥ずかしくて・・・何も言えなかった。実際に感じてしまっているのだから。  
流川君がゆっくりと指を近づけてゆく。ずぷ、と淫猥な音を立てて深みに指が飲み込まれてゆく。  
「んぁ・・ん・・・!!」  
これだけ濡れているのだから、指を動かすのはたやすいことだったのかもしれない。  
指をつ、と動かすとびくりと震える。  
「あっ・・・や・・・」  
その声に興奮したのか、流川君は執拗に指でそこを弄ぶ。指先の強い圧迫力が、余計わたしを悶えさせる。  
「いやっ・・・やああっ・・は、はあっあん、んぅっ」  
そのまま指を一旦引き上げ、今度は舌で流川君がそこを舐め、一層激しい声が出てしまう。  
「やっ・・やっ・・ああんっ・・、だ・・だめぇっ・・!」  
頭の中が真っ白になる。込み上げる快楽と羞恥以外は何も考えられなかった。  
このまま行けば壊れてしまう、と本能が叫んだが、流川君は止めてはくれなかった。  
愛しさがこみあげてくる。それは、ただ涙となって零れ落ちるだけだ。  
 
流川君の舌ざわりが最高度の強みに達したとき、わたしは得体の知れない快感に震えた。  
 
 
 
 
気が付くと、流川君の顔に液のようなものがいっぱいかかっていた。  
わたしも、それはおしっことは別のものだということを認識していた。  
「ご・・・ごめんなさ・・・流川く・・・」  
気の動転しているわたしをよそ目に、流川君はそれを腕につけて舐めとった。  
「・・・!!そ、そんな汚いの舐めないで・・・流川君・・・!!」  
わたしは羞恥心でいっぱいになった。  
「おめえのだ。別に汚くねー。」  
そう流川君は笑って言った。  
「初めて・・・だったのか・・・」  
「流川君も・・・?」  
「まあ・・・。だけど、何となくどういうことすればいいのかはわかってた。」  
流川君は、わたしを見つめていった。  
「嫌なら・・・はっきりいえばいい。無理はしなくていい。」  
そこで断ることだってできた。けど、わたしはその瞬間信じられない言葉を口にしてた。  
 
「流川君・・・その・・・き・・・気持ちよかったから・・・やめないで・・・お願い。」  
言ってから案の定恥ずかしくなる。何てことを口走ったのわたし。死ぬしかないわ・・・!!  
流川君はその余韻を感じ取るように暫くの間じっと 見ていたが、やがてそっと手を伸ばし残っていた服を脱がし始めた。  
裸になったわたしを横たえたまま流川君は身を起こし、自分の服を脱ぎ始めた。  
「少し痛えことするかもしんねーけど・・・少しの我慢だ。辛抱しろ。」  
そういって手でわたしの膝をそっとつかみ、ゆっくりとわたしの膝を割った。  
何となくどういうことになるのかはわかっていた。  
 
流川君とひとつになるんだって。  
 
 
だけど、流川君のソレを見た瞬間、わたしは手で口を覆った。  
今までの人生のなかで、直接それを目に焼き付けるような事態のなかったわたしは  
それがなんなのか すぐには分からなかった。  
覚えてるのは、お兄ちゃんのを小さい頃に一緒にお風呂にはいったときに見たくらいだ。  
 
だけど、流川君のそれは比較にならなかった。  
 
 
 
安易な気持ちで同意した自分に後悔した。  
本当にわたしのなかに入るんだろうか。そうなるんだよね?こういう展開だと・・・。  
だけど動揺している暇はなかった。  
流川君がわたしの膝のうらに手を入れぐっと腰を持ちあげ たからだ。  
今にも泣きだしてしまいそうなわたしの表情を見た流川君はそのままの状態で話しかけてきた。  
「やっぱ・・・無理か?」  
 
どうすればいいかはわかっている。  
流川君のすべてを受け入れるって覚悟したじゃない。  
こわいーーーでもーーー  
たとえこの身がどうなろうと、わたしは流川君にすべてを捧げるって決めたから怖くないよ。  
強がりにみえたっていい。わたしは少し涙を浮かべながらにこって笑った。  
 
流川君はそれを確認すると、指でわたしの割れ目を確認し、股間のそれを押し付けてきた。  
流川君のそれがわたしを貫いたとき、わたしは痛さなんか気にならなかった。  
流川君とひとつになった。至福のときだった。  
わたしのお腹の中で何かが動いている。流川君が体全体を動かしながら徐々にわたしの中に入ってくるのがわかった。  
流川君の顔しか見えないわたしに流川君の動きは見えないけど、体がそう感じていたから。  
 
だけど、やっぱりそううまくはいかない。もちろん耐え難い激痛が襲ってきた。  
お腹がこわれちゃう。本気で死んじゃうと思った。  
だけど、わたしが大声をあげれば流川君に不安を与えてしまう。  
口に手をあてて今にも出てしまいそうな叫びを必死にこらえた。  
汗と涙で唾液で顔がぐちゃぐちゃになってるにも気づかなかった。流川君の顔が滲んで見える。  
襲ってきた痛みの感覚に耐え切れず変な具合にぶるぶると震え、体を捩らせてしまうが、  
動くことによって二人が繋がっている部分が擦れ、更なる激痛に襲われ息ができなくなってしまう。  
 
流川君が苦しそうに目をつぶって激しく揺さぶってくる。わたしの中が苦しいの・・・?  
そういえば、「締りがいい女が最高」だって、お兄ちゃんの隠してた本に書いてあった。きっとこんな感じなのかな。  
お兄ちゃんも男だからそういうのに興味もつのは仕方ないよね。  
だけど、そんなことをゆっくり思い出す暇もないほど、わたしは痛みとたたかわなきゃならなかった。  
 
 
 
 
いつからだろう。  
痛みを堪えているとどこかから、言葉では表せない奇妙な感覚が襲ってきたの。  
流川君の動きにあわせて、わたしはのけぞってはしたない声をあげてたの。  
初めて突かれた時の痛みと同じくらいの量の快感に襲われる。 こっちの方が耐えられないほどだった。  
「う…うああ………!あ、ぁああッ!…………あ、ん、んッ!!!」  
手で押さえようとしても、お腹に力を入れてもついに我慢できなかった。  
部屋中に響く自分の声がものすごく恥ずかしいのだが、抑えることができない。  
「…流川…く…気持ち、いい………すご…く…ぁ、ああッ!」  
流川君がふっと笑い、わたしにしか聞こえない声で呟く。  
 
「我慢しなくていい。全部・・・出しちまえよ。お前の感じてること。」  
 
がくがくと体を揺さぶられながら途切れ途切れに呟く流川君を見上げる。  
流川君もすごい汗だくになりながらも「俺も…気持ちいい」と耳元で囁き、更にきつく抱き締めてくる。  
流川君が今までにない速さで腰を打ち付けてくる。体が本当にとけそうだった。  
「あん・・・流川君・・・・!!ふ・・ん・・・何か・・・・くるよぉ!!!!」  
流川君は最後、わたしの中に腰をうちつけてとまった。  
「・・・ぐう・・・あ・・!!!!!!!!!!」  
「ふあっ・・・・・ああああああああん!!!」  
すべてが夢のように感じられた。視界が狭まってゆく。  
 
深い眠りからわたしは目を覚ました。時計の針を見たが、そんなに時間はたってないことがわかった。  
体を起こすと、腰から下の感覚がない。起き上がれずベッドに体を預けるだけだった。  
ふと目をあけると、流川君が傍でぐっすり寝ていた。流川君にキスして、わたしはまた眠りについた。  
家に帰ったらなんていえばいいんだろう。下手ないいわけを考えなくちゃ。  
 
 
 
 
 

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