その日三井は自分の不運を呪っていた。
今日は帰って見たい映画があったのに。今日は帰って早く寝たかったのに。
どうして今日なのかしかし流川はいつもの仏頂面で1対1を申しこんできた。
有無を言わさない言葉に仕方なく従ったが、気付いてみれば9時を軽く越えていた。もはや2人以外体育館には誰もいない。
こみ上げてくる腹立たしさに握るモップに力がこもる。
「てめーなぁ!付き合ってやったんだから掃除くらいお前一人でしろよ!」
反対側をモップかけている流川に向かって叫ぶ。
聞こえない風を装い黙々と掃除を続けるキツネにむなしく声だけが体育館に響く。
ちっと小さく舌打ちする背中に「負けたからって…」とため息混じりの流川の声が聞こえてきて三井は火照った身体をまた熱くした。
「あぁ!?こらふざけんな!誰が負けたんだよ誰が!!」
「図星だから声がでかい。」
「おぅいいか?てめーが色々文句つけやがるから俺は…」
昔のヤンキーよろしくよたよたと流川を指差し近寄りながらそこまで言うと、パタパタ軽やかな足音が近づいてくるのに気付き2人はその方向を見た。
息を弾ませ幾分乱れた髪を整えながら2人を交互に見つめる丸い瞳。深く呼吸を整えると微かに紅潮した頬で少女は小さく口を開いた。
「あ、あの…晴子、どうしました…?」
(この女晴子ちゃんといつも一緒にいる…えーっと…なんだっけ?)
目の前に立つ藤井の名前を思い出そうと試みたが瞬時に無理だという判断ができ、諦めた。
はっきりと顔を見たのも初めてかもしれない。3人でいると明るく活発に動く晴子に目が行ってしまい、藤井と松井の影が薄くなるのも無理からぬことだろう。
何か引きずる音がしたのでそちらを見ると、藤井の問いを我関せずとしてモップを引きずり倉庫へ向かう流川の後姿があった。
(押し付けやがったな)
どこまでも周到なヤツだと呆れながらモップの柄の上に両手を置き、その上に顎を乗せてちらりと藤井を見る。
何を言ったわけではないのに少女は片手を胸に置いたまま一歩後ずさった。
「かえった。」
萎縮する彼女の態度にもとより不機嫌な男はなお苛立ちを募らせ、威圧するように大きく口を開けて言うと案の定藤井は怒られたような顔つきになった。
ケッと悪態でもつきたいところを我慢し、モップをひきずり倉庫へと向かう。
その三井の後姿を見つめながら藤井は気付かれないようにホッと息をついた。
バスケ部に乗り込んできたこの男の印象が強烈に残っていた彼女は、その張本人である三井との初めての会話で嫌な汗が額に浮かんでいた。
晴子がいないことがわかれば充分だったのだが、このまま何も言わずに帰るというのもどうかと彼女の常識がくすぶるので、もう一度勇気を出してその背中に話しかける。
「あ、あっそうなんですかぁ。じゃぁ…あの、お疲れ様でした。」
短い髪を耳に掻け、小さく会釈をする。
か細いながらもよく通る声が背後から聞こえ、三井はそれには答えずちらりと時計を見た。
9時45分。
(オイオイ。この時間にあの女一人で帰るのかよ。)
機嫌は悪いわ運動して疲れたわで何もしたくない思いと、もって生まれた性質であろう世話好きの衝動との交錯でしばし男はそのまま黙考した。
「おつかれっす。」
ぼそりと聞こえた声に我に返ると、いつの間に用意したのかきちんと制服を着て今にも走り出しそうな勢いで体育館を出ようとする流川がいた。
「そうだ流川。お前あの女と一緒に帰ってやれよ。あぶねーだろこんな時間に。」
「…いや俺、自転車だから。これ、お願いします。」
即答で断りつつ天井の電気をちょんと指さし、二の句が継げない三井を置いて早足で自転車置き場の方へいってしまった。
「くそっ!先輩の言うことちょっとは聞けよ!」
小さく悪態をつきながら入り口へと駆け寄ると、暗闇の中小さくなる丸い背中が目に入った。
「おい。おいコラお前!待て!!」
呼ばれた藤井は鋼でも入ったように一瞬真っ直ぐに硬直し、恐る恐る肩越しに振り返った。
「お前どうやって帰るんだ。一人か?」
やはり声をかけられたのは自分だったのだとわかり、彼女の手の平はどんどん汗ばんでいく。
「あ、はい。でも平気…。」
こんな風に呼び止められてこの質問とは、三井が何をしようとしてのことなのか容易に想像がつく。
そのために“平気です”と伝えようとしたがそれもあからさまに期待しているようで言うのを躊躇い、
最後の文章はゴニョゴニョと口の中で呟くことになった。
だがすでに三井は壁に頭を預けたままその聞こえなかった部分より別のことを考えていた。
面倒だなと思い、その端正な顔を歪めて嫌がったところで先ほどの台詞を言ってしまった以上仕方がない。
諦めたように少し肩を落とし遠くにいる藤井にもう一度声を張り上げた。
「あのな、お前ちょっと待ってろ。」
「え!?あの…っ。」
送っていくと言われたら断ろうと用意していた台詞も、この状況では使いようがない。
かと言って何も言われていないのに『送られるのは結構です』と断るのもおかしな話しだ。
その葛藤の間にも三井の身体はすでに体育館の中に入っていってしまっていた。
一人で帰る方がどれほどいいだろう。
男と一緒に並んで歩くこと事態初めての彼女にとっていつも怒っている風に見える三井と帰るのは想像だけで息がつまる思いがした。
だんだんと落ち着きがなくなる鼓動を押し込めるように息を呑む。
寒さのせいか、緊張の為か震える身体を丸くして白く細い指先に息を吹きかける。
「さみーのか?」
低い声に必要以上に驚き振り返ると、慌てて着替えてきたような仏頂面の男が立っていた。
「ふん。いちいちビクつくな。」
軽く舌打ちをし、未だ悪ガキのような顔つきの男は半そでのTシャツの上にガクランの袖を通しながら藤井の前に出た。
少し後ろをついて彼女も歩き出す。
「真っ暗じゃねーか。クソッ、あのガキ。」
おまけにこの女も送る羽目になったし
その出かかった言葉をなんとか留め頭を掻く。
藤井は自分に話しかけたのか独り言なのかわからない言葉に返事をしようか迷ったが、
このままだと家につくまで重い雰囲気だろうと意を決し話しに乗った。
「流川くん…ですよ、ね?あの、本当熱心ですねみなさん。」
「みなさんじゃねーの!あいつが無理に俺を残したの!」
頭一個分ほど大きな男に振り向きざま叩きつけるように言われ、華奢な身体をビクンと震わす藤井。
その様子で三井は少し我に返った。ここでこの女を怯えさせてもどうしようもない。
「あー、お前の家どっち?」
「あ、向こうです。すみません。」
「何やってたんだ?こんな遅くまでよ。」
「帰ろうと思ったら先生につかまっちゃって。」
目を細め困ったような笑顔を作る藤井を見ながら、こんな遅くまで女を残すとはどんなヤツだと彼の怒りは教師にまでむいた。
男から聞こえる舌打ちに、今すぐ『一人で帰れます』と告げて走って帰りたいほどの気まずさがのしかかってくる。
無理もない。いつも以上にこの男の不機嫌な原因が自分以外ないと、気を使う性分の彼女は理解してしまったのだ。
呼吸をするたびに吐息が白くなる。ふと思いついたように三井が振り返った。
「なぁお前名前なんだっけ?」
「藤井です。」
「藤井サン、ね。」
何を話しても途切れる会話に気が遠くなる藤井。自分の家がこんなにも遠いものかと嘆きたくなる。
それとは対照的に三井は、少し後ろを歩く彼女のことをどのようにも意識していなかった。
三井にとって、藤井はまだまだ幼い少女なのである。
短い髪も純粋な瞳もこの男にしてみれば小学生とさほどの違いはなかった。
好みはむせ返るほどの色気に溢れた女であり、従って自分を見るたびに怯えるような藤井にはなんの興味もなかったのだ。
しかしこの沈黙の重さに耐え切れず少女が話しかける。
「あの、やっぱり戻って来て楽しいですか?バスケッ…」
そこまで言うと小さくあっと言って細い指を口に当てて息を呑んだ。
動いていた2人の足はピタリと止まった。
じろりと藤井を見る三井はこれ以上ないほど渋い顔をつくり、口を尖らせ、薄暗い電灯の下でも赤くなっているのがわかる。
(あぁ〜私ったら何てことを…)
三井は、肩肘をはりバスケット部に戻りたいのだと認めきらなかった弱い時分のことを思い出したくなかった。体育館に乗り込んだことは特に。
そんなことは周りも承知しているだろうしもちろん藤井もわかっていた。
が、彼女にしてみれば共通の話題もない男に何か話しかけねばと思った結果、
思いついたことを喜んで口にしてしまっただけなので災難だったとしか言いようがない。
「す、すみません。」
小さな身体をこれ以上ないほどに縮み上がらせた藤井に謝られて、なおさら嫌な汗を額に浮かばせ赤くなる短髪の男。
「あン時いたのかよ。その、えーっと。」
「藤井です。」
「…あぁ。」
ばつが悪そうに頭を掻いてまた歩き出した。
その背中を見ながら藤井は心の中で何度も三井に謝り自分の機転の利かなさにうんざりした。うつむいて男の後に続く。
「あーまぁ。楽しい、よ。」
驚いて顔を上げた。答えが返ってくるとは思いもよらないことだ。
「いや、すげぇ楽しいな。」
表情こそ見えないが笑ってもれた吐息が聞こえてきた。
頭を掻いていた大きな手の平をそのまま首にもって行き、首をかしげながら呟く。
今まで明らかに突っぱねた言い方で冷たかった声が温かく柔和になっているのを感じた。
はねつけるような三井の取り付く島を発見したようで少しだけホッとし、思わず彼女の顔がほころんでいく。
こんな粗暴でぶっきらぼうな男がバスケットのこととなるとまるで恋人の話をするように優しくなる。なんともおかしな話ではないか。
自然笑っていた彼女は、はたと目が合った男の照れ隠しのにらみ顔で慌てて表情を戻す。
「…何がおかしんだよ。」
「いえっ。いえあの、本当にバスケが好きなんだなぁって。」
「ふん。」
「あ、あのここで。あそこ、私の家なんです。」
細い指の示した方向を見ると白い壁の家があった。思ったほど遠くなく三井はそっと安心した。
「すみません。本当にありがとうございました。」
「おぉ。じゃぁな。」
ぺこりと頭を下げる彼女を見てさっさと家路につこうとする三井。
そんな姿を見ながら藤井は先程ちらりと三井に言おうとしたことを告げようか瞬間迷った。
が、小さくなりつつある三井を見て決心した。それに今日を逃すと二度と話すことはないかもしれないのだ。
「三井さん!」
声がして振り返ると短い髪を左右に揺らしてこちらに走ってくる藤井が目に入る。
「なんだぁ?忘れモンとか言ってももう俺ぁ知らねーぞ。」
その言葉に無言で頭を振って答え、白い頬を少し赤くして言った。
「あの、私三井さんのシュート好きなんです。ゴールに当たる音がしなくって、
シュッていうか、パシュッて感じの音。好きなんです。気持ちがいいですよね!」
息を荒く興奮気味に言う言葉に三井の目が丸くなっていく。わざわざ走ってきて何を言うかと思えば…。
男の表情で自分がいかにおかしなことを言ったのか認識した藤井は更に顔を赤くしてうつむいた。
今日は本当に何も気の利いた事が思いつかない。オマケに締めがこれである。
「そ、それだけです。すみません呼び止めて…あの、あの本当に気をつけて…ありがとうございました。」
真っ赤になって小さくなる少女に三井はたまらず噴出しくっくっと笑った。
「お前よ、名前なんつったっけ?」
デジャビュのような質問に一瞬目を開き、今度は藤井が笑った。あの桜木花道からもこんな短時間で3回も聞き返されたことはない。
その笑顔に三井は表情を変えないまま小さくドキリとした。笑うと花が咲いたような輝きがある。
(こんな顔もするんだな)
軽く咳払いをして無理矢理視線をそらした。
「藤井です。」
今度は、覚えた。
きれいな弧を描き、心地の良い音を立てながらボールがゴールに吸い込まれていく。
一瞬シンとなる体育館。が、すぐに
「すげぇ…!三井さんやっぱすげー!!」
などと一年生の歓声があがった。
そんな声の中、三井はふと入り口に立つ藤井を見た。なぜかきれいにシュートが決まると、
この音が好きだと言った彼女を見てしまう。
当の藤井はぼんやりしていたが、目が合うとピシッと立ちなおして慌ててにこやかに手を叩いた。
うしろでブッと噴出す音。見ると宮城が口を手で押さえ笑いを噛み殺している。
「………なんだよ。」
少し赤くなりながら三井が低い声を出すと、天然パーマの男は押さえきれないと言った風に笑い出した。
「い、いやっ仲いーっスねー!!」
息も絶え絶えの宮城にうるせーと言いながら蹴りを食らわすと、休憩の号令をかけて入り口に近づいていった。
近頃湘北バスケット部では、三井と藤井の話で密かに盛り上がっていた。
初めて会話した日から一ヵ月。
他の者が見ても明らかに、日に日に二人の距離が縮まっている。
あの悪人面の三井があの大人しい藤井を、この頃よく家まで送っているらしい。
付き合うのも時間の問題だと思われる二人の会話を、耳を大きくして
みなが聞き入っているのを知らないのは当人ばかりなのだ。
そんな好奇な目を向けられながら三井は藤井のもとにたどり着いた。
「お疲れ様です。」
少し緊張した面持ちで、しかしそれ以上にうれしそうに藤井はにこりと笑った。
話しかけられるたびに飛び上がるほど嬉しく感じるこの気持ちを、近頃やっと何と言うのか彼女は一足先にたどり着いていた。
素直にもっともっと目の前の男のことを知りたいと感じ、そして知るたびに惹かれて行く。
一方三井はその域まで達していない。確かにかわいいとも思うしそこにいればなぜか話しかけてしまう。
が、彼の今までの拙い恋愛から考えると、それはいつも欲望が備わったものであったので、
そんな気持ちは到底抱きそうにない彼女のことは恋愛対象ではないと考えるまでもなく思っていた。
「おう。」
首にかけていたタオルで顔を拭きながら藤井を見る。
少女の何か期待したような赤い頬と、純粋な目。それを見るといつも少したじろき、逃げ出したいような気持ちを抱く。
視線を逸らしながら三井は口を開いた。
「お前なぁ、拍手すんな。」
藤井は一瞬何のことかわからなかったが、すぐに3ポイントの後の拍手だと理解した。
「あ…迷惑でした?三井さんが見てたから何かしなきゃと思って…。」
「あれはねーだろ!小学生か俺は!」
男の怒鳴り声にすっかり慣れてしまった藤井はくすくすと笑った。
「ご、ごめんなさい。そうですよね。」
ったく。と悪態をつきながら三井も悪くない気分だった。彼女の笑顔は見ているとホッとするような優しさがある。
「三井さん。そろそろ…」
体育館に響く声で宮城がそう言うと、返事をして練習に戻ろうとした。
三井の遠くなる背中を見るといつもこれで最後のような感覚に襲われる。
瞬間的に藤井は声をかけた。
「み、三井さん!あの。今日、なにか食べて帰りませんか?」
藤井のいつもより若干大きめの声に、なによりその内容に部員全員は彼女同様身体を硬直させ緊張した。
「あーダメ。俺金ないもん。」
……………
あまりにもあっさりした断り方にシンとなる体育館。それほどの事を言ったとはまるで思っていない男を部員は殴りたい衝動にかられた。
「あ、そうだ。お前俺ん家来いよ。送ってってやっからよ。」
「え?」
赤くなって顔をあげる藤井。
そんな会話を聞きながら部員は血の気が下がり、みなギクリと身体を振るわせた。
『この男。やるつもりだ…!!』
全員間違いなくそう思ったに違いない。
「親いるけどな。まぁ茶ぁくれー出るだろ。」
その言葉に藤井ではないホッとした吐息が体育館内から聞こえ、気付いた三井は不思議そうに首をかしげた。
「あれ?」
三井は自宅に着いた時ポツリと言った。
表札に『三井』とかかれた家は、真っ暗で人がいるようには思えない。
「どっか行ったか?まいーか。上がれよ。」
真っ暗な廊下に三井がつけた電気が眩しい。
藤井は男のあまりにも下心を感じさせない態度に身構えている方がおかしいのかなと思い始めていた。
リビングへ歩く三井は緊張する人間のそれとはほど遠い態度だ。
何度かこうして女友達、もしくは彼女と呼べる人間を家に招いたことは想像に易い。
ふとその考えが頭に浮かび少女の胸はちりりと痛んだ。
「しょーがねーな。ちょっと着替えてくるから待ってろ。」
はいと言う返事を待って二階へ上がる三井。
藤井はリビングをくるりと見渡した。ここで三井が生活をしていると思うとなんだかくすぐったいような嬉しさがこみ上げてくる。
かばんを胸に抱いたまま片手をテーブルに置く。
「おう、いいぞ上がって来て。」
ドキッと後ろを見ると、私服の三井が階段の途中から呼んでいる。藤井と目が合うとそのまま部屋へと上っていってしまった。
「し、失礼します…!」
「なんだそりゃ。」
藤井のかしこまった態度に噴出しながら三井は部屋のテーブルの前に座った。
ちょこんと藤井も座ると、キョロキョロ興味深げに見回す。
意外にもきれいに整頓されている部屋は、テーブルとベッド、そして机がある以外は何もなくシンプルな印象だ。
バスケット選手だと思われる大きなポスターが三井らしい。
いつも彼からかすかに香る香水の匂いがして少女は頭がクラクラするほど緊張した。
何よりも私服である。新鮮な上に格好いい。
「あんま見んな。散らかってるから。」
そう照れくさそうに言うと立ち上がる三井。
藤井はすでに口を押さえて走り回りたいほど気持ちが高揚していた。
「飲みモンくらい持ってきてやらぁ。何がいい?コーヒーと紅茶しかねーけど。」
ふと藤井を見る。やや興奮気味の顔を見て突然違和感を覚えた。
二人っきりで場所は自分の部屋。これは少しヤバイ状況ではないだろうか。
急に顔が熱くなるのを感じる三井。どうしたことかこんな場面になって突然藤井という女を意識し始めてしまった。
そんな三井に気付かずワクワクと自分の飲み物を決めている少女。
「おい藤井!てめー早く決めろ!」
焦燥感と妙な苛立ちで急かすように言うと、藤井は目を丸くして三井を見た。
「な、なんだよ。」
「いえ、あの名前、覚えてくれてたんですね。」
「なんだそんなことか。」
何事かと緊張した肩をふぅっとおろす。
「だって、いつもお前とかだから…。」
そういうと目を細めて笑った。三井は慌てて目を逸らす。ヤバイ。ドキドキしてきてしまった。
「お、お前なぁ!茶ぁ飲んだら帰れよ!」
「え?」
「もうおせーだろーがよ!親がっ家族が心配すんだろ!」
真っ赤で慌てる三井を見て口に手を当てるとくすくすと笑う。
「ふふ、三井さんって照れ屋さんですよね。」
「あぁ?なにぃ!?」
「ほらぁ。すぐ赤くなるんだもん。」
あははと軽やかに笑う声で更に顔を赤くする三井。
「おめーだってすぐ赤くなんだろが。」
そう言われ藤井は反射的に両手で顔を隠してうつむいた。
「あってめーずるいぞ!見せてみろよ!ほらこっちむけ!」
向けるわけはない。赤くなるまいとすればするほど顔が熱くなるのがわかる。
「!?きゃっ…」
見ることに夢中になった三井は顔を覆った手をつかみそのまま拍子に彼女を後ろに倒してしまった。
「!!???」
どう解釈しても男が女を組み敷いている図。藤井はいきなりのことに声が出ない。
「オラ見ろよ!お前の方が何十倍もあけーじゃねぇかっ!!!…よ……。」
これ以上ないほど顔を赤くさせている藤井を見て勝ち誇った顔で笑っていた三井は、この状況をやっと理解したらしかった。
耐えるように斜め方向の宙を見ていた瞳が、おずおずと三井の視線と絡まる。
小さな吐息、赤い頬、潤んだ目に床に流れる黒い髪。視界に映る全ての彼女が艶やかしく、目を逸らす事ができない。
が、無理矢理逸らすと女を組み敷いたまま舌打ちをして、いつもより更に苦い顔で息を飲んだ。
「三井さ…。」
『離してください。』と言いたかったのだろうか。少なくとも三井はそう言いたいのだと瞬時に思いそれを聞きたくなかった。
意を決したように目を見開き彼女を見ると、食らうような噛み付くようなキスをした。
ぼんやりと三井の思考が働く。
(これはマズイだろ。)
どこか頭の隅のほうで思った。が、止まらない。もはや体が一人で動いているようだった。
藤井は両目を見開き、焦りの表情で何が起こっているのか理解をしようとしている。
激しい三井のキスはただ藤井の味を確かめるように動いていた。
口が触れたことに驚いていた彼女の腹辺りがヒヤリと外気に触れた。そこから男の手が入ってくる。
「んっ三井さっ…ダメ、ダメです。」
ようやく逃れた強いキスから震える声を一生懸命振り絞る。
「いやか?」
息が荒くなった男は切なそうに聞いた。嫌ではない。そうではないが…
「い、嫌じゃないです…でも…。」
「でも?」
言いながらもスルスルとブラジャーまでたどりついた手はそのまま中へと侵入する。
「あっ…んんっ…!」
無骨な長い指が胸の中心部分に触れ、思わず声が漏れた。
「藤井…。」
三井の低い声。こちらを見ていると分かり更に羞恥心が高まる。こんなことで喘いでいる様なんて見られたくない。
唇を噛んで顔を横に背ける。そんな彼女の頬を愛おしそうに指でなぞると、そのまま制服を胸の上までたくし上げる。
「やっ…!」
驚き、慌てて両手でさらけ出されたブラジャーを覆い隠す。
「いやなら言えよ。…やめるから。」
覆い隠す手をいともたやすく押さえ込みながら、男が背に手を回すとはらりとブラジャーが落ちた。
目の端にそれを捕らえ未知の体験に言い知れぬ恐怖が襲ってくる。
「!?あっ!んっ…はっ…」
そんな藤井の気持ちをお構いなしに指に触れる突起を軽くつまんだ。
薄い桃色の小さなそこを指で撫で、つまみ上げる。藤井は声を抑えながら胸から来る初めての感覚に自然と身体が熱くなるのを感じた。
足を折り曲げ、縮こまる体勢をしていたため、少しスカートがめくれ上がっている。三井の熱い手が細い足を伝いながら付け根へと移動する。
「え?…あっ!」
慌てて三井の腕をつかみ、その動きを止めると、眉を下げ懇願するように見つめた。
赤い頬は女の色香を増し、加えて弱々しい姿を見ると三井の悪戯心が動き、口の端で笑った。
藤井の手を取り、彼女の胸に押し当てる。
「ほらわかるか?ココ、勃ってるだろ?」
三井の手に動かされ、固くなった乳首を細く白い指が交差する。
初めて知る自分の身体の反応に驚きながらも敏感になったそこは自分の指でもびくびくと反応した。
「やだっあ…んっ、あっ!」
「いい声だな。もっと聞かせろよ。」
喉元で笑いながら、からかうように言う低い声で一層身体が熱くなる。
「ひ…どい、です…。」
喘ぎながらなんとか出した言葉。彼女なりの精一杯の抵抗であったが、
かわいらしいその仕草は単に男の気持ちを昂ぶらせるだけだった。
たまらず男が口に乳首を含むと藤井の抑えていた声が大きくなった。
コロコロと舌先で転がすと軽く噛み、ちゅっと吸い上げる。
そのまま上の制服を脱がす。上半身露わになったが藤井はぼんやりとして気付いていないのかもしれなかった。
もう片方の胸をいじっていた手が先ほど止められた足の付け根へと向かう。今度は抵抗はなし。
おそらく胸からくる快感で頭が一杯なのだろう。それを良いことに下着の上から熱くなったそこを引っかくように触れた。
「えっ!?あっ…ダメ…!!」
クリトリスの部分を爪の先でカリカリと軽く擦ると彼女が喘ぎながらのけぞった。同時に液が大量に溢れてくるのが分かる。
「すげぇ。ちょっといじっただけでお前、すげー濡れてるぞ。」
「ぃ…やぁ、言わない…でっ!あぁ!」
「直に触ったらもっと濡れんだろうなぁ。なぁ藤井。」
「あっ!!う…んんっ!あぁっやだぁ!」
意地悪く笑いながら下着の端から指を差し入れる。途端に粘液が指全体を覆い、容易に動けるようになった。
指の腹で擦り上げると彼女の声が大きくなり腰が少し浮く。
たまらない思いでスカートと下着を脱がした。
「あっ!?三井さん!!」
押し広げられた足に妙な違和感を覚えて見ると、三井が足の付け根に顔をうずめている。
慌てて起き上がると男を止めようとする。
「やだやだっやめっ…んっ!!」
それを制すように敏感な部分に口をつけると軽く吸い上げる。
それだけで力が抜けた藤井は両手を必死で突っぱねて快感に耐えている。
「どんどん溢れてきやがる。見ろよ藤井。なんでだろな?」
恥じらう藤井がもっと見たくて、そんな質問をする。
うつむいていた彼女は肩で大きく息をしながら、焦点が合わない潤んだ目でぼんやりと目の前の男を見るともなく見た。
「…って…」
絶え間なく押し寄せるように快感を与えられていた藤井はやっと解放され、ぐったりして見える。
「だって…すごく気持ちいいから…」
言い終わる前に三井は藤井にキスをした。
彼女としては朦朧とする意識で素直に今の気持ちを言ったのだろう。
が、三井はその素直さに身体が熱くなりもはや我慢の限界だった。
荒々しく男が服を脱ぐと押さえつけられていたモノが現れた。
それを見た藤井は一瞬で頭が冴える。
あんなに大きなものが自分の中に入るのだろうか。熱くなった身体が瞬間冷めるのがわかった。
ぐっと自分の中心部に押し付けられると全身から血の気が引く感覚がする。
「み、三井さ…。」
「いれるぞ。」
「あ…三井さん…。」
祈るような気持ちで名前を呼ぶ。そんな藤井に気付き男は顔を上げた。
「…いやか?」
ここで止めるのは男として非常につらいところではあるが無理矢理はそれ以上に嫌だった。
三井の言葉を聞いた藤井の目にみるみる涙が溜まっていくのがわかる。
「い、嫌なんかじゃな…。でも、怖い…怖いんです。」
震える声で言うと両手で顔を抑えて恐怖に耐えている。
ただただ怖かった。痛みはもちろんだがそれ以上に、全てが変わってしまうような、
言葉に出来ない不安が彼女の体温を下げ、身体を震わせている。
「藤井。」
低く哀れむようにつぶやきながらそっと彼女の頬に触れる。
藤井はその男の体温に驚き、両手を顔から離して真剣な顔を見つめた。
三井もまたかすかだが震えている。先程まで温かかった手は冷たく、別人のようだ。
「俺だって怖ぇよ。」
かすれた笑い声。震えを止めるようにぐっと拳を作ると軽く藤井の唇にキスをする。
この純粋で穢れを知らない少女を、自らの手で侵していいものか。彼女の人生を変えることにはなるまいか。
今まで感じたことのない責任感が男にのしかかってくる。
が、気持ちは固まっていた。何があっても、どんな責任を背負っても彼女を抱きたい。
「…大丈夫。なんも変わらねぇから。」
優しく髪を撫でる。それは自身に言い聞かせる言葉でもあった。
「お前が好きだ。」
三井自身、あぁそうなのかと納得するほど自然に出た言葉だった。
じっと三井を見ていた藤井の目から涙が溢れてくる。雫が流れる頬にそっとキスをしながらゆっくりと侵入を開始した。
華奢な身体がビクリと震え、全身を固まらせて痛みに耐えている。
「息しろ。力むと痛むぞ。」
素直にぎこちなく呼吸をする藤井。引き裂かれるほどの痛みが全身に広がる。
知らず爪が三井の腕に深く食い込む。
しばらくするとピタリと三井の身体が密着したことに気付き、彼女は大きく呼吸をした。
目から絶えず涙が溢れている。
「いてーか?」
心配そうに覗き込む三井。その顔を見て藤井はふわりと身体を浮かせると男の頬をそっと引き寄せ自らキスをした。
驚いた男は自分の胸に顔をうずめる少女の、揺れる黒髪を見つめるしか出来ない。
うれしい
と荒い息の下、小さく聞こえた。
同じ想いの男は優しく強く彼女の柔らかい身体を抱きしめた。
「ほら。」
ぽいっと投げられた下着を慌てて布団の中に隠しながら藤井は顔を赤くした。
「照れるこたぁねーだろ。さっきまで素っ裸だったくせによ。」
「やっ、やめてください!」
耐えられないといった表情でうつむき、一層布団で裸を隠す。
ごそごそと布団の下で服を着ているのを横目で見ながらくっくっと笑う三井。
「お前さぁ。冬の選抜見に来いよ。」
「え?」
唐突な言葉に布団から顔だけ覗かせてこちらを見る姿がかわいらしい。
「好きなんだろ?シュートの音。」
照れくさそうに頭を掻く三井。未だ少年のような笑顔を作る。
「聞かせてやるから、あの音。」
そう言うと少しうつむき加減になった。
少女は胸の奥のほうからうれしさがこみ上げてくるのを感じた。
「はい。」
目を細めにこやかに笑う。
それは花が咲いたような笑顔で。