中学が同じだった流川とは、いつも帰り道が一緒になる。意図せずとも、一緒に帰ることになる。  
それを特に意識したことは無かった。(すでに習慣だったので、先日晴子ちゃんに羨ましがられてその事実を再認識したくらいだ)。  
だいたい、分かれ道になるまでお互い無言でいたりするし(しかもコイツは歩きながら寝ていたりする)、  
会話が成立しても話題は常にバスケバスケバスケ、だ。色気なんて介在しないし、そもそもさせる必要がないのだ。  
(だから流川親衛隊が私を嫉妬の視線で刺し殺そうとするのは全くのお門違いなのだと強く主張したい)  
 
そう、私と流川の間には色気なんて介入させる必要が無いのだ。だから。  
 
流川が私の部屋で寝起きするようになったとしても、特に問題は無いのだ、と、思う。  
 
 
* * *  
 
 
その日は本当に、特に何もない日だった。  
あんなことさえなければ思い出にだってならないような、あまりにも平凡な一日。  
いつものように学校行っていつものように授業受けていつものように部活動に勤しんで。  
模範的な高校生活というのを一通りこなせば、あっという間に帰宅時間だ。  
いつものように私はいつもの帰り道を歩き、いつものように流川は私の後方で半ば眠りながら自転車を押して歩いている。  
そして、いつものように会話が無いまま三叉路に到着。  
いつもの挨拶。  
「じゃあね、流川。また明日」  
「…ウス」  
私はいつものように直進し、流川はいつものように自転車にまたがって右に行く―――はずだった。  
 
 
 
そのはず、だったのだけれど。  
 
どういうわけか、流川は自転車を押して直進し続けているのである。おそらく意識は夢の中なのだろう。  
起こそうかどうか一瞬だけ考えて、結果考えるまでも無く放置することに決定。  
何故ならこいつは無理に起こすと物凄く不貞腐れるのだ。それはめんどい。かなりめんどい、のでやらない。  
まあ、流川がこっちの道を通ってもちょっと回り道になるだけだし、問題無し。  
 
そんなわけで、少々イレギュラーな事態は発生したけれど特に問題も無く私は自分の家が見える辺りまでやって来た。  
さすがにここで声をかけてやらないのは先輩として不親切なので、私は後ろを歩く流川に声をかける。  
 
「ちょっと流川、起きなさーい。寝ぼけてるわよー家に帰れなくなるわよー」  
「…」  
「るーかわー。おーきーろー」  
「………」  
 
あら、起きない。いつもはこれぐらいで『…………寝てないッス』って不機嫌そうな答えが返ってくるんだけど。あらら?  
 
(…やっぱりあれかしら、この子はスタミナ不足気味だし日ごろの練習で疲れてんのかしら、やーねーどうしたもんかしら。  
流川用の練習メニューでも組もうかしら、それとも食生活の改善からはじめたほうが良いのかしら)、  
だなんて、うっかり思考がバスケになってしまって流川を再度起こすのが疎かになっている内に、自宅の前まで着いてしまった。  
仕方ない。流川の様子は一向に変化無しだし帰宅出来るかどうかも怪しいし、私が流川ん家まで付き添ってやんなきゃかな。  
「るかわー、起きろー起きなさーい。あんたん家までついてってあげるから、歩きながら起きなさーい」  
言いながら私は家の前を素通りする。  
どうせ一人暮らしだから気兼ねする相手もいないし、これもマネージャーの仕事の内だと思おう。  
 
不意に、後ろを付いて来ていた足音が聞こえなくなって振り向けば(そういえば今日の帰り途中、こいつの顔なんて見ていなかった)、  
流川が自転車ごと私の家の門の中から不機嫌でも不貞腐れてもいない顔をこちらに向けていた。…あらら。  
「…あんた、いつの間に目を開けながら眠るなんて特殊技能を身につけたのよ?」  
「…………………寝てないッス」  
「しかもさらに寝言を話す、なんてほんとあんた妙なところで器用ねー」  
「………………………………………寝てない、ッス」  
 
 
…………はいはい。  
 
 
 
はいはい、と応えながら私は門へと向かう。  
しかしウチのルーキーはどうしてこんなによく眠るんだろう。(まさかまだ成長期?)、  
さすがにここまで寝癖が酷いと心配になってくる。(背が伸びる分には一向に構わないのだけれど)、  
ひょっとして夢遊病の気があるのかもしれないし、病院に連れて行くことも検討しなくては。(今度赤木先輩に相談してみよう)、  
今は私の家だから良いものの、まるで関係ないお宅に不法侵入して警察沙汰にでもなったら退会出場にも影響が出てしまう。  
「ほーら出ておいで。そこあたしん家だから」  
あんたの家には今から行くのよ、と続けながら流川のハンドルを引き寄せた。が、動かない。ビクともしない。  
見上げれば流川と目が合う。あれ、ほんとに起きてる。いつから?  
周りが暗いからぼんやりとだけれど、流川は試合以外で見るのは極稀な、真剣な顔をしているようにも見える。  
 
「…………………………腹減った、ス」  
 
あんた幾つよ。お腹がすいて動けないとかいう年齢じゃないじゃないでしょう、さすがに。  
「家帰って食べなさいよ」  
「親、懸賞当たって旅行行くって」  
「世の中にはコンビニ弁当というものがあるじゃないの」  
「金欠」  
「ざけんなよ」  
要約するとなんか食わせろってことですか。  
いくら私が働きたがりのマネージャーだとしてもそれはどうだろう。  
流川が中学からの後輩だとしても、さすがに立派な男子を一人暮らしの家に招きあげるのは不味いんじゃなかろうか。  
例えば、ご飯と一緒に私も食われるとか…いやいやいや、無いわーありえない。(だってバスケ部だし。バスケ馬鹿だし。流川だし)。  
 
「ちなみに、なんか食べたいもんある?」  
「じゃこご飯」  
 
ほら、だって食べたいものはじゃこご飯だし。身の危険を全く感じないセレクト。  
 
「じゃこご飯以外」  
「別に…………………じゃこご飯食いたい」  
どこの猫よあんたは。そんなんだからスタミナ不足なのよあんたは。自己管理も大事なのよルーキー。  
 
「食生活の面倒はさすがにマネージャーの仕事じゃ無い気がする…けど」  
くそう。お前は大事な戦力なのよ流川…!  
「わかった、寄ってきなさいよ。でも好き嫌いは無しだから」  
 
じゃこご飯の他もきちんと食べるのよ、と指差しして命じれば、ウスと神妙な返事が返ってきた。  
 
 
 
靴を脱いで、玄関の電気を付けて、上がんなさいよと声をかけたら「おかえんなさい」と返された。  
それは客の台詞じゃないと思ったけど、誰かにそう言ってもらうのは久々なのでちょっとこそばゆい。  
 
 
なんだか照れくさくなりながら、私もきちんと挨拶を返す。相手は流川だけど、まあいいか。  
 
 
 
「うん…ただいま」  
 
 
 * * *  
 
 
流川にお茶を出して2階の自室で着替えて再び階下へ。  
「あんたが食べたいじゃこご飯ってどんなのよ?炊き込み?」  
手早くエプロンの紐を締めながら注文を聞いてやる。  
久しぶりの来客だし、料理するのは嫌いじゃないし。リクエストに応えてやらんでもないわよ。  
 
「………じゃことご飯なら、なんでもいい」  
 
…だからなんだそのじゃこへの執着は。腕の奮い甲斐が無いやつ。  
 
それじゃ取り敢えず腹の繋ぎにと、冷凍しておいたごはんを電子レンジにかける。  
温め終わるのを待つ傍ら、じゃこに鰹節と醤油を加えれば準備完了。  
チン、とレンジが鳴ったらごはんを取り出してほぐしてじゃこを加えて三角に握って、はい。出来上がり。  
流川を食卓に座らせて出来立てほやほやを出したら、おお、とらしからぬ反応をされてしまった。  
こんなおにぎりに感動するなんて。よほどお腹が減っていたらしい。  
 
「ひとまずこれでもお食べ」  
「…ウス」  
 
ペコリと頭を下げて、流川は黙々と食べ始める。  
私は次の料理に取り掛かるため、食材の確認をするべく台所へ戻った。  
 
 
 
オーブンとコンロとレンジとグリルのフル稼働、なんて一人暮らしではなかなか新鮮な光景だ。  
オーブンではツナとじゃがいものグラタン、コンロ上の鍋には野菜たっぷりのミネストローネ。  
流川がおかわり希望のじゃこおにぎりのために、もう一度冷凍ごはんを電子レンジでチンして。  
甘夏とアスパラを使ったサラダはもう完成しているし、魚焼きグリルは明日の弁当用に塩鮭を焼いている。  
 
うん、これでなんとかなるんじゃない?  
 
使える動物性蛋白質がツナ缶とベーコンだけしか見当たらなかったけど。  
単なる繋ぎのはずのじゃこおにぎりにストックの冷凍ごはん全部使う羽目になったけど。  
運動部所属の男子高校生がどれだけ食べるのかなんて知らないから作り過ぎたかもしれないけど。  
 
料理はそれなりに栄養バランス取れてるはずだし。  
予定の30分以内に出来上がりそうだし。  
明日の弁当の準備する余裕まであるし。  
もしも余ったらタッパーに詰めて流川に持たせてやれば良いし。  
自分以外の誰かの分まで料理するのは、楽しかったし。  
 
…うん、まあ悪くないんじゃない?  
 
ごうごう、ぼうぼうと音の止まないキッチンの真ん中で、私は自分の仕事に満足して微笑んだ。明日のお米を研ぎながら。  
 
 
 
 
言いたいことは、たくさんあるんだ。  
 
 
 
 
センパイはやさしい。  
 
センパイは照れ屋だ。  
 
センパイは料理が上手い。  
 
センパイはかわいい。  
 
センパイは、  
 
 
 
 
……………センパイ。  
 
 
 
 * * *  
 
家で誰かと一緒にご飯食べんのってひさしぶりだわと、食事の間ずっとセンパイは笑っていた。  
センパイはよく笑うが、それはいつだって全然わざとらしくない。出し惜しみしない代わりに大げさに笑いすぎることもしない。  
いっつも気持ちの分だけ笑っているような、そんな不思議な笑い方をするのはセンパイくらいしかオレは知らない。  
 つまり何を言いたいかというと、食事のあいだ中笑える程度にはオレもセンパイの役に立ったということだ。  
 
 
約束通り残さず夕飯を食べ終えた。  
それを確認したセンパイは足りなくはないかとオレに聞き、オレは心配させたくなかったから正直に、  
いつもはこんなに食べないと答えたところ「だからあんたはスタミナ不足なのよ」と叱られた。  
特におにぎりが美味かったと感想を言えば肩をすくめながら微笑まれた。  
 センパイは、見ていて飽きない。  
 
 
その後センパイは食器の片づけを行い、オレもちょっと手伝ったが客だからということで居間に追い払われ、  
家まで送るからそこで大人しくしてなさいと、でかいソファででかいテレビを見て待つことになった。  
薄い画面の中では、センパイによく似た主役らしい女優が銃を撃ちまくっている。  
 
オレはこの映画もこの女優も知らなかったが、女優がぴっちりした灰色の衣装を着ているせいで  
チャンネルを切り替えることも出来ず、そのままCMが始まって終わって、再び再開された画面の  
右下に表示されるタイトルでそれがシリーズの第二作目だということを理解した。  
 
 
 
「おまたせー…あ、これやんの今日だったんだ」  
見損ねちゃったわと笑いながらセンパイがオレの横に座った。  
ソファはでけえだけじゃなく沈むかと思うほど柔らかで、だからもしオレが目を閉じていても  
その傾き方でセンパイがすぐ隣にいるってことがわかっただろう。  
そんな風に測れてしまう距離というのは、映画を見るため先輩が沈黙したせいで余計に、  
なんというか、なんだか居心地が悪いような良いような妙な感じだ。これは、マズい。  
思わず口を開く。この沈黙を破りたい。  
 
「センパイ」  
「んー?」  
「これセンパイに似てる」  
画面を指差すと、ちょうど主演女優の顔がアップになった。  
テレビがでかいせいで、女優の厚い唇がオレの顔くらいの大きさだ。  
「ほら」  
そのままセンパイを見ると、テレビとおんなじ顔が目を丸くしている。  
「………あんた、そういうことが言えるようになったのねー」  
人って進歩するのねーあんたあたしの知らない間に社交的になってたのね。なんて。違う。  
にこにこ、ほんとに嬉しそうな顔をして。そんなこと言うな。  
 
「…嘘じゃねえ、」  
イラついてテレビの方を向く。だせえとは思っているが抑えられない。  
オレがすねたのを見たセンパイがなだめるみたいに、  
「でもあたしこの女優けっこう好きだし。ありがとね」。  
よしよしと頭をなでられた。  
 
 ああ。オレは余計に惨めな気分になる。  
 
 
 
確かにオレはガキだ。どんなに足掻いても、それが変わるわけじゃねえ。  
オレがどんなにでかくなってもセンパイがオレより一年長く生きている事実とかを変えれるわけじゃねえし、  
オレが何本シュートを決めたからといってその差を埋められるわけじゃねえ。  
だけど。  
もう、子供でいるのは十分だ。  
こんなことを考えてるオレはやっぱり間違いなくガキだけど、でもガキだからそれを抜け出したくてしょうがない。  
センパイはガキの面倒を見るのが上手だが、別にオレは面倒見てもらいたいわけじゃねえ。  
 
 だから、オレはもうガキではいられない。  
 
 
まだオレの頭の上に置かれている手を取り、センパイに体を向けた。  
オレの手の中で、センパイの手が大人しくしているのをじっと見つめる。  
ハイタッチではわからなかった。ひんやりして薄い、センパイの手。  
細い手首に視線が移って、そのままセンパイの顔まで上る。目が合う。  
座席の上で器用に胡坐を組んだセンパイが小首を傾げてオレの表情を見つめている。  
 …センパイはオレの機嫌がもう直ったかなと、読み取ろうとしている。  
 
 
                 ……………ああ。  
 
 
 センパイは、にぶい。  
 
オレは手を掴んだまま脱力した。  
 
 
 
結局、最後まで一緒に映画を見た。  
放すタイミングを失ったオレの手はまだセンパイの手を掴んだままで、内容なんか頭に入らなかった。  
 
横顔をずっと見ていたら、番組が終わってようやく視線に気付いたセンパイがこちらを向く。驚いた顔。  
「あちゃ……あんたのこと送るのすっかり忘れてた。ごめん流川、このメールだけ打っちゃうからちょっと待ってて」  
首を傾げながら言わないでほしい。ついでに立てた膝の上にあごを乗せないでほしい。  
オレが勝手に焦ってるだけだって、わかっているけどなんでこんなにぶいんだ。センパイはずるい。  
 
 
了解の代わりに、繋いだ手のひらを親指で押す。  
「あ、それちょっと気持ちいいかも」  
ふふふと笑いながらセンパイはメールを打っている。  
 
 
…センパイは、ずりい。  
 
 
 
心底そう思った。  
 
 
 
ぱたん、と携帯がたたまれる。立ち上がってセンパイがこちらを振り向いた。  
「流川おまたせ。さーあ、帰るわよ」  
握った手をくいくいと引き寄せられる。オレとセンパイの手は繋がったままだ。…そう、まだ。  
でもオレが大人しく今この手を放したら、センパイはあっさり手を繋いでいたことを忘れるんだろう。  
そんであっさりオレを家まで送ってくれるんだろう。むかつく。  
まだ帰りたくねえんですけど。もう少し一緒にいたいんですけど。  
言いたいことはたくさんあるけど、何から言えばいいか何をどう言えばいいかわからない。  
 少し頭の中で考えて、すぐに諦めた。  
 
「……めんどい」  
「めんどいじゃない!」  
誤解したセンパイがオレの頭にチョップする。誤解だけど嘘じゃない、のでまあいい。  
オレは帰りたくない。  
「ほらー立て!立つんだるかわー!!」  
オレの左手も掴んだセンパイが、燃え尽きるなー!と言いながら繋いだ両手をぶんぶん揺らす。  
「ヤダ」  
「なんでよ?」  
「…めんどいから」  
「めんどくないって。あたしが送るからだいじょぶだって。むしろめんどいのあたしじゃない?」  
「……じゃあ、ここに泊まる」  
「お嫁に行けなくなっちゃうからだめー」  
「………………………幸せにします」  
「だからどうしたのよその人としての進歩っぷりは? とにかく帰ろうって…あ、ちょいたんま。電話だわ」  
テーブルの上で震える携帯電話を取り上げて話しだした。センパイが握っているのはまたオレの右手だけになる。  
「―――…うん、さっきのメールにも書いたけどさ……うわー、マジで?……うん、……」  
話相手のかん高い声がオレにも聞こえた。電話口の女はかなり荒れているらしく、センパイがなだめたり励ましたりしている。  
「―――――…うーん、でもやっぱり………あ」  
オレがそばにいるのを思い出したセンパイが離れたところに行こうと手を解こうとする。  
あまりオレに聞かせたい話じゃないらしい。小さいがするどい声で「流川、手ぇ放して」と言われた。  
首を横に振るオレ。目で圧力をかけてくるセンパイ。首を横に振るオレ。  
「キョーミ、ないから」  
そう言って繋いだ手をソファの方へ引き寄せる。さっきから立ちっぱなしだったセンパイは、ソファを見てオレの顔を見て、  
オレが言った言葉の意味を解釈するのに少し考えた後、ため息をついて横に腰掛けた。そのまま電話の続きをはじめる。  
 
手はまだ繋がれたまま。そう、まだ。  
 
スンマセンと言う代わりに、さっきのように手のひらを押してみる。  
センパイがちょっとだけこっちを見て、オレの手を軽くつねった。  
 
 
電話の女はなかなか話を終わらせようとしない。  
その間オレはセンパイの親指の付け根あたりを押し続け、センパイが時折思い出したように手を握り返してくれるのをじっと見て待った。  
 
「―――…いやー、それは止めときなよ………」  
センパイの声は疲れ始めている。  
もうすぐ日付も替わるが、そうなればオレはともかくセンパイにとってもかなりの夜更かしだろう。バスケ部員は夜が早い。  
まあ、明日からテストの準備期間で部活が休みになるのでオレは問題ない。いや、違う、あった。  
ここで帰るとしばらく部活でセンパイに会えない。やっぱり帰れねえ。  
 
「―――…え、今から?ウチ??」  
センパイの声が跳ね上がった。オロオロとさまよった視線がオレを見る。  
「あー…いやー……、ウチはちょっと…」  
言った途端電話口から聞こえる声が倍になった。  
電話の女はセンパイの家に泊まりこんでまで自分の失恋を慰めさせたいらしい。なんだそれ。  
 
電話はさらにしばらく続いた。  
 
 * * *  
 
「―――………………わかった。あんたん家どこらへんだっけ?バーミヤン?…………ああ、了解。10分で行く」  
あれからどれだけ経ったろう、ついに折れたセンパイが電話を切る。そのまま液晶に表示された時計を確認して首を横に振った。  
 
 …センパイ疲れてるし、一人で帰るか。  
 
「…センパイ、」  
「流川ごめん!泊まっていいからチャリ貸して!」  
「…え」  
「上の客間使っていいし、あ、風呂も好きにしていいから!だからチャリ貸してちょうだい」  
「…お」  
「お?」  
「……………………オス」  
「ありがと!」  
 
思わず差し出したチャリカギを受け取って、センパイはにかっと笑う。そしてそのまま玄関へ走って行った。  
あっという間の展開についていけないオレは居間で一人、ついに放された手をぼんやり眺める。  
 いや、手は放れたけど。  
玄関先からセンパイの声。  
 
「いってきまーす」  
「……らっしゃい」  
 
寿司屋かよ!と言って笑う声とドアの閉まる音。  
 
 
…まあ、いいか。帰んなくてすんだし。ねみーし。  
 
 
オレ階段を上って客間へ向かった。  
 
 

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