目を開けた晴子に驚くべき状況が待っていた。  
薄暗い部屋で間近にある三井の顔。  
なぜか同じ布団で寝ている。  
反射的に身体を離すと男のまぶたがうっすら開いた。  
「…るせーな。みんな寝てんだぞ。」  
迷惑そうなヒソヒソ声で言うと、また目を閉じる。  
必死で状況を把握しようとする晴子の頭に昨日の記憶がよみがえってきた。  
 
昨日はほとんどの部員がキャプテンの赤木の家に集まり騒いでいた。  
ゲームなどをしていた部員もその内一人一人眠りだして…。  
思い出した晴子の耳に部員のいびきや寝息が聞こえてくる。  
「え?え?な、なんで三井さんと私が一緒に…。」  
ぐるぐると回る疑問が思わず口に出た。  
反応して、面倒臭そうな三井がまた目を開ける。  
「布団ねーんだもんよ。あんなでかいやつらとは寝れねーし。」  
少しだけ出した指でちょんと指した先に赤木や流川、桜木が見えた。  
2人がいる位置は部屋の隅の方で部員たちとは少し離れている。  
「いーから寝ろよ。赤木に気付かれたら俺殺されるぞ。」  
(分かってるならなんで同じ布団で寝るのー!?)  
あたふたする晴子を三井は片目を開けて見た。  
「?お前緊張してんの?」  
「そっそんなんじゃないです。」  
男の小ばかにしたような言い方が引っかかってなぜか強く否定してしまった。  
(緊張してます!そりゃあするでしょう!?近いんだもん!体温伝わってくるんだもん!!)  
言えなかった思いをこれでもかというほど頭の中で叫ぶ。  
 
「…なんだ。お前経験ねーのかよ。」  
お茶を含んでいたらきっと晴子はお約束のように噴出しただろう。  
「あ、あ、あ、当たり前でしょう!?」  
かぁっと頬が色づく。眺めながら三井はまた馬鹿にしたように口の端で笑った。  
「まぁずっと流川流川って言ってんだから当たり前かー。」  
晴子は完全に目が覚めた。でも視界は目の前の男のせいでクラクラと定まらない。  
「なぁ、それって欲求不満になんねーの?」  
本当に疑問だと言わんばかりに不思議そうに覗き込む三井。  
あんたそれしか頭にないのかと突っ込みを入れながら慌てて晴子が否定する。  
 
 
「な、なりません!女なんだから!!なるわけないですよ!!」  
「何言ってんだ女だって性欲あんだぞ。男より旺盛なすばらしい女もいるんだ世の中には。」  
「うそばっかり。そんなわけないです。」  
「あのな、やったら気持ちいいの男だけじゃねーんだぞ。むしろ女の方が気持ちいいらしいぞ。」  
「えっ。そうなんですか?」  
思わず喰らい付いてしまう。  
三井はそんな反応を見逃さない。  
周りに経験者がいないこともあって、彼女には性教育程度の知識しかなかった。  
興味も人並みにある。  
「お前だって欲求くらいあるだろ。流川にキスして欲しいとか触ってもらいたいとかって思わねぇ?」  
「それは…。」  
正直、思う。流川を想う度に触れられたいと願うが、  
その都度なぜか悪い感情のように思いずっと押し込めていたことだった。  
「だろ?」  
晴子はなんだかぼんやりしはじめていた。  
やんわりと言う三井の声に促されるように、小さくうなずく。  
先ほどまで顔だけが熱かったのだが、今や身体全体が熱を帯びている。  
自分でも否定していた思いを認めたことで少し興奮しているのだろうか、呼吸がかすかに荒くなった。  
この暗闇と誘うような低い声が晴子の思考を奪い、彼女を素直で大胆にしている。  
三井にとってそれは思い通りの展開だった。  
経験のない女をその気にさせるのは簡単だ。  
性欲に加わって興味もある。なまじ経験豊富の女よりガードが薄い。  
「…お前興奮してんだろ。」  
潜めた笑いまじりの声が妖しい響きを持つ。  
「そっそんなことないです…。」  
一瞬強めた口調が甘く消える。もはや何か期待しているとしか思えない。  
女の唇が色濃くなる。同時にとろりと潤んだ瞳、耳に響く小さな吐息に三井の鼓動も早くなってきた。  
部屋に寝息とは別の2人の抑えた呼吸が混じる。  
シンとする部屋で、「う〜ん。」と言いながら寝返りをうった誰かに、  
晴子は身体をビクリと震わせそちらを見た。  
 
ひどくイケナイことをしている気がする。  
ちらりと流川が視界に入り急に沸いてくる罪悪感。  
それとは逆に余計興奮してしまう自身に小さく驚いた。  
 
 
「どれ。」  
「ぇっ?んっっ!」  
のんきな三井の声が響いたと思ったら突然無骨な指がスカートの裾から入り、晴子の中心部を下着の上から触れた。  
反射的に足に力を込めるが、男の指は止まることなくそこを押し付ける。  
「おぉ。しっかり興奮してんじゃねぇか。」  
くくっと笑う声と同時にぬるぬると下着越しに指が動く。  
「やっ。…ぁ…三井さ…、やっ止めてください…!!」  
「静かにしとけよ。気付かれたらヤベーから。」  
ドキリとして身体を硬直させた。ふいに頭に流川が浮かぶ。こんな所絶対に気付かれたくない。  
「分かるか濡れてんの。興奮すると女はこーなるんだ。」  
授業のような口調でからかうように言いながら、逃げようとする彼女を抱き寄せて身体を密着させる。  
快感に耐える晴子を見つめる様は、まるでおもちゃでも眺めるように楽しそうだ。  
どうにか声が漏れないように布団の中に頭を入れると、自然三井の胸にうずくまる体制になる。  
「お前こんなんでよがってたらもたねーぞ。」  
そう言うと下着の上から手を差し入れる。薄い毛を掻き分けて辿り着いた先を、粘液でまみれた指で軽く擦った。  
「んぅぅっ!!はぁっ…!!」  
「気持ちいいだろ。ここが一番感じるとこ。」  
三井の手首を握っていた晴子の手が、すがるように男の腕を握り締める。  
動くたびにビクビクと揺れる細い身体。  
布団にもぐる晴子の耳に、かすかな水音が聞こえてきた。  
「んっ…んっ…!」  
「がんばれよ。声出すとばれるからな。」  
人事のように笑いながら指の動きを早くする。  
「んー!!〜〜〜〜〜!!!」  
波のように押し寄せてくるものから逃げるように小さな肢体を伸ばす。  
が、変化に気付いた三井が下着からあっさりと手を抜いた。  
「お前早いよ。そう簡単にイかせるか。」  
「…ぇ…?」  
ぼんやりと見上げると意地悪く笑う男の顔があった。  
「!?きゃっ…!」  
突然上の服をブラジャーごと胸の上までたくし上げられて晴子は小さく悲鳴を上げた。  
「あ。思ったよりでけぇ。」  
慌てて隠そうとする手を押さえながらじっくりと眺める。  
 
男の目の前の白い胸が、ホックを外されてないブラジャーのせいで窮屈そうに形を歪ませていた。  
 
気付くといつのまにか男が覆いかぶさる体勢になっている。  
もし今部員が目を覚ましたら、必ずばれるだろうというほど不自然に布団が盛り上がっている。  
が、もはやそこまで考えられないほど2人の思考は鈍っていた。  
三井が桃色の頂点を口に含むと、甘い吐息が女から漏れる。  
温かな舌がくるりと乳首の周りをなぞると全身が痺れるような感覚がした。  
弄られているのは胸なのに、呼応して溢れる下半身の液体が下着を通り越し柔らかなももを伝う。  
先ほどまで触れられていた部分がたまらなくうずいてきた。  
晴子の思いがわかるのか、依然乳首を舐めながら男の指が足の付け根へと移動した。  
下着を脱がそうとすると、晴子は静かに腰を浮かしそれに協力する。  
三井の指があらわになったそこに触れるが、女はまるで抵抗しなかった。  
上体を起こした男は満足げに微笑み晴子の紅潮した顔を眺める。  
「えらく素直だな。どうした、弄ってほしかったか?」  
これ以上ないほど眉を下げた彼女は恥ずかしそうに唇を噛む。  
だがもう一度ちらりと男を見て、視線を逸らしながら小さくうなずいた。  
かわいらしいその様が、三井の中の感情を昂ぶらせる。  
 
(あ…。キスされちゃう。)  
静かに近づいてくる男に気付きぼんやりとそう感じる。  
きりりと胸が痛んだ。こんな時になって流川の顔がよぎる。  
まるで気持ちがない三井とこのような状態になっていて、  
今更どんな顔をして流川が好きだと言えるだろう。  
諦めにも近い思いで目を閉じる。  
(?あれ?)  
何も起こらない。  
不思議に思い目を開けると、三井の困ったような笑顔が映る。  
そのまま男は肩をすくめて彼女の丸い額に軽くキスをした。  
「あっ!」  
突然再開された下半身の刺激に、思ったより大きな声が出たが幸い誰も気付く様子はない。  
敏感な部分には触れず、ひだをなぞり焦らす。すぐにまた大量に溢れてきた。  
小さな両手で口を押さえ、必死に声を抑えている。  
「お前本当感じやすいな。すげぇエロい。」  
言いながらゆっくりと人差し指を中に侵入させる。  
「!?ぅぁっ…はっ…んんっ!!」  
指一本の挿入でも苦しそうに唇を噛む晴子。  
 
 
小さくかき混ぜながら敏感な部分を同時に弄る。  
「ふぅ…ぅ…んっはぁっ!!」  
「一緒に弄られるとちょっとイイだろ?」  
顔を背けた女の耳に大きくなった水音が響いてくる。  
「はっ、ぁっぅぅん…あっっ!」  
「おー。気持ちよさそうだなぁオイ。部員いるのにそんな感じていいのかよ。」  
「ぅっ、あっ、あ…み、三井さんなんか…きら…いっ…!っっ!」  
「なぁにが嫌いだ。こんだけよがっといてよく言うぜ。」  
そう言いながら指の動きを早める。  
「あっあっなんか変っ…だめっ…だめぇっ…」  
「…ほら。ちょっとこれ咥えてろ。」  
布団を晴子の口に持っていくと、漏れる声を押し込めるように強く噛んだ。  
「一番やらしいとこ見せろよ?見ててやるから。」  
変わらずからかうような声が聞こえた。  
白いもやが全身を覆うように侵食し、意識がどこか遠くへ飛んでいく。  
 
薄れる視界に、静かな男の顔が映る。  
ゆっくりと閉じたまぶたに残る、意地悪だがどこか優しい笑顔も  
消える思考と共に柔らかく消えた。  
 
「や、やっちゃった…。」  
頭の冴えた晴子はひどく落ち込んでいた。  
流川を好きな気持ちは確かなのに三井を求めた自分が信じられない。  
明らかに呆然とする晴子を見ながら驚いたように三井が言い返す。  
「やってねーだろうがよ!お前俺がどんな思いで我慢したと思ってんだっ。」  
不機嫌そうな三井を見ながらため息をする。  
「うゎ。マジでかわいくねぇ。あっお前キス嫌がっただろ。俺アレも我慢してやったんだぞ。」  
「え?」  
晴子は少し驚いた。  
キスに躊躇したことを口にも表情にも出さなかったが、三井はそれを見抜いていたらしい。  
「くっそーイラつく。無理矢理してやろーかコラ。」  
「ちょ、ちょっと三井さんっ!!」  
ふざけて覆いかぶさってくる三井の顔を突っぱねる。  
慌てる少女を見ながらイタズラする子供のように笑う三井と、また大きなため息をつく晴子。  
「あぁ〜でもキスよりもっとすごいことしちゃったんだもんなぁ…。」  
「?なんだよそれ?」  
きょとんとする三井を恨めしそうに見る。  
肘を曲げ手枕で横になった三井は空いた手で視線の先にある晴子の髪を撫でた。  
「お前さっきのこと言ってんの?」  
晴子の身体がビクリと震え、みるみる顔が赤くなる。  
「ばっか。お前ばか。キスの方がどう考えてもすげぇだろ。」  
「えっ?」  
意外な返答に彼女は男に向き直った。  
三井は髪を撫でる手を止めることなく淡々と話す。  
「いいか、キスってのは愛情だぞ?性欲がありゃセックス出来るけど、  
 キスとか手つないだりとかは愛情がないと出来ないんだぞ。どっちかっていうとスキンシップだし…。」  
「あ。」  
そう言われてみれば…だったらキスを躊躇ったのに三井を求めてしまったのも納得がいく。  
「さっきのなんてただの性欲処理だろ?お前俺使って一人エッチしたんだぞ。」  
「な、なんてこと言うんですか…。」  
慰めるために言ったのか、本気で言ったのかは定かではないが、  
それでも晴子の落ち込んだ気持ちが少し晴れた。  
 
ホッとしたと同時になんだか眠くなってくる。  
「疲れたんだろ?今日のこと、忘れてやるから何も心配しないで寝とけ。」  
心地よい手が優しく撫でるたびに眠くなってくる気がする。  
 
(そっかぁ。じゃあ流川君好きな気持ちもウソじゃないんだぁ。キスは愛情…。)  
まぶたの重さに耐え切れず目を閉じる。  
(あれ…じゃあなんで三井さんキスしようとしたんだろ。)  
ぼんやり彼女の脳裏を掠めた疑問も、やがて夢の中へと溶け込まれていった。  
 
 
次の日慌てて起きた晴子だったが、心配していた三井の姿は隣になく静かにホッとした。  
 
一人一人と起き出した部員の中に混じる三井が、目が合った途端不自然に顔を背ける。  
その頬が赤くなっているのに気付いて晴子もつられて赤くなった。  
(え?え?あれ??)  
激しくなった自身の鼓動を不思議に思いながら、彼女は熱い頬を両手で押さえた。  
 
 

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