「最近寒いよね。まだ十一月なのに」  
「ああ、もう冬が来たみてーだなぁ」  
「私まだね、夏が終わったのがつい昨日みたいな気がするの。……悔しいからかなぁ、それって」  
「うーん、悔しいっていうか、まだ燃えたりないってだけじゃないかな?」  
「そうかな?」  
「うん」  
「なら、そうなのかな」  
 
桜木の退院を一週間後に控えた日のこと。  
晴子は部活終了後の帰路を洋平と共にしていた。  
普段は途中までは彩子と、最寄り駅からは一人で帰るのだが(たまに心配してくれた兄が迎えに来てくれたりもする)、今日は洋平が校門で晴子を待っていたのだった。  
(一緒に帰らない?)  
少し驚いたが、断る理由なんてなかった。  
晴子はうん、と頷いて洋平と帰ることにした。  
 
晴子は気にも止めなかった。  
何故このタイミングで、洋平が自分に声を掛けたのかということに。  
 
「……ねぇ、晴子ちゃん」  
他愛ない話の途中だった。  
洋平が不意に足を止め、晴子を引き止めた。  
「どうしたの? 洋平くん」  
「アイツが……花道が、あの試合で言った言葉覚えてるか?」  
「え……」  
あの試合とは、山王戦のことだろうか。  
何故いきなりそんな話を? もちろん、花道が何を言ったのかは覚えているが。  
「『バスケットが大好きです』でしょ? うん、ちゃんと覚えてる。  
……あの時の桜木くんには、ドキッとしちゃったな」  
「……それだけじゃ半分、だな」  
「え?」  
(半分? 正解じゃ、ないの?)  
晴子は目をパチパチと瞬いて、洋平を見つめる。  
ふと、洋平の顔は今まで見たこともないような真剣な表情になっていた。  
 
 
 
凄みすら感じるような。  
 
「――晴子ちゃん」  
 
晴子の顔から微笑みが消える。  
 
「何……?」  
「アイツは、『今度は嘘じゃない』って言った。覚えてるか?」  
「あ……、うん」  
 
今度は嘘じゃない。  
そうだ。あの時、花道は確かにそう言った。  
けれど、それがどうしたというのだろう。  
 
晴子は洋平の視線を受け止めながら、どう答えればいいのか分からず、立ち尽くした。  
 
「……本当は、部外者の俺が言うことじゃねーンだけど」  
「……」  
「アイツは『今度は』って言ったんだ。最初は嘘だった、分かる?」  
「……うん。分かるわ、それは」  
「じゃあ、その理由は?」  
 
初めてあった日、花道がバスケを大好きだと言っていたこと。  
自分を経験者だといったこと。  
それが嘘だったことは、晴子にも分かっている。  
花道のプレイは、最初からあの日まで、経験者のそれではなかった。  
 
花道は嘘を吐いていた。  
それは、何故?  
 
彼の退院は一週間後、洋平は「部外者」ということ、最初からあの日まで続いた『嘘』。  
 
全ての点は線を成して繋がっていく。  
 
「……俺はさ、」  
「……」  
「二人が好きだよ。二人とも、見てて危なっかしいけど」  
「……何それ、酷いわ」  
「ハハ、わりぃ」  
 
答えが何かなんて、もう聞かなくても分かっていた。  
 
 

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