「おっ…と。」  
「ぁっすみませ……あ。」  
むしゃくしゃして衝動買いをしている最中。  
狭い店内でぶつかった相手は陵南の仙道だった。  
仙道も私が分かったようで、  
でも思い出せないのか私を指したまま口をぱくぱく動かし考えている。  
「あー…あーっと、ほら。ねぇ?海南の…さ、さ、佐々木さん。」  
「…湘北の彩子…。かすってもないんだけど。」  
「あはは、いや覚えてるよ。元気してた?」  
「そこそこ。じゃあ。」  
言いながら大きな男に背を向け服選びを再開する。  
穏やかに話せる気分じゃない。さっさとどこかへ行ってくれる事を願った。  
「偶然だね。買い物?」  
あっちへ行けというオーラを全身で出してんのに気付かないのんびり屋の仙道。  
さっと去るのも悪いと思ってんのかしら。  
「そうよ、でも今から帰るとこ。じゃあまた試合でね。」  
付いて来るなという睨みを利かせて店を出る。  
なぜかそれでも付いて来る男。  
「彩子さん、せっかくだしなんか食ってかない?」  
イラッとして振り返る。  
「あのね、私今日一人でいたいの。悪いけど付いて来ないでくれる?」  
やや厳しい言い方だった。  
それでも仙道は気にしていないらしく、  
大げさに身体を引いて困った子供をなだめる様な笑顔を作る。  
「なんかあった?」  
(こーゆー顔作るよね男って。なんでもお見通しみたいに大人ぶって結局包容力もないくせに。)  
どこまでもひねくれて解釈してしまう。  
「な・い。…いやあった。おおーきな事件があったけど、それってあんたに関係ないでしょ。」  
きょとんとする仙道を一睨みしてまた背を向ける。  
今度こそと、思いきり一歩踏み出した。  
「待って。」  
ふいに腕を掴まれたと思ったら身体がくるりと回った。  
気付くと仙道が私を抱きしめている。  
 
まず目に入ったのは道行く人の視線。  
「ちょっ…と!何考えてんの!?離して!!!」  
頭上からはははと能天気な笑い声が聞こえる。  
「フラれたんだ、彩子さん。」  
ギクリと身体が震えた。それが答えになったようで、見上げるとにっこりとした笑顔が返ってくる。  
 
「だから…なに。」  
「それ、付き合ってたヤツ?」  
「…………ん。」  
なに素直に答えてんだ私。  
考えないようにしてたのにどんどん湧いてきた辛い気持ちが全身を占める。  
ヤバイ泣きそう。  
タイミングよく仙道が私の身体を引き寄せる。  
「こんな美人なのに、バカだねそいつ。」  
肩にうずまる男の声が耳の側で聞こえる。  
適当な言葉と適当な優しさ。  
だけど弱ってる心をむき出しにするには充分の温かさだった。  
こらえていた涙がどんどん溢れてくる。  
周りの視線なんかもうどうでもよくなってきた。  
声を出さないように唇を噛み締め、  
泣いているところを見られないように仙道の腕を引き寄せる体制になる。  
しばらくそのままで大きな手が私の髪を撫でていたが、  
ふぅというため息を終わりにして涙の止まった身体を離した。  
 
幾分すっきりした気がする。  
「…ごめんね。」  
バツが悪くてうつむいたままボソリと呟くと、にっこり笑った男からいいよと返事が返って来た。  
なんと言葉を続けていいのかわからず、向かい合ったまま沈黙になる。  
 
「うち、来る?」  
仙道の低い声が暗くなりかけた街に溶ける。  
こんな展開を想像しなかったわけじゃない。  
むしろこれが男の目的だろうと思ったから。  
 
決定権を全てこちらに委ねるのは前の男を思わせた。  
(こっちに決めさせといたら私が後で後悔しても  
 『彩子が決めたことに従ったんだよ』って言えるものね。)  
仙道から出る言葉を全て悪く悪く考えるのはもう傷つかないために壁を作っておきたいからなのか。  
しかし警戒しながらも、今はこの男の手の平で転がされていたいという自暴的な思いも頭をよぎる。  
 
視線を外し、考えるように上を見た。  
「うーん…どうしようかなぁー。」  
 
ふと視界に入った仙道の顔は、私の返事を知っているように微笑んでいる。  
 
 
 
 
 
小さなアパート。  
一人暮らしって本当だったんだ。  
 
大きな手がシャツのボタンを胸の下まで外し、待ちきれないように谷間へと口付ける。  
温かな感触に、ふ。と小さく吐息がもれた。  
「綺麗だよ彩子さん。真っ白で、柔らかい。」  
舌先で形をなぞるように谷間から鎖骨まで舐め上げる。  
背筋にゾクゾクとした感覚が走り首をうなだれたまま身体を反らした。  
中途半端に胸の下で留まったシャツは、腕をも拘束させ身動きがとれない。  
それをうっとりと眺める男。  
「ボ…ボタン、外して。」  
自分で外すことも出来ない恥ずかしさに耐えかねて懇願する。  
仙道がむき出しになった私の肩を撫でて甘噛みし、舌を這わす。  
「息が荒いね。やらしい格好させられて興奮してんの?」  
「やっやめて…。」  
「どんどん肌も赤くなっていくよ。俺が撫でただけでビクビクして…気持ちよさそう。」  
言いながらブラジャーを下げ、じらすように中央を避けて舌を這わす。  
うずく頂点が主張するように張ってくるのが分かる。  
熱い仙道の吐息がその部分にわずかな刺激をもたらし、追い討ちをかけていた。  
「…はっぁ…せ、仙道…お、お願い。」  
「なに?」  
「シャ…ツが腕に喰い込んで…い、痛いの。」  
顔を上げた仙道が微笑んだので、願いがかなえられるとホッとする。  
「あ…っ!せっ…!?」  
突然胸を揉みしだかれ頂点をきゅうっと摘み上げられる。  
暴れようとする腕にシャツが食い込み、痛いほど拳を握り締めた。  
閉じた目を開けると、どこか冷静な仙道の目。  
「ここがいいんだ。」  
嘲るように笑われ、身体が一層熱を持つ。  
突然仙道が身体の横側に重ねていた私の足を高くあげ、  
バランスが崩れた私は後ろ手のままドサリと床に倒れる。  
「きゃっ…ちょ、ちょっと待っ…ぁっ…!」  
くちゅり。という水音と共に仙道の指が濡れた部分を押し付ける。  
こんな状態で興奮している自分が恥ずかしくて顔を横に背けた。  
「彩子さんって思ったよりMだよね。すげぇ濡れてる。」  
「やだっ…。」  
耳を塞ぎたいのに動けない。  
 
 
横たえたまま、ただ自分の淫らな様を受け入れるしかできない。  
「あ!……んぁ…あ…く…っ。」  
ぬるぬるとした舌の感触に気付き見ると仙道がそこに口を付けている。  
「あ…あ…。」  
器用に動く舌は割れ目を沿い、少しだけ突起に触れまた戻ることを繰り返す。  
何度かそれを繰り返すと舌をぐりりと中に押し込めてきた。  
「あああっ!だ…めっ。」  
「あぁ。舌だけじゃ彩子さんがいいところまで届かないな。」  
喉元で笑いながら言うと、ゴツゴツした指が遠慮なしにずぶりと入ってくる。  
一度奥まで入るとゆっくりと出し入れを始めた。  
身体を浮かしながらその遅い動きがじれったく感じ腰を動かす。  
途端びりりとした快感が背を走った。  
「あぁっあっ!せ、仙道っ!イイッ…たまんない…っ!」  
「指だけでそんな腰使うなんて…見てる俺の方がたまんないよ。」  
荒く吐き出す声が聞こえると、中に入る指が引き抜かれた。  
消えた快感にすがるよう仙道を見る。  
「あっ!はぁ、あっ!あああああ!!!」  
男の姿を視界に捉える前に、熱く大きなものがずぶずぶと中に入ってきた。  
腰を掴み動く男の、張り出したカリの部分が内壁を擦り上げる。  
「そ、そんな締め付けないで彩子さん。」  
「あっんん!!だ、だって、すごく気持ちいい…も、もっと擦ってぇ!」  
「あ、やべ。ちょ、ちょっと、本当締めないで。俺もたないよこんなんじゃ。」  
最中で、しかも一番昂ぶっている時なのに、仙道ののんきな言い方に思わず笑ってしまった。  
私を見て仙道も上気した顔で少し笑うと、お互いに動きを止めて呼吸を整える。  
「ごめん。痛かったよね。」  
そう言うとシャツのボタンをようやく外してくれた。  
ほ。と安心しながら見ると、やっぱり締め付けられていた腕が痣になっている。  
じとりと睨むと、仙道が申し訳なさそうな笑顔を作った。  
「…変態。」  
「えぇ?結構喜んで見えたけどなぁ。」  
「ど、どこがっ!もー痛くって痛くっ…。」  
私の言葉を遮るように仙道が唇を重ねてくる。  
温かい。  
そう言えばキスしてなかったんだ。  
舌を絡め、更に味わおうと顔を傾けると、  
突然下半身の熱を持ったままのモノが出し入れを再開した。  
喘ぎ声は押し付けられた仙道の口に消えていく。  
頭が白く飛ぶのを感じながら自由になった両手で、逞しい身体をきゅっと抱きしめた。  
 
 
 
 
 
着替えを始めた私をベッドに横たわる仙道が無言で見つめている。  
視線に気付いてそちらを見ると、にこりと笑顔が返って来た。  
この柔らかな笑い顔は嫌いじゃない。  
「俺驚いたんだけどさ、愛称に苗字の呼び捨てはないよね。」  
「え?私?…『仙道』って言ってた?」  
「言ってた言ってた。俺さん付けなのに『仙道』ってちょっと…びっくりだよね。  
 色気もなんもねーよ。」  
不満気な声にごめんごめんと謝りながら笑う。  
ふと手枕をした仙道と目が合った。  
しばらくにこにこと私を見ていた男の口が開く。  
「付き合う?俺と。」  
 
また決定権はこっちか。  
なんだか誰と付き合っても同じのような気がしてくる。  
恋愛には苦しさが付き物なのにどうして私はそれに足を突っ込もうとするんだろう。  
 
考えるように視線を上にやる。  
「うーん。どうしようかなぁ。」  
見ると私の答えを知っているような仙道の笑顔が映った。  
 
 
 
甘く絡みつく苦しみまで………あと一歩。  
 
 

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