(変なヤツ。)  
松井は冷たく信長を見ながらそう思っていた。  
喫茶店でも行こうとあれ程元気よく誘っておいて今はもじもじと黙り込んでいる。  
この男がこんなにもぎくしゃくしている理由を松井はわかっていた。  
 
 
買い物をしていた晴子と松井が、海南大付属の神と信長にたまたま会ったのが数十分前。  
「あれ?ねぇ晴子、あれ海南の人じゃない?」  
声を抑えない松井の声に振り返った二人に、晴子が慌てて湘北の生徒だと説明したのがきっかけで。  
 
「ねっ!いいじゃないスか神さん!こんな偶然もなんかのアレかもしんないし!」  
意味不明に喫茶店に誘う信長の視線は晴子一直線で、  
神も松井もイタイなーと言う気持ちでそれを見つめた。  
 
 
「えぇっと、試合で俺たち見たって晴子ちゃんと松井さんはよく見に来るのかな?」  
沈黙を破るべき話を切り出した神はさすが大人の気遣いである。  
「ていうかこのコ、キャプテンの妹なんです。」  
「へぇ〜そうな…………………えぇ!?」  
松井の言葉にしばらくして驚く神。もっと遅れて信長がえええぇ!?と声を上げた。  
「あ、あの…赤木晴子です。」  
このような驚かれ方には慣れているがやはり恥ずかしそうに自己紹介する晴子。  
「も…もしかして義理の…イテッ!!」  
笑顔のままで神が信長を殴る。  
「あはは。ごめんねこれでも悪気はないんだ。」  
「あっいえいえ慣れてます。」  
「だってねぇ。実際似てないんもんね〜。」  
信長をよそに楽しそうに会話をし、しばらくして店を出る。  
駅に続く狭い歩道を、自然二列で歩き始めた。  
目の前を歩く神と晴子の爽やかな様子を見ながら、松井は隣の意気消沈する男を眺める。  
「そんな気になるもんかしら。赤木先輩の妹ってことが…。」  
「あ?」  
「一目惚れってヤツでしょ?よくわかんないけど。」  
そう言うとみるみるうちに赤くなる信長を見てなんて分かりやすいんだろうと感心した。  
「ばっかてめー!好きとかじゃねぇよ!!何言ってんだてめー!!」  
それは痛々しいほどに気持ちが分かる焦り方でちょっとかわいそうになる。  
大きな声に振り返った二人に、松井はなんでもないと手を振った。  
「…自分からばらしてどうすんのよ。  
 もうちょっと落ち着く事学ばないと試合でもヤバイんじゃない?」  
「な、な、な。」  
なんてかわいくないヤツだ。  
そう思いながらも、これは気持ちもばれているこの女を利用したら  
晴子と仲良くなれるかもしれないと頭を切り替えた。  
「おい。お前ちょっと晴子ちゃんのこと色々教えろよ俺に。」  
「はぁ?嫌になったんじゃないの?」  
「お前バカ、あんなゴリラと血ぃ繋がってるって分かってみろよ!  
 誰だって一瞬は落ち込みたくなんだろが!」  
疑わしく見ながら、それもいいかもと思い始めた。  
晴子は流川が好きだ。でも到底先を望めそうな恋ではない。  
だったら、このちょっと頼りない男にでも気が変われば、晴子が楽になれるかもしれないと思った。  
「…うん。わかった。」  
晴子に一歩でも近付いたわけではないのに松井の言葉に喜びまくる信長。  
 
これで、松井は信長と接する機会が増えることとなる。  
 
 
 
 
「で?で?そんで晴子ちゃんなんて言ったんだ?」  
「…『そんなことないわよぅ!』って……言ってた…。」  
「うぉー!かわいい〜!!」  
真っ暗な夜道。何度繰り返されたか分からないこんな会話に松井はうんざりしていた。  
海南の練習が休みだったり、早く終わったりすると、信長は足しげく湘北に通っていた。  
メンバーには会いづらいらしく、門のところで隠れていつも待っている。  
今日もそうして電柱の影から呼び止められた松井が渋々帰りを共にしていた。  
既に晴子のことはもう教えつくした。だが一向に信長は晴子と話しすらしない。  
今話していた内容も、晴子の情報と言うよりただ『今日の晴子』を教えていただけ。  
(ストーカーかよ。)  
そんな突っ込みを脳内でしつつ、頼りないにも程がある信長を睨む。  
「ねぇ。晴子と話す気ないならもう来るのやめてくれる?  
 ていうか清田くん来てるのばれてるから。しかも私たち付き合ってるとか思われてんだけど。」  
「はぁ!?マジかよ困るよ!」  
「私だって困ってんの!!」  
「やべーなぁ。晴子ちゃんもそう思ってんのかな。」  
ブツブツと呟く男のうっとうしい髪を見つめながら松井はため息をついた。  
「あ〜。こんなことなら流川くん好きのままで放っておくんだった。」  
 
ボソリと呟いた声に信長が動きを止めたのを見て、しまったと口を押さえる。  
言う気などなかった。  
何度も会ううちに、信長が思った以上に繊細であることに気づいていたからだ。  
嫌な沈黙が広がる。  
松井は自分の軽口を恨み、見えない男の表情に心臓がどくどくとなっていた。  
振り返る男の顔からは血の気が失せ、それを見て松井自身もなぜか傷ついた。  
「……なんだよ今の。」  
低く、悲痛に満ちた声。  
「…あ…。ご…ごめ…。」  
「晴子ちゃんが…流川を好きってこと…?」  
「………。」  
無言の松井に苛立った信長が、横にあるブロック塀を拳で殴る。  
その大きな音に松井の身体がびくりと跳ねた。  
「そりゃ一番に教えといて欲しい情報じゃねぇか…!!」  
「あっ、清田くん!ごめんなさいっ!」  
走り出した信長に叫ぶが、振り返らずすぐに見えなくなった。  
追いかけようとした足が鉛のように動かず松井はその場に立ち尽くした。  
 
 
 
ここ数日、信長は怖いほど練習に集中していた。  
「信長。この頃湘北には行かないのかい?」  
神の優しい声にぴくりと身体を揺らす。  
「…もう、いいんス。」  
言いながらシュートしたボールは、ガツンと音を立ててゴールから跳ね返された。  
「くそっ!」  
イライラが治まらない。  
晴子の想い人が流川であることが悔しかった。  
何よりも流川と名が出た時点で、一瞬負けたと感じた自分自身に腹が立つ。  
ろくに話すことも出来なかった拙い恋だったが、忘れるにも、  
余計にライバル視した流川に対しても、バスケに専念するのが一番だと感じた。  
「じゃ、電気頼むな。」  
「あ。お疲れーっす。」  
気付けば帰ろうとする神と信長だけになっていた。  
神は信長がおかしいことに気付いているだろうが何も言ってこない。  
それが信長にはとてもありがたかった。  
一人になった体育館で繰り返しシュートをし、  
戻ってきたボールをドリブルして思い切りジャンプした。  
 
「信長。」  
ガンッという激しい音でダンクを決めた直後、神の涼やかな声がする。  
「あれ?忘れ物ですか?」  
「…門のとこ、松井さんが来てるぞ。」  
そう告げる声に着地しながらどきりとする。  
あれから一度も会ってなかった松井。  
まるで関係がないのに自分の話に根気よく付き合ってくれていた。  
心の底ではありがたがっていたのに、怒鳴って逃げたことで信長は余計に会いづらかった。  
「早く行ってやれよ。」  
そう言うと神はまた校門へと歩いていく。  
(ここに泊まっちまおうかな。)  
それくらい逃げたい気持ちでいっぱいだったが、しばらくして渋々と帰る準備を始めた。  
 
 
校門へ近付くと、神と松井が二人で話をしていた。  
信長が来たのに気付くと、神は松井に微笑んでその場を離れた。  
松井がいつもの無表情で、でも少し動揺したように信長を見る。  
『あの時は悪かったな。』  
そう思っていたし謝りたかったのだが、心とは裏腹に不機嫌な表情を作ってしまっていた。  
「こんな遅くまで待ってんじゃねーよ。」  
「…清田くんに言われたくないわ。隠れてないだけマシでしょ。」  
「お、おま…そんなこと言いに来たのかよ!何しに来たんだてめーは!!」  
恥ずかしそうな信長の声に、言い返すと思っていた松井は少し眉を寄せてぺこりと頭を下げた。  
「晴子のこと、ごめんね。」  
予想外の言葉に声が詰まり女の言葉を黙って聞く。  
「清田くんの気持ち考えてなかったから。無神経でごめん。」  
弱々しく言われるとどうしていいか分からず、ただこの場から逃げ去りたい気持ちになる。  
謝ろうと思っていたし、感謝もしていたのに、  
悪くもない張本人から頭を下げられると無性に自分の小ささを浮き彫りにされた気がした。  
「…んなこと言いにいちいちこんなとこまでくんな!じゃあな!」  
逃げようと決心して踵を返し走ろうとする。  
「まっ…きゃっ!!」  
咄嗟に伸ばした手で男の制服を掴むが、思いっきり引っ張られ松井は見事にこけてしまった。  
「…うわぁ…。」  
足元にうつ伏せになった女を見て小さく呟く声に松井ががばりと起きて怒鳴る。  
「いっったいわね!!どうしてすぐ走るの!?」  
悪いと思っているのにどんどん悪印象だけ増やしている気がする。  
「わ、悪かったよ。ほら、立てるか?」  
「うん。あ…アタタタタ。」  
「おばーちゃんかよ。」  
「どうしよう…捻ったみたい。ちょっとしてれば歩けるようになると思うけど…。」  
あからさまに困った顔の松井。信長も同様の顔をしてお互いを見る。  
 
ふぅと吐いた信長の息が、心地よい秋の夜に溶けた。  
 
 
すっかり暗い道を駅の方へ歩く二人の影。  
正確にはその影は重なり一つになっていた。  
「ちょっと変なとこ触んないでよ。」  
「変なとこってどこだよ!てめーが重たいこと以外わかんねぇよ!…イテッ!」  
ぐーで殴られた信長の頭はごちりといい音がした。  
信長におんぶをされた状態で、2人とも恥ずかしいのか  
いつもよりけんか腰でいつもより口数が多い。  
「ったく…清田さまともあろう俺が…。」  
ブツブツ言う男の長い髪の毛が目の先で揺れる。  
いつもは見えない信長の頭を見られるのは新鮮な感覚だった。  
(本当はいい人なのよね。頼りないけど。)  
 
「ねぇ。晴子のこともう諦めるの?」  
「あぁ?」  
「もったいないじゃない。まだ清田くんのいい所全然見せてないんだし。」  
「…いい所…。」  
考えて歩みを止めた信長の背から松井に促され、  
言われたように背中から降ろすとひょこひょこと男の前に歩いてきた。  
「そうね。」  
「な…なんだよ。」  
顎に手を当て考える松井。妙に照れくさくなる。  
「不器用だけど…マメだし。真面目だと思うし何より優しいわ。  
 笑った顔もかわいいし…うん。そういうとこ好きよ。」  
軽く言われた言葉に信長の心臓がどきりとなる。  
それが合図になったように高鳴る心音はどんどんそのスピードを速めていった。  
 
ごくりと生唾を飲むと緊張に掠れる声を出す。  
「…ま…マジで?」  
「うん。」  
「お、お前それ…ほほ本気か…!?」  
「本気って…まぁ、うん。」  
元気付けようとしている言葉とは露知らず、信長は余り賢くない頭をフル回転させていた。  
目の前の女は自分を好きだという。  
ずっと晴子を好きだと聞かせ続け、それをただ健気に耐えてくれていたというのか。  
この無表情の中にどれほどの辛さを隠していたのだろう…。  
考えれば考えるほど身体は熱くなるばかりだ。  
 
これに答えねば男じゃない!  
 
ついにそんな考えまで出てきてしまった。  
「だからね、きっと晴子もそういうとこ好きになるんじゃ……!!」  
もはや彼女の言葉など聞こえていない信長は、話の途中で突然松井にキスをした。  
 
 
 
細い肩を掴まれ一瞬だけ触れた唇。  
 
「…………………は!?」  
驚いた松井は怪訝な顔をして赤い顔をする男を凝視する。  
「な、なんなの今の。キス?」  
分かりきったことを質問するほど事態についていけない。  
指で唇に触れた後、ギロリと信長を睨んだ。  
「…私、初めてなんだけど。」  
「キスか?俺もだ。…………よかったな。」  
「なにが!?」  
松井の苛立ちを何一つ分かっていない信長は着々と話を進める。  
「……俺お前と付き合ってやってもいいぜ。」  
「言ってる意味がわかんない。」  
「…結構……好きかもしんね…。」  
不覚にも松井はどきりとしてしまった。  
間近にある顔はいつになく真剣で、艶っぽく見える。  
 
一瞬、晴子のことを楽しそうに話していた信長の顔を思い出した。  
(あんなに真剣に、一直線に想われるのも悪くないのかもしれない。)  
ボンヤリそう考えていた時だった。  
「ちょっとこっち。」  
ぐいと手首を引っ張られ、建物に囲まれた大人二人がやっと入れる程の細い路地に連れ込まれた。  
二人が入ると当然のように距離が限りなく近くなる。  
「ちょ、ちょっとっ!何!?」  
この状況にさすがの松井も背がヒヤリと冷たくなった。  
夜道に頼もしかった信長の大きな身体が今は怖く感じる。  
「ぇ…まっ…んんっ!!」  
身体を壁に押し付けられた状態で、逃げようもなく信長の唇が重なった。  
「ん…んぅ…ふ…。」  
漏れる声は意思に反して淫靡な響きを含み、信長を一層刺激する。  
滑り込んできた舌は松井のそれと絡めると突然動きを遅くした。  
信長の制服を握り締めていた松井の手からも力が抜ける。  
初めての直接的な刺激は二人から思考を奪っていく。  
キスをしている相手が分からなくなるほどただ夢中に舌を味わった。  
 
 
唇が離れると浅く息をして互いを見る。  
いつもでは考えられないほど眉を下げ、頬を赤くし、すがるような目をした松井。  
その顔を見つめて高まる感情を抑えられずに、信長は白い首筋に顔をうずめる。  
「あちょっと!もーいい加減にして!!…ぁっ!!」  
驚き一瞬で頭が晴れた松井は大きな背を掴み必死で離そうとしたが、  
ぺろりとそこを舐められるとへなへなと力が抜けてしまう。  
ちらりと目が合った信長は、勝ち誇った顔で口の端で笑った。  
「………なによ。」  
「首、よえーんだな。」  
かぁっと赤くなる松井の首にもう一度舌を這わすと耳朶を口に含む。  
力の抜けた女の制服を大きな手でまさぐり、するりと中へ手を入れた。  
「だ…だめだったら…。」  
はぁ…と甘く息を漏らす様に耐えられず、自身の硬くなったそれを松井に擦り付ける。  
「えっ!?」  
突然松井が身体を離して下腹に当たる信長の状態を見た。  
「な…なんだよ見んな。」  
恥ずかしそうに言うと腰を引き上の制服を引っぱり隠す。  
「なんか…動きが気持ち悪い。」  
言ってしまって、あ。と口を押さえる。  
すぐに口にしてしまうのは彼女の欠点だった。  
予想通りショックを受けまくっている信長がいる。  
「きも…きもち…わる……。」  
「あ…ごめん…。」  
見ると窮屈そうに膨らんでいた制服のズボンがどんどん小さくなっていくのがわかる。  
なんだか途端におかしくなり松井はたまらず笑い出した。  
その声に意識を取り戻す信長。  
「あはははっごめっ…でも、ふふ…そんなんなるの!?」  
「お…おまえっ!気持ち悪いとかゆーなよその気になってんのによー!!  
 再起不能になったらどーしてくれんだ!!」  
「ふふふ。ごめんごめん。」  
言いながら松井は怒る信長をなだめるようにきゅっと背に手を回し抱きついた。  
ぎしりと音がするほどに身体を硬直させる信長。  
気持ちを今すぐに確信する事は出来ないが、信長に触れられてイヤではなかった。  
ここが人通りの少ないとはいえ公共の道路でなかったら流れに呑まれたかもしれない。  
(やっぱり、嫌じゃない。………すごく安心する。)  
制服越しの体温を感じ、目を閉じる。  
 
 
「…?」  
ホッとする松井の腹に、またもや硬くなったものの感触がした。  
抱きついたまま信長を見上げて呆れた声を出す。  
「……ちょっと〜。」  
「し、しょーがねぇだろ!てめーが擦り寄ってくんだろが!」  
「…くっふふ。もう一回同じこと言っても小さくなったりして。」  
悪戯っぽく笑いながら信長を見る。  
(ちょ…も…かわえええええ!!)  
「〜〜〜!!たまるかコノヤロウ!」  
「えっ?!うそでしょちょっと…!」  
壁に松井を押し当てて力任せに制服の中に手を入れる。  
「あ…はぁっ…ぅうっ!」  
大きな手に胸を掴まれ、苦痛とも快感ともつかない表情で抑えた声を出した。  
「松井ぃ、乳首勃ってんぞ。」  
くっくとギラついた目で笑いながら言うと松井の身体が震える。  
「な…に考えてんの…こんなっ…とこ、でっ!」  
荒く呼吸をしながらの言葉はなんの効力もなかった。  
むしろまだ逆らおうとする松井に、信長の征服欲が掻き立てられる。  
口の端でにやりと笑うとブラジャーごと制服を持ち上げた。  
「なっ!ゃっ!!」  
ヒヤリとする外気が松井の身体に触れる。  
隠す女の手を押さえつけて信長は初めて見る生身の女の乳房を見つめた。  
「すげぇ…。」  
身をよじる松井は男の目に入っていない。  
吸い寄せられるように桃色の頂点を口に含んだ。  
「ぅんんっ…!!ゃっやめて…あっ…こ、声…出ちゃうっ!」  
「出せよ。誰も来ねーから。」  
「ば、ばか言わないで…っぁあっ…!!」  
スカートの中に滑らせた指が濡れた中心部に触れる。  
「ぁあッ……っ!?ど…こ触ってるの…よ…っんん!!」  
「……うわ…やわらけぇ…。」  
くちゅくちゅと音を立て柔らかな感触を味わう指が、知らず松井の敏感な肉核を刺激する。  
一際大きな声を出し反り返った松井の身体が、狭い壁に押され信長の眼前に胸を突き出す格好になる。  
女の背に手を回すとふるふると揺れる乳房を更に引き寄せ舌を這わせながら、  
ぐしょぐしょの下着の中に手を入れてじかに刺激を与え始めた。  
「あっぃやっんんぅう…っあ!ぁああッ!」  
「…お前、すげぇエロい。」  
腕を握り締める松井の手にどんどん力が入ってくる。  
ぎゅうっと握り締めると同時に女の身体が逞しい信長の腕に倒れ込んだ。  
 
 
「…ぁ…も…立ってられない…。」  
しばらく上下する身体を見ていた信長は、  
脱力する松井の上体を優しく起こすと壁に寄りかからせる。  
今にも座り込みそうな身体を震える足で支えながらぼんやりと信長を見た。  
「はぁ…はぁ……あっ!!??」  
すっと男が視界からいなくなったと思ったら突然電流のような刺激が背を走った。  
見るとスカートの中に男の顔が埋まっている。  
下着の上からぬるりとした舌が動き回る感触がした。  
「あぁぁ…や…やめてそんなッ…きたな…ぃっ…ぁあ!!」  
「オラもっと足開け。…メスの匂いさせやがってこいつ…たまんね…。」  
下着をおろすと溢れた液が白いももに伝っていく。  
それを舌ですくいながら陰唇を舐め上げた。  
「ひ…ぁ、きよたくっ…ん!!あ、あっ!も…!!」  
跳ねる松井の足を肩に担ぎ尖らした舌で淫核のまわりをなぞる。  
ぬらぬらと光る液を指に絡ませ膣口にゆっくりと滑り込ませた。  
「はっあ…あ…っ!!」  
指を挿れたままで立ち上がると、すぐに松井がしがみ付いてくる。  
「…大丈夫か?」  
胸にうずくまる松井の頭を空いた手でそっと撫でる。  
耐えられなくなったのか女の足からがくりと力が抜け身体が傾いた。  
「っ!おい!」  
慌てて抱え込むと、呼吸の整わない松井が信長に身体を預けたまま困ったような目で見た。  
「どうしよう。足に力が入んない…。」  
何事かと眉を顰めていたが、腰が抜けただけと知り信長は噴出して笑った。  
「ちょっと…何がおかしいの。どうすんのよコレ。」  
「そーかそぉーかぁ。そんな気持ちよかったかお前ってやつは〜!!」  
力なく信長の腕に頼る松井の頭をこれでもかと言うほど撫でまくる。  
すっかり調子に乗っている男をうざったく感じながらも動けないからどうしようもない。  
「よい…しょっと。」  
「ぇっ!?な、なに!?ちょっと!っやめて!!」  
ごそごそと動き始めたと思ったら、松井の両足を担ぎ身体を壁に押し付けた。  
 
 
壁と信長に挟まれた不安定な状態で今まで以上にきつく男の腕を掴む。  
「ま、ま、まって!まさか………!!んん!ぁあああっ!!」  
ファスナーを降ろしやっと開放された自身の先端を、ぽたぽたと滴るそこに潜らせた。  
「いっ…たぁいぃっ!!あぁああっ!」  
丁度女の力が入らないということもあり、  
血管の浮き上がるグロテスクな肉の塊はずぶずぶと松井の中へ納まっていく。  
「ぅ……くッッ!すげぇあつい…!!」  
未経験の信長は絡みつくひだの感触にすでにいつ達してもおかしくない状態だった。  
身体を占める快楽に必死になってすぐさま動こうとした信長に  
苦しげに瞼を閉じる松井が目に入ってきた。  
途端頭が冴えて申し訳ない気持ちになる。  
「い…痛いか?」  
「んっ!!…あっ…さ、最っっ低っ!!」  
振り絞るような声は明らかな怒りが交じっていて、無理矢理に抱いてしまったことの後悔が溢れてくる。  
「わ、わりぃ。なんか夢中で…。」  
謝ってみても荒く息をするだけの松井に、遠慮がちにキスをする。  
舌をそろりと入れてみると答えるように絡んできたので少しホッとした。  
「あの…動いてもいい…?」  
間近の顔に逃げ腰でそう聞くと、潤んだ目をあけて少し睨む松井。  
「そのままじゃ…つらいんでしょ…。」  
「……ご…ごめんっ!」  
その通りの信長は了解を聞くとゆっくりと腰を動かし始めた。  
ずちゃ…ずちゃ…と粘着質の音が響く。  
急激に射精感を高める内壁に夢中になっていると、松井の手が頬に触れ顔を上げさせられた。  
「……こっち…見て。」  
 
どきりとする。  
 
松井の事を好きだと感じ、だからこそ抱いたと言うのに。  
気付けばただ上り詰めることしか考えられず、相手が誰かさえ忘れそうになる己がいた。  
それが彼女にはわかっていたのかもしれない。  
「………ごめん…っごめん!!」  
心の底から謝り、そのまま唇を重ねる。  
獣のような気持ちが薄れ、松井への想いに溢れた。  
 
視界がうっすらとかすんでいく。  
 
ただ感じるのは自身をふわりと包むやわらかな体温だけだった。  
 
 
 
朝練前のモップかけをする音が、体育館に近付く神の耳に届いた。  
「おお早いな、おはよう。」  
「あっ!おはよーございます神さん!!」  
元気よく振り返った信長の頬につく、くっきりとした赤い手形。  
「…信長…それ、どうしたんだ?」  
「あこれでしょ?まいったなぁ目立ちます!?思いっきりやられちゃったんですよねー松井に!」  
言いながらでれでれと笑う信長に理由を聞くのが怖くなってくる。  
底抜けの笑顔で立つ後輩を神は遠巻きに避けて部室へと逃げ込んだ。  
 
昨日はカンカンに怒って痛々しい足を引きずりながら帰っていった松井。  
だがきっと必死で謝る姿を見れば人のよい彼女は許してくれるに違いない。  
厚かましくもそう見抜いている信長は、落ち込むことなくただ想いが通じた幸せを噛み締めていた。  
「よっしゃー!!!」  
気合を入れるように一人叫ぶとモップを持ったまま勢いよく走る。  
 
放課後会える、無愛想だがかわいい笑顔を楽しみにして。  
 
 

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