「おーーーーっし!リーチきたきたっっっ!!!」
「うるせーぞ、高宮。」
「立つな。振動で玉がこぼれる。」
三井バスケ部乱入事件で請けた謹慎処分も、残すところあと1日となった。
大人しく家に篭ってるはずもなく、俺、忠、大楠、高宮は、今日も朝から並んだパチンコ屋に篭っている。
「うおおおお!高確率リーチではずれたああああ!」
「てめー、せっかくの休みだ、有意義に勝てよ。」
「今日もよーへー1人勝ちかな。オレも嫌な予感‥」
「はっはっは。」
俺が最初にバスケ部を庇う発言をしたせいで、謹慎を喰らってしまったが、そんな事を気にも留めていないでいてくれるこいつらはほんと頼もしい。
「かわいそうなきみたちに、今日はオスシを奢ってやろう。マワルヤツな。」
悪かったな、みんな。庇いたかったのは花道だけじゃないんだ。
サーファー通り近くにある馴染みの回転寿司を出た後、
「忠ん家でビデオみよーぜ。」
と、いう大楠の発言をぶった切って、俺だけ1人抜けてきた。
行きたいところがあったから。
海岸沿いの134号線。いくつかある陸橋の中のひとつの、そこ。
晴れていると富士山が見えて、今くらいの夕方から夜にかけては、江ノ島の展望台に灯がともるのが見える。
12才の日、そこで一組のカップルをみた。
夕方のそのコントラストの中、見詰め合っていた二人は
じっと見ていなければわからない位の、触れるようなキスをした。
あの日から、この場所は俺の特別で…あの日の二人は憧れだった。
それは、何人か女を知っても、かわらなかった。
「あれ?水戸洋平?」
長いウェーブの髪、すらっとした足、そこにはバスケ部のマネージャー彩子先輩がいた。
「こんなところでな~にしてんの?あんたんち、この辺?」
「先輩こそ、な~にしてんの?学校帰りに寄り道して。」
「不良だな。」と、俺が言い終わるか終わらないかの瞬間、先輩は俺の隣に並んで目線を同じ方向に向けた。
その警戒心のなさに少しとまどったが、陸橋の下を走る車の音で落ち着いた。
「どうですか、花道。少しはマシになりましたか?」
「水戸洋平。」
橋の淵に手を添えながら、先輩の視線は俺を真っ直ぐ捕らえた。
「ごまかしてくれて、ありがとう。先生方に。」
くっと、息をのんで、強い瞳で言葉を続けた。
「今年は流川も入ってリョータも帰って来て、赤城キャプテテンもすごい気合。
桜木花道の伸びも期待してるし、みんな、県大会に掛ける思いが強いと思うの。もちろん、私も。」
「不祥事で出場停止なんて、絶対嫌だったわ。だけど…。」
「いーんすよ。」
日が暮れて、江ノ島の展望台がライトアップされた。
「俺もあいつらも、花道の事応援してるし。ま、気にしないで。」
少し困ったように笑う先輩の顔に、車のライトが当たる。
この人はなんて綺麗な顔をしてるんだろう。
「本当にありがとう。」
気が付くと日は半分以上暮れて、まるであの日のような空だった。
そして俺は、今この空気の中でこの人がいる事実に、心の中で焦っていた。
こんな機会は、きっともう、ない。
「ちょっ…、ちょっちょっちょ!!!ちょっと水戸洋平!!」
俺が両手を伸ばし、先輩の首の後ろで手を組んだ時に、先輩は両手で、俺を押して離れようとしていた。
「先輩、聞いて。俺、ずっと前からあんたの事知ってたんだ。」
押していた両手の力が少し抜けたので、顔を近づけて目を見つめた。
「先輩、ちゅーした事あるでしょ、ここで。」
ボっと、音がしたかと思うくらい、先輩の顔が着火されたように赤くなった。
「やっぱり。花道が入ったでしょ?バスケ部。そうじゃねーかと。そうだったらいいなぁと。
…ねぇ、俺のことも、ちょっと知ってよ。」
先輩の目が少し緩んだ。見逃さず、顔を近づけて、キスをした。
ちょっとでいいから、触れるようなキスを。
先輩は何も言わなかった。抵抗もしなかった。
なんだか謹慎の代償として、キスさせてもらったような気がしてきて、切なくなった。
「ごめんね。忘れて。」
頭をこつんと先輩の額にぶつけてから、緩めて離そうとした両手を
今度は先輩の方から強く握ってきた。
「…もう少し、あんたの事知りたいと思ったら、どうすればいいの?」
日は、完璧に暮れた。ここからは海も見えるはずだけど、もう暗くてよく見えない。
先輩の顔も、いまはどんな顔をしてるのか見えない。
…もう少し、知りたい。
「んと…、とりあえず最初の質問ね。俺ん家はこの辺。」
その意図がわかったらしく、握られた手に力が入った。
2回目のキスは、触れるだけとは出来なかった。
吸って、押して、貪る様なキス。
たまに先輩が苦しそうに息を吐くのはその行為が苦しいのか、
それとも、思ったより大きい胸を、押し付けるように触る事でかかる俺の重みのせいか。
先輩の身体をベッドに倒して、首すじにキスをしている時に、少し震えているのが解った。
「先輩、ほんとにいーの?」
その問いに一瞬目をぱちくりさせて、長い髪を身体の下からどける仕草をしながら先輩は少し笑った。
もう、止まらない。
制服のはだけたシャツから見える少し日に焼けた胸に顔をうずめて、ピンク色の突起を口に含んだ。
先輩の身体がしなやかにピクンと動いて、また、苦しそうに息を吐いた。
舌を動かして、その感触を強くするとますます先輩の呼吸も強くなって、
苦しそうにしてるのではなくて、
苦しそうにしてるのではなくて、感じてくれているのがわかった。
嬉しくて、左手でもう片方の突起を摘むと、強い息をはっと吐いた後、下唇を噛む仕草をした。
「出して、先輩。声、聞かせて。」
左手でそのまま太腿を上に撫でていき、スカートの中に手を入れた。
湿った感触を感じながら、探し当てたそこに、最初は軽く指先を押し付けた。
ぬめぬめと円を描く様に動かした後、くっと少し中指を曲げると、第一関節辺りまで襞に包まれたのが分かった。
そのまま中指を曲げたり伸ばしたりしながら入り口当たりをほぐしていると、いつの間にか中指全部がすっぽりと入り、
手のひらに零れてくる雫を感じる。
顔を見上げると先輩は、両手で口を塞ぎ目をぎゅっと瞑っていたので、
なんだか困って、 その両手の上から、ちゅっと音を立ててキスをした。
先輩は、俺を見てちょっと笑って、それから腰を浮かせてくれたので
脚の間に入り込み、正面からもう一度顔を見下ろし、またキスをした。
「いつも、口紅つけてんのかと思ってた。すげー赤いから。」
チャームポイントとも捕らえられるその赤い唇を見つめながら、ずっと思っていた事を話した。
「よく言われるけど、違うのよ。中学の時なんか怒られた事あるわよ。」
「初めてあんたを見たのは、きっとその頃だな。たまたま、あそこで。」
先輩の手が俺の背中に回った。
それが合図のように、スカートを捲し上げながら細い腰を持ちあげ、先輩の中に、挿れた。
俺が熱いと感じてくるのと平行するように先輩の呼吸はますます荒くなり、垣間に喉から搾り出されるような小さな声が聞こえた。
「先輩、声…」
「彩子よ…、名前。」
ぎゅっと腰を持つ手に、自然と力が入る。そのまま今度はもっと強く深く、身体を押し付けた。
「あっっっっ…!!」
「彩子、すげーかわいい」
「ようへい……」
「やらしい声。もっと聞かせてよ」
「はっ…ぁ……ようへい、あっ……」
くちゅくちゅ音を立てているのは、重なった体の間に挟まる汗の音か、それとも繋がって溢れてくる蜜の音か。
わからなくなるくらい集中して、彩子だけを感じていた。
「謹慎は、明日までよね?」
「そーっす。」
終電近くになり帰宅途中の人影もまばらになった駅で、先輩は話し掛けてきた。
「今日は、会えてよかった。他の桜木軍団にもよろしくね。」
「…先輩!」
じゃ、といって改札を潜って行く、長いウェーブ髪の腕をつかんで、最後にもう一回だけ。
改札越しに、触れるようなキスをした。
「また学校で。」
急いで去ろうとする俺に先輩は大きな声で「水戸洋平ーーーーー!!!!!」と声を掛けて来た。
「あの日も、最後の日だったんだよーーー!いい思い出に変えてくれてありがとねーーーーー!!!」
太陽の様ににっこりと笑うその笑顔に、つられてふっと笑みがこぼれ、踵を返して後ろ手を振り、今度こそちゃんとさよならをした。
明日はあいつらとなにしようかな。
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