日がすっかり短くなり、下校時間の湘北高校は夕日につつまれている。  
 
「すいません、バスケ部の体育館はどちらですか?  
……あっち?ああ、おおきに。」  
 
神奈川って寒いんやな。  
もう秋のにおいがするな。  
なんて風流なことを考えつつさっきの女に教えてもらった方に歩く。  
向かった先にあるのは人気のない体育館。  
「休みか。」  
一応扉に手をかけると、鍵がかかっていない。  
…無用心すぎやろ…アホな奴らや……。  
 
中を見渡すと案の定人はいない。  
しかし向こうにバスケットボールが一つ転がっている。  
 
「せっかくやからな、お邪魔しよ」  
カバンからバッシュを取り出し中に入る。  
人がいないのなら用はないが、まぁ記念っちゅうことで…  
 
ボールを手に取り、ダム、とつく。  
ここで、いつも練習してんやな。アイツら。  
そう思うと、誰もいないのに見せ付けたいような気持ちになってくる。  
 
……スリーポイント!  
「まぁチョロイけどな」  
フ…と思わず笑みをもらし、ボールを取りに行こうと歩く。  
 
とその時、頭に激痛がひびいた。  
「どろぼう!アンタどこの誰!」  
「す、すこし借りただけやんけ!なにすんね…イタ!」  
振り返るとハリセンを持った女が俺を叩いてた。  
なんやこいつ!失礼やろ!  
いや勝手に入った俺も悪いが…ここまでするか!  
俺は悪くない…はず!  
 
止まないハリセンの嵐に耐え切れずぐっと女の手首をつかんだ。  
「もう帰るから許してや?カンニンな。」  
そう言ってそそくさと出口に向かって歩く。  
こんな目に合うとは…少し後悔…つかこれって泥棒行為なんやろか…まずいな…  
 
そのときうしろから声がした。ハリセン女の。  
 
「あ…エースキラー…南…?」  
 
***  
 
「……そやけど。」  
それだけ言って彼は再び歩きはじめた。  
 
なんで?なんで南?ここは神奈川よ…  
やばい…あの人すごい怖そうなのに叩きまくっちゃった…  
だって泥棒と思って…  
 
あ  
泥棒じゃない…?もしかして。  
しかもエースキラーなんて言っちゃった…  
 
「すっ、すすいません!」気付いたら靴をはきかえている南に駆け寄って頭を下げてた。  
「ええよ。俺も悪かった(かもしれへん…)し。ほな」  
そういうと南は立ち上がり帰ろうとする。  
 
「まって!」  
「あ?」  
「っ(睨むとこわいのよアンタ!)…おわびにコレどうぞ!」  
とっさに私がわたしたのは、自分で飲もうと買っていたココアの缶だった。  
 
 
「備品整理か。マネージャーは大変やな−、休みのひまで。」  
二人とも駅に向かうから、必然的にアタシ達はそろってあるくことになった。  
「俺?大学の推薦でちょっとな−。東京なんやけど。  
それでちょっと寄ったん。」  
ふ−ん。やっぱ泥棒じゃなかったんだ…  
 
「名前なに?」  
「え?」  
「ねーちゃんの名前。不公平やん、俺だけ知られて。」  
「彩子です…」  
「インターハイはごめんな、アヤコ。」  
いきなり呼び捨てでよばれて動揺した。  
「え?」  
「いやナガレカワとか…なんや察せない女やな−」  
そういうとフフッと笑った。  
 
あ、笑顔はいいじゃん。お兄ちゃんぽくて。  
いつも子供っぽい連中の世話してるからか、こういう人のそばは安心する気がする。  
 
時間が時間なので駅はごったがえしていた。  
 
「も−甘くて飲めんわ。アヤコ飲む?」  
さっきのココア。  
底にちょっとだけ残ってる、南が口付けたココア。  
照れてるのを気付かれたくなくて、平気なふりして飲んだ。もったいないから飲むだけ。  
「間接チュー…」  
横からじっと覗く南をぐっと睨んで缶をごみ箱になげすてた。  
 
同じチームだったら、仲良くなれた気がする。  
いいやつじゃん。豊玉のキャプテン南。  
 
電車の中も当然混んでいた。あたしたちは押しやられるように隅に寄る。  
耳元で南が、  
「チカンにあわんようにこっちおいで」  
と言って引き寄せて来た。  
清潔なかんじの、薬箱みたいなにおい。南のにおい。  
 
南の手がアタシの手に触れる。ちょん、とぶつかる。  
「顔赤いで」  
そういわれると余計体が熱くなって赤くなる。だから下を向いた。  
南は多分、景色を見てた。  
 
車内がどんどん混んで来て、人の密度が上がる。  
なんだか、さっきより指が絡むようになった気がする。  
 
細いごつごつした南の指と、アタシの指が絡む。  
体温が移る。ドキドキする。  
まるでいけないことしてる気分になる。  
指が擦れて、たまにはきゅっと締め付けて。  
頭がクラクラする…息が苦しいよ…  
 
「や…ぁ…」  
おもわず出た自分の声に驚いた。  
でも回りには聞こえてないみたい。南にも。  
ふぅ…と安心した。そのとき  
停車と同時にガタッと車内がゆれてアタシは南にもたれかかる。  
指が、手が、全身が、触れる。  
「……っ!!」  
その瞬間、意識が遠のいてフラついた。  
頭の中が真っ白で、ドキドキが速い。  
「おい…」  
「こし…ぬけたかも……」  
情けないあたしを支えて、南は電車を下りた。  
「歩けへんの?」  
なにも考えられない。クラクラして一人で立てない…。  
「しゃーないのぉ…」  
南はしゃがんであたしに背を向けた。  
あ、これ、おんぶするってこと?  
「つかまっててな−」  
そういってアタシを背負って歩き出す。  
恥ずかしいけど、なにもできないからきゅっとしがみつく。  
アタシのドキドキは、南のドキドキの2倍くらい速い。  
 
変なの、アタシ。  
 
そのままどれだけ時間がたっただろう  
アタシは南の背中から、自分の部屋のベットにどさっと下ろされた。  
 
南はアタシをタクシーに乗せて  
鞄から学生証をだして運転手に住所を伝えて  
一緒に乗って来てくれた。  
終始無言で景色を見つめるその手を、アタシは弱い力で握り続けてた。  
 
「ん?だれもおらんのか…」  
家のチャイムを連打する南に  
背中から鍵をわたすと  
おじゃましま−す、と言って家に上がりまっすぐ部屋に届けられた。  
 
「なんで部屋わかったの?」  
ベットに座る暖かかった背中を見つめてアタシは尋ねる。  
「女の子の部屋は二階の突き当たりが相場やろ」  
近くて遠い、南の背中。  
アタシの知ってるのは、彼の本当にほんの一部で  
彼はすごく大人に見えた。  
 
南に優しくされる女の子は幸せだろうな。  
そう思うと、見えない彼女、元カノ、未来の彼女にまで嫉妬心がわいてくる。  
 
アタシにも、優しくされる権利は、ある。  
 
頭はぼーっとして考えられないけど、体が先に動いてた。  
体を起こし  
彼の背中にもたれて  
耳を唇で軽くかむ。  
 
「誘ってる?」  
その言葉に、抱きしめることで返事した。  
 
 
アタシの誘いにちゃんと南はのってきた。  
キスをして、キスをして、あたしの理性を掻き乱して来た。  
腕を肩にまわして、唇をつけて、舌をからませて。  
 
「はやくぅ…さわっ…て」  
「そう焦んな」  
髪を一つに束ねていたのを南の手ではずされると、髪の芯から熱くなった。  
「チョンマゲは岸本を思い出すからな…」  
 
きゅっとあたしを抱いて優しく服をぬがしていく。  
「靴下とスカートはいいの…?」  
「それは、あったほうがもえんねん。」  
なにそれ。なんか可笑しくて、アタシはクスッと笑った。  
 
「ま−笑えるのも今のうちやよ…」  
南も笑って応えた。  
 
またキスした。  
「どこが1番気持ちぃんかな…?」  
すべてが気持ちよかった。  
欲情ってこんな感じかな、なんて。  
 
キスが、口…首…どんどんさがって胸に届く。  
「ドキドキしてる。体も赤いし熱いなぁ。どうして欲しいんかな?」  
仰向けに寝かされたあたしの口の中で指を遊ばせて  
アタシの唾液のからむ指を味わうように舐めながら彼は言う。  
「ん…」  
「言わんとわからんやん?」  
目を見るだけで体がしびれる。  
「いじわる…」  
アタシは南の指を先端にもっていった。  
自分でやってるのにすごく感じて、恥ずかしい。  
 
「は…ぁ…」  
声が出そうで我慢する。  
「電車の中やないんや、声出しぃ」  
「気付いてたん…だ…?」  
触られてる方の先端はかたくなってるのがわかる。  
「指で感じるなんて、淫乱な女、って思てた。」  
そう言いながら片方の手でで胸を触り、もう片方で指を絡ませてくる。  
ただ触るだけじゃない、撫でるような、心地よい愛撫だった。  
 
「お喋りはこの辺で。」  
 
そう言うと、南は触っていないほうの胸に舌を這わす。  
ちろちろと、来てほしいとこに近づいたり遠ざかったり。  
それだけでアタシは体をのけ反らせて反応した。  
「ぁ…あっ……」  
じわじわと濡れてくるのが自分でもわかった。  
舌が先端に届くと波が押し寄せてきた。  
「い…いっちゃ、う…ょ…  
や、やだぁ…っ…」  
アタシは、あっと息を飲んで小刻みに痙攣する。  
それを見て南は優しく、でも冷たく微笑んで見せた。  
 
「へえ…こーゆー風になっちゃうんや?湘北のマネージャーさんは」  
息も絶え絶えのアタシの脚を開かせる。  
「早く触ってよ…」  
「どこに触って欲しいん?マネージャー。」  
関西弁には変な色気がある…南の声だけで体が反応する。  
声に支配されてる。  
 
「ここ…」  
今度は、自分で触る。  
こんなことするなんて恥ずかしくてしかたないけど、それがアタシを余計に興奮させる。  
「ん…きもちぃ…」  
もう下着もびしょびしょで、体全体が求めているのがわかった。  
「よくできました」  
おでこにキスされる。おでこが熱い。  
「こんなに濡らして…アヤコちゃんはいやらしいなぁ」  
ふとももから這う南の指の跡がほてる。  
筋をすーっと一回撫でられるだけで、頭がおかしくなる。  
「もう優しくせぇへんよ?」  
アタシはただ、うんと頷く。  
 
言葉の通り、そこからの南は激しかった。  
舌でアタシの蜜をなめ、指で芽を摘んだ。  
さっきまでの意地悪で饒舌な言葉なくなりアタシの体を弄ぶようにしてきた。  
逆にアタシは、我慢しても出てしまいそうな声、というか声にならない声を、惜しみなく出した。  
南の舌が、指が、もっと声を出せって言ってたから。  
 
中に指がはいると、ますますアタシは激しくなった。  
1本確かめるように入れて、もう1本入れる。  
すぐにイイ所をあててくる、なれた手つき。  
「どんどん溢れてくる…エロすぎ。」  
「言わないで…っ」  
冷静な口調といやらしい水音が興奮を煽る。  
シーツをぎゅっと掴んで、全身に力を入れて耐えた。  
自分でも知らなかったアタシがどんどんあらわになっていく。  
 
「南、さ…ん…」  
「なんや」  
「…きて…?」  
「それじゃあわからんからちゃんと言うてみ?」  
またいじわるな質問…。もう理性なんかないアタシは反対に南を押し倒した。  
 
「じゃあアタシが挿れる…」  
驚いて目を丸くする彼の服を脱がせて、腰に馬乗りになる。  
だけど、やられっぱなしじゃアタシのプライドが許さないし。  
「やるなら早くやれや。」  
また睨むような目になる。  
…さっきの驚いた顔はちょっとかわいかったのに。幼いような、ひよこみたいな、ね。  
「わかってるわよ。」  
アタシも強気で返事した。  
 
腰を浮かせて、少しずつ挿れていく。  
今までよく見てなかったけど、なかなかいい男…。  
長くて綺麗なまつげ。  
汗で湿ったさらさらの髪。  
細身だけどしっかりしたカラダ。  
自分でも驚くほどの征服欲と快感が沸き上がる。  
少しの摩擦でもさっきまで冷静だった顔を歪める彼。  
それを見てとてつもなく興奮するアタシ。  
とろとろですぐに滑らせて奥を突きたいけど、わざと焦らすようにゆっくり飲み込む。  
アタシ達の音が部屋中に響く。  
「見下ろすのって、いい気分…」  
根本まで入った時、囁くようにそういってやった。  
「ドアホぅ…」  
聞き覚えのある言葉もこの人が言うと甘く官能的。  
 
もう余裕はないのか、ちょっと苦しそうな、男の顔をされた。  
愛しいって、こんな感じかな。  
 
リードをとりたいけど、上手く出来ない。  
少し動くだけで  
アタシの口からは声が  
ベットからは軋む音が  
結合部からは卑猥な水音が  
南からは吐息が漏れた。  
 
体も心も委ねてしまいたい。  
そして  
体も心も包んであげたい。  
 
「おい」  
急に繋がったまま体をおこしてきて  
アタシは向かい合う様に膝にすわらされた。  
「なによ…(睨み付けるの怖いからやめてよ!)」  
「そのカッコ、最高に、やらしぃ。」  
汗ばんだ体にスカートと靴下しか身につけてない自分は確かにいやらしかった。  
「挿れ方も体つきも、全部やらしぃ。」  
南のうつろな目が全身を、スカートの中まで舐めるように見ると、本当に舐められてるみたいに感じる。  
 
「アタシ…南さんが、好…」  
あごをつままれてキスされて、言葉が遮られる。  
息が苦しくなって少し離れる度に、好き、と言っては彼の口に言葉が溶けていく。  
アタシが腰を動かせば、彼も合わせて動いて  
アタシの口から漏れる声と吐息は、彼に吸い込まれて  
 
好き、好き、好き。  
 
その言葉と、繋がった部分の擦れる音と、軋むベットの音しかしない部屋で  
 
二人でぎゅっと抱き合って  
 
一緒に果てて  
 
もう一度好きと言って  
 
眠りについた。  
 
***  
 
冷たい朝の空気に目が覚める。  
あの後すぐに眠った彼女に、まるで逃がさないとでもいうようにしっかり腕を掴まれて  
シングルベットに、二人寝ていた。  
 
1回だけでもひどく疲れたようだし経験は浅そうだが、結構色っぽいしいい素質を持ってる女や。  
天然テクニシャンか…。  
「開発しがいがありそうやね−」  
頬をつつくと、目を覚ました。  
目があうと顔をあかくして無言のままドタドタ階段を降りていく。  
ベットの脇には制服が落ちていた。  
「無理矢理脱がされたしな。」  
しわのついたそれを手に取り、強い女もええかも、と少し余韻に浸った。  
 
「俺…もう帰るわ。」  
彼氏の服とか下着とかないかな、と部屋を物色したけど何もなくて、アイロンを借りて同じ物を着た。  
「ご飯食べてけば?」  
整えてやった制服をめずらしそうに見て彼女が言った。  
彼氏の気配はないが、いつの間にか家族の気配がすんねん…この家。  
ハリセン女にプロレス親父やったらどないしよ。  
殺されるくらいなら、シャワー無しで二日同じ物着るわな。  
「まってよ−!」  
制服をきかけた彼女に追われ、少し早足でアヤコの家を出た。  
 
「もう会えないのかな…」  
早朝の電車は空いていた。  
「好きよ…」  
隣でぽつぽつ言葉を漏らす彼女の頭を、なだめるように撫でてやる。  
 
駅で新幹線を待つ間は無言だった。  
アナウンスが流れる。新幹線の近づく音がする。  
「ほな。」  
頭をぽんとたたいて顔をチラと見ると目に涙をためていた。  
「なんであんたなんか好きになんのよ…バカ。」  
…なんで最後にかわいいことすんねん!アホ!  
「…昨日、いつもの倍よかったやろ?」  
「え…?」  
「おまえが好きなのは、俺じゃないよ。」  
粉のはいった瓶を彼女に見せた。  
「いたずらでココアにちょっと入れてん。薬がきれたら俺のことなんか忘れんで。」  
頭にまで響く快感を、好きと錯覚しただけ。  
ドキドキすんのも感じんのも、この媚薬のせい。  
だから、それは本物の好きじゃなくて偽物や。  
「薬って…?」  
新幹線に乗り込む俺を、目をぱちくりさせて見る彼女。  
「また気持ちくなりたなったら呼んでや」  
それだけ言って、扉がしまって、席まで歩きながらこの一晩のことは想い出にした。  
 
優しくされたいならあのドチビとか  
強引にされたいならナガレカワとか  
愛情をいっぱい注いでくれる彼氏をつくって、大事にされまくった方がええねん。こういう女は。  
 
そいえば、最後に見せたあのなんで?って顔に返事してないな。  
答えてあげたらよかったかな。  
 
 
 
「俺んち、薬屋やねん」  
って。  
 

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