湘北バスケ部の激動のインターハイが終わって1ヶ月が経とうとしていた日常のある日。  
朝8時半、いつもどおり授業開始前の予鈴のチャイムが鳴る。  
毎日の光景である下駄箱に駆け足で急ぐひとごみのなかに紛れ、  
赤木晴子は遅刻寸前、校舎にかけこんでいた。  
 
(ふぅ…よかった、この分だと、今日もなんとか間に合いそうね。)  
いつも余裕をもって家を出なくてはと反省しながらも、晴子が  
授業には間に合いそうだと一安心したその時、  
 
「晴子!」  
 
そう声をかけられたとたん、晴子はすでに腕を引っ張られていた。  
 
「大変なのよ、晴子!」  
そう息をきらしながら、女子トイレまで引っ張ってきたのは晴子の親友の藤井と松井だった。  
「どうしたの?二人とも、そんな顔して、何かあったの?」  
「何かってどころじゃないわよ!いい、よく聞いてよ?  
あんたが・・・桜木を好きなんじゃないかって噂が出てんの!しかも学年中に!」  
 
いきなり突拍子もない事態に、晴子はかえって冷静に話を聞けてしまう。  
「わたしが・・・桜木くんを?」  
「ほら、あんたってさ、あの全国大会の山王戦のとき、桜木に告白されたじゃない?  
わたしたちはずっと付き合ってきたから雰囲気的にバスケが好きだったっていうのわかったけど、  
それ後ろの席で聞いてた子が何人かいてさ、そこから誰からともなく広がったらしいの、その噂。」  
冷静な性格である松井が珍しく慌てた表情ながらも、晴子に詳しく状況を説明する。  
 
「そ、それは大丈夫よ。桜木くんははっきりバスケが好きって言ってくれたんだから。  
わたしのことじゃないわ。それに、バスケが好きって言ってくれたのは、  
かえって告白されるよりうれしかったかも。」  
「それはわかってるけど…どうにかしないとダメよ。美女と問題児の異色カップルだって  
どんどんエスカレートして広がっちゃってるのよ。」  
そう晴子の手をにぎって、藤井が心配そうに声をかける。  
 
晴子も、最近練習を見に行くたびに周囲の視線が何となく気になってはいたが、  
憧れの存在である流川や、もはや男女の枠を越え、ある意味パートナー的な存在であった  
花道のプレーを見れることで、気がついていなかった面もあったかもしれない。  
晴子は、花道の気持ちを考えると、すなおには否定できなかった。  
 
「そ、そんなのダメよ、桜木くんの気持ちだってあるのに。」  
「バカね、あいつの気持ち以前に、あんたは流川のことが好きなんでしょーが。」  
「それはそうだけど。その…。」  
「ダメよ、晴子、弱気になっちゃ。ちゃんと否定しないとますます大変なことに  
なっちゃうよ。」  
「そうよ、あの桜木のことですもの、噂をカサにきていつあんたをくいものにするか  
わからないわ。そうでしょ晴子!?」  
話の唐突な飛躍を不思議に感じながらも、晴子は努めて冷静に振舞おうとした。  
「とにかく、私たちからみんなに言おうか?」  
そう松井が気遣ってくれたけど、私は大丈夫、自分で何とかするからと気丈に答えた。  
 
放課後。  
いつもの陽気な鼻歌を歌いながら体育館に向かう、桜木花道の姿があった。  
桜木花道は、懸命のリハビリの甲斐があり、短期間でバスケ部に復帰した。  
これも、驚異的な桜木自身の身体能力と、従順なリハビリトレーニングの  
実践の成果だったのだろう。晴子の、久しぶりに花道と会えたときの感動は  
言わずもがなだった。だからこそ、そんな桜木に余分な不安を与えるのが、晴子には嫌だった。  
 
(ど、どうしよう・・・今私が桜木くんと会ったりしたら、桜木くんの迷惑にならないかな。  
でもだからって、わざと会わないようにするのも不自然だし・・・。)  
 
「さ、桜木くんこんにちは。今日も練習?」  
「おー!ちゅーっすハルコさん!もちろんです!この湘北バスケ部の絶対神桜木、  
全国出場だからって気は抜けません!この天才の足をひっぱる庶民どもが  
まだ全然頼りないっすから、少しでもこの天才が実力あげて全国制覇までひっぱるのみっす!」  
「その意気よ、桜木くん!」  
花道は噂のことは知らないとみえ、逆に心なしか、いつもよりさらに元気に見える。  
晴子は安心し、このまま何事もなく楽しい時間が来てくれば、と感じていた。  
 
しかし、そう願っていた晴子の淡い期待は、見事に打ち砕かれた。  
「おっ、お二人さん今日もなかよく練習ですか?にくいね。」  
「ははは、こんないい彼女つれて、おやすくねーぞこのヤロー!」  
晴子が側にいるのを見計らったかのように、周りにいた男子たちが声をかけてくる。  
「やっぱそう見える!?そう見えるかおめーら!」  
花道は逆にうれしそうに、その男子たちの一人の襟首を掴み、持ち上げながら問いかける。  
「あひー!く・・・くるひ・・・」  
持ち上げられたその男子は、もう目を回し泡を吹いていた。  
 
「晴子ちゃんってさ、桜木のどこがいいわけ?」  
冷やかしの声をかけていた男子の一人が、また晴子たちに近づいてきた。  
「顔?性格?ははっ、そりゃねーよな。とりあえずさ、どこまで進んでんの?  
もう経験済とか。そうでなきゃおかしーよな。」  
そう怒涛のように、返答に困る質問を投げかけてくる。  
「あの、困ります…わたしたちはただ」  
「いいじゃない、教えてくれたって減るもんじゃねーし。」  
晴子の返答を無理やり遮り、その男子は無理やり出すべくもない答えを引き出そうとする。  
 
(どうしよう。軽くかわせばいいようなことでも、なにも答えられないから、  
余計おかしなことになっちゃう。)  
 
なぜすぐ否定できないのか、自分でもわからなかった。  
自分は、ずっと流川が好きなはずなのにと。  
 
「おいてめー、いい加減にしろよコラ。ハルコさん嫌がってんじゃねーかよ。ぶっ殺すぞ。」  
花道は襟首を掴んでいた男子生徒を解放した後、その男子に後ろから歩み寄る。  
「いいのかよ?いまや湘北バスケ部の英雄が暴力で問題ざたなんてよ。」  
「あんだと!?」  
「ダメよ桜木くん、喧嘩はダメよ!」  
「ふ…ぬ…」  
 
そう躊躇する花道を見て、晴子はハッと思い浮かんだ。  
桜木くんがわたしの前では手を出せないことがわかって、この人たちは楽しんでいる。  
わたしと桜木くんの反応を。  
なんてひどい人たちなんだろう。  
わたしのせいで…桜木くんを変なことに巻き込んでいる…。  
 
「こらお前ら何やっとるか!…桜木だな!いくら部活で活躍したからって、暴力は許さんぞ!」  
いつのまにか晴子たちの周りにできていた人ごみの中から、教師軍団が飛び出してきて、  
花道を3,4人がかりで取り囲んだ。  
「うるせー、何でもねえよじじい。さあ部活部活っと。じゃ、じゃあハルコさん、お先っす。」  
そう言って花道は、無理に作ったような笑顔で、体育館に早足で向かっていった。  
 
こんな気まずい状況が続いたある日の朝、晴子はいつものように、  
花道と下駄箱ですれ違った。  
 
「おはよ!桜木くん!」  
「・・・・・」  
「桜木くん?」  
 
悲しげな表情で私を見つめた後、花道は目をそらして必死に階段を  
かけあがっていく。  
 
(無視されたの?そんなことないよね?  
でも、たしかにわたしから目をそらした桜木くん。  
会うたびに・・・あんなに楽しそうに話しかけてくれたのに…。)  
頭の中で、何度もさっきの場面がビデオの巻き戻し再生を見るかのように繰り返される。  
 
「き、きっと急いでたのよ、そうだわ。桜木くんだって真面目なんだもの。  
授業に間に合うために走ったのに決まってるわ。  
自信がないから、何でも悪いほうに考えちゃうだけなんだ、きっと。  
わたしの悪い癖よね。」  
 
しかし、放課後になって部活が始まっても、晴子は花道とは話ができなかった。  
花道は何度も晴子の方を見やるが、思い直したように目をそむけてしまう。  
(どうしたんだろう、桜木くん。練習にも、うまく集中できてないみたい…。)  
何げないパスを受け損ねたり、フリーでレイアップを決められなかったり。  
宮城や三井から散々叱られ、流川に掴みかかるいつもの光景は変わらなかったが、  
花道は、晴子の目から見てやはりどこかがおかしかった。  
 
「晴子、どうも今日の桜木はおかしかったな。何があったか知らんか?」  
その日の夜、いつもどおり赤木の部屋で勉強を教えてもらっていたときに、  
床でストレッチをしながらつぶやいた赤木の言葉に、思わずどきっとしてしまう。  
「!・・・う、うん」  
「技術的なミスならともかく、何げない凡ミスまで頻発してやがる、あのばかったれが!  
調子にのるといつもこうだ!!」  
「う・・・うん・・・」  
(ああダメよ、それじゃ桜木くんを否定することになっちゃうじゃない、私のバカ。)  
思わず反射的に出てしまった言葉に、晴子は後悔した。  
 
「そういえば、何か1年の間で妙な噂があるらしいな、お前が桜木を好きだとかいう。」  
その言葉に、思わず息がつまりそうになった。  
いつのまにか、自分が花道を好きになっていることにもなって、噂が広がっていたのだと。  
だが、不思議と悪い気分にはならなかった。  
 
「あ、お兄ちゃん、それは…」  
「ふ、心配なんかせんでも、かえってバカバカしくてまともに聞く気にならんわ。  
100000000%ありえんからな、そんなことは。そうだろ晴子。」  
「…う、うん」  
頭の中がこんがらがってて、つい生返事をしてしまう。  
晴子の頭の中で、花道に対する様々な思いが交錯する。  
 
もとをただせば、わたしがぐじぐじしてるせいなのよね。  
はっきりと否定するのは簡単なことだけど、桜木くんのことを思うと  
どうしてもためらってしまう。  
好きでもない女の子と変な噂たてられて、挙句のはてに別に好きじゃないなんていわれたら、  
桜木くんにはホント迷惑な話だよね。ごめんね、桜木くん。  
わたし、嫌われたのかな?やっぱり。  
いや、嫌われて当たり前だよね、こんなんじゃ。嫌われても…。  
 
 
勇気を出して、何度も話しかけようと思った。  
だけど、何もかわらないまま、時間だけがすぎていって。  
段々と気まずさが重くなっていくばかりだった。  
気がつけば、もう3日が経とうとしていた。  
たった3日なのに、長い時が過ぎ去ったような気がする。  
このまま、花道と話せないままになったら、と思うと、晴子はいてもたってもいられなかった。  
(嫌われてもしょうがないって思ってたけど、やっぱりこのままじゃ、いや…!  
せっかく、せっかく長いリハビリから帰ってきてやっと会えたのに、  
こんなに近くにいるのに話せないなんていやだよ!  
また、いつものように笑って話したいよ、桜木くん・・・。)  
 
「よ、洋平くん!」  
意を決して、晴子は洋平に話しかけた。もちろん、花道がいない時を見計らって。  
「晴子ちゃん・・・そろそろ相談にくるころだと思ってたんだよな。」  
洋平は驚いた表情で晴子を見ながらも、嬉しそうな顔をして頭をかきながらつぶやいた。  
 
「え?それって」  
「いいから、ちょいとつきあいなよ。」  
まるで晴子の考えていたことを見透かしていたかのように、洋平は、  
晴子を人の通らない校舎裏に誘った。  
 
「たぶんさ、おんなじこと思ってたんだろうな、お互いに。」  
「おんなじことって、それって…。」  
「あいつもさ、すんげー気にしてたんだよ、晴子ちゃんのこと。」  
 
洋平の思いもかけなかった言葉に、沈みかけていた自分の気持ちが、  
徐々に高ぶっていくのがわかる。  
 
「おれさ、花道が始めてああいう話耳にしたとき、どうなるだろうと思ってたけど、  
やっぱああいうやつでさ。逆に思い上がっちゃって自慢してたわけだよ。すごく嬉しそうに。  
まるで天国にでも昇ったような気分だったろうな、ホント見てておもしろかったぜ。  
だけど、3日前のあの冷やかしの件があってからさ、晴子ちゃんのことを  
すごく心配しはじめてさ。」  
「そんな…」  
「自分が晴子ちゃんに近づくと、晴子ちゃんの迷惑になるって言っててさ。  
ホントは絶対話すなって言われてたんだけど・・・」  
 
(桜木くんが・・・わたしのことを?)  
人の話し声がきこえず、風が吹き、木々がざわめく音だけが響く中で、  
自分の中で大きな鼓動が聞こえているのを、晴子は聞き逃さなかった。  
自分の中に、花道に対するはっきりとした思いが沸きあがってくるのを感じていた。  
 
「しょうがねーな、二人とも。ちゃんとセッティングしといてやるから、うまくやるんだぜ。」  
そう言うと、洋平は晴子といくらか言葉を交わした後、体育館の方へ去っていった。  
晴子の顔に、揺らぐことのない決心が浮かび上がっていた。  
 
部活終了後、さらに2時間は経っただろうか。  
入るようになったとはいえ、様々な角度からのジャンプシュートの練習の精度を  
あげるため、個人練習を続けていた桜木は、片づけを済ませた後、校庭に現れた。  
 
「んだよ、洋平、こんな時に話なんてよ、俺は疲れて…」  
「桜木くん。」  
「は…ハルコさん!」  
桜木の前に現れたのは、洋平ではなく、晴子だった。  
思いがけもない対面に、花道はまた顔を背けてしまう。  
 
「ごめんね、桜木くん。わたしなんかのために無理して。つらかったでしょう?  
洋平くんから全部聞いたわ。」  
「ハルコさん…ふん、洋平のやつ、余計なことを」  
「違うわ、洋平くんも心の底から桜木くんを心配してたの、高宮くんたちだって一緒よ。」  
「は、ハルコさん、すみません。や、やっぱだめっすね俺。天才のはずなのに、  
ハルコさんの前だと何かもかも裏目に出て…」  
「ありがとう、桜木くん!わたし…」  
そう花道の言葉をとぎらせたかと思うと、晴子は花道に抱きついた。  
 
いま、気づいたんだ…桜木くんが、ずっと好きだったんだって  
 
「は、ハルコさん…?おいおい、悪い夢なら早く覚めろよ、またゴリの顔だってオチはなしだぞ。」  
花道の思考回路は、突然の事態に正常な機能を失っていた。  
「夢じゃないわ、最高の瞬間よ、桜木くん。」  
そう上目遣いに花道をみる晴子の視線を見て、あまりの感慨深さに、  
時がとまったかのように感じた。すべてが、自分の支配する空間であるかのような錯覚に陥る。  
 
「は、ハルコさん、自分も、ずっとハルコさんのことを…」  
「ふふっ、わかってたわよう、あの山王戦のときの告白の雰囲気で、何となくね。  
何か、相性ぴったりだね、わたしたちって。」  
「ほ、ホントっすね。ハルコさん、俺たちの相性の良さは、誰も立ち入れねーっす!」  
そう笑顔で言葉を交わしながら進んでいくうちに、晴子が花道の前に立って言った。  
 
「家まで一緒にいこっか、桜木くん!」  
「あ、い、いやぁ、ダメっすよ、そんな。またゴリに怒られちまう。」  
「ううん、わたしの家じゃなくて…桜木くんの家まで。」  
そのとき、花道は、自分の脳と身体が液状化し、地面にとけていきそうな感覚を持ちながら、  
地面にへたりこんだ。  
 
「もしもし赤木ですが。おう、何だ、晴子か。まだ帰らんのか、いい加減に…  
何!?今晩友達の家に泊まる?またか、まったく。明日休みだからって浮かれるなよ。  
夏休みあまり勉強してなかったんだから、取り戻さんといかんぞ、少しは。  
帰ったら一緒に勉強だからな、いいな。」  
「はーい、わかったわよ、お兄ちゃん。」  
赤木に電話をかけ、障害がなくなったことを確認すると、晴子は笑顔で花道を見た。  
薄暗い部屋の中で、花道は冷気を何時間も当てられたかのように、正座になり、ガチガチに  
固まっていた。  
 
月明かりに照らされる薄暗い部屋の中で、  
花道と晴子は互いに緊張していた。  
 
二人だけで過ごす初めての夜に、花道の鼓動は高まっていた。  
それは晴子も同じだった。  
 
意を決したかのように、晴子は花道の横にそっと座る。  
まるで、そこが自分の居場所であるかのように、ごく自然に。  
 
花道が、声を震わせて晴子に語りかける。  
「あ、あの、ハルコさん。じ、自分はこういうの初めてで、ホント申し訳ないっす。」  
「そ、そうなんだ。よかった…わ、わたしも初めてなの、こういうの。  
でも、大丈夫よ。桜木くん。バスケと同じで、何事も初めての瞬間は誰でも緊張するものよ、  
私もだけど…。」  
晴子も『初体験』に対する不安が募ったためか、声を震わせ、不安を打ち消すように  
言葉を続ける。  
 
「どうなるかわかんないけど…お互い一緒にがんばろ?ね?』  
「ハルコさん…」  
晴子のやさしさに緊張という障壁は打ち崩され、感慨深さに涙があふれ出てくる花道だった。  
「えへ、わたし…桜木くんのはじめてをもらっちゃうのね。  
ホントにわたしでよかったかな、桜木くん。」  
「何を言うんすか!晴子さん!俺もう今死んでも死んでもいいくらい幸せっす。」  
「桜木くん…うれしい…」  
そうつぶやくと、晴子は花道の顔に、自分の顔を近づけた。  
 
「まずは、キスから、よね。」  
「は、はい、ハルコさん。」  
ぎこちない手つきで、花道は晴子の体を引き寄せる。  
「いくね、桜木くん。」  
そういうと、晴子は少し顔をあげた。  
晴子の顔が、花道の吐息がかかる距離まで近づいてくる。  
「あ・・やっぱハルコさん、ちょっとま・・・」  
気持ちを落ち着けようと、晴子に声をかけようとした瞬間、  
もう既に晴子の柔らかな唇が、花道の唇と触れ合っていた。  
 
晴子の大胆な行動の前に一時唖然としたものの、花道は次の瞬間、  
自分の欲望によって、理性が駆逐されていくのを感じた。  
自分より首一つ背の低い少女を すっと抱き寄せ、やや不器用に、しかしゆっくり唇を重ねた。  
晴子も、緊張した表情を浮かべながらも、全てを花道に任せるという意志を示すように、  
花道の背中に腕をまわし、目を閉じた。  
最初はおずおずと晴子を受け入れていた花道も、 次第に大胆に舌を絡め合わせてくる。  
 
どれほどの時が経っただろう。互いに唇を離しあったときには、どちらの唾液が  
混ざったのかもわからないほど互いの唇は濡れ、少し糸をひいていた。  
「汚くなっちゃった。ごめんね、桜木くん。」  
「全然汚くないっす、ハルコさんの唾もおいしいっす。」  
「やだ、桜木くん。」  
そう笑いあうと、晴子は花道の手をひいて床に座った。  
 
「もうわたしたち…ホントの恋人なんだから、何でもできちゃうんだよね。  
だからわたしの体を、桜木くんでいっぱいにしてほしいの。お願い、桜木くん。」  
「ハルコ…さん。」  
 
晴子はそういうと、一旦花道から身体を離すと、自分から少しずつ服を脱いでいく。  
その間に、花道の方も身に纏うモノを全て外していった。  
「な、何だろ、やっぱり恥ずかしいね…。」  
今までずっと一緒に過ごしてきたのに、改めて裸身を晒しあった事に不思議な戸惑いを覚えていた。  
今まで互いを知り尽くしていたと思っていたのに。  
 
晴子の身体を食い入るように見つめる花道。  
「やだ、桜木くん…そんなに見ないで。」  
「きれいです…ハルコさん。」  
花道は、一糸まとわぬ晴子の姿を目の前にして、改めて彼女が輝かしく感じられた。  
 
先ほどかわした濃厚な口づけをまた行った後、花道は晴子を抱きかかえて  
ふとんの上に押し倒した。少女の、小さくしなやかでたわわな肉体が横たわり、  
スリムだが、しっかり練習によって鍛えられている少年の身体が、ゆっくりと覆いかぶさっていく。  
 
 
幼い乳首が花道の舌になぶられるたび、晴子は快感に近いような悲鳴をあげる。  
先ほどの瞬間までキスもしたことのない少女には、いいようもない感触だった。  
頭からは余分な雑念は消え、今は気持ちよさしか残っていなかった。  
 
晴子の率直な気持ちを肌で感じ取り安心した花道は、より大胆な行為を始めた。  
乳首を舐め続けていた舌先がみぞおちに滑り落ち、くびれをなめながらゆっくり  
へその方向に流れはじめた。  
花道の舌先とその舌使いを、晴子は肌で感じ取る。  
 
「ああん!!」  
 
体が、熱いものに触った時の反射神経のように波打つ。  
だが、花道はそんな晴子の声も耳に留めることもなく、くるったように舐め続ける。  
へそを通り過ぎ、その下の性器へと舌が到達した時、 全神経を使って晴子は体を震わせた。  
 
「あん!いやっ!桜木く…」  
 
本能に従って、花道はゆっくり晴子の脚を広げさせていく。  
関節を痛めないように、すぅっと。  
ピタリと閉じられていた晴子の性器が、ゆっくりその全貌を現していく。  
今まで目にしたこともなかった秘裂が、色っぽく、余すところなく目の前に現れた。  
 
大きく広げられた股の間に、花道はゆっくり顔をうずめた。  
舌先の感触を楽しみながら、ゆっくりと性器を弄んでいく。  
 
「ああっ!…ん!…」  
自分で触ったこともないクリトリスの感触を、晴子は楽しむ暇もなかった。  
全身を震わせ、目を閉じて花道の行為に身をまかせている。  
晴子は、自分の体がとろけていくような不思議な気分を感じ取っていた。  
花道も、性器を弄んでいる舌先が濡れている事をじかに感じた。  
 
震える息を静め、花道は顔を上げた。  
乱れる晴子の姿を見て、自分の肉棒も固くなり、天を突く勢いだった。  
恋人となった女性を征服したい…男としての生理欲が身体の内で湧き上がる。  
「ハルコさん…もう我慢できないっす。」  
「ハァ…ハァ…ちょっと、待って…」  
晴子も息を整え、興奮する花道を何とかなだめようとする。  
「桜木くんのソレ…もっとよく見ときだいんだ。」  
「ハルコさん…」  
「わたしの中にどんなものが入るのか、ちゃんと見ときたくて。  
怖いけど、桜木くんの全てを受け止めなくちゃって思って。覚悟を決めないとね。」  
男性の性器を見たいという、普段ならまず言えない恥ずかしい願望を、  
晴子は頬を赤く染まらせつつ口に出した。  
思いもかけぬ願い出に戸惑った花道だったが、 これからずっと一緒にいるのだから、  
と自らに言い聞かせ、 膝で立って自分のモノがよく見えるような姿勢をとった。  
座する晴子の目の前に、角度を付けて天を向く肉棒が月光に照らされくっきりと見えた。  
 
無意識のうちに脈打つ一物に触れようとして、自分の行為に驚いたように手を引っ込める。  
「こ、こんなに大きなモノが…ホントに、わたしの身体に入るのね。  
で、でもみんなしてることだし、大丈夫よね。」  
 
不安と、ほんの少しの期待が交じった声はか細く、今にも消え去りそうだった。  
「ありがと、きてもいいよ、桜木くん。」  
「は、ハルコさん、すみません!」  
そう叫ぶと、花道は身体を再び寝かせると、正面から覆い被さる。  
彼女の脚に手を添えゆっくりと股を開かせた。  
女性の部分が、まだ愛液で滑らかさを保っている事を確認すると、  
自らを徐々に沈みこませてゆく。  
晴子の気持ちの整理がつかないままに、花道は一気に晴子の身体を貫いた。  
 
「あっ…んんんんんん!!」  
 
ほとんど抵抗なく挿入がなされた瞬間、晴子は背中を反らせ、花道の肉棒を受け止めた。  
ほとんど全開状態になった晴子の秘裂が桜木の肉棒と密着し、卑猥な水音をたてている。  
「はっ晴子さん!!大丈夫ですか!!」  
「うっうん…大丈夫… ちょっと痛いだけだから…」  
そうは言いながらも、花道の肉棒が入ってくるとともに、晴子の顔が苦痛に歪む。  
いくら覚悟を決めたとは言え、それだけでは処女を失う痛みを受け止めきる事はできなかった。  
 
「は、初めてのときって、みんなこんな感じ…なのかな?」  
「わかんないっす。晴子さん、や、やっぱもうダメなんじゃ…」  
「わ、わたしのことは大丈夫だから…桜木くん気持ちいい?」  
「き、気持ちいいです。晴子さんの中って、マジ最高っす!」  
「ホント?うれしい…いいよ、もっと動いて、桜木くん。」  
「は、はい、それじゃあ…」  
 
愛欲にいきり立った花道の肉棒が、晴子の性器に激しく出入りを続けていく。  
初めての経験ならば、当然少女には痛みと苦しみの方が勝っていた。  
しかし、少女の中には一方で花道の愛を全身で受け止め、一つになっていることへの喜びもあった。  
まだ得ていない感覚を、これから少し少しづつ身に付けていく…。  
少女は、自分でも信じられないような快感を、全身で感じ取っていた。  
 
「ハァ、ハァ、あつくて、気持ちいいね桜木くん…なんか、このままとけちゃいそうだね…」  
「うぉ…俺もすごく気持ちいいっす、ハルコさん!」  
晴子は目を閉じたまま、花道とつながった世界を楽しんでいる。花道もまたそうだった。  
「はっ晴子さん!!、俺、もう…!」  
腰を振りながら、花道がうめいた。  
膣はよじれ、襞にお互いの愛液が少しずつ混ざり合い、子宮は少年の欲望を最奥で受け入れている。  
晴子の中の、処女らしい強い締め付けに、自分の思ってた以上に早く頂きに達しそうだった。  
いっそう激しくなった動きに、晴子はシーツをつかみ、最後の瞬間を迎える覚悟を決めていた。  
花道に心配をかけさせまいと、唇を噛み痛みの声を飲み込み、同時に想像も出来ない  
まだ見ぬ感覚への恐怖に耐えようとする。  
 
「ああん!いやっ!こわれちゃう…!こわれちゃうよ桜木くん…!」  
「ハルコさん、もうダメです!俺、もう…!!」  
花道は本能のままに最後の力を振り絞り、全力で腰を動かし、そして―――  
 
「ハルコさん…!!」  
「はあっ…あああああん…!!」  
 
花道は晴子の奥に自分のすべてを打ち付け、極限の中で、二人は同時に果てた。  
晴子の中に、花道の熱い液体が放出された。  
花道は、全てをさらけだしたかのように安心すると、晴子にもたれかかり動かなくなった。  
 
 
「ハルコさん!!!俺はなんてことを!!!こ、このうえは死んでお詫びを!!!」  
「やだ、桜木くんったら。」  
 
次の朝、さわやかな日差しが差し込む部屋の中で、晴子の前に土下座する花道の姿と、  
顔に手をあてて笑みを浮かべる晴子の姿があった。  
「昨日もいったでしょ、もうわたしたちは恋人どうしなんだから、気にしなくていいのよ。」  
「ほ、ホントですか。」  
「うん。それより、わたし桜木くんに感謝しなくちゃ。  
桜木くんとまた会えるようになって、はじめて気づいたの。こうして、二人で  
何げなく一緒にいられることがホントに幸せなことだったんだって。そんな小さな  
幸せが、大きな幸せに結びついていくんだって。」  
「ハルコさん…」  
「だから、ホントにいままでありがとう、桜木くん。そして、これからもよろしくね。  
二人で頑張ってこ!桜木くんと一緒ならなんでも乗り越えられそうな気がするよ。」  
「ハルコさん…!うぉー、頑張るぞ!天才の名にかけて!」  
「その意気よ、桜木くん!冬季選抜県大会優勝&全国制覇よ!」  
秋風が、ちょっぴり身にしみるそんな日々の中のできごとだった。  
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「ところでハルコさん、俺とゴリのと、どっちがでかかったんすか?」  
「そうねぇ…おにいちゃんのは、小さなときにちょっと見ただけから…  
よくわかんないけど、たぶん同じくらいだと思うわ。」  
 
(ふぬ…俺が勃ったときこんくらいだから…ゴ、ゴリのはマグナム級か!?  
い、いや、この下半身の帝王桜木、こっちのでかさもゴリより上のはず!  
そもそもゴリがああいうことできるのか自体が問題だが…まっまあ、ゴリもかろうじて  
人間だし、顔はあんなんだが、生き様はこの天才に次いでかっこいいからな、  
彼女の一人くらいはできても不思議じゃねぇ…!でも、ゴリの彼女って、どんなんだ!?)  
そう思いながら、桜木はゴリラ顔をした人間の男女が交尾をしているところを想像してしまう。  
 
ウホッ ホウッホウッ ホッホッ ウッホーーーーーー!!!  
 
「おぇ…ゲェップ…」  
「どうしたの桜木くん、大丈夫?」  
 
「ハックション!誰か俺の噂してやがるのかな…まったく晴子のやつ、少々浮かれ気味だ!  
後で叱っておかないとな…しかし、このいいようのない寒気は何だ!?いやな予感がするが。  
ふぅ…まあいい、もう少しだけやって仮眠とるか…」  
そうつぶやきながら、休日の朝も受験勉強に追われる赤木の背中は寂しそうだった。  
 
 

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