「ねえ・・・気にしてる?」
暗闇の中、半裸でベッドに座るのは、翔北バスケ部マネージャーの彩子。
カーテンを引いた窓の外の、枯れ葉を散らす風が聞こえる。
きまずい沈黙を破ったものの、返事を待つ間も長く感じる。
「アヤちゃんは、気にした?」
問いで返す、同じ翔北バスケ部の主将、宮城リョータ。
普段通り晴れやかな声音だが、心境はさだかではない。
彩子は眉をひそめて聞き返す。
「・・・なにを?」
「オレの失敗」
「本気で言ってるの?そんな訳ないじゃない」
「じゃ、オレも気になんない。オレには、アヤちゃんしかいないから」
「・・・」
「最初はこんなもんさ」
笑顔はきっとくすんでいる。宮城は床に座った。絹音からして、
無造作に散らかる二人の衣類をまとめているらしい。
ぼやけた背中に目をこらして彩子がぽつり。
「・・・ごめん」
「なんでアヤちゃんが謝るの?」
「ごめんね。・・・・・・リョータは、アタシの初めてじゃなくて」
最初の『気にしてる?』には、宮城の初体験でのしくじりに対する気遣いと、
すでに経験済みの自分の後ろめたさが含まれていた。彩子の消沈した声に、
宮城は手を止める。ふぅ、と息をついて振り返ったようだ。
「ごめん。オレが無神経だった」
「え?」
「いいんだよ、前の事は」
「・・・」
「アヤちゃんがオレとの初めてを覚えておいてくれたら、それで十分」
「・・・・・・・・・『前のは忘れさせてやる』、とか言わないのね」
思わず口にしてしまった。気さくな宮城なら、冗談まじりに自信満々な
決めゼリフで緊張を解いてくれるだろうと、半ば期待していたからだ。
ところが、彼は無言で彩子の隣にうつ伏せになり、枕に顔を沈める。
「あの有様でぇ?とんでもない・・・」
「な、なによ」
「現時点じゃ、今回みたいなの避けるのが精一杯」
「それは・・・(真っ暗闇で手探りでしたからじゃないの・・・)」
「でも、今日はもう無理かも」
「リョー・・・」
「今後の活躍に、乞うご期待・・・」
彩子の胸は締め付けられた。激しく育つ愛着と、罪悪感に。
『彼は気にしている』という疑惑と、自分を心広く受け入れて欲しいと
願った身勝手さが腹立たしい。16歳の宮城が受けた傷は、深いのだ。
彩子は、すぐ隣の彼の静かな息に耳を澄ますしかなかった。
***
週末明けの放課後、翔北高校の体育館 ― きゅっきゅっという小気味よい
バッシュの摩擦音に負けない、キャプテンの声が威勢良く上がる。
「なーにさぼってんだ 花道。基礎は!」
「リョーちんっ・・・オレだっていいとこ見せたいのに(ハルコさんに)」
「アヤちゃん、ちゃんと見張っといてね」
「了解」
「あ 三井サン、予備校のことで」
「おう?」
「試験日とか紙に書いといてください。ハルコちゃんが部活内容を調整するんすから」
「へいへい」
ハリセンを片手に、彩子はバスケ部の日常的なやりとりを観察している。
コートを走り回る一年生たちに気を配りつつ、気付けば目は宮城を追っていた。
(小柄でも、しっかりした肩と背中・・・)
なのに。主将としての信頼と責任を背負う頼もしい彼が、先日は触れれば
崩れてしまいそうなほどもろく感じられた。撫でるような視線に気付いた宮城。
「どーしたの?オレの主将ぶりに惚れ直しそう?」
「なーに言ってんの」
「「バカヤロウ 身の程知らずが」」
IH後に親密になった彩子と宮城だが、実は初夏から交際している。
しかし桜木のみならず三井まで口をそろえてツッコミを入れるあたり、
二人の関係は公然ではない。先日の出来事もなかったような自然体なのは、
ぎこちなさや甘ったるさを一切部活に持ち込まないのが暗黙のルールだからでもある。
(なにかあっても、顔に出さないのよね・・・それがアタシたちのポリシーだけど)
鬼キャプテンを演じる宮城の姿が眩しくて、愛しくて、彩子は目も心も奪われた。
(器用すぎて不器用なんだから・・・)
夜七時過ぎ、翔北バスケ部の面々は体育館の掃除をし終えて木枯らしの中帰って行く。
『ハルコさん、オレが送りましょう!』など、部員たちの話し声が遠ざかり、
しんと静まりかえる体育館の脇の倉庫の中で彩子は囁いた。
「みんな帰ったの?」
「・・・うん」
「なんでこんな所で・・・」
「・・・・・・ごめん」
「今日じゃないといけない?」
倉庫のドアを閉める宮城の返事が遅いせいか、空気が張り詰めている感じがする。
閉じきらない戸から忍び込む一筋の光が床を伝い彩子の顔を登った。
普段と違う重い雰囲気に胸が詰まり、彩子の瞳は当惑に泳いでいる。
「今度こそだよ、アヤちゃん」
***
「はぁ・・・あ」
前屈みの彩子のスカートから伸びる脚の膝上まで、スパッツごと下着が下ろされている。
シャツのボタンはきっちり留まっていて、垂れるリボンが絶えず揺れた。
(首が詰まるし・・・熱い)
倉庫の奥に積み上げられた平均台に手をつく彩子は、厚いブレザーの生地が窮屈で
うまく身動きがとれない。二人とも部活の後制服に着替えていて、冬服の中で熱がこもる。
「アヤちゃん・・・どう?」
接触する部分のみ肌が露出している。宮城は学ランの上着を羽織ったまま、
後ろから彩子のスカート内に忍ばせた指を、手荒く彼女の中で滑らせた。
一本から二本、二本から三本に増え、それらは飢えた生き物のように彩子を貪っている。
最初彩子の腰に置いていた片手はだいぶ前からむき出しの宮城自身を上り下りしていた。
「いくよ?」
(押しの強い声・・・それに 痛い)
それでも濡れる。背にそって折り重なる宮城の声色は、全身を舐める様だ。
溢れる蜜が太股をたどってスパッツをも湿らす。
(こんな場所で・・・こんな格好で・・・後ろから?)
経験者だが、室外でするのも後背位も初めてだ。それも埃の匂いがする体育倉庫で、
がむしゃらになんて。外部の音が遮断されたこの密室で、彩子は上がる息を殺している。
「ね」
(なんか・・・変よ)
宮城のせっかちな確認に彩子は頬を染めてこっくりと頷く。苦痛と紙一重の快感が凌駕した。
その合図から、自分を支配していた三本の指から開放されたと思ったら、
ただちにそれに勝る硬さと直径の圧迫を、敏感な割れ目に感じる。
「う・・・・・・・・・」
反る先頭が、彩子の熱く溶ける箇所をこじ開ける瞬間。羞恥心がこみ上げたが、
彩子はスカートを汚されたくなくて自分で腰まで布をまくる。
(え アヤちゃん)
露わになった白い尻と亀裂が暗がりの中火照り、宮城が目の色を変えた。たっぷりと
濡れているが強固な入り口で肉棒の前進が止まる。しばらくして接触が離れ、低く聞こえた。
「―だめだ・・・ ・・・ちくしょ」
(え? うそ)
首を向けると、聞こえた通り、たくましいモノがいつのまにかしなっている。
闇に慣れた目で見る宮城は『またか』といった面持ちで、彩子に背を向ける。
彼の肩はせわしく動き始め、陽気な声は情けなさを隠しつつ保証した。
「待っててよ アヤちゃん」
(まさか 緊張?)
「すぐだから」
(心の準備とか、できてないんじゃないの・・・?)
彩子は妙な気分になった。時折切ない声を洩らしながら、宮城の手は萎れた棒を
往復し続けている。その間、秋の室温に自分の秘所の熱が奪われていった。
濡れた核と、制服の下でじっとりにじんだ肌がひんやりする。もどかしい。
(服も脱がない上にキスもなしで・・・なげやりみたいよ)
***
ほのかに明かりのある体育倉庫。待ちくたびれた彩子は冷えた下着とスパッツを脱ぎ捨てて、
平均台に腰を掛けている。倉庫内の体操用器具に跳ね返るような息切れと音が耳を侵す。
目の前でひたむきに自分自身を励ます宮城の背中に疑問を投げた。
「・・・・・・なに焦ってるの?」
「焦るよ」
「どうして」
「アヤちゃんが待ってる」
「(心の)準備ができてからでいいわよ」
「今 準備・・・してる」
宮城の返事は穏やかだが、おそらく苦辛と焦心に眉間を歪ませている。手は忙しい。
「プレッシャーなんてないのに」
「―そんなことないだろ」
「なにがっ・・・?」
「ごめん・・・オレの問題だから心配しないでいいよ」
「なにそれ。らしくないわよ、リョータっ」
融通の利かない子供を叱るように彩子の声が鋭くなった。
振り向いたリョータの表情はやるせなさそうだ。『ごめん』と、より小さく言った。
「・・・気にしてるの?」
「気の小さい男なの、オレは。・・・身長も」
「―ばか、なに言って」
とがめてはいけない。慰めるのはもっといけない。平素しっかり者の彩子でも、
こんな時なだめる方法が思いつかない。シワが入ったスカートを何度も整えながら、訪う。
「こんなアタシ、嫌?」
「い?」
「前の男と比べてると思」
「そっ そんな訳ないって!なに言ってんの アヤちゃんっ」
「電気消したり、服着たままだったり・・・アタシにほとんど触れないのはなんで?」
「そ、それは ――」
「アタシにまで顔色ごまかさないでよ・・・」
「その・・・とにかく!オレ、操を捧げるのがアヤちゃんですっげえ幸せなんだよっ?」
「みさ―っば、ばかね・・・」
改めて『操』なんて言われ、ぎょっとした彩子の頬が熱くなる。焦る宮城は必死に弁解しようと、
舌を滑らすばかり。顔を赤くしたり青くしたり、口走った言葉が場の緊迫感を緩和した。
彩子はだんだん可笑しくなってくる。
(・・・こーゆーやつなのよね、リョータって)
***
「あんたってお兄さんと弟いるんだっけ?」
彩子は脈絡もなくそう訪ね、首を少し傾ける。宮城は目を丸くした。
「・・・いるよ・・・?」
「部活でも二年生って、真ん中でしょ。要領が良くて、ムードメーカーなのよね」
「どうしたの 急に?」
「先輩に対して従順で、後輩に対して面倒目いいし。バランスとれてる」
「・・・・・・いやー、バリバリ真ん中っ子気質なのかな?」
唐突だがどうやら褒められているので、宮城は照れながらも得意そうだ。
汗で垂れたくせっ毛の前髪が額を覆い、加えてしまりのない笑みのせいでひどく幼く見える。
彩子はそんな彼をつらつらと分析し始めた。
「損するタイプよね」
「え、まあ・・・」
「ないがしろにされたり」
「んー・・・」
「親からの期待薄だったりしない?」
「あの・・・」
「器用貧乏」
「えぇー?」
容赦ない批評に困る宮城。彩子は彼の口の右端にそっとキスをする。そして、左端。
(次は真ん中に来るかな・・・?)
とんがり口で目を閉じてみるが、期待ははずれた。
彩子は宮城の前髪を分けて、子供をあやすような優しさで額に唇を当てた。
「かわいくって、いじりたくなる」
「ひでーや、アヤちゃん」
「でね、」
「うん?」
「甘えてきて欲しいのに・・・逆に甘えたくなっちゃう」
口と口が触れ、甘い香りがくすぐる。彩子は満足そうに宮城の肩に頬を預けた。
「それが、リョータ」
***
(・・・アヤちゃんてば、反則・・・)
宮城は猛烈に、彩子を抱きしめたい。
「あんたは、あんたのペースでいいの。アタシたちのペース。待ってるから」
彩子の飴とムチは効果絶大だ。高揚した宮城は逸る気持を抑えるためか、
前髪を掻き上げて頭に押さえつけた。彩子は帰り支度をしている。
「―言っとくけどね、アヤちゃん、オレ、『ハヤさ』には自信があるから」
「早さ?」
「そうっ」
「・・・・・そんな自虐的にならなくてもいいでしょ」
「!! そっちの方じゃなくってっ」
「わかってるわよ、バスケのスピードの事?」
「それもあるけど、アヤちゃん曰く器用貧乏なオレは、立ち直りも、覚えも早い」
耐えきれず彩子を多少強引にからめとった。響く鼓動と同時に、下腹あたりに宮城の
熱と硬さを感じ取る。宮城は自分の大胆な行動が今更恥ずかしくも、誇らし気でもある。
無抵抗の彩子を一度ぎゅっと抱き留め、宣戦布告。
「三度目の正直だよ」
「・・・うん」
「全力で必死でいく。ためらいなし」
(それがいい)
「―オレなしで生きられなくなっても知らないから」
『・・・うおお 大見得きっちまったっ!』そんな後悔も、すぐ消え失せた。
耳をかすめた宮城の早口が嬉しくて可笑しくて、彩子がすかさず激励したからだ。
「それでこそ リョータよ」
***
「このまま・・・平気?」
「なんとか」
彩子と宮城は上着を捨て、シャツの襟元を快適に緩めた。
彩子は、倉庫に収納されている八段重ねの跳び箱の側面に背中を預けた姿勢だ。
斜めの支えが丁度良い角度で、向かう宮城の肩に手を添える。乱れた息が顔にかかり合った。
『よっ・・・』と、彩子の太股を片方持ち上げて広げる腕は力強くも優しい。
「いくよ」
「どうぞ」
お互い熱気を放つ身体を密着させた。甘いキスと柔らかいタッチのみで満ち満ちと
限界まで整ったモノを、彩子の中核の下側にぴたりと当てる。蜜を絡ませながら
擦るように上昇していき、入り口を見付けた先端がとうとう包まれていった。
『どうぞ』と言ったのが照れくさくて、彩子はゾクゾクと上り這う性感に頭を垂らし吐く。
「背丈が・・・近くて良かったじゃない? 立ったまま・・・できる」
(アヤちゃんのそーいうポジティブな所に、救われるよ・・・)
「んんっ」
「うぁ・・・ (まずい)」
想像を絶する、とろける温度と圧迫する肉感。果実の核のような瑞々しい女性の部分、
そこを慎重に貫き進む。果汁まみれた肉の壁を別けて、宮城の腰は天を仰いでエビ反った。
(お 大きい・・・っ)
予想以上のモノの侵入に肩で息をする彩子。体重のかかる片脚が震えた。
宮城にしっかり掴まれている脚には零れる汗。
繋がる音に重なる彼女の甘美な呼気が鼓膜で反響する。
「はぁ・・・ ・・・あん」
(い 色っぽ―)
目を閉じ耳と鼻を塞いでしまいたい。うっとりするほど心地良い彩子の音色、艶やかに歪む顔、
立つ香りに、逃げるようにうねる上体。汗に湿るシャツ越しでわかる胸の張り具合。
おまけに、柔らかいめしべが快楽的な拷問のように収縮し吸引してくる。
一瞬でも気を抜けば果ててしまいそうだ。それにしても、彩子の開口がキツすぎて道は長い。
(負けてたまるか)
汗だくで行き着く所まで埋めると、感動に拳を強く握る。高潮を耐えながら空いている腕で
彩子をぎゅうっと抱擁。腕を回した勢い余って跳び箱の木材の表面で指関節をすりむいた。
肌に浮きだつ汗粒のように、感慨を込めて声を絞り出す。
「・・・すげえ 幸せ・・・」
彩子も腕を回す。甘い言葉に加えて、首筋にかかる温かい息と激しい脈拍にそそられ、
秘部はどんどん湧き出る蜜で滑りが良い。
(ちゃんと入った・・・これからが)
待ち焦がれたこの時。腰をゆっくり引くと、糸も引いている。
『!!』電気のような快感が脳内を真っ白にし、彩子を支える腕がひるむ。
締め付ける肉壁から半分脱出したモノを滴る蜜がぽたりと床に落ちる。
(まずい この音)
静かな倉庫でなる粘着質な水音に、顔から火が出そうだ。
暴発寸前だった津波が引けばすぐぬくもりが恋しくなって、再び彩子の中に押し入れる。
(くそぅ 死ぬほど気持ちいい・・・っ)
***
「うっ・・・く・・・」
宮城はつぶれると思うくらい目を強く閉じ、辛抱している。
抜いて、入れる単純な動作がこんなに辛く、凄まじく気持ちが良いとは。
音を抑えつつ時間をかけて出入りする。彩子は弾む息の合間に『リョータ・・・』と苦しげに呼んだ。
(服着込んだままなんて やだ・・・)
宮城が見てない内に彩子は手際よく自分の胸元のボタンを腹まで外し、背中のフックもそのままに
乱暴にブラジャーを鎖骨まで引っ張り上げた。自由になった乳房が弾んで揺れる。
運動に精神統一中の宮城の両頬をそっと手で囲み、口づけで目を覚まさせた。
「見て・・・」
「アッ アヤちゃん・・・!?」
不意に視界に飛び込んだ艶容に宮城はびっくりした。彼のささやかな活動に悩ましく上下する、
張りのある胸。触れあいを要求する彩子の上目。すぐさま目をそらす宮城の汗ばんだ手を胸元へ導く。
「ちょっ・・・」
手のひらに吸い付く柔肌。宮城は金縛りになった。彩子は捕らえた手を覆い、
ふくよかな肉を揉ませる。強烈な感度に、破裂しそうなほど頭に血が上って行く。
彩子の長い睫毛の奥が光り、いまいち反応の固い宮城の指先が湿った口中へ吸い込まれていった。
(―なんの 拷問っ??)
彩子は舌を絡めてふんだんに濡らした指を舐めては吸い、吸っては優しく噛んだ。両手で掴んでふよっとした口内へ円滑に出し入れし始める。
(アヤちゃんの中、上の下もめちゃくちゃ 温かくて柔らかいっ・・・)
彩子は己の動きを宮城の腰のテンポに合わせて、見事なシンクロにくらくらした。
二重の快感が荒波になってゆく。下半身に摩擦を受けながら舌という性感帯を自ら弄び、
宮城の肉棒が蜜に溺れ締め付けが激しくなる一方だ。
「――――っオレ もうっ・・・・・・」
極限まで追い詰められた宮城は直前で彩子から自身を抜き取り、盛大に達す。
一足先に絶頂を迎える宮城の汗顔を彩子は撫でた。飛んでゆく意識の端で、
宮城は密かに告白する。
(明かりを付けない?服を着たまんま?なんでって?)
・・・
(アヤちゃんのカラダが刺激的すぎて、一目でイチコロなんだよ・・・)
***
今日もまた、翔北バスケ部は元気に練習に励んでいる。が、桜木はリハビリのためにも
地味にドリブルの練習をしていて、3on3している流川にダンクを見せ付けられた。
「ふんぬー 生意気な!ルカワ、勝負せいっっ」
「花道ー、今は基礎だ 基礎」
「―イジメだっ リョーちん」
(どあほう)
ぶつくさ言いながら桜木は言われたとおり隅っこでダムダムを再開している。
晴子に応援されていい気になっているせいもあるが、問題児の桜木を易々と
手懐けれるのは宮城の人徳だろう。先輩や同期たちの信望も厚い。
「さすが主将の貫禄ね」
体育館の脇に水を飲みに寄ってきた宮城を、彩子は素直に誉めた。『まーね』と言わんばかりに
片眉を上げている。リストバンドで汗を拭いながらペットボトルに口をつける、
その仕草がなんだか色っぽく写った。タイミング良く宮城の口から気軽な質問。
「惚れ直しちゃった?」
「なーに言ってんの」
お約束の会話に宮後はほころび、つつ・・・と寄り添い、周りに聞こえない低声で訊く。
「アヤちゃん、立ってて大丈夫なの」
「? なんで」
「あのさ。最初の二回失敗した時、たしかにオレ 気にしてたよ」
「な なに、急に?(こんなとこで・・・)」
極端な小声で聞き返す彩子の反応に、宮城は意味ありげに口の端をあげる。
「気にしてた、より心配してたって言った方が正しいかな」
「心配?・・・・・・『立ってて大丈夫』ってなに?」
彼は、冷や汗が垂れるペットボトルのゴム製ストローを舌で遊び甘噛みし、囁いた。
「てっきり オレの・・・が大きすぎて、入れる時 無理させてんのかと」
いつものような軽口。ただ、今回の宮城の声色は変わらずあどけないのに、身体中をまさぐるような
色気を帯びている。コートに向けたままの顔の大人のおもむきに、下半身がうずいた。
「と、思ってたらアヤちゃんの締まりのせ」
そこまで続けられて、ぼっと赤面した彩子は恥ずかし紛れにハリセンで力任せにはたく。
「――ばっかじゃないっ!??」
「いてっ うわ アヤちゃん、その反応すげえ新鮮だよ」
『現状維持』、平常を乱さない事が二人が付き合う条件。今回ばかりは不覚にも動揺してしまったが、
幸い周囲に交際関係を悟られていない。若くも器用な彩子と宮城の、時には戸惑わせ戸惑わされ、
調子を狂わせ狂わさせる、そんな恋の幕開けだった。
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(((((・・・・・・あの二人、やっぱりできてんだ・・・・・・)))))
―悟られてないと思いきや、バスケ部のみんなは茹でダコ状態の彩子となだめる宮城を
しっかり目に捕らえていた。失恋が確定してショックを受けた部員も数人いましたとさ。
おしまい