金曜日の放課後。明日は休み。  
普段はある土曜の部活もなしとの事で、皆どことなくいつも以上に力が入っている。  
 
思えばその日は彩子にとって珍しい日だった。  
流川と桜木が一度もケンカをせず、宮城が風邪で休み、赤木が告白されていた。  
極めつけは三井が暗いからと送ってくれている。  
 
そして…。  
 
 
「本当、珍しい事もあるもんですねー。まさか三井先輩に送ってもらえる日が来るなんて。」  
「おい。人が親切に言ってやりゃあ。」  
「あはは。すみません。」  
憎まれ口をたたいても、実際彩子の帰る道は街灯も少なくいつも怖い思いをしていたので助かっていた。  
普通不気味だと意識的に見ない人気のない公園も、今日は堂々と見て帰ることが出来る。  
そうして視線を流した先、滑り台の下の陰に彩子の身体がビクリと揺れた。  
「せ、先輩。」  
「あ?」  
三井の袖口を掴んだ。怯える彩子の視線を追って三井もその場所を見る。  
うっすらと街灯に照らされる足。その先の暗闇に誰か脱力した状態で倒れていた。  
「うそ。やだ……死体?」  
「…ちょっとお前ここにいろ。見てくるから。」  
「えっ!?いやですよ。」  
近付きたくはないが置いていかれるのは更に怖い。  
ズンズンと歩く三井の背に隠れながら一緒に近付いた。  
顔を見た三井がピタリと止まる。  
「どう?どう?」  
彩子の声にも反応せずじっと押し黙っている。  
返事がない事に怯えながら三井の腕越しにそっと倒れている人物を見た。  
「きゃっ……。」  
滑り台に寄りかかる男は傷だらけで、所々血が滲んでいる。  
思わずきつく目を瞑り顔を背ける。  
「…鉄男…?」  
「え?」  
三井の背がポツリと言った言葉に顔を上げた。  
聞き覚えのある名前にもう一度男の顔を見る。  
(そうだ、この男。三井先輩と体育館に乗り込んできた…。)  
 
突然、遠くでパトカーの音が聞こえてきた。  
弾かれたように三井は慌てて鉄男の身体を起こす。  
「ど、どうするの先輩。」  
「多分ケンカしてるとこ警察に見つかったんだ。オラお前そっち持て。」  
「えぇっ?」  
「置いとけねーだろ。こいつにゃ借りがあるんだ。」  
焦る三井に促されるままに男の片手を肩に回す。  
痛々しく傷ついた顔を、誰よりも痛そうな顔を作って彩子が覗く。  
その男の目がぼんやりと開いた。  
「あ、よ、よかった生きてる。」  
「当たり前だ。」  
彩子の顔を見ていた鉄男は、三井の声に反応して僅かに眉を上げた。  
「三井。」  
「おお。…どうした、ボロボロじゃねーか。」  
からかう三井の声に口の端を上げニヤリと笑う。  
「お前こそどうしたんだ。またグレたいのかよ。」  
「なっ!」  
赤くなる三井と噴出す彩子。  
「笑うな!」  
「だって。きゃっ!」  
再び意識の失った鉄男の身体がズシリと重くなる。  
三井は少し焦っていた。  
パトカーの音は少しずつだが近付いてきている。  
鉄男の傷の生々しさからいって、ケンカの相手もこの辺をウロウロしている可能性もあった。  
どこか身を隠せて、ゆっくり休める場所はないかと考える。  
「お前んちまだ遠いの?」  
「あと10分くらいはかかるかも。」  
「ッチ、くそ。やべーな。」  
顔を上げた三井に暗闇に光る文字盤が目に飛び込んできた。  
ただならぬ雰囲気に三井を目で追っていた彩子もその文字盤を見て、そして固まった。  
まさか。まさか…。  
「しょーがねー。あそこ行くぞ。」  
「え、えぇ!?」  
三井の指差す場所。  
そこは健全をアピールするかのようにピカピカと光っているラブホテルだった。  
 
ホテルに着いて部屋を選ぶとエレベーターに乗った。  
「気をつけて帰れよ。悪いな、結局一人で帰らせるハメになって。」  
「あっ、いえ、大体いつも一人で帰ってますから。」  
平静を装いつつ彩子は気付かれぬようひっそりと息をついた。  
ありえないとは思っていても、もしかすると三井は彩子にも泊まれと言うのではないかと心配していたからだ。  
(そうよね。そうよね。あーびっくりした。)  
エレベーターのドアが開き、チカチカと点灯している部屋へと歩く。  
「あーあ男とラブホテルかよ。しかもこんなゴッツイのと。」  
三井の言葉に笑いながら彩子が部屋に入る。  
と、入り口に引っかかったセカンドバックが彩子の肩から滑り落ちた。  
すぐに気付いた三井が拾い上げる。  
「ほら落ち………………あ。」  
ほとんど三井が支えていた鉄男の全体重が、いきなり彩子に委ねられる。  
「…ぇ?え!?きゃっ!!!」  
当然の如く体制を崩した彩子は鉄男を担いだまま派手に入り口に倒れた。  
なんとか鉄男の身体から這い出て起き上がった彩子に、無情に閉まるドアが目に入る。  
サーッと血の気が降りた。  
驚くほど鈍い動きで、震えながらドアに触れる。  
「………ちょっと。」  
「わ、悪い。」  
予想通りドアの向こうから聞こえる声に愕然とした。  
オートロック式のドアは既に鍵がかかっていて開かない。  
「お前ちょっと出て来いよ。入れ替わろう。」  
「財布バックの中なんですけど。」  
三井がしまったと思っているのが無言に乗ってひしひしと感じられる。  
嫌な予感がしつつ三井の言葉を待っていると…。  
「あー。言いにくいんだけど………明日出てきて。そいつ金持ってるから。」  
何かを吹っ切ったような無責任な言葉に言いようのない怒りと不安がこみ上げてきた。  
「冗談じゃないですよ!!何言ってるんですか!」  
「大丈夫だって!怪我してるし。危なくないない。」  
「ひ、人事だと思って簡単に言わないで!!」  
「まぁまぁ。ちょっと落ちつけよ。」  
なだめる声が腹立たしく涙が出そうになる。  
今日は本当にどうしたと言うのだろう。こんな事件に見舞われるなどありえない。  
「落ち着くって…。私この人にメチャクチャいい印象ないんですけど。」  
「彩子。聞けって。ホント、鉄男は女襲うような男じゃねーよ。保障する!」  
真剣な三井の声にうんざりと鉄男を見る。  
「頼む!朝まで勘弁してくれ!…この通りだ!!」  
どの通りなのか見る事は叶わないが、脱力する彩子は諦めのため息をついた。  
これほど言い切るのなら無理矢理信用するより他ない。  
「月曜日…特大のハリセン持って行きます。」  
「…覚悟してます。」  
無言でしばらくドアの前に立っていると、遠のいていく足音が聞こえる。  
はぁ、と息をつくと、一晩共にする男を振り返った。  
 
ベッドに大きな身体を放り込むと荒く呼吸をしながら脇に座り込んだ。  
一人で大の男を運ぶというのはこれほど大変なことなのかと驚く。  
寝ているのか気絶しているのか全く目を開けようとしない男を憮然とした表情で見た。  
とにかく傷が気になる。血が滲む傷には全て泥が擦りついていて、明らかに清潔ではない。  
洗面台にタオルを取りに行くと水を含ませそっと傷に当てた。  
よく見ると傷がないところにも血が付いている。  
相手の返り血なのかなんなのか…余り深く考えない方がよさそうだ。  
血を全て拭い、泥も拭き終わったところでもう一度タオルを濡らす。  
先程から目に付く、殴られて赤くなっている頬にタオルを当てた。  
「そんなにケンカが楽しいかしら。」  
呆れて呟きながらふと目を見た。  
思ったよりもまつげが長い。  
あれ?と彩子は顔を傾けて少し遠くから鉄男を眺めた。  
思いもよらなかったが、よくよくみると結構整った顔立ちをしている。  
鼻筋も通っているし、厚めの唇も形がいい。  
(へぇ〜。でもひげが濃いのはちょっとな。)  
なにやら楽しくなってきた。  
考えてみればこれほど人の顔をまじまじ見る事は初めてである。  
以前付き合っていた恋人達の顔もこれほどじっくり見た事はない。  
呼吸を繰り返すたびに、Tシャツの上からでも分かるほどの厚い胸板が上下する。  
均整の取れた身体。部員達とはどこか違う男としての色気があった。  
筋肉質の太い腕と長い指にしばし見とれる。  
この指は、腕は、女を抱く時にどう動くんだろう。  
彩子は自身の身体に熱が灯るのを感じた。  
そういえばしばらくバスケットに夢中で色恋とは遠く離れている。  
ふと彩子は思いつき、にこりと笑った。  
襲われる事しか考えていなかったが…。  
この状況、女が襲う事も充分ありえるのだ。  
 
 
■  
鉄男が目を開けるとすぐにシャワーの音が聞こえてきた。  
億劫に部屋を見渡すと、どうやらホテルらしい。  
起き上がり、またやってしまったのかと頭を掻いた。  
が、ズキリと痛んだ身体でようやく違う事に気付く。  
そういえば昨日は酒を飲んでいない。  
タバコに火をつけ少しカーテンを開けると眩しい光が入ってきた。  
昨夜、絡んできた男達がわらわらと増えていった所までははっきり覚えている。  
(…三井?)  
ここしばらく会っていなかった男の顔が浮かぶ。  
おかしい。奴に担がれていた気がする。  
 
そこまで思い出したところで洗面所から女が出てきた。  
「あ、起きたんだ。おはよう。」  
にこやかに言うと冷蔵庫の前に座り込んで飲み物を探す。  
制服姿で濡れた髪を拭いている様子は妙に違和感があった。  
タバコの煙を細く吐きながら、見たことのあるこの女の記憶を探る。  
「昨日の事覚えてる?あなた公園で倒れてたのよ。」  
(この女昨日三井といた…。あぁ、あの時の女か。)  
いつか体育館に乗り込んだ時、鼻息荒く近付いてきた顔が鮮明に思い出された。  
なにがどうなってこの状況になったのか知らないが、面倒をかけたらしい。  
「三井は?」  
「帰ったわ。多分ね。」  
言うと探るように鉄男を見ながらミネラルウォーターをごくごくと飲む。  
無遠慮にじっくり見てくる彩子の視線をぼんやり返しながら、吸い込んだタバコを灰皿に押し付けた。  
「世話になったな。」  
立ち上がり、ハンガーにかけてあった上着を見つけて手を伸ばす。  
掴んだところで近付いてきた彩子の手に制された。  
見下ろす男に動揺の色は全くない。  
三井の言う通り、本当に手を出す気は更々ないようだ。  
それどころか興味のきの字すら示さない鉄男に、彩子の方は逆に好奇心を掻き立てられた。  
彩子の押すままに鉄男がすとんとベッドのヘリに座る。  
男に膝にまたがると彩子は両肘を鉄男の肩に回した。  
「どけ。」  
「お礼、してくれないの?」  
「…。」  
「いい声なのね。」  
覗き込むように顔を傾けた彩子の指が唇に触れ、ゆっくりとした動きで形を辿る。  
「低くて掠れてて。すごく素敵よ。」  
にこりと微笑むと唇を寄せてきた。  
「よせよ。気分じゃない。」  
顔を背けると彩子はむっと顔をしかめた。  
「いーじゃない。ずっと起きるの待ってたのよ。」  
言うと鉄男の服に手を差し込み脱がし始める。  
(この女。)  
自分になびかない男はいない事を知っている態度だ。  
事実そうなのだろう。今まであった男は。  
 
「わかった。」  
ポツリと言うと、男のTシャツの中で動いている彩子の手を掴んで離す。  
鉄男の言葉に彩子はうれしそうに顔を上げた。  
「本当?」  
「あぁ。」  
言うとくるりと体制を変え彩子の身体をベッドに転ばせる。  
「ただ…誘いてぇならもう少し色っぽくやってくれ。」  
驚いた様子の彩子をしばし見やると、身体を離してベッドから降りる。  
タバコに火をつけ振り返れば困ったように上体を起こしてこちらを見ていた。  
なるほど。やはり好みの顔だ。  
ゆるりと煙を吐くと近くの椅子を引き彩子と向かい合わせに座った。  
セックスの経験はあるらしいがそうそう多くはないようだ。  
ある程度男を知った女ならば媚びるなり弱々しい演技をするしたたかさを覚えている。  
彩子の強気の目は妙にこの状況から浮いていた。  
足を組むと気だるそうに肘掛にもたれる。  
細く吐き出した煙が宙を舞って消えた。  
「脱げよ。」  
目を丸くする彩子にただ視線を投げる。  
眉を不快に寄せる彩子の顔がみるみる赤く染まってきた。  
どうやらこんな仕打ちは初めてらしい。  
身体を開きさえすれば喜んで飛びつくとでも思っていたか。  
(舐められたもんだ。)  
確かに魅力のある女である。  
だからと言って喜んで抱くほど飢えてもいない。  
この女の蒔いた種だ。とことん誘ってもらおうと鉄男は口の端で笑んだ。  
しばらく考えていた彩子は、うつむいて制服のジャケットの袖から手を外す。  
無言の鉄男の視線の先、彩子のジャケットがベッドの脇に落ちた。  
髪を肩に流すと一層うつむいてシャツに手をかける。  
ボタンを外す細い指が小さく震えている。  
薄い紫のブラジャーがちらりと覗いた。  
見える肌の面積が少しずつ増えていく。  
「顔上げろ。」  
ぴくりと揺れた彩子は僅かに顔をあげた。  
所在なさげな視線を横に流して、最後のボタンをはずす。  
「こっち見ろよ。」  
動きを止めた彩子は深く息を吸い込むと、決心したように鉄男を見た。  
気が強そうなその目が先ほどと違い幾分濡れている。  
羞恥か興奮か。  
どちらもさほどの違いはない。  
鉄男の無言に促され、一枚、一枚、身体を覆う布が床へ落ちていく。  
他の部分に視線を行かせたくないのか、彩子の目はどんどんと熱を増して祈るように鉄男を見ていた。  
承知の上で鉄男は舐めるように彩子の裸体に視線を流す。  
丁度よい肉付きの白い肌。  
張りのある胸。その上の薄桃の突起。  
男の視線を嫌というほど感じ、下半身に残る最後の一枚の下着を脱がずに手で胸を隠しうつむいた。  
 
「…お仕舞いか?」  
ウェーブの髪が覆う顔から表情こそ読み取れないが、もはや肌全体に広がる朱が彼女の限界を知らせている。  
先がなくなったタバコを深く吸って灰皿に押しつぶすと緩く息を吐いた。  
「足開け。」  
信じられないと言わんばかりの目が鉄男を見る。  
「やれよ。」  
顎で促されて彩子は小さく息を飲んだ。  
おずおずと白い足が開く。  
新しいタバコを箱から取り出し火をつけながら、鉄男はうつむく彩子に近付いた。  
「っ!きゃっ!!!」  
「そんなんじゃ見えねーだろが。」  
突然片方の足首を掴んで高く持ち上げる鉄男。  
反動で彩子はベッドに倒れる。  
「ぃやっ!急になによ!」  
慌てて開かれた部分を隠そうとするが、すでにその場所は鉄男の眼前にさらされていた。  
にやりと笑うとタバコをくわえる。  
「は。濡らしてやがる。」  
「…あ、ゃっ…んっんう!…ぁああっ!!」  
下着の端から入れた人差し指はなんの抵抗もなく奥につぷりと飲み込まれた。  
乱暴に上方をごりごり擦ると跳ね上がる彩子の腰が浮く。  
「勝気なわりにゃマゾっ気たっぷりだな。荒くやるだけ溢れてくるぜ。」  
タバコを挟んだ左手で腿を倒し、大きく足を開かせる。  
下着の上から膨れ上がった突起をぬるりと舐めると愛液の味が広がった。  
舌の先で押しつぶすリズムに合わせて溢れ出る液が、差し込む指を伝わってシーツに落ちていく。  
粘液がたっぷり絡まった下着を音が出るように吸いつつ突起を軽く噛む。  
彩子は悲鳴のような声を上げ大きく反った。  
汗の浮かぶ肌を見つめながら誘われるようにスルリと撫でる。  
軌跡を辿るようにタバコの煙がその動きに続いた。  
だらりと投げ出された足から下着を剥ぎ取る。  
起き上がった鉄男は彩子の身体を軽々と引き寄せベッドから降りた。  
「ぇ?…なに?…っつめたっ!!」  
引くままについて来た彩子の身体を側のガラス窓に押しあてる。  
混乱している内に両足を肩に乗せた。  
「きゃっ!?ちょっと!やだっ!!」  
ひょいと抱え上げると支えをなくした彩子が鉄男の首にしがみ付く。  
「そーそ。黙ってしっかりつかまってな。」  
「お、降ろして!こわ…、っん。」  
更々降ろす気などないので、顔を寄せ口を塞いだ。  
舌を入れると上々に返してくる。  
首に回る彩子の腕に力が篭った。  
「あっ…はぁあ…あ。」  
ジーンズから取り出した自身を濡れきった彩子の入り口にあてがう。  
ゆるゆると腰を進めると、彩子は待ちわびたように甘いため息をついた。  
 
鉄男の長めの髪を指に絡め、背のTシャツを強く握り締める。  
しかしいつまでたっても待ちわびた圧迫感は得られなかった。  
鉄男は未だ半分ほど挿入した部分で浅くゆっくりと腰を動かしている。  
「ん…。ね、ねぇ…。」  
「あ?」  
「…ねぇって、ば。」  
「なんだよ。」  
明らかに苛立ちと焦燥感の混じる彩子の声に、底意地の悪そうな笑顔で答える。  
ようやく男の意図を悟った女が恨めしげな視線を鉄男に向けた。  
「言えよ。」  
ぐっと奥に挿れると彩子の身体が悦びに震える。  
「はァ…あっ…い、嫌よ…そんな…。」  
「言え。」  
「ぁあっ…あ…。」  
もどかしい刺激に身体を強張らせながら一層鉄男の首にしがみ付いた。  
女の髪から香る甘い匂いに頭が痺れていく。  
この女、ヤバイ。  
目を引く艶やかな動き、甘い香り。  
男を狂わせる。  
未だ何も言わず待ちわびる彩子から、それならばと差し込んでいた肉の塊を引き抜いていく。  
追うように鉄男の頭を掻き抱きながら彩子は決心し深く息を吸った。  
「お、奥まで挿れてぇ…!…お願い、お願い…っ!」  
満足気に彩子の髪を一度撫でると、片手で女の身体を抱えギリギリまで引き抜く。  
灰だらけになったタバコを窓ガラスに押しつぶし、抉るほどの強さで一気に奥まで擦り上げた。  
「っっ!!ぁぁあああああああ!!」  
細い身体を強く窓に押し当て、乱暴に腰を動かす。  
拒むどころか強くしがみ付いて彩子は待ちわびていた苦しさに声をあげた。  
彩子を抱えながらそれを感じさせないほど自由に鉄男は動く。  
逃げる事も、自ら動く事も叶わない体勢でただただ彩子は鉄男の律動を享受した。  
「ボタボタ引っ切り無しに垂らしやがって。は…いやらしいねぇ。」  
言うと更に増した粘液が部屋中に水音を響かせる。  
液にまみれた女の肉が、自身を扱き上げる感触に鉄男は眉を寄せた。  
昨日受けた傷の痛みなど、もう何も感じない。  
ぐじゅぐじゅと粟立つ音が響く中、彩子は鉄男のTシャツを握り締める。  
「あぁ、あっ!いく…いっちゃう…!!っっ!!」  
一瞬、名前を呼ぼうと開いた女の口は何も紡げなかった。  
名を呼び合う関係であるはずもない。  
肩を引き寄せる大きな腕。  
息が詰まりそうな力強い腕は、男の冷たい視線と裏腹に燃えるほど熱い。  
奇妙な安心感と傷ついたように痛む心の中、追い詰められた彩子は逃げ場なく果てた。  
 
■  
ホテルから少し離れた場所で鉄男はバイクのエンジンをかけた。  
身体に伝わる低い音が小さな路地に響く。  
大きく2度ふかしたところで鉄男は彩子を見た。  
彩子は何か言いたげにじっと男を見ている。  
 
(この人…私の名前も聞かない。)  
 
「じゃな。」  
「あ、の…。」  
言いかけた言葉を彩子は飲み込んだ。  
タバコに火をつけた鉄男の彩子を見る目は、相変わらず何の興味の色もない。  
今は、それでもいいと思った。  
「また会えない?」  
真剣に呟く彩子の言葉に鉄男はわずかに眉を上げた。  
「今度は……どこかに行きましょ?」  
肩をすくめて照れ笑いをする彩子の頬がうっすらと赤くなる。  
 
どうやら気に入られたらしい。  
鉄男は彩子を眺めながら深くタバコを吸い込んだ。  
この手の女は多い。毛色の違う人間が物珍しいのだ。  
そしてこのタイプの人間と付き合ってみた所でうまくいかない事を知っている。  
嫌になる程分かっているのに心臓が跳ねた自身が滑稽で、  
煙を吐きながら下を向くと、は。と小さく笑った。  
「なによ。」  
口を尖らせる彩子の顔を見る。もう一度大きくエンジンをふかした。  
「あんたと俺じゃとても釣り合わねぇ。」  
初めて見る毒気のない笑顔だった。  
眉を寄せていぶかしげにしている女。  
ふいと視線を外し地を蹴ると、もはや一言もなく勢いよく発進した。  
 
 
振り返りもしない背を見送ると、彩子は恨めしげな表情を一変、ふふと笑顔を作った。  
(甘いわね。こっちには三井先輩がいるのよ。)  
努力するのも諦めないのも得意な方である。  
試合だってしつこく押していれば事態が好転するなんてよくある事だ。  
「しばらく退屈しないわね。」  
不敵に笑うと鼻歌交じりに帰路についた。  
 
週明けが楽しみである。  
 
 

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