今日は湘北バスケ部のOB会。  
みんなそれぞれの道に進んでも、年に1回は集まれるメンバーだけでも集まろうと始まった。  
OB会はなぜか、いつも同じお店、つまり陵南の魚住さんのところで行っている。  
地元で気楽だし、貸し切りでお願いできるからという理由で。  
それに、陵南のOBが飛び入り参加することもあって、私たちには大切な場所。  
でも、今回のOB会はちょっと特別。  
なんと、あの赤木先輩がこの日曜日に結婚するということで、アメリカにいる流川も出席することになって、久しぶりに全員が揃うことになった。  
ジューンブライドとシーズンオフが重なったともあり、出席できるって。  
あの子なりに慕っていたし、先輩の門出に揃って来てくれるのは流川の律儀なところ。  
流川は留学し、夢を実現してからこっちに戻ってくることは滅多になかった。  
今では、沢北さんと同じく、シーズン中にはスポーツニュースで必ず取り上げられる日本人NBA選手になってしまった。  
私たちは驚きと喜びと、そしてますます遠くに行ってしまった寂しさを感じたけれど、やっぱり活躍していることはうれしい。  
 
そんなわけで、今はOB会御用達の魚住さんのお店に向かう途中。  
もう外は暗い。  
藤沢駅から電車に乗って、窓に映る自分を見た。  
髪の毛のウエーブを整え、少し角度を変えて自分をチェックする。  
久しぶりにみんなと会えるのが嬉しい反面、緊張している自分が映っている。  
流川が来る、か。  
まあ、アイツは私を見ても何とも思わないだろうけど・・・。  
あれは、高2の冬のこと。  
流川と私には、二人だけの秘密があった。  
 
あの頃、流川はシュートの調子が悪かった。  
あの子にとって別に難しいようなものじゃないのに、いつものようにボールがリングに収まらない。  
何がいけないのかと、本人もどこか納得がいかないような様子だった。  
選抜まであと一週間。  
このままずるずると引きずりたくない、そんな思いがいつまでも流川を体育館にとどめていた。  
 
「流川ってば!」  
何度呼んでも気づかないから、すぐそばまで行って、大声を出した。  
「何すか?」  
「「何すか?」じゃないわよ。集中するのはいいけど、規定の練習時間守らないと部停って、最近うるさいの知ってるでしょ?戸締まりの報告もしなきゃだし。晴子ちゃんが何度も声かけたのに、アンタが無視するっていうから。」  
「・・・。」  
「とにかく、もう閉めるから出て。アンタのせいで真っ暗な中、一人で帰るハメになっちゃったじゃない。」  
「マネージャーは?」  
「晴子ちゃんは帰る方向が違うでしょ。」  
たいていの生徒は、路線の多い学校前のバス停から帰ることができた。  
駅まで歩くバスケ部員もいたけれど、私の家も流川のうちも、湘北高校を中心に駅とは反対方向に自宅があった。  
「・・・チャリ乗る?」  
あたしは思わずにんまりした。  
行きはともかく、帰りはバス停から家までの道が暗くて嫌だったのよね。  
流川じゃなくても、一緒に歩ける人がいるなら、ありがたかった。  
「やった!助かるわ。さ、片付けて。」  
流川は立っていた場所から1本だけショットを放った。  
ガコンとあたり、グルグルとリングをまわって外に弾かれた。  
悶々としたまま、渋々ボールを片付ける流川は、別にいつもと変わらない。  
ただ、シュートの成功率がいつもより悪いだけで。  
流川のことだから、寝れば、明日には治ってる。  
そんなふうに思っていた。  
 
「さむー。」  
手をこすりながら、自転車置き場に行くと、流川が自転車を出していた。  
ママチャリだからこそ、できる二人乗り。  
まったく・・・どこにぶつかったのか、カゴがだいぶ歪んでた。  
校門まで自転車を押していき、流川は自転車にまたがった。  
「乗って。」  
「うん。」  
後ろに腰掛け、肩にかけたバッグを片手で持ち、不安定ながらも、もう一方で荷台に掴まった。  
流川が自転車をこぎ始ると、思った以上に速かった。  
「きゃっ」  
段差に驚いて、思わず声をあげた。  
「ちょっと、危ないじゃない。」  
流川は片手で自転車に掴まる私の手を取り、自分の腰にまわした。  
向かい風に吹かれながら、その手を、流川はずっと握っていた。  
密着度は増すやら、予測できなかった事態に焦るやら。  
ハンドルを握る反対側の手に力が入っているのか、私の手を握る手にも力が入った。  
まったく、照れってもんがないのかしら?  
湘北生に見られたら、それこそオオゴトだわ。  
でも、このぶっきらぼうな後輩の手が、そして背中が、心地よい温もりをもたらしたことも事実だったわけで。  
誰にも見られていないことを願いつつ、ちょっとしたスリル感を味わっていた。  
 
「次の角、どっち?」  
「えっと、左。で、そのまま道なり。」  
「すげー坂。」  
「そ、あたしがチャリ通しない理由よ。帰り道にこれはちょっとね。アンタにとっちゃ、足腰トレーニングになるわよ?」  
流川は黙々と坂をこいで上り、家の前まで送ってくれた。  
手を握ったまま。  
 
「ありがとう、流川。帰り道、気をつけて。」  
家の前につくと、薄暗い中、流川は何も言わずに、私を見ていた。  
「何?」  
「手、冷たかった。」  
「え?」  
思わず、さっきまで握られていた手を見た。  
「あ、えーっと、もう大丈夫。ほら、ね。」  
ハンドルを持つ流川の手の甲を、両手で覆った。  
その手は、風に当たり続けて驚くほど冷えていた。  
「ありがとう、流川。」  
二度目のお礼を言って、私は逃げるように家に入った。  
玄関の戸を閉めて、大きく息をつく。  
走ってもいないのに、やたらドキドキして。  
後輩と手をつないだくらいで動揺するほど、恋愛経験が少ないわけじゃない。  
ペースを乱されて、その晩、すぐに終わるはずの宿題と苦闘した。  
 
翌日の部活、流川の様子を見た。  
いつもと何も変わらないみたい。  
シュートの調子も昨日と同じ。  
けれども、流川は高校に入ってからすごく変わったかもしれない。  
以前からバスケに対して甘さはなかったけれど、練習中の集中力には驚かされる。  
あんなに真っすぐ、情熱的になれるなんて、うらやましくも感じられた。  
あの真剣さと、一途なひたむきさと、あの熱さが流川のすごいところ。  
プレーヤーとして尊敬する。  
でも、コートの外のことになると・・・?  
あの子が恋愛する姿とか、想像すると笑っちゃう。  
バスケ以外の他のことなんか、全く眼中にないわよ、あれは。  
昨日の夜、一瞬でもこの後輩を意識をしてしまったことが、自意識過剰に思えて笑ってしまった。  
 
練習が終わって、他のメンバーがラーメンを食べていこうなんて話しながら、体育館の整備しているときも、流川は黙々とモップがけをしていた。  
体育館での生活の長さゆえか、練習以外のことも自然に体が動いてやってるって感じ。  
でもたいてい、この後、また独り残っちゃうのよね。  
 
「もーちょっとだけ。」  
ほらきた。  
「大会も近いし、調整が必要よ?」  
「へーき。」  
「あんたが良くても、チームには良くないの。それに、今日はあたしが体育館の鍵係だから、あたしが閉めるって言ったら閉めるの。」  
「送るから。」  
このワガママっぷりったら、桜木花道と変わんないわよ。  
でも、腹は立ってない。  
むしろ、流川に必要なら、いくらでもつき合いたいって思ってる。  
選抜に臨む思いに共感してるから?  
マネージャーという立場上の責任から?  
流川との帰り道のひと時を望んでいるから?  
よく分からなくなってきた。  
こんなときは、あんまり考えないようにしてる。  
私は、流川が練習している間、用具室の中を整理することにした。  
整理したはずの用具が、他の部のものと混乱して、ややこしい。  
何せ、予算が少ない中、何とか獲得した用具管理は部の責任。  
あれこれと整理をし始め、掃除にのめり込んでいた。  
 
「先輩」  
背後から影が伸びて足下が暗くなったことに気づいて、振り返った。  
流川がすぐそばに立っていた。  
「あれ、終わり?」  
「同じ。」  
「は?」  
「ぜんぜん聞こえてねー。」  
「呼んでたの? 何か、片付けに夢中になっちゃって・・・可笑しいわね。」  
流川に言われるなんて、笑っちゃう。  
流川も・・・ほんとは無視してるわけじゃないのかもね。  
「先輩・・・」  
「何?」  
「キスしたい。」  
・・・・・!!  
 
出し抜けに・・・。  
どっからそんな台詞が出てくんのよ?  
たっぷり10秒は固まった。  
でも、冗談言ってるような顔ではなく・・・ただ、静かに、まっすぐに、私を見てた。  
練習や試合での流川のひたむきな視線は、見ている者に感動を与える。  
でも、それを自分に向けられると、受け止められそうにない。  
落ち着かなくなって、目が泳いだ。  
流川は近づいて、私の背中に手をまわした。  
「ちょ、ちょっと、なんか違うんじゃない?「好き」とか「つき合って」とか、そういうの、先に言うわよねえ、普通。物事には順番ってモンがあるのよ。」  
「だから、言った。」  
だから、って、これが流川なりの順番なのか。  
わけがわからない。  
「言ったら、イイってもんでも・・・」  
最後まで言わないうちに、そっと唇が降ってきた。  
流川のキスは想像と違った。  
強引にキスしたわりに、ついばむようなキスをゆっくりと繰り返す。  
初めてキスした時のことを思い出すような、甘い高揚感。  
いつもはボールを持つ手が髪に触れ、頬が触れ。  
「・・・流川」  
再び唇が触れた時は、熱っぽく包み込まれた。  
この子は、他の子にもこんなキスをするのかしら。  
バスケ以外のことに興味を示した流川の姿は、私を大いに刺激した。  
流川の情熱に押し流されてみたい自分と、それを必死で止めようとする自分。  
いいわけがなかった。  
でも、嫌と言ったら嘘になる。  
苦しくなって口を開けたら、舌が触れた。  
流川の舌が私を誘い出すように絡んでくる。  
角度を変え、歯列をなぞり、絡めとり、ますます熱を帯びてくる。  
「・・・ん・・・ふ・・・」  
流川の熱が伝染して、いつのまにか感触を確かめるように、何度もキスを繰り返していた。  
頭の芯がぼーっとなって、浮かされたような感覚に落ちいった時、膝の力が抜けた。  
とっさに流川の腕を掴んで、私は何とか立っていた。  
 
「我慢限界。」  
「アンタ、我慢なんかしないじゃない?」  
「する。」  
「いーえ、しません。」  
「した。」  
「いつしたのよ?」  
「今まで。」  
「はぁっ?」  
「もーしない。」  
流川はひょいと私を抱えて、用具室のマットに置いたかと思うと、覆いかぶさるように抱きしめて再びキスをした。  
静かな部屋に響くキスの水音。  
突然ぶつけられた熱情。  
「今まで」っていつからよ?  
大きな手が体をまさぐり始め、首筋へと唇の感触が降り始めた。止めさせようともがくと、かえって密着させてしまう。  
冷んやりした手がジャージの下からするりと滑り込んで、ぞくっと体が反応したかと思ったら、ブラのホックを器用に外して、服をぬがせようとした。  
「ちょっとっ!」  
「?」  
私は抗議した。  
「何でもかんでもアンタのペースですすめないでよ。それに、こんなホコリ臭い場所で・・・」  
「どこならいい?」  
「どこって・・・。」  
「ウチに来る?」  
「・・・流川。」  
「来て。」  
 
完全に流川のペースだった。  
なのに、抵抗どころか、このまま流されたがっている自分がいる。  
部屋の戸を閉めた途端、さっきの続き、と言わんばかりにキスをした。  
覚悟が決まれば、拒むことは何もない。  
流川の背中を抱きしめ、どちらからともなくキスを繰り返す。  
流川らしいシンプルな部屋。  
大きめのベッド。  
服を脱ぎ合い、抱きしめあった。  
肌と肌が触れ合って、熱が伝わる。  
 
流川は体育館では遠慮してたんだ。  
貪るような絶え間ないキスに苦しくなって息をつくと、耳たぶや首にキスが降る。  
首から胸に滑っていく、つややかな髪。  
唇が、舌が、確かめて、浸食するように体を這う。  
普段は無口な流川の唇が、こんなふうに体に触れるのを考えるだけで、どうしようもなく気持ちを高ぶらせていく。  
「・・・・・んっ・・・」  
私は口を塞いだ。  
「誰もいない。」  
流川は続けながら言った。  
「だから・・・って・・・はぁ・・・」  
「あれこれ考えすぎ。」  
「・・・そうかもね・・・」  
 
「ん」  
キスで相づちをうつ。  
みんな、この子のことを無口だって言うけど、流川はそのとき伝えるべき最低限のことだけを言葉にしているのかもしれない。  
流川のキスは欲求を引き出すように、あちこちに火をともしていく。  
厚みのない大きな手が胸を包み込み、先端に刺激が与えられると、触られてもいない下半身がうずき始めた。  
舌が胸の突起をやさしく転がし、吸い上げる。  
互いの足が絡み、流川の張りつめたものが体に密着した。  
それに手を伸ばし、刺激を与えると、流川は初めてため息をついた。  
最初は余裕を見せていた流川が、眉間にしわを寄せた。  
普段の様子から想像もつかない表情。  
体を起こして、流川の反り立ったモノを口に含み、舌を使って丁寧に愛撫した。  
その仕草がはっきり流川に見えるように髪をかきあげ、くわえているそれを抜き差ししながらわざと水音を立てる。  
自分が快感を与えているという優越感に浸りながら、息が上がり始めた流川をもっと追いつめようと刺激を与え続け、先端を濡らす液を吸い上げる。  
「・・・ぅ・・・んっ・・・」  
流川の小さな喘ぎ声が聞こえた。  
「イっちゃっていいわよ。」  
流川は私を見ると腰を掴んで向きを変え、大腿をなで上げるように手を這わしたかと思うと、そのまま中心へと指を滑り込ませた。  
突然、下半身に電流が走り、長い指が肉芽に刺激を与え始めた。  
「っんあっ・・・・・・あぁ!」  
くちゅくちゅと水音が響いて、さらに溢れていくのがわかった。  
口から流川のモノから離れ、刺激の波が襲ってくる度に声が止まらなくなった。  
それでも何とか流川の分身を握り、刺激を与えようとしたけれど、下半身からますます高みに上がっていく感覚が次々とおそってきた。  
すると、流川が両足を開き、押さえつけて秘部に口づけ始めた。  
「あっ・・・やっ・・・ぃや・・・」  
痺れるような感覚の波が足のつま先まで伝わっていく。  
逃れようとしても強く押さえられ、舌が肉芽を刺激した。  
「ああぁ・・ね・・・待っ・・・」  
流川は聞く耳を持たない。  
うごめく舌と部屋に響く水音が与える快感に溺れて、何も考えられなかった。  
ただ流川が欲しかった。  
「はや・・・く・・・・・あぁん・・・」  
流川は何も言わず、刺激し続けた。  
「んんっ・・・・もうっ・・・・あっ・・ああ」  
「イっていいよ。」  
「ぁあああっ・・・・・」  
 
体を駆け抜ける電流で痙攣する私を放すと、流川はうつぶせにしたあたしの腰を持ち上げた。  
力の入らない膝を立てさせ、流川は自分のモノを沈めようとした。  
「・・・ちょっと・・・」  
「?」  
「つけるものないの?」  
「ある。」  
こんな時、意外と冷静になっちゃう自分が嫌だけど、できちゃったりしたら、ホントシャレになんないもの。  
どこに入れたのか、ベッドサイドの引き出しを上から順番に開け、さぐる姿が面白くて、タオルケットを被って思わずクスッと笑ってしまった。  
それにムッとしたのか、手早く装着を終えた流川は、仰向けに上から押さえつけて入ってきた。  
「・・・んっっ・・・」  
めりめりと進む存在感。  
その感覚に全神経が集中して、治まらない感覚を呼び戻し、新たな快感が刺激を与えた。  
「はあっ・・・・あっ・・・ああ・・・」  
内壁を刺激し、激しく奥を突き上げる。  
中性的に見えると思っていた表情は、男の顔だった。  
腰を打ち付け、追いつめる。  
普段とのギャップが興奮を誘った。  
「・・ああっ・・・・るかっ・・・!」  
このまま高みに上がってしまいそうになって、待ってと、肩をつかんだ。  
流川と向き合って、汗ばむ額にかかる前髪をかきあげた。  
すると、流川も同じことをした。  
「先輩と・・・こーしたかった。」  
「・・・どうして?」  
「わかんねー。」  
流川はそうしたくて、してるだけ。  
部活の中で恋愛は御法度だと思ってたし、変に感情がないほうがいい。  
目を開けると、流川が見つめていた。  
 
「わかったら、俺たち何か変わんの?」  
俺たち。  
流川の意識の中に私がいた。  
それだけで十分だった。  
「・・・変わらないわね。」  
再び、流川が奥深く腰を進め、打ち付けた。  
「あっ・・・んっ・・・るか・・・ああ・・・」  
快楽をもたらす波はさらに大きくなり、流川の呼吸が上がってきたのがわかった。  
整った顔が歪むのが見えたけれど。  
「あっ・・っあぁ・・・・ああっ・・・!」  
一気に昇りつめ、真っ白になって意識を解放した。  
 
 
「初めて・・・じゃないわよね?」  
「先輩も。」  
「まあね・・・。」  
「よかった?」  
「・・・かもね。」  
「かも?」  
流川がちらりと見た。  
だって、ちょっとくらい余裕を見せたいじゃない。  
「もいっかい。」  
「い、いいわよーーーあっ・・・」  
結局、どんな局面でも流川はオフェンシブだってことを嫌というほど思い知らされた。  
 
 
 
あれから7年。  
流川とのことを誰かに話したことはない。  
 
 
お店に次々とみんなが集まって、相変わらずのメンバーが揃った。  
赤木先輩はみんなに冷やかされっ放しだけど、幸せそうで、貫禄が増していた。  
互いに近況を話し合ったり、お腹を満たしたりして、1時間ほど過ぎた時、お店の戸が開いた。  
「おー、来た来た。」  
三井先輩が気づいて、みんなが注目する。  
「っす。」  
「じゃあ、もう一度乾杯しよう。」  
木暮先輩がグラスにビールをつぎ直して、晴子ちゃんが気配りをする。  
「ダンナの結婚とみんなの再会にかんぱーい!」  
「かんぱ〜い!」  
グラスを合わせて、大きな声が店の中に響き渡る。  
桜木花道が晴子ちゃんの目線の先にフィルターをかけようと必死だけど、晴子ちゃんは感激を押さえきれずに、涙を浮かべて流川を見つめていた。  
桑田や石井が変わらず憧れの人を見るように嬉しそうに流川に話しかけ、さらに、リョータと三井先輩に挟まれて質問攻めにされながら、対角線上に座る流川が私に視線を向けた。  
キスしたいと言ったときと同じ視線。  
瞬間に、わかってしまった。  
そして、流川もわかってる。  
お互いに何を考えたのか。  
 
あの記憶を忘れようとしていたけれど、今だけは胸に抱えていていいような気がした。  
そして、そんなかけがえのない瞬間を感じて、私は笑った。  
 
 

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