緩くウェーブのかかる髪を梳くと身体が揺れた。
揺さぶる度に背で揺れる髪はさぞ彼女の肌が心地よいと言わんばかりにしっとりと張り付いている。
四つん這いになってうつむいてる彩子さんは、自分の色欲の証である水音をかき消すように大きな声を出していた。
最奥を突けば彼女の喉奥から引きつった音がする。
子宮に当たる感触はあまりお好みではないそうだ。
彩子さんいわく、「痛いっていうか鼓膜触られてるみたいで気持ち悪い」らしい。
これは会い始めて分かった事だが、彼女の例えは至極分かりづらいケースが多い。
露骨に苦痛の声を出して逃げようとする肩を掴み、ちょっとした嫌がらせで強く子宮を突いた。
後ろ手に俺の腕を握った彩子さんの指に遠慮なく力がこもる。きっとお怒りなのだろう。
「うっ…ん…!せ…せんどー…!!」
『!』に怒りを込めて唸るけど、とりあえず気持ちいいので無視した。
先にコツリと当たる感触もたまらないし、悔しそうにシーツを握り締める姿にもそそられる。
これくらいはいいだろう。
久しぶりに会ったと喜ぶ間もなくはけ口に抜擢された身としては。
宮城が好きになれず、かといって本命が流川だとバレて辛い思いをさせたくないくらいには大切で。
気持ちを隠す理由として流川の事を好きな後輩と宮城のせいにしてはいるけど、
大半の理由は単に迫る度胸がないだけだろうと読んでいる。
おそらくそれは自分でも感じてるらしく、だからこそ折り合いつかない感情と優しさと狡さの中で面白いくらいに混乱しているんだろう。
逃げ出したくて俺に縋ってきた。
こうして会うのは今日で6度目。いや7…?………………まぁともかく。
恍惚と好きでもない俺で果てる君は、不可解極まりなく自己中心的にも程がある。
よく言えば真面目。率直に言えば的外れ。悪く言えば無神経。
君はもう1年も前から俺に狙われてた事を知らない。
俺なら君に本気にならないだろうと目星をつけた、冷静な彼女らしからぬ誤った判断だ。
彩子さんの理屈はさっぱり分からない。多分自分でも分かっていない。
正しい先を見越せる聡明な君が明らかに間違えた道に光を見て、
それでも真っ直ぐに突き進もうとするのは結構危な気で面白い。
自分で自分を落とし込める不器用さをかわいいと思わない事もないしね。
今となっては心底別の男を選ばなくて良かったと息をつくばかりだ。
それにこうして間男を気取るのも意外に楽しい事に気付いた。
俺自身否定していた部分だが、軽薄とされる性質は不本意にも揃っているのかもしれない。
床で身体を支えていた彩子さんの細い両腕を後ろから引き、上体を起こさせた。
溢れすぎて沫立っている膣内を擦れば、肩の向こうで彼女のでかすぎる胸が揺れている。
何度でもおかずに出来そうな光景を目に焼き付けた。
眼福眼福。
髪を振り乱して色のある声を出しているところを見れば、体制が変わった事で彩子さんも喜んでいるようだ。
彼女の不思議すぎる思考回路を分析するに、
俺に抱かれるのは最低な自分をとことん落としたい行為であると推察している。
裏付けとして、今のところ結構無茶な要求をしても見事に(嫌々ながら)クリアしていた。
一度フェラをする彩子さんの長い髪を掴んで奥まで突っ込み、予告なしに喉に出した時はさすがに睨んでたなぁ。
それでも『もうやめて』等の苦情は言わない。
利用する俺にも気を使っているらしい。全く苦労性というのはホント大変だね。
動きを止めその場に座る。
彼女の中で唯一素直に欲求を表す部分が刺激を求めてヒクついていた。
艶かしい動きも物欲しげに俺を見る顔もしばらく見ていたいけど、
こんなに欲しがってるのに放置するのも気の毒だ。
彩子さんの腰を掴んで導くと、彼女の望む場所にゆっくりと差し込んだ。
ちょうど背面座位の体位で奥まで到達すると、小さく身震いした彩子さんが長く息を吐く。
「動いて。」
「え?」
肩越しに振り返る目は俺の人格まで疑いそうな驚ききった目で、この目がたまらなく好きだ。
「疲れたんだよね。このままでもいいけど彩子さんイキたいんだろ?俺の好きに使っていいよ。」
わざと蔑んだ風に言ってやる。
その方が興奮するようだから。気づいてないだろうけど。
「ほら。目の前でケツ振って見せてよ。」
困った顔とは裏腹に元々M気質の彼女の期待溢れる下半身は蕩けていきそうだ。
しばらく固まっていたが、そろそろと動き始める。
普段ではお目にかかれない従順さもたまらなくいい。
最初はゆっくりと。次第に箍が外れていくようにその動きを速めていく。
上下する度に彩子さんの柔らかい尻が俺の腹を掠めた。
「やべーエロい。ねぇチンポ最高って叫んで。」
からかって髪を撫でれば、動きながら途切れ途切れの声を出す。
「……こ の、へん…たいっ…」
可笑しくて小さく笑う。
「どっちが。」
そんなに腰動かしながらじゃ迫力もなにもあったもんじゃないよ。
彩子さんの背が仰け反って僅かに震えている。
本人は知らないけどこれは彼女がイク前に必ずなる癖。
身体を起こすとバックの体制に戻って勢いよく腰を動かす。
気が狂ったように喘いでいる彩子さん。
多分これは俺にしか見せない姿だね。
好きでもない俺だからこそ唯一見れる淫らな彼女。
この先もしも流川と想いが通じても、宮城に惹かれる日が来ても、
余計なことを考える彩子さんは理性を無くすほど乱れることはないだろう。
あいつらはダメだよ。無理する君に気付かない直情型の真面目だから。
それに曲がった性格の奴じゃないと君はきっと気疲れするんじゃないかなぁ。
まぁゆっくり気付けばいいさ。
それまで せいぜい俺に翻弄されてればいい。
声が高くなり、シーツをかき集めるように握った拳に力が入る。
限界近い事を悟って身体を倒すと彩子さんの耳に口を当てた。
動きを止めれば覚束ない綺麗な目と視線が混じる。
「彩子さんって本当に最高だよ。」
「…え?」
焦点の合わないようなうつろな目で、彼女なりに必死で思考を呼び戻しているらしい。
「好きでもない男誘って、自分の気持ちから逃げて…。」
息を飲んだ彩子さんの目が見開く。ホント好きだなその驚いた目。
「本気で好きでいてくれる男は振ってやりもしない。」
「な……。」
身体を起こすと腰の動きを再開する。
「んあっ…あ…や、いやっ!!」
頭を振り必死の抵抗をしている。
大方嫌な部分を突かれてすぐにでも殴りたい意思と、上り詰めたい体でまたパニックになってるんだろう。
彩子さん。君の思惑通りに嫌な事を忘れさせる都合のいい男は演じてやらないよ。
俺は捨て駒の位置に納まる気はないからね。
「君は本当に最高だ。」
乾いた皮膚のぶつかる音と膣をかき乱す粘着質な音が激しくなる。
「き、嫌い…だいっきら……っっ!!」
それを最後に彼女の色っぽい口はもはや意味のない声だけしか出なかった。
悔しそうにシーツを握るとおあずけを喰らっていた彩子さんの身体はすぐに痙攣して達する。
一息置いて限界が来た俺も、激しく呼吸する彼女の背を盛大に汚した。
甘い香りを放つ彩子さんの頭を撫でてそこに唇を押し付ける。
「あーあ。大嫌いな俺でまたいっちゃったね。」
汗ばんだ体が揺れたと思ったら、疲れきった目が強く俺を睨んだ。
「なによ。自分だって同じでしょ。」
しばらくして下着を着け始めた彩子さんが背を向けたまま呟いた。
「逃げてるなんて仙道に言われたくない。」
振り返ってすねたように言う。
やっぱりさっきのこと根に持ってたんだ。図星だしね。ドンマイ彩子さん。
不機嫌は全身から見て取れたけど『同じ』という意味がわからず天井を見る。
「あぁ。」
思い出した。
前に彩子さんに「仙道は好きな人いるの?」と聞かれ「いるよ」と答えた事だろう。
心外だな。そんな風に思われてたなんてね。
つーか好きなコから逃げて彩子さんで遊ぶなんて豪華すぎるだろ。
「俺逃げてないよ。」
身体を起こして言えば、全裸の俺から目を逸らす彩子さん。
意外にそーいうとこあるよね。すげーかわいい。
「じゃあ何?」
「そーだなぁ…その子との今の関係をもうちょっと楽しみたいかな。」
正直な気持ちだ。
好きだと伝えた時に君からの気持ちが返ってこなかったら、もうこうして会うことは出来ないんだろう。
「へえぇぇ。じゃあ迫る時になったらちゃんと迫るって言うの。」
「もちろん。一緒にしないでよ。」
案の定腹を立てて鼻息荒く迫ってくる彩子さんを笑顔で抱きしめようとしたら殴られた。
痛いとうつむく俺にトドメとばかりきつい視線で睨んでくる。
「ほんと、トゲのある言い方は大得意ね。」
ふいと背を向ける彩子さんを満面の笑みで見つめた。
「よくそんなヤツと一緒にいるよね。」
あーあ。そんなにしまったって顔しちゃって。
逃げられる場所が俺しかないってだけなのに、そんな顔してちゃ何か意味があるように思えてくるね。
「…………悪い女だと思われてたら気が楽だからよ。」
「悪い女だと…『思われてたら』」
『』内を明らかに強調する言い方に彼女は勢い良く振り返る。
君って本当飽きないね。
頭の回転は速いし、適度に強くて弱い。人間臭く狡くて笑えるほど純粋だ。
もちろんキレイな顔もありえないでかさの胸も大好きだけど。
「はいはい!どーせ悪い女ですよ!自分でもいやになるほどわかってんだから!!」
「ははは。」
君の怒声を聞いている時が一番幸せかもしれないな。