窓の外をかける風の音だけが、部屋に響く。
2人の唇が触れ合って、離れてから、、どれ程の時間が流れたのだろう。
声もたてずに静かに震え、頬を濡らす晴子を、三井は黙って見つめていた。
泣かせたのは、他でもない自分なのに、罪悪感も戸惑いもなかった。
芽生えたばかりの、優しい気持ちだけだった。
『ごめんな』
一言だけ、呟いた。
突然で、驚かせただろうから。
独りよがりの想いを押し付けて、嫌な気持ちにさせたかもしれないから。
それでも、迷うことなく真っ直ぐな瞳で、晴子を見つめた。
少し斜めに顔を背け、深く深呼吸をした後…晴子は指で涙を拭って三井を見上げた。
『…どうして謝るんですか?』
少し困ったような、でも、柔らかい表情で黙っている三井に、もう一度問いかける。
『謝るのは…気まぐれであんなことしたからですか?』
『気まぐれじゃねーよ』
晴子には、言葉の意味がわからなかった。
『気まぐれなんかじゃねーよ。むさい赤木にわざわざ会いに、しょっちゅう来てたわけじゃない。』
大きな風が、窓の外をざぁっと駆け抜けていった。
『俺、自分でもわかってなかったんだけどさ。』
ゆっくりと晴子の小さな手に、自分の手を重ねる。
2人の体温が、溶けてひとつになる。
『好きだよ』
重ねられた大きな手が、微かに震えている気がした。
三井が囁いた甘い言葉が、現実と思えなくて。
(まだ夢を見てるのかな…?)
と、うさぎのように赤い目で、ぼんやりと三井を見つめた。
『…好きだから、キスしたくなった。…嫌だったか?』
晴子は首をふるふると小さく横に振る。
2人の視線が交わった瞬間、重なった手の指先が、どちらからともなく絡まった。
『私も、三井さんが、好きです。だから、嫌じゃないです。』三井が小さく、ほっ と息を吐いた後。
熱い2つの唇が、ひとつになった。
お互いの温もりや感触を心に刻み込むように、長い間、何度もキスをした。
唇が離れる度に、照れくさそうに微笑み合って、また距離がなくなって。
((時間が止まってしまえばいいのに…))
言葉にしなくても、2人は同じことを思っていた。
オレンジ色の空が、群青色へと変わり始めた時。
晴子の頬に手を添えたまま、三井が急に動きを止めた。
(?)
不思議そうな顔で晴子が首を傾げる。
『こんなとこ赤木に見られたら…ハエタタキされんのかな、俺。』
青くなる三井を見て、思わず笑ってしまう。
けれど、笑い事じゃすまないかもしれない。
ここは、お兄ちゃんの部屋だから。。
『明日、練習終わったらさ。どっか一緒に行こうな。』
明日は日曜日。
三井さん、映画どんなのが好きなんだろ?
新しいバッシュを見に行くのもいいかもしれない。
明日も、明後日も、その次の日も。
この人と手を繋いでキスしたい。
今日は、その始まりの日。