湘北vs山王工業の決戦の翌日、山王工業のメンバーは湘北の試合を見に来ていた。
キャプテンである深津は、負けた相手の試合を見にくるのなど嫌だったのだが、
「勝者の試合を見て応援し、解析する事も敗者の仕事だ」
と言う堂本監督の命により、チーム全員で愛知と湘北の試合を見に来ていた。
「やっぱり赤い髪はいねぇんだな」
河田兄が言う。
「しかしなんだよ・・この気の抜けた感じ・・誰かさんなら本当暑苦しい位気合い入れる相手なのに・・」
山王チームの見学ベンチの端からボソッと聞こえた。
「おらぁ!沢北ぁあ!聞こえてねぇと思ってんのか!?落ち込む沢北君もカッコイイなんて言われて調子乗ってるんじゃねーぞ!!」
「イデデデデー!別に名前は出してませんよ!」
そんないつもと変わらない光景を横に、深津は苛立ちと哀しみの中にいた。
(・・こんなのに負けたのか・・)
しかし負けた事は事実であり、その現実を受け止めた上での湘北の惨敗に、深津はひどく虚しくなった。
「・・トイレ行って来るぴょん・・」
「おう!たんまりウンコ出してこい!」
ガハハと笑う河田をジロリと睨みつけ、トイレへと向かった。
(・・なんで平気でいれるんだよ!)
深津は声に出す時は語尾を付けるが、頭の中で考える文には語尾をつけない。
その為話す事自体が面倒になり、本人は全く気にしていないが、寡黙で変わったキャプテンのイメージがついてしまった。
しかし、語尾を付ける事はとても気に入っていたので、辞めようとは思わなかった。
起きていても寝ていても、あの時の光景が浮かんで来る。
もっとあそこでこうすれば
あの展開からああすれば良かったなど、
後悔が沢山出て来て、昨晩はとてもではないが眠れなかった。
トイレを探して歩いていると、薄暗い廊下の端っこに何かが見えた。
(人?なんだあれは?)
とりあえず前は通らなければならないので、近づいてみる事にした。
「っう・・・」
なにやら呻き声が聞こえる。
(おいおい大丈夫か・・?)
「どうかしたぴょん?」
顔を覗き込むと、目も頬も涙に濡れた女の子がいた。
「ごっ・・ごめんベシ・・ぴょん・・」
焦って昔の語尾が出てしまうのも仕方がない。
彼は今までバスケのみに力を入れてきた。
兄弟に女の子もいないし、
女の子の泣き顔を見るなんて、幼稚園以来初めてに近いのだ。
深津が思考停止していると
「・・山王の・・・」
と女の子が言った。
「そ、そうぴょん。話しかけてごめんぴょん。」
これ以上立ち入る事もないし、そう言い、立ち去ろうとした。
(・・俺を知ってるのか・・?可愛いし、まあ沢北のファンだろ・・
しかし可愛い・・クソッ沢北め・・)
沢北への怒りを沸々とたぎらせつつ、女の子に背を向けて歩き出した時、
「・・ごめんなさい!」
と聞こえた。
(・・・?俺?)
深津がゆっくりと振り返ってみると、女の子はこちらを向いて立ち上がっていて、
俯きながらひっくひっくと涙を流して泣いていた。
「・・??何で謝るぴょん。」
深津には、この可愛い女の子に謝られる理由が何一つ浮かばない。
訳が分からなかった。
すると、女の子は少しずつ話し始めた。
「・・・私・・湘北のマネージャーです・・」
深津がトイレに立った時、愛知と湘北の試合は既に終わりに近づいていたが、考え事をしながらうろつく間に終わっていたらしい。
「・・・・・・(チッ・・)だから何ぴょん。」
そう言うと深津はキッと彩子を睨みつけ、
先程よりも遥かに冷たい返事をした。
「・・山王が今日の試合見てたの知ってます・・。選手の代弁になるけど・・。
不甲斐ない試合をしてしまって本当にごめんなさい・・・。」
彩子は深々と頭を下げた。
深津はその言葉を聞き、頭がカッとなった。
しかし相手は女の子だ、それに可愛い。
グっと手に力を入れながら気を紛らわした。
「・・・・お前なんかに謝られても何も思わないぴょん。」
(クソッ・・・)
深津は握りしめた手に強く強く力がこもり、
早くこの場から立ち去ろう。そう思い、彩子を背にした。
「・・本当にごめんなさい。でも湘北の選手達もとても反省して・・・」
もう、我慢の限界だった。
深津はつかつかと歩き、まだ話している彩子の前まで行くと、
『ガンッ』
と言う音と共に彩子の後ろの壁を殴りつけた。
彩子はその音にビクッと身体を震わせると深津の目を見て、
どんな時も冷静で有名なはずの山王キャプテンを、
自分の言葉で怒らせてしまった事に今更になって気付かされた。
もう深津には、下を向き怯える彩子に気を使う事はできなかった。
「それは・・・同情してんのか?ふざけんなよ・・・」
深津は語尾も付けず、冷たく低い声で言った。
「・・・そんな訳じゃっ・・!」
その言葉に反応をするように彩子が上を見ると、
深津は右手で彩子の顎を掴みあげ、後ろの壁に押し付けた。
「いっ・・・・」
「っお前らは俺達に勝った事で、気が抜けたかもしれないけどなぁ・・・っ!
俺達はその先も、戦いそうな奴全てのデータを調べて、仮想練習してずっとやってきたんだよ!
遥かに上の先輩達の代から受け継がれてきた、王者山王の名前を初戦で崩した俺達の、
王者の4番をつけてる俺の気持ちが分かるのか?!」
深津だって馬鹿ではない、
負けたのは自分達の責任だし、彩子に言ってどうにかなる訳ではない事は十分分かっている。
しかしプライドだってある、プレーヤーではないとはいえ、自分の負けた相手から謝られて
「はい、お疲れ様でした。」と言える程に大人にはなれなかった。
まくし立てる様に言った深津の目は赤く、今にもこぼれ落ちそうな程に涙が溜まっていた。
それ程に、インターハイ制覇は重たく、憧れのものだった。
その深津の顔を見て彩子は、
自分よりも遥かに高い所にある深津の肩を両手で引き寄せ、愛おしそうに抱きしめた。
彩子自身、何故そうしたのか分からなかった。
でも、プライドの高いこの人が彩子の前で涙を落とす前に、そうしなければならないような気がした。
「は・・?なにすんだよ!」
「分からない!分かんないけどこうしなきゃ駄目な気がするの!」
深津は、可哀相だ、惨めだと慰められている気がして腹が立った。
「そんなに慰めたいならやらせろ」
冷たくそう言い顔を上げると、
左手で彩子の両手を頭の上で押さえ付け、
首筋に吸い付き片手でTシャツとブラジャーを一度にめくり上げた。
「やっやだっ・・!」
暗い場所特有の冷たい空気が、彩子の肌に一気に触れる。
それまで彩子は、深津はなよなよしていて変な奴。と思っていたが、
近くで触れる深津の腕や胸、
腕は筋肉質で硬く、利き手ではない手の力も強い。
それを見ただけで、山王というチームの練習の厳しさや濃さが分かった。
「う・・んっ・・」
彩子はとりあえず、晒された胸を隠したかった。
両手を抑えられている為に万歳したままだが、
身体をずり下げ体育座りになると、胸を足で隠す事ができた。
しかし深津は、座り込み力を入れた彩子の足をいとも簡単に割き、股の間に押し入った。
「ねえ、こっちの方がエロいんだけど。わざと?」
「・・・・・っ」
駄目だ。力では敵わない。
彩子は、冷たく見る深津の目を静かに睨みつけた。
深津は睨む彩子と目を合わせたまま、冷たい言葉とは裏腹に唇に優しく吸い付いた。
少しずつ激しくなるキスの嵐で、罪悪感なのか、波にのまれたのか、何故かは分からなかったが、
彩子はもうどうなってもいいや。と思ってしまった。
慣れてはいない行為に、息をする事だけに必死だったのかもしれない。
くちゅくちゅと音を立てながら絡ませられる舌と、
深津の離さない目線に頭がぼーっとなっていった。
深津もキスをしながら、何も考えられなくなっていった。
初めてのキスだとか、相手の気持ち、そんな事は微塵も考えなかった。
どちらのものかも分からない唾液が唇の端を伝うと、
深津は唇を離し、胸の尖端に口づけた。
ビクッ
彩子の身体が反応する。
きっとこの子はここが気持ちいいんだろう。
深津は直感的にそう感じた。
乳首を口に含むと、ゆるゆると回りを舐め、尖端を軽く噛んだ。
同時に、空いていた右手では片方の胸の尖端を軽くつまんだり、押し込んだり。
「っい・・んん・・・あ・・・・ぁぁ・・」
声を堪えている彩子の足が少し震えているのが分かる。
深津が胸を舐めつつ顔を見上げると、口は半開きで涙目
頬は上気して赤く、沸き上がる快感と、我慢しても出てきてしまう喘ぎを
必死に必死に堪えている彼女がいた。
童貞ならではかもしれないが、深津はその顔を見た瞬間に、
もう前戯などをしている余裕や、精神力はなくなり
早く一つになりたい、それだけを思った。
深津は、胸を舐め目を合わせたまま
彩子の腰に先程まで胸を触っていた片手を伸ばすと
彩子の履いていたスパッツを腿の半分まで引っ張りあげた。
「やっぁ!」
驚いた彩子が少し大きな声を上げると、
深津は少し焦り、急いでまた自らの唇で彩子の口に蓋をした。
「うあっんっ」
絡ませられた舌と卑猥な音、自分の身体にピッタリと触れた筋肉質な体
胸に強弱をつけた快感を運ぶ、骨張り血管の浮いた大きな手。
彩子は身体の奥や足がむずむずとする、
抑える事の出来ない変な感覚に襲われた。
深津はさらけ出された彩子の秘部に右手の人差し指を触れさせ、上から下へつつつとなぞった。
「っ!んっぁぁ・・」
彩子の声がより一層甘えた声になる。
深津は触れてみて驚いた。
もう彩子からは沢山の蜜が溢れ出していて、
深津の人差し指をお尻までヌルヌルと滑らせる程だった。
指を滑らせる度に彩子は甘えた声をあげ、深津の理性をボロボロと崩して行くのだった。
深津は短パンを膝まで下ろすと、大会前から自慰を我慢していた為に
パツパツに張り、尖端からつつ・・と雫を落とす自身を
彩子の愛液が溢れる場所に少しづつ、少しづつ、耐えるように押し込んだ。
今すぐにも奥深くまで押し込みたかったが、
そうすると、彩子の中の自然とキツく絞めようとする動きで、すぐに限界を迎えそうだった。
グチ・・ヌチュチュ・・
「ぁぁ・・ぁぁぁぁっ」
深津の肩に頭を預け
耳元で、気持ち良さと声を押し殺す事の葛藤で苦しそうに喘ぐ彩子に、深津はもう理性など保てなかった。
グチュチュッピチャッグチュッ・・・
暗く誰も通らない廊下に響く二人の交わる音は
唇を噛んで押し殺す彩子の喘ぎよりも大きく、二人の気持ちをより高めた。
「ご・・め・・・イ・・・イ・・ク・・!」
深津はそう言い終わる前に急いで腰を引き
交わる部分から自身を抜くと、彩子の下腹に白液を放った。
深津も限界まで堪えたが、彩子の中の気持ち良さと、
自慰を我慢していた事、初体験と言う事もあり、やはり長くは持たなかった。
深津には最初の怒りの気持ちは無く、申し訳ない気持ちや愛しい気持ちで溢れ、
どうすればいいのか分からずこんがらがっていた。
(ごめん・・・)
深津は、背中を壁に預けぐったりした彩子に重らないようゆっくりと近付くと
(ごめん・・・)
言葉には出さず、自分よりも遥かに華奢で、小さな身体をギュッと強く強く抱きしめた。
(・・・・・好きだ・・・)
「・・・痛い・・・」
そう彩子が口にすると、
深津はガバッと飛び退き、下を向く彩子の様子を伺った。
・・・・・・
彩子はちらり、と深津を見上げた後、
「ははっあっあははははははっ!」
こちらを指差し突然爆笑し出した彩子に、深津は意味が解らなかった。
(も・・もしかして・・ショックでおかしくなったのか・・・?
そうだな・・無理矢理だもんな・・ショックな訳がないよな・・怖いよな・・嫌われたよな・・・もう駄目だ・・)
焦りと不安が出てきて、深津の頭の中の葛藤と緊張は更に増した。
その時、
「ははっ・・もう、なんて顔してるんですか!あはははっ・・捨てられた犬みたいに眉毛が下がってますよっ?!」
・・・・・・
「え?」
深津は不安がっている自分の顔で笑われている事にやっと気が付いた。
「なっ・・・なんだピョン・・・そりゃ心配するピョン!」
安心したのか、いつの間にか深津の語尾は復活していた。
すると
「・・・・・・」
彩子は急に真顔になり、ムム・・と考え出した。
「???ど・・どうしたピョン・・?」
「やっぱり、ピョンって言ってない深津さんの方が絶対格好良いですよ?」
真面目な顔でそう言いながら、彩子は少し首を傾げた。
その仕草の可愛さに深津は
ああ、この年下の女の子には絶対に敵わないだろうなぁ。と思い知らされるのだった。
彩子は、俯いて照れたように笑う深津に安心した。
きっと深津は、笑い飛ばさないと、ずっと謝罪や後悔の言葉を口にしただろう。
しかし、彩子は謝罪も後悔もして欲しくなかった。
自分に気まずい気持ちを少しでも抱いて欲しくなかったのだ。
順序は違えど、恋心を抱いてしまったのは彩子も同じだった。
「早く拭いて下さいよー?」
彩子はそう言うと、笑いながら胸ポケットから常備しているポケットティッシュを取り出し、
深津に後処理を促した。
深津は苦笑いをしつつも、行為を強いた事を許して貰えた気がして嬉しかった。
その後、離れたくない一心で
「バ・・バスケ勝負をしないか?」
と深津から持ち掛けた。
女の子をどうやって誘えば良いかなど深津は全く分からなく、
この時程沢北のデート自慢を聞いておけば良かった・・と思った事はなかった。
顔を真っ赤にして、目をそらしながら誘う深津を見て、
驚いたように目をパチパチとさせた後、爆笑した彩子が
「いいですよ・・」と答えるまでに時間がかかった事は言うまでもない。
そして二人は試合会場の前の公園にあるバスケットゴールで1on1をしていた。
「ふぅー疲れた・・ちょっと休憩!」
彩子はコートの端に座り込むと、先程深津が買ってくれたミネラルウォーターをゴクッと一口飲んだ。
「・・・そう言えば・・うちの奴らダンク結構してるけど、先輩のダンク見た覚えがないなぁー・・」
まるで、あんたダンクできるの?とでも言うように呟いた。
深津は彩子を見て少し考えた後
サッと前を見ると
「見てろピョ・・・見てろ」
と言うと、ドリブルをしながらゴールへ向かった。
彩子は、フリースローラインからスラムダンクをしようとする深津を見つめながら
「天下の山王キャプテンも、あいつらと変わらない位に単純ね」
と、愛しそうに目を細め微笑んだ。