スレイヤーズ  

〜続・白蛇の饗宴〜  

「あっ……くうっ! どう……しちゃったのよ、あたし……」  
あたしは、訳の分からない昂りに悶え、倒れ込んだベッドの上で熱い吐息をついた。  
──ここは、あたしの泊まっている宿屋の一室。  
質素な作りの室内に、ランプのあえかな明かりが陰影を作り出している。  
虫の音が響く静かな夜、あたしは焼け付くような欲求にその身を焦がしていた。  
「なんだって、また……。こんな、いきなりっ……!」  
今夜は、いつになく平和な夜だった。  
魔導士協会の依頼は(珍しく)ナーガが片付けて、サポート役だったあたしは労せずに報酬を受け取った。  
しかも天変地異の前触れか、妙に気前のいいナーガのオゴリで、名物料理を思い切り堪能。  
ちょっとだけお酒も入って、後は気持ち良く眠るだけ──  
そのはずだったのに、部屋に入った途端、妙に身体が疼き出したのだ。  
「おかしいわよっ……! こんなの、普通じゃない……!」  
超絶美少女魔導士であるあたしも、たまにはエッチな気分になって、自分で慰めてしまう事もある。  
──でも、こんな風に理由も無く、突然したくなるほど、いやらしい女の子じゃない。  
けれど、必死に否定するあたしの意識を裏切って、下腹部の疼きは次第に激しさを増していった。  
「も……だめ、我慢……できないっ……!」  
とうとう耐えかねたあたしは、勢い良く起き上がると、パジャマと下着を一気に脱ぎ捨てた。  

人よりほんのちょっぴり小振りな胸の先端は、すでに切ないぐらいピンと突き立っている。  
ショーツは驚くほど濡れていて、中の肌色が透けた布地の上からもはっきりと判る。  
自分でももどかしく感じる手つきで、それを脱ごうとした、その時──  
「……ふっ、はしたないわね、リナ」  
──確かに鍵を掛けたはずの扉を開けて、薄く笑みを浮かべたナーガが踏み込んできた。  
              ◇  ◇  ◇  
「ななななな、ナーガっ!? どっ、どうしてアンタが……!」  
あたしは慌ててシーツを身体に巻きつけると、うろたえまくった声でナーガに問い掛けた。  
今まさにオナニーを始めようとした現場を押さえられて、あたしの顔にみるみる血が昇っていくのが判る。  
……でも、脳みその不自由なナーガの事だから、実は理解してないかも……。  
そんなあたしの希望的観測を、ナーガは高笑いと共に打ち砕いた。  
「ほーっほっほっほ! 決まっているじゃない! 貴方がそうなったのは、私の仕業だからよっ!」  
「ど、どっ、どういう意味よっ!?」  
「甘いわね、リナ。貴方が飲んだカクテルの中に、無味無臭の催淫剤を仕込んでおいたのよ!」  
「……何ですってぇっ!」  
おにょれぇぇっ! この間、「このキャベツが欲しかったら泣いてお願いしなさい」って言った仕返しかっ!?  
……いやその、あの時は、ちょっとやり過ぎたかなー、とは思ったけど……。  
それにしたって、もう少しやり様ってもんがあるでしょーにっ!  
あたしが怒りを込めて睨みつけると、ナーガは心外だと言わんばかりに大きく肩を竦めた。  

「何を怒っているのよ。私はただ、約束通りにしただけよ?」  
「……約束? 何の事よ?」  
「もう忘れたの? 盗賊団からかっぱらって来たお宝を分けてあげるって、昼間言ったじゃない」  
「へ? おたか……ら?」  
そー言えば、そんな事も言ってたような……。  
「奴らのボスが、その筋では有名な魔導士でね。この手の薬やら道具やらが沢山あったのよ。  
 リナに飲ませたのは、処女でも淫乱になってしまうぐらいの、純度の高い高性能媚薬。  
 一回分で金貨20枚はする最高級品なのよ。もうちょっと喜んで欲しいわよね……」  
「だ……れが、喜ぶか……っ!」  
口では強がりを言うあたしの身体には、実際のところ、その媚薬とやらが確実に効果を発揮していた。  
どうにか声色には出さないようにしてるけど、あそこからは壊れたように雫が湧き出す。  
吸収し切れなくなったショーツから興奮の証が一筋流れ落ち、あたしの太腿を伝う。  
そのむず痒さに、あたしは小さく腿を擦り合わせた。  
「もう大分効いてきたみたいね……。シーツの下は、どうなってるのかし……、らっ!」  
「やっ、やだぁっ!」  
強引にシーツを剥ぎ取られて、あたしの口から情けない悲鳴が漏れた。  
手足を丸めて裸を隠そうとするけど、隠し切れるものでは無いことぐらい、痺れた頭でも想像できる。  
舐めるようなナーガの視線が、実際に肌へ触れているような錯覚さえ覚える。  
ナーガは妖しい含み笑いを漏らしながら、ベッドを軋ませ這い上がり、あたしに顔を寄せてきた。  
「ふふふ……。そんなに怯えなくてもいいわ……。一緒に、楽しみましょ……?」  
長い髪を掻き上げつつ、チロリと唇を湿らす舌の動きからは、凄絶な大人の女の色香が漂ってくる。  
背筋がゾクッとするようなナーガの声に、あたしは蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまった。  

              ◇  ◇  ◇  

「んっ、ちゅ……。んふふっ、ふっ……ん……」  
「んむぅぅん!? やめっ、ん……っ、んんー……っ!」  
ナーガはあたしの顎を軽く持ち上げると、濃厚なキスで口を塞いだ。  
伸ばした舌で口の中を暴れ回り、縮こまったあたしの舌を捕らえ、ねぶり、しごき立てる。  
ナーガの唾液からは、彼女が食事の最中にカパカパ飲んでいた、強い蒸留酒の味がする。  
執拗なまでのディープキスに、あたしはあっと言う間に抵抗する気力を根こそぎ奪われていった。  
「んっ……ぷあっ! ふふふ、リナ。貴方、蕩けそうな顔をしてるわよ……?」  
「あっ……、ナ、ナーガぁ……」  
頬を指先で撫でて来るナーガに、あたしは快楽に潤んだ瞳を向けた。  
止めないで欲しい。もっと、もっとして欲しい。  
女同士だとか、薬のせいだとか、そんな事はもうどうでもいい。  
火をつけられたあたしの身体は、ただ更なる快楽だけを求めていた。  
「もう、堪らなくなって来たのね……。いいわ……、好きなだけ、してあげる……」  
「んっ、はっ……ああんっ!」  
囁いたナーガは、耳たぶを軽く甘噛みし、舌先を首筋からゆっくりと下へ這わせていった。  
くすぐったさの混じった甘美な快感が、あたしの頭を狂わせてゆく。  
へにゃへにゃと身体がベッドに崩れ落ち、ナーガの豊満な肢体があたしの上に覆い被さる。  
ナーガの舌が鎖骨をなぞり、胸の膨らみを、螺旋を描いて登ってくる。  
それが頂点の突起に触れると同時に、今まで以上の快楽があたしの脳裏に弾けた。  

「きゃううぅん!」  
「あら、いい反応ね……。小さい方が感度が良いって俗説も、あながち間違いじゃないのかしらね……」  
「きゃふぅっ!? ひっ、やっ、はんっ!」  
ナーガは唇で突起を咥えると、もぐもぐとそこを揉み解しつつ、ちろちろと舌先で先端を刺激した。  
もう一方の胸は、ナーガの白い指に覆われて、くにくにといやらしく変形させられている。  
何だかさらっとムカつく事を言われたような気もするけど、そんな思いもすぐに快楽の波に攫われてしまう。  
あたしは陸揚げされたお魚さんのように、なす術も無く身体を跳ねさせていた。  
「さぁて……。こっちの方は、どうなってるのかしら……?」  
「えっ……? や、だめ、ナーガ……いやっ!」  
脇腹を滑って、ナーガの手がショーツに掛けられたのを知り、あたしは今更ながらに拒絶の声を上げた。  
いちいち見なくても、布団の上まで染み込んだ感触から、そこがすごい事になってるのが解る。  
でも、そこは……その下だけは、決して見られたくない理由があった。  
「抵抗しても無駄よ……。リナの弱い所は、もう分かってるんだから……」  
「ひぅん!」  
胸を強く吸われて、あたしの力が弱まった瞬間を見逃さず、ナーガはショーツをするりと抜き取った。  
さらに両膝を掴み取り、か弱いあたしの抵抗を物ともせず、ゆっくりと足を開いていく。  
「あら、リナったら……。処女の上に、まだ生えてなかったのね……?」  
知られ……ちゃった……っ!  
──そう。人並みよりごく僅かに控えめな胸よりも、強いコンプレックスの源となっている、秘密。  
それは、この年になっても、あそこに一本も毛が生えていない事だった。  

「へぇ……。そうだったの……」  
「いやぁ、いや……っ! ナーガ、お願いだから見ないでっ……!」  
感心したように呟き、さわさわと内股を撫でるナーガに、あたしは半ベソをかいて懇願した。  
笑われるのが怖くて、今まで郷里の姉ちゃんや母ちゃんにも、話をしたことすらない。  
勿論、男に見せるなんて論外だから、当然そっちの経験もない。  
普段、胸の事でからかってくるナーガの事だから、ここぞとばかりに爆笑するに違いない。  
そして、「パイパン魔導士」の異名が各地に轟き、野盗どもすら「毛が無いくせに」と嘲笑する。  
一気にそこまで想像が膨れ上がり、あたしはポロポロと涙を流し続けた。  
「どうしたの、リナ? 何も泣くことはないじゃない」  
「ひぐっ……! ぐすっ、どうせ、笑いものにするんでしょ……! いいわよ、笑いなさいよ……!」  
「笑わないわよ……。だって、こんなに可愛いのに……」  
「……へっ?」  
意表を衝くナーガの言葉に、あたしは思わず彼女の顔を見上げた。  
ナーガの顔には優しい微笑みが浮かんでおり、あたしの頭をそっと撫でてくる。  
「ずっと気にしてたのね……? でも、そんな必要は無いわ。……すごく、可愛いわよ?」  
「なっ……、ナー……ガ……、うそ……」  
なにっ? なになに、何なのよ!?  
よりにもよって、ナーガの顔を見て、胸がキュンッとなるなんて……!  
うそ、違うっ! これはきっと媚薬のせい! あたしにそんなシュミはないっ!  
必死に否定するけど、肉欲抜きでナーガに抱き締められたいという思いが、あたしの胸に広がってくる。  
あたしはもう、自分の本当の気持ちがどちらなのか、分からなくなっていった。  

「本当よ……。言葉で納得できないなら……、身体で教えてあげる……」  
「ふみゅうぅぅっ!?」  
ナーガはそう呟くと、あたしの剥き出しになった割れ目に、軽く口付けた。  
たったそれだけなのに、あたしは自分で慰めた時とは比較にならないぐらいの快楽を受け、呆気なく達する。  
背筋が勝手に反り返り、あまりに強い快感に、あたしのお尻がピクピクと痙攣する。  
あたしが失神しかけている間に、ナーガは上体を起こして、優雅な手つきでいつもの衣装を脱ぎ始める。  
普段よりほんの少し露出が増えただけなのに、ナーガの身体が本当に綺麗に見えた。  
「ふふふ……。自分が今、どれだけ可愛い姿なのか、分からないでしょう……?  
 だけど、この私が堪らなくなるぐらい、今のリナは魅力的なのよ……。ほら、御覧なさい……」  
「え……っ、ナーガ、それっ……?」  
ナーガはネックレスだけを残して全裸になると、あたしの頭の上に逆向きに跨った。  
すぐ目の前に、艶やかな下草に覆われた、ナーガの鮮紅色のスリットが露わになる。  
あたしのと違って、薔薇のように花開いた肉襞は、ひくひくと蠢きながら、粘り気のある愛液を滴らせる。  
溢れた蜜が糸を引いてあたしの口元に落ち、濃密な女の匂いを放つ。  
「さぁ、これから嫌というほど教えてあげるわ……。リナが納得するまで、たっぷりとね……?」  
「ふあ……や……んぷっ!?」  
再び股間に顔を寄せられて、叫び出しそうになったあたしの口を、ナーガの下腹部が塞ぐ。  
半開きの口に流れ込んできた蜜の味に、僅かに残っていた理性が崩壊する。  
──あたしはあそこを愛撫され、怒涛のような絶頂に襲われながら、温かなナーガの秘裂に舌を伸ばした。  

              ◇  ◇  ◇  

「うあー……。あ、朝かぁ……」  
窓から差し込む朝日に瞼を刺激されて、あたしはのろのろと身体を起こした。  
出来たら昨夜の出来事は、全て悪い夢だと思いたいところだが──  
「……これじゃ、誤魔化しようがないわよねー……」  
股間や口元、髪の毛やシーツの大部分にまで、ガビガビとした愛液の乾いた跡がそこかしこに残っている。  
口の中に違和感を感じて、舌で探って取り出して見ると、妙に縮れた一本の黒い毛。  
そして何より、あたしの横ですぴよぴよと幸せそーな寝息を立てる、ナーガのあられもない姿。  
──どうしようもない現実を再確認し、あたしは深い溜息をついた。  
「薬に惑わされたとは言え、このリナ・インバース、一生の不覚……」  
激しく後悔しつつも、あたしは何故か元凶であるナーガを恨む事が出来なかった。  
発端こそアレだったけど、ナーガに優しくしてもらったお陰で、長年のコンプレックスがかなり解消されたのだ。  
それに、ほんのちょびっとだけ……その……。気持ち、良かったし……。  
そんな事を考えた時、ナーガが軽く寝返りを打つ。  
「むにゃ……んふふ、リナ……。かわいいわよ……」  
「……っ!?」  
ナーガの寝言に、薬が抜けたはずのあたしの胸が、再び高鳴った。  
どわあああ! いかん、このままナーガの寝顔を見ていては、マジでそっちの道に行きかねんっ!  
あたしは慌てて服を身に付けると、冷たいシャワーで頭を冷やすため、バタバタと部屋を飛び出した。  

〜続・白蛇の饗宴 終わってしまえ。〜  

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