スレイヤーズ  

「ねぇ…あんたアメリアのことどう思ってんの?」  

沈黙にたえきれずあたしはそう呟いた。  

夜の宿屋。  
そんでもってここはゼルガディスの部屋である。  
一大決心をして彼の部屋に入ったのはいいんだけど緊張のためか話がう  
まく繋がらない。  
我ながらつまらない話題をふったものだ…いやつまらなくはないか…。  
そう言えば前からそれとなく聞いてはみたい事だったのだ。  
「思い込んだら命がけ、正義と愛と真実の人…って前に本人が言ってな  
かったか?」  
「いや…そういうことじゃなくってさ…」  
「じゃあお前はどう言う答えが欲しいんだ?」  
他に用がなければ魔導書の続きを読んでしまいたいんだがとぶつぶつ呟  
くゼルの顔から不機嫌が読み取れる。  
あぁ…しまったかな?  
それでもあたしはなんとか話をすすめなきゃならない。  
「じゃ、じゃあさ、もしアメリアに好きって言われたらどうする?」  
「はあ?」  
ゼルはあたしの質問の意図を図りかねてるようだ。  
「あの…だから…男の人として好きだって言われたら…」  
「それはないだろう」  
「だから…もしって…」  
しつこく食い下がるあたしをゼルはジト目で睨む。よからぬ事を企んで  
るんじゃないだろうな、と言う声が聞こえて来そうだ。けど、あたしマ  
ジなんだかんね!…という意志を含んだ目で見つめかえす。  
あたしが十分本気である事を悟ってくれたらしい。ゼルは大きく嘆息す  
ると話しはじめてくれた。  

「まあもしと言う仮定だがな。そんな事を言われても俺はあいつの事を妹みた  
いにしか思ってない。マジな話、あいつだって俺の事を兄のようにしか思って  
ないはずだ」  
「う、うん…」  
「で、これで満足したか?」  
「あ…そしたらさ…あの…」  
口がうまく動かない。ええーい!いつものあたしどうした!これが何かの商談  
とかって言うならあたしの口はもっと雄弁に語りはじめるのに。でも躊躇して  
る場合じゃない。なんにせよあたしには時間がないんだ。  
「あ、あのねゼル…。あたしがゼルの事を好きって言ったら…どうする?」  
あぁっ。最後の方声がちっちゃくなってしまった。  
「…?」  
「きっ…聞こえなかった?」  
「いや…聞こえたが…。まさかお前の口からそんな事が聞けるとはな。ま、も  
しそう言われれば悪い気はせんが」  
ずべしゃあああああーーー!!!!  
「あ・の・ね!もしじゃなくて、あたし今告白したのよ?!」  
「どこをどう取れば今のが告白になるんだ?」  
「なんで?好きだってハッキリ言ったじゃない!」  
「あれは言った事にならんな」  
「言ったわよ!ひどい、ゼル!乙女の告白をさらりと流しちゃってさ!」  

そのあとあたし達は「言ったか言わないか」でバカなやり取りをさんざ  
ん続けた。  
ぜいぜいと肩で息をするほどの言い合いが終わったあとどちらともなく  
クスリと笑い出す。  
「言ったからね。…で、返事は?」  
言葉の代わりに唇を押し当てられる。それはあたしが想像していたもの  
よりずっと柔らかだった。  
赤法師レゾによって石人形、邪妖精と合成された魔法剣士…。  
そっと彼の身体に腕をまわすと明らかに普通の人間とは違う硬さが体感  
出来た。  
もしかすると粘膜系は人だった頃の柔らかさを残してるのかも知れない。  
「ねえ…ゼル…。言って?…あたしまだ…聞いてな…い」  
深いキスの唇が離れる隙間を選んで言葉を紡ぐ。  
「そうだっけ…」  
「やだ…ガウリイみたいな事言わないで…よ」  
唇が離れると透明な糸が引かれる。  
「そう言えばお前こそ、旦那とはどうなんだ?」  
「…なぁんでこういう時にそう言う事言うかなぁ!」  
あたしはえいっとばかりゼルの白いフードの付いた上着をたくしあげ、  
そのまま一気に引き上げた。  
そして自分の服にも手をかけ、勢い良く脱ぎ捨てる。早く彼を素肌で感  
じたかった。  

ひんやりとした身体。心地よい硬さ。  
「お、おい…」  
たまらずあたしはゼルの首筋に唇を這わす。答えるようにあたしの髪を  
梳くゼルの指が心地いい。  
その指がだんだん下におりて来て乳房を揉みしだきはじめた。  
「あっ…」  
小さく喘ぎ声がもれる。  
首筋をなぞるように滑ってくる唇と、ふいに先端に押し当てられた硬質  
の指。  
「あぁっ…!!」  
背筋に電気が走るような快感が貫いてもうすでにどうにかなってしまい  
そうな気持ちになった。  
ゼルがあたしの下半身へと手をのばして来る。もともとベットに腰掛け  
ていたゼルにあたしがしがみつくような体勢だったからあっさりと組敷  
かれてしまった。  
「ま、待ってゼル…」  
「おい…ここまで来て今さら止めんぞ」  
「そうじゃなくて…。あたしね…その…」  
もう一つ言わなきゃならない事がある。言わなくてもいい事かも知れな  
いけど、言わずにいたらなんだかフェアじゃないように思う。  
「さっさと言わんとひん剥くぞ。俺もそう我慢がきかんからな」  
あたしは意を決した。  

「…あのね…あたしガウリイと寝た事があるんだ…」  
男女の二人旅。なんにもない方がおかしい。  
ましてや野宿の時なんて普通に考えたらやっちゃうのが当たり前。  
特に危険な気配もない月明かりの綺麗な晩に、何となくそう言うムードになっ  
て「まあいいか…」とガウリイを受け入れた時の事がぼんやりと浮かんでくる。  
行為の間あたしはずっと月を見ていた。  
冴えざえと煌めく月は鈍い痛みを忘れさせてくれるほど美しかった。  
  『すまん…お前さん初めてだったんだな…』  
そう言ったガウリイにあたしは首を横にふった。  
いつかは誰かとする事だし、本音を言えば早くしてみたかった。  
そう…これで『恐いもの』が一つ減ったのだ。  
それにガウリイとのセックスは素晴らしく良かった。テクニシャンって言うや  
つ?傭兵時代に磨いた技って言うと別の意味にもとれちゃうんだけど。  
ちゃんと宿にとまる時でもそう言う気分の日は同じ部屋をとったし、気分じゃ  
なくて別々に部屋をとった時でもあたしがその気になってガウリイの部屋に押  
し掛けた事もある。  
  『眠れない気分なの…抱いて…』  
あの「のほほんとした保護者面」をとっぱらったガウリイの顔をアメリアが見  
たら、びしぃ!と指をさして『ガウリイさん!悪です!』とかなんとか言うん  
だろうなぁ。  

「ゼル達と再開してからはさすがにしなくなったけどね…どう?」  
「なにが」  
「それでもあたしのこと抱いてくれる?」  
ゼルは何も言わなかった。  
何も言わない代わりに手が下着の中に入ってくる。  
敏感な部分を撫で上げられて嬌声とともに仰け反ってしまった。  
静かな夜に淫らな水音と、シーツの衣擦れと、あたしの声がこだまする。  
くちゅっ…くちゅっ…。  
ゼルの指の動きに合わせるかのようだ。  
「あ…ん…。あっ…あんっ…」  
自分で自分の出した声に恥ずかしくなって思わず手で口を覆い隠してし  
まう。  
「つまらない事をするな」  
「で、でも…聞かれちゃう…」  
「聞かせればいいだろう?もっと…」  
そう言うとゼルは下着ごとあたしのズボンをずりおろした。  
膝下まで下げらた服は器用に足でずりおろされ、ベットの端で奇妙なオ  
ブジェとなる。  
両太ももに添えられた手に力が入るとぐいっと大きく足が開かれた。  

「なっ、なにすんの!」  
思わず両手で隠してしまう。  
「は、はずかしーじゃない!」  
そう言って赤面するあたしの両手をゼルはいとも容易くはね除けた。  
「明かり!明かり消そ!ね!」  
「却下」  
そんな事言ったってガウリイとする時でさえ部屋を真っ暗にしてたって  
言うのに。  
「舐めてやるからお前はシーツでも掴んでろ」  
「だからって…こんな…」  
「しっかり広げんと髪が刺さっちまうだろうが」  
「あ…そか…」  
なんだか納得。硬い針金状のゼルの髪…。あたしのことを考えてくれて  
るんだ…と思うと、こんな霰もない格好をさせられてるって言うのにな  
んだかおかしくなってしまった。  
だけどすぐにこんなおかしな気持ちは吹っ飛んでしまう。  
ゼルがあたしのあそこを舌で撫で上げたからだ。  
「あぁっ…!」  
ぴちゃっ…ぴちゃっ…。  
リズミカルな舌の動きに合わせて奥の方がじんわりしてくる。もう自分  
で分かるくらい濡れている。  
じゅっ…包み込むようにゼルの唇があそこを吸い上げてきた。  

探るような舌の動き。お目当ての物を見つけたか。  
舌が突起の部分をこねまわしはじめた。  
「あ…んっ…あん…いい…は…んんっ!」  
ゼルの髪が硬くなければあたしはきっと両手で掻き抱いているところだろう。  
それすらも叶わずぎゅっとシーツを握りしめる。  
「ゼ…ゼル…あたし、もう…」  
あたしのその言葉に反応するかのようにゼルが顔を上げた。  
唇の周りが妙に艶めいて卑猥な感じがする。  
行為を途中で止められてなんだか腹が立って来た。  
「あたしを…じらすつもり?」  
「まさか」  
そう言うや否やゼルはあたしに覆い被さって来た。  
片方の手をゆっくりと乳房にのせ、もう片方の乳房には唇を寄せる。  
「あ…」  
ざらり…とまるで音がするように乳首を舐めあげられ、きゅうっとそこ  
に血液が集まるような感覚に襲われた。突っ張るような軽い、でも心地  
よい痛み。  
軽く舐められただけで乳首が硬くなってしまったのだ。  
もう片方の手は軽く添えられているだけのようで少し不満になる。しか  
しそれを見すかしたようにフ…と動きがあった。  

「あんっ…!」  
指1本だけの動きがどうしてこんなに気持ちいいんだろう。  
乳首を転がされあたしの息が上がって来た。  
「あっ…はぁ…んっ…」  
ゼルの舌と指の動きに翻弄されながら朧げに何かが閃きつつ消えて行く…。  
心と身体が同じバイオリズムで動いてるんだね。  
すきな人とのセックスがこんなにも満ち足りた気分になるなんて。  
ゼルが顔を上げた。唾液が乳首との間に糸を作っている。  
もうあたしは涙目で彼の瞳を見つめる事しか出来なくなっていた。  
さっきまで乳首を弄んでいた手が下半身に伸ばされる。  
滑りとした感触。  
「はぁ…ん」  
指があたしの中に入ってくる。彼の指。さっきの微かな閃きが戻って確  
信した。  
「ゼルの指って…気持ちいい…」  
彼の硬質な指があたしの彼への気持ちとからみ合って快感をもたらすのだ。  
その言葉に触発されるように指の動きが激しくなる。2本目を差し込ま  
れほんの数回擦り上げられた時に、あっけなくあたしは昇りつめてしまった。  
「リナ…」  
優しく囁かれる低い声。  

一つの賭けだった。  
もし拒絶されたらガウリイとの二人旅が再開され、ゼルはゼルで…隣に  
アメリアがいるかどうかは別としてクレアバイブルを探す旅に出るだろう。  
もう2度と会えないかも知れない。  
それでも…。  
あたしは彼に思いを打ち明けたかった。  
彼に抱かれたかった。  
あと何日かで「あの日」が始まっちゃうし、「あの日」前だと匂いとか  
気になっちゃうし…。  
そうよっ!最初っからそう言うつもりでゼルの部屋のドアをノックしたのよっ!  
パジャマで行っちゃうとあからさまかなぁなんていろいろ考えて。  
そしてあたしは賭けに勝った。  

夜手に入れるお宝は盗賊いじめの戦利品だった。  
それは今までの話。  
あたしはこの夜本当のお宝を手に入れたのだ。  

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