スレイヤーズ  
 

 セイルーンからリナ達の旅に同行して、数日過ぎた頃だったろうか。  
 それまで三日と空けずにアルフレッドに抱かれていた躰は例えようもなく疼  
き、その火照りを冷ますために、彼女はシャワーを浴びながら自らを慰めていた。  

「あぁっ…ん…くあ…う……んっ」  
 石鹸の泡でぬるぬるになった素肌に手を這わせる。  
 たっぷりとした乳房は刺激を求めて張り詰め、幾ら先端を扱いてもその疼き  
は収まらない。  
 階下の酒場で買ってきた酒の小瓶――入浴前にグラスにあけておいた――の  
口を自分の淫唇にあてがう。  
 泡で瓶が滑るため、一度瓶にタオルを巻き付ける。  
 ぐっと力を込めて押し込むと、瓶はすんなりとアメリアの内部に侵入してい  
った。  
「ふ……あはぁ………」  
 ちゅぷ、じゅぷっといやらしい音がする。  
 狭い浴室で大きく脚を開き、陰核をくじりながら小瓶を出し入れし続けてい  
た。  

 こんこん。  
 部屋のドアがノックされる。  
 ドキッとしたが、今出ていくわけには行かない。誰か分からないが、黙って  
いれば部屋に戻るだろう。  
 板一枚隔てた向こうに、メインルーム。そして入り口のドアはバスルーム  
(脱衣所はない)のすぐ傍だ。下手に声を出したら気付かれるかも知れない。  
 風呂が付いているのが奇跡なくらいの安宿なのだから。  
『アメリアー、いないのかぁ?』  
 すっとぼけたガウリイの声は、思った以上に大きく聞こえた。  
(ダメ、我慢しなきゃ……聞かれたら、わたしのこんないやらしい姿を見られ  
たら、ガウリイさんに嫌われちゃう………リナにも軽蔑されちゃう!)  
 もっと大きな快感を貪りたくて細かく震える手で口を押さえ、咥え込んだ瓶  
を押さえつける。  
 しかし、声を抑えようとして、躰に余計に力が入ってしまった。  

 ―――――――ゴトンッ!  

 アメリアの内部から溢れ出した蜜にぬめって、小瓶の尻が浴室のタイルに落  
っこちたのだ。  
 あわてて半分吐き出した瓶を押さえるが、もう後の祭り。  
「アメリア?! 湯当たりでも起こしたか?!」  
 生来の世話焼き癖からか、ガウリイは堂々と浴室のドアを開け放った。  

「………………………アメリア?」  
 ガウリイは最初、その光景がよく理解できずにいた。  
 まず、アメリアは裸だ。入浴していたのなら当たり前。  
 しかし、何故彼女はこんなにも大きく脚を開いているのだろう。  
 アメリアが押さえている秘所には、なにか緑色したものがある。  
 浴室が冷えてしまう頃、ようやくガウリイが「ああ、そっか」と手を打った。  
 そして後ろ手に部屋のドアを閉めると、ひょいっと――流石にもう脚は閉じ  
ているが、悲鳴を上げることも出来ず完全に固まっている――アメリアの前に  
しゃがみ込んだ。  
「アメリア、そんなんで足りる?」  
「…………へ?」  
 そんなん、で示されたのは、まだ秘所に咥え込んだままの小瓶。  
 今更ながら自分のはしたない格好を自覚して、アメリアは大慌てで瓶を抜い  
た。  

「ごっ、ごめんなさいっ! お願いです、リナには言わないで……!」  
 多分生まれて初めての親友に、自分のこんな姿を知られたくはない。  
 剥き出しの胸と秘所を隠しながら、アメリアはガウリイに懇願した。  
「いや、言わないでって言われなくても、言わないけどさ。  
 てゆっかさ、俺も一緒に入っていい? 狭いけど」  
「……………はい?」  
 彼女の返事を待たずして、ガウリイはてきぱきと服を脱ぐ。  
 恥ずかしさで思考の停止したアメリアには、人の三倍短絡的、もとい単純な  
ガウリイが何をしようとしているのか、真意を測りかねていた。  
「ほら、あったまんないと風邪引くぞ」  
 裸になったガウリイは、あくまでいつも通りの笑顔で件の小瓶――中には幾  
らか、流れ込んだ愛液が溜まっていた――を脇に退け、泡だらけのアメリアに手を差し出した。  
 その手よりも、思いっ切り目の前でファイティングポーズ取りつつぷらぷら  
しているモノの方が、アメリアとしてはよっぽど気になるのだが。  
「ガウリイさん…………おっきぃ………」  
 臍まで届くガウリイのソレを見て、忘れていた躰の疼きがまざまざと蘇る。  
「………欲しい?」  
 柔らかい声。  
 催眠術にでもかかったかのように、アメリアは素直に頷いた。  
 ガウリイは狭苦しいバスルームを横切って、バスタブに腰掛ける。  

「ほら……おいで」  
 子供か猫でも抱き上げるように、アメリアの両脇に腕を差し込んで彼女を抱  
き上げ、膝に乗せると、再び上気したその頬にキスを落とした。  
 アルフレッド以外の男に抱かれるのは初めてだったが、アメリアは甘えてガ  
ウリイの首にしがみつく。雄の体臭が、鼻孔をついた。  
 雌の本能だろうか、芳しいものではないと思うのに心地よくて、視界いっぱ  
いに広がる金髪をさらりと撫でる。  
 綺麗、と呟くと、その言葉に応えるようにガウリイの手がアメリアの胸とお  
尻を優しく捏ねた。  
「んはぁっ!」  
「やっぱ、胸は大きい方が揉みごたえがあっていいなぁv」  
 石鹸でぬるぬるの胸もお尻も、今にもイッてしまいそうなくらいに感覚が張  
り詰めている。  
「っ、ガウリイさん…焦らさないでぇっ……早く挿入て……っ!」  
 さっきまで瓶で自分を慰めていたところを中断しているのだ。  
 半端な並みに晒され続けたアメリアの躰は、もっと大きな質量と熱を求めて  
沸き立っていた。  
「あ、そっか……我慢してたんだもんな………力、抜いて……」  

 甘くて、優しい声だった。  
 アルフレッドの声も甘かったけれど、その声はいつもアメリアを辱めていた。  
 辱め、堕落させる以外の睦言を、初めて聞いたかも知れない。  
 自分の奥へめり込んでいく、ガウリイの分身。  
 圧倒的に膨大な質量を持った熱が、アメリアを侵す。  
「……あ……あぁっ………ふぁ……」  
 溢れるほど垂れ流していた淫蜜が、繋がり合った場所から伝わってタイルの  
床に滴った。  
 アメリアは片方の膝をバスタブに掛け、自分から腰を上下させる。  
 石鹸で滑りの良くなった胸をガウリイの手と胸板に押しつけ、ひしゃげたそ  
れで石鹸を泡立てるように、片時も離さずに躰を揺すった。  
「んっ……お……気持ちいい……」  
 ガウリイも下から勢いよく突き上げ始めて、アメリアの最奥に硬くなった先  
端が激しくぶつかる。内壁にまとわりついた淫蜜をこそげ落とすかのように動  
かされ、ソコから発生した快感に目が眩む。  
「ふ、ぁっ! あ! あぁっ!」  
 声が抑えられない。  
 サウナの中にでも居るみたいに、頭が、体が熱くて、目の前にいる男のこと  
以外、何も考えられない。  
「………ん……ぅあ……」  
 唇を貪るように重ね合わせる。絡み合わされた舌の奥が、少し苦い。  
 ウィスキーの味だ。  

「んっ、んんっ、う、ンはぁ……っ……くぅ、ぅン!!」  
 飢えた躰はあっさりと、ガウリイよりも先に達してしまう。  
 柔らかな曲線を描く背中を折れるほど仰け反らせて、アメリアは数日ぶりの  
絶頂に駆け上った。  
「……はッ……はぁ………ご、めんなさい…先に、イッちゃった……」  
「ん……いいよ、気にするなって………でも、代わりにシてくれるか?  
 胸で、あ、嫌なら手でもいいんだけど」  
「ふつー、そこって『口か手で』じゃないかしら……」  
「だって俺、おっぱい星人だもん」  
「威張って自慢する事じゃないわよ、それ」  
 まだ繋がったまま、随分緊張のほぐれた表情で笑い合う。  
 一度浅く口づけると、胎内からガウリイのモノを抜き出して床に降り、ガウ  
リイの膝の間で膝立ちになった。  
 たぷんと揺れる胸を掻き集め、谷間に隆々とそそり立つソレを挟み込んだ。  
「……んっ……………」  
 上目遣いに彼の顔を覗き込みながら、ゆっくりと胸を片方ずつずらして動か  
す。時折先端を口に含んでは舌で裂け目をなぞる。  
 奉仕の間中、優しく髪を撫でてくれる男の手の感触を嬉しく思った。  

 やがて、ガウリイの息遣いが間隔を狭めてくる。  
 射精を急かすように先端をきつく啜ってやると、それが引き金になったのか、  
ガウリイの手が、アメリアの頭をぐっと押し込んだ。  
「…アメリア……で、出る……っく、ぁ!」  
「ん、んぷぅ…………っ!!」  
 喉の奥に、熱い飛沫が迸る。熱い欲望の証を、咳き込みながらもどうにか飲  
み下し、咳き込んだ拍子に潤んだ目で見上げると、ガウリイが上気した顔で、  
彼女を優しく見下ろしていた。  

「わたし、もしかしたらガウリイさんのこと、好きかも知れない」  
 シャワーを浴びた後、狭いシングルベッドの上で裸のまま重なり合いながら、  
アメリアはそう呟いた。  
 ガウリイはやはり優しく微笑んで、それから少し、困った顔をした。  
「俺は……まだお前の気持ちには応えられないな。会ったばっかりだし。  
 やることやっといて何言ってるんだって、自分でも思うんだけどさ……  
 ごめん、答えには、もう少し時間をくれないか?」  
 心底申し訳なさそうに言う彼に対し、アメリアはやはり微笑んで、かぶりを  
振る。  
「いいのよ、わたしもはっきりそう思う訳じゃないし……  
 困らせちゃって、ごめんなさい」  
「なんで謝るんだ? 俺は困ってないぞ?」  
「でも、わたし…………あなたを利用したのよ?」  
 淫らな衝動に疼く身体を治めたくて、結果的にガウリイを利用したのだ。  
 アルフレッドの替わりとして。  
 怒るだろうと思ったが、反してガウリイは、アメリアの髪をくしゃくしゃに  
撫で回した。泣き出しそうな子供をあやすような手つき。  
「知ってるよ………寂しかったんだよな。あの人が居ないから」  
「………知ってたの………?」  
 いつから自分とアルフレッドの関係に気付いていたのかと、掠れて震える声  
で尋ねる。予想通り、答えは「野生の勘」だったが。  
「…………ごめんなさい………っ」  
 愛し方も愛され方も間違いだらけだった。  
 でも、確かに彼女は、アルフレッドを愛していたのだ。  
 葬儀の時には何故だか流れなかった涙が、今更になって溢れてくる。  
 ガウリイの胸に顔を埋めて泣きじゃくる彼女の髪を、ガウリイは優しく、優  
しく撫でてやった。彼女が泣きやむまで、ずっと。  

「俺は構わないからさ。欲しくなったらいつでもおいで。  
 添い寝くらいなら幾らでもしてやるから。オプション込みで」  
 泣きすぎて腫れ上がったアメリアの目蓋に、触れるだけのキスが落とされる。  
「ありがとう………………ねぇ、ガウリイさん」  
「……ん?」  
「ガウリイさんのこと、好きになってもいいですか?」  
 この人を、好きになりたいと思った。  
 憧れとか、守られたいとかじゃなく、一対一で、愛したいと思った。  
 彼から愛されなくても構わない。  
 強い覚悟と意志を持った瞳を、ガウリイが見つめ返す。  
 そしてもう一度、ふっと微笑んで。  
「…………勿論。  
 それと…………俺もアメリアのこと、好きになってもいいかな?」  
「……是非、お願いするわ」  
 笑みの形を作った唇が近付いてきて、アメリアははっと、その唇に掌を重ね  
た。  
 ちゅーは? とお預け喰らった犬のような視線で、ガウリイが抗議する。  
「あ、あの、まだ口の中に残ってるから……っ…」  
 喉の奥に少し絡まる、ガウリイの吐き出した液体の味。  
 唇を押さえるアメリアの手をさくっと剥がして、なおかつたっぷりとキス責  
めにしてしまってから、ガウリイは一言。  
「俺のだから、気になんないよv」  
「………もう」  

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