「リナ、胸見せてみろよ」  
宿屋に入り、風呂も済ませ、さあそろそろ寝ようかという時刻。  
ノックがして、きっと相棒だろうと想い、ドアを開けた途端、そう言われた。部屋にやって来て、突拍子もない事を言ったのは、案の定、自称保護者のくらげだ。  
お年頃の乙女としては、硬直したところで止むを得まい。  
「今日俺にヘッドロック掛けた時、何か痛そうな感じがしたから・・」  
ちっ!  
こーゆー事には、驚くほど敏い。且つ過保護だ。  
確かに、左の鎖骨の下辺りに打ち身はある。だが、治療呪文もかけずほったらかしているのは、その程度でしかないからなのだ。  
彼の場合、そこまで頭は回らないらしい。  
「ほら、膏薬持って来てやったから、見せてみろ。」  
見せられる訳がない。  
繰り返し言うが、お年頃の乙女である。どうやって納得させようか思案していると、  
いきなりパジャマのボタンにヤツの手が伸びてきた。  
ぎゃ〜って処である。  
どうする? ファイアーボールを使うには、近すぎる。シャドウスナップを使う為の鋭利なものも、手元にはない。氷結の魔法で足だけでも止めるか、明かりで逃げるか。  
とりあえずスリッパにしておく。  
 
「ほら、ちゃんと塗れよ」  
手にした軟膏を差し出す。殆どダメージを受けていない。くそぉ〜。  
今度からスリッパに穏剣しこんどかなきゃ。睡眠薬塗った針とか。  
「解ったわよ、ちゃんと塗るから! はい、お休み。」  
ガウリイの背中を押して、部屋から追い出そうとするのだが・・・。ジト目で睨んでやがる。  
「塗るって、言ってんでしょ!」  
さらなるジト目。  
くぅ〜〜!うっとうしい!  
目の前で塗らなきゃ、納得しないぞって事か?  
「解ったわよ。」  
パジャマの襟元から、手を入れて痛みの在る辺りに塗る。  
「痛いとこだけじゃなく、その周りも塗るんだぞ。」  
何となく、そのうっとうしい視線がイヤで背中を向けてから、しぶしぶボタンを1つだけ外し、云われた通りに塗ろうとしていたのに  
「り〜な〜」  
耳元の低い声と、ぬうぉっと肩越しに出て来た顔に、背筋を凍らせた。  
「痣、ココにもあるじゃないか。」  
云いながら、人がかろうじて押さえている胸元をなにげにはだけて、指で突付く。  
「他にもある?」  
親切そうな声で、涼しげな顔で・・・・。  
 
不意に胸元から手が入って来た。すっぽりと左の胸を包み込み、わしわしと動きだす。  
こうなったら、呪文を唱えるドコではない。ムダにでかい手は、器用に動き廻ってあたしを煽る。  
チクショー。  
やっぱりまた、アレだったのだ。  
 
今までにもちょくちょくあったのだ。こういう触り方は。  
あたしが感じてしまって、動けなくなるまで続く。  
マジで抵抗するとか、すけべ屋さん行って来いとか言おうものなら、何時間も続けられ、早く終わらそうと、果てたフリをしたら、もっとイカされるのである。  
 
「どこだ?」  
などとほざきながら、探すフリをいている。5本の指がバラバラに動いているのが解る。  
意識を逸らそうと、ぎゃーぎゃー言ってみても無駄で、逃れようとしゃがみ込んでしまい、結果その腕にしがみつく形になってしまう。  
いかん。  
このままでは、また策に嵌ってしまう。  
 
「嫌だってば!放してよ!」  
口でそう言ったところで、どうしようもなく気持ち良くて、抵抗できない。それが堪らなく悔しい。  
くねらせた上半身を支えるフリをして、パジャマの裾から入ってきた手が、体中に火を点ける。  
自分の呼吸がやけに甘くて、嫌になる。  
襟から入った手は乳首だけを責め、裾から入った手は反対の乳房だけを責める。もどかしくて堪らない。  
嫌がるフリをして、その手にもっと押し付けようとしても、するりとかわされてしまう。  
「どうした?」  
解かっているクセに、わざとらしく、いやらしく、耳元で低く囁かれる。  
負けるのは解かっている。だけど。  
目をきつく閉じてやり過ごそうとした。耐えるのは辛い。けど、その先に来るモノを、もう体が覚えてしまっていて、拒絶出来ない。気持ちいい。  
どうすればいい?ガウリイ。  
 
不意に、両方の乳首を摘ままれた。充血して敏感なそれを指先で掴まれると、痛くてそれすら気持ちいい。  
身を竦めるとすとんと、ガウリイの胸の中に納まってしまった。何故だか切なかった。  
 
「したい、リナ、させて」  
 
その言葉は、他のどんな責めより、あたしをイかせた。  
 
ガウリイの手が肌を伝い、パジャマのズボンの中、下着の中に入ってきて、ゆるゆるとアソコを揉み解す。  
「リナ・・・」  
返事を即すガウリイの声は熱っぽくて、彼も同じ熱に犯されている事を示していた。  
今頷けば、あたしはガウリイのモノになるんだろうか。ガウリイはあたしのモノになるんだろうか。  
好きだと、言ったことも言われたこともないまま、快楽に溺れても・・。  
 
揉み解した指がかすかに入ってくる。既に開いている入口なのに入らずに、唯一つの答えしか要らないと、明確に伝えてくる。入れて欲しかった。強く深く、入れて欲しかった。でもそれを言うのは、好きだと言うことに似て、羞恥と恐怖を伴っていて・・。  
恐怖?  
 
焦れたガウリイが責め方を換えてくる。胸に預けていた背中は薄いドアに押し付けられ、下着も剥ぎ取られ片足も捕られた。捕られた片足は肩に担がれ、アソコは両手で大きく開かれている。舐められるのかと思っていたのに、ガウリイは意地悪く、  
立てた中指を擦れるか擦れないかぐらいの位置に持ってきているだけだった。  
 
恐怖だった。  
魔法は、覚えればよかった。剣術も。それらは自分の努力で手に入り、そして誰にも奪われることはない。  
だけどガウリイは?  
 
腰を落とし、指を自分から中に入れた。  
指を中で擦りつけ、快楽を貪る。快楽を覚えている体は、勝手に動きリズムを刻む。バランスを取るのも難しい体勢でいながら、大きな波を自分で招こうとした。  
それまでまっすぐに伸ばされていた指が、急に力なく中でふにゃりとなった。  
「やぁ・・・っ」  
イかせてくれと叫びかけた。  
 
ベッドに移され、ガウリイが仰向けに寝た顔の上に、腰を落とされる。顔の上にアソコを擦り付けるようなその格好は、恥ずかしくてそれだけで体がより一層の熱を生む。  
舌があふれ出ている蜜を舐め上げ、いやらしい音が耳に届く。  
腕は後ろ手につかまれ、アソコ以外に何も刺激が与えられない。  
足りない。気が狂いそうなぐらい足りないのに、舌の動きすら止まってしまった。自分で弄くりたかった。  
それもままならず腰の動きだけが止まらない。気が付くと彼の顔に、擦り付けていた。  
縦に擦り、のの字を書き、喘ぎ、よがっていた。  
ガウリイの顔で、自慰をしているみたいだった。  
だがそれだけでは、イけそうになくて、もどかしく切ないリズムだけが刻まれていく。  
 
「なあ、リナ、ダメか?」  
 
ここまでしておいて、こんなにまでしておいて。  
「したいって言ってくれ・・」  
 
ダメだって言えなくしたの、ガウリイじゃない!こんな体にしたの、ガウリイじゃない!  
体の中に、どこにも行き場のない熱が確かにあって、それははっきりとガウリイを欲しがっているのに。  
体を起こしたガウリイの顔が近づいてくる。顔中べとべとであたしの匂いが擦り付けられていた。  
口付けは、初めてだった。  
 
「好きなんだ、リナが欲しい。」  
 
そのまま抱きしめられシーツに沈む。何度も何度も好きだと言われ、口付けを繰り返す。  
ガウリイは止まらなかった。口を繋いだまま足を開かれ、熱い塊を押し付けられ揺すられる。  
「リナ」  
切羽詰った声であたしを呼ぶ。  
あたしは腕を伸ばし首に抱きつき、彼を呼んだ。  
 
熱くて、痛くて、確かに裂かれるような痛みだ。声も出せず、ただしがみつくのが精一杯で。  
でもその痛みが、確かにガウリイの存在を伝えている。  
密着して揺すり生傷を開く行動は、距離が無いことを明確にする。  
気が付けば、好きだと叫んでいた。  
 
どこから記憶がないのか定かではないが、ガウリイの重みと汗と荒い息で、終わったことを知った。  
お腹を撫でる手が、痛みを和らげるようだった。  
何も変わってなどいないはずだった。失う恐怖は少しも減ってはいなかった。  
 
「子供できたらいいな〜」  
 
そう呟いた自分の上にある顔を、見るまでは。  
 
 
その日は、野宿をせずに済んだ。  
山越えをしようと入った森で、運良く樵小屋を見つけた。  
たいして寒くもない、秋の夜。  
山道で疲れたリナは、囲炉裏の傍でごろりと横になると、そのまま寝入ってしまった。  
それでは野宿とかわらないだろう?  
小屋の隅にかたづけられた寝具の中から、毛布と枕を持ち出し、リナに掛ける。  
枕をあてがおうと、頭を持ち上げる。  
片手で軽く持ち上がる小さい頭。手のひらに収まりきらない、豊かな髪。  
その手触りと、温度が、  
その重量感が、  
胸の中に、幸福感と胸騒ぎを沸き立たせる。  
その甘さも苦さ、心地よくて、そのまま小さな頭をそっと枕に置く。  
彼女は軽く身じろぎをし、横を向いて再び夢の中だ。  
 
少し距離を開けて座りなおす。  
彼女が横に居る。  
唯それだけの狭い空間。  
起き出せば、またいそいそと暴れだす、その前の時間。  
囲炉裏の火をぼんやりと眺めて過ごす。  
「おとなしく寝てりゃあ、可愛いのに・・」  
 
「起きてても、可愛いわよ」  
 
今のつぶやきで起きてしまったのか?  
毛布を肩に掛けたまま、目を擦っている。  
「布団、あるぞ。出そうか?」  
「う〜・・」  
「眠いんだろ? そのまま寝てろよ」  
「う〜」  
薄目のまま、ずりずりと這いずって来たかと思えば、不意にぽてっと  
ヒトの膝を枕にした。おいおい・・  
「なんか、眠りが浅いっていうかさ・・」  
そりゃ、そうだろう。  
小屋の中とはいえ、板張りの上じゃ寝にくかろう。  
だからって、こうくるか?  
「ガウリイ・・」  
 
奇跡のように、天使のように、  
目の前に現れた、故郷の伝説の魔導師。  
まだ俺の手が血にまみれていなかった頃の、憧れのままに  
ここに在る。  
 
知らないだろう、リナ  
お前を失くす、恐怖に怯えている俺を  
その恐怖ゆえに、手に入れようとすら出来ずにいる俺を  
かろうじて、横に居るだけで満足しようとしている俺も  
 
不意に、細い腕が背中に廻される。  
起き上がった天使は、寝ぼけたまま俺を抱きしめる。  
やっぱし、悪魔かも・・  
その力ない体がずり落ちるのを、思わず両腕で抱きとめる。  
 
「り〜な〜・・、こらっ、起きるか寝るかどっちかにー・・」  
 
「ガウリイ、セックスしよっか?」  
 
「――――――――‐‐‐‐‐‐」  
はい? なんとおしゃいました?  
うん、と即答すればいいのか? そしたらやらせてくれるのか?  
いや、その前に寝ぼけて言われても困る。困るぞ。  
 
「リナは、したいのか?」  
「別に。」  
 
アアアア、即答ですか・・。  
即答で否定って、酷い話だ。  
一挙に全身の力が抜けた。未だ抱きついたままのお嬢様をどうやって寝かしつけよう。  
放してくれりゃ、布団の用意もしてやれるのに。  
あやすように、背中をポンポンたたきながら、何とも言えない虚無感を味わう。  
いっその事、マゾとかだったら楽しかったかも・・。  
 
「うにゅ〜、・・・夢をね、見たの〜・・・」  
背中に廻した腕に力を入れた寝ぼけ悪魔様は、幼子のようにぼそぼそと話し出す。  
「夢? 怖かったのか?」  
時々、うなされているのは知っているが、それは大抵何かあった後だ。  
最近何かあったか? 俺の知らないところで何かあったのか?  
「・・・人の骨がたっくさんあってね、地面なんか見えなくて・・だあれもいないの」  
幼児のようにしゃべっているせいか、その声に恐怖はない。  
お前は、そんな夢を見る必要はないんだよ、  
そんな言葉を言ったところで、この優しさを意地っ張りの中に押し留めた少女には、届きやしない。  
自分の関わった事件で、助けられなかった人々にまで、意地っ張りの中から溢れ出した優しさで、想いを巡らす。  
「でさ、その白い山の上に、ガウリイが居てね、おっきいガウリイと、ちぃさいガウリイなの」  
大きい俺? 小さい俺?  
「ぽつんと立っていたの、んであたしに気付いて走ってきて、抱きつくんだけど」  
俺の夢か・・  
 
「おっきいガウリイはいつもみたく笑っていて、ちぃさいガウリイは泣いているの」  
俺は、言う言葉が見つからない。  
止めるともなしに止まっていた、リナの背中を叩く手で、彼女の頭を撫でる。  
「それで、考えたのよー。クラゲ頭は口で言ったって覚えやしないから、だったら体に覚えさせるしかないって〜」  
「何を?」  
「独りじゃないって、解らす方法――――」  
 
ああ、それで―――――。  
 
自分がとうの昔に彼女の保護者なんかじゃなく、  
随分前から、この女神によって救われていることを、俺は知っている。  
もう知っているんだよ、リナ・・  
 
「じゃあ、目が覚めたら、お願いするよ・・」  
「・・・う〜・・・」  
 
断る勇気も、度量もない。  
もったいなくってできやしない。  
朝になって、覚えてない振りをするであろう彼女に、  
どうやって話をふろう。  
 
腕の中で寝付いてしまった彼女を抱えながら、  
結局一晩この体勢でいるしかない事と、生殺しなのとに気が付いて、  
いっその事、今起こして  
「お願いします!」  
って言ってみようか?  
 
 

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