リナは、年に一度、行く処がある。  
なんとかいう出版社だ。  
そこの本をチェックするためらしい。  
一通り目を通して彼女がOKを出すと、その部屋に居た人達が一様に胸を撫で下ろしているのが解る。  
その後、編集料という名の謝礼を貰って、その場所を後にして、その日はその街に泊まる事になった。  
 
毎年のことだが、何故彼女がそんなものに係わるのか解らず  
「何の本だ?」  
と訊いても  
「マスメディアの個人情報漏洩に係わる、人権侵害について」  
という説明に、?マークを浮かべて首を捻るしかなかった。  
 
宿屋を決めて、魔道士協会に行くという彼女に着いて街に出て、暇つぶしに市場をうろついていると、そこらの建物の影で怪しい売買が行われているのに気付く。  
薬か何かヤバイモノなのかと思い、係わらずに済ませようと無視をしていたのだが、その内の何人かがちらちらとオレの様子を、伺っているようだった。  
だが、それが怪しい人物ではなく、おばちゃんや、おっちゃん、果ては子供も含まれていて、一概に何を探っているのか想像がつかない。  
自分の容姿が女に受けるのは知っていたが、どうもそれとは無関係のようすに、売人と思しきヤローを一人とりあえず捕獲してみた。  
文筆家風のその男は  
「ペンは力より強いんだ。」  
「報道の自由は守られるべきだ。」  
などと言って要領を得ない。そいつが売っていたモノは、本。タイトルは『真・命にかかわる危険な生物ベスト百』、巻頭カラーはリナ=インバースだった。  
怒る気にもなれず、盛大な溜息を吐いていると、  
「き、君はガブリイ=ガブリエフだな。リナ=インバースの手下その1の!」  
手下その1?  
「我々は最後の一人になっても、真実を追究するからなーっ!!」  
そう叫んで、そいつは走り去ってしまった。  
 
まだリナが帰っていない宿の部屋に戻り、本を開く。本なんていつもなら、読み出して数行で眠くなるのだが、中身のせいか、リナの特集を読み出すと止まらなかった。  
そこには、田舎に帰り地道に暮らす彼女に倒された盗賊の残党のインタビューや、彼女に仕事を依頼して無茶苦茶になった人の話、事件に携わった人の経験談など、かなり事細かに調べ上げられていた。  
 
「ガ・ガ・ガ・ガウリイッ!」  
奇妙な呼ばれ方に顔を上げると、いつの間に帰って来たのか、リナが目を見開いてこちらを指差している。  
「おー、お帰り。早かったんだな。」  
「ガウリイが本読んでいるなんて!明日は槍でも降るっていうの!」  
失礼な。  
「ほらこれ、オレ達が載ってるぞ。」  
ちなみにオレはやはり、手下その1。似顔絵付きで載っていた。  
 
「コレ、どうしたのよ・・」  
怒りが頂点に達したのが良く解るほど、ぶるぶると全身を震わせ低い声で尋ねられ、誤魔化せる筈も無く市場での出来事を話す。  
「あいつら〜っ!」  
この場で魔法は勘弁してくれよ。  
 
「ムネ、ほら、ココ!去年よりいささかの成長が見られるって!」  
なんとか怒りを静めるために、機嫌を取る。今日騒動を起こしてしまえば、また夜なべで移動になってしまう。  
「え?」  
ムネという単語に対するリナの反応は、相変わらず大きい。確実に釣れる。構ってもらおうという時には欠かせない。  
途端ににちゃ〜っと笑顔になり、オレの指差したところを読み出した。大げさに褒められるより、リアルに描写された記事は、喜びもひとしおらしく、激しく同意を求められた。  
ので、激しく同意してみた。  
「ちょっと、ココの高さが変わったかな〜。」  
言いながらスグサマ責め出していく。この隙を逃せば、これから移動。それは今夜のオアズケを意味する。オレにとっては、どうしても死守したい処だった。  
「今確かめなくったっていいじゃないっ」  
 
後ろから抱きしめてうなじを舐め上げると、それだけで大きく撓る。  
だが無駄のない細い体躯は、優れた運動能力を有していて、よく撓る柔軟性に富んだ抱き心地の素晴らしいものだった。自分の性欲がこんなにも酷いなんて、リナに会うまでし知らなかった。  
今こうやって感じているリナが腕の中にいても、リナの中にオレが居ても、尚足りないという感覚があって、毎日何度も求めてしまう。  
なあ、一回一日中やってみないか?  
 
「ばか!」  
ばかと言われて、喜ぶのは本当にバカなんだろう。イヤと言わないことを指摘して服の中に手を忍ばせると、澄んだ肌の滑らかな感触も朱に染まっていき、見た目との差異がオレを煽る。  
ベッドに行こうというそぶりを見せるのをわざと引き止めて、その場で立ったまま着ているものを全て脱がすと、ソコは既に潤ってオレを待っていた。  
早急すぎるかと思うが、その匂いも温度もただひたすらにオレを誘うのに耐えられる筈なんて無く、オレは服を着たまま、立ったまま、挿入をした。  
 
 
リナはオレに比べて体力がない。だから回数も時間も、釣り合いが取れないのだと、最近までそう思っていたのだが、そうではないらしい。感じやすい体質が、イく回数を必然的に増やし、体力の消耗を早くさせる。  
オレが一回イクまでに、どれ位体力を使っているのか解らない。リナの中がどれ程のものかなんて、リナ自身知らないだろう。知らなくていい。オレだけが知っていればいい。名器と言ってしまえばそれだけの話だ。  
壁の柔軟さは体そのままに、滑らかにすべる感触も肌そのままで、ただ壁の中にある無数のイボイボしたものが、その蠢動だけでオレを責め立てる。  
 
リナの腕をオレの首に巻き付かせて、両足を抱えると更に深く飲み込まれ、快感を増したのか更にきつく締め上げられる。  
動かすのが困難に思えるほどの締め付けは、それだけで充分な快感であるにも関わらず、それをもっと楽しみたいにも関わらず、先へ先へと急かされる。自然と腰の速度が上がり、リナの声が高らかにそれを悦ぶ。  
焦れる顔を見たい。イく顔を見たい。よがり鳴く様を見たい。締め付けられる感じをもっと感じていたい。そんな願いも虚しいほどに、しがみ付きながらも首に唇を這わす彼女の責めに、一気に降参せずにいられなかった。  
 
竿も亀頭も一斉に締め上げられ、もっと奥にと願うのに、阻むように更なる締め上げをくらう。その擦られる感触だけでイきそうになる。  
今まで何度も味わった至福の瞬間、鈴口に柔らかで熱い熱の塊を感じ、その刺激に思わず声を上げる。  
自分の中から溢れる熱が、彼女の熱にぶち当たる手応え。放出する快感も。オレの焦りも何もかもが、リナに飲み込まれていく。  
 
今オレの執着はリナに向いていて、それは愛でなくとも、恋じゃなくても、確かにオレの全てを支配し狂わせる女神だった。オレはちゃんと愛せているのだろうか。  
この、彼女を得てから膨れ上がった独占欲は、愛と呼べやしない。何もかもから隔離してオレだけを感じて、オレだけを見てなんて、彼女を殺すにも等しい欲だ。  
自分を殺すほどの狂喜を抱えて吐き出した欲を、彼女は全て飲み込んでいく。オレを、真っ黒なオレから掬い出す。  
 
 
オレの欲を腹に入れて、何故そう満足そうに微笑む?何故お前さんは穢れない?  
嬉しそうに、オレに祝福のキスをくれる女神は、オレの欲を飲み込んだ後、  
「じゃあ、行くわよ。」  
と高らかに告げた。相変わらずワケの解らないオレを景気付けにスリッパで叩き、  
「出版社に決まってるでしょ!」  
そう言って、欲を体内で大暴れに転化させて、今夜中の移動を予告した。  
 
 

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