「ほんとに、悪かった」
心底反省した、というか後悔している、といった響きを含んだ声があたしの耳に届いた。
「いいってば。……あたしも悪かったんだし」
これは本当。
こうなったのは何もガウリィだけのせいじゃない。
判断を見誤ったあたしの責任。
「けど……」
どうしていいのかわからない。そんな感じのガウリィの声。
「本当にっ、大丈夫だから!」
「そんなわけないだろっ」
言い切ったあたしの言葉を、思いっきり遮断したガウリィの声は真剣そのものだった。
「目が…見えてないんだ。……こんな時ぐらい、甘えてくれ」
頼むから……
消えそうな声と同時に、ふわっと暖かいものがあたしを包んだ。
抱きしめられた、と分かるまでには数秒。
いつも以上にどきどきするのは、やっぱり相手の顔が見せないせい?
ドクンドクンと聞こえるガウリィの心臓の音が、とても心地よく安心をくれた。
……目が見えなくなったのは……本当にあたしの、ミス。
盗賊苛めの最中に投げられた何かを、ショートソードで真っ二つに叩きのめした瞬間、そこから溢れた真っ赤な粉。
目を瞑る暇もなく、それはあたしの眼の中に入り込み、……気が付いた時には、瞳にぐるぐる包帯を巻かれた状態だった。
それが目に入った瞬間、悲鳴を上げてのた打ち回ったらしいんだが、さっぱり覚えていない。
ガウリィが街へ運んでくれてすぐに医者に見せてくれたらしいんだけど、ね。
「本当に、大丈夫だってば。……医者だって、1週間もすれば回復するって言ってたし」
軽くガウリィの身体を押しのけて、あたしは言った
本当はこのままずっと抱きしめられていたかったんだけどね。
そんな事言えないし、それ以上にガウリィの辛そうな声、聞いていたくなかった。
「リナ……」
そっと頭を撫でられる。
「ほんとに大丈夫だから」
笑えたかどうかはわからない。
目が見えないって事は、思った以上に怖い。
自分に触れたものが何かわからない。近づいてくる物音の正体が分からない。
張り詰めた緊張感がいつも付きまとう感じ。
「ふぅ……」
「リナ?」
小さなため息にまで過敏に反応するのは保護者としての義務、みたいなものだろうか。
「あっ、なんでもない」
笑えたかどうかはわからないけど、軽くあたしは返事を返した。
「……」
無言はちょっと怖い……
「あっ、お水、欲しいかな、なんて」
だから適当に言葉を作った。
まぁ、実際汗をかいたせいか咽もカラカラだったし。
「おうっ、すぐに持ってくる」
バタバタと遠ざかっていく足音。
そしてまたバタバタと近づいてくる足音。
「…早い」
「リナを1人に出来ないだろ」
ボッと頬が熱くなるのがわかった。
なんちゅう恥ずかしい事を……
「ありがと」
手を差し出したが、いつになってもそこにコップが渡される気配はない。
「ガウリィ?」
「あー。その、……飲ませてやる」
「はぁ?」
間の抜けた声を張り上げた瞬間、何かが唇に触れた。
そして暖かいものが唇をこじ開けると、冷たい液体がゆっくりとあたしの口の中に流れ込んできた。
「んっっ……」
こくりっ、と飲み込むと触れていたものがゆっくりとあたしから離れた。
「……もっと飲むか?」
聞こえた声に、あたしはぶんぶんと首を横にふった。
「なんだ……」
ちっと舌打ちが聞こえる。
……ガウリィ、楽しんでる?
「おっ、そうだっ!」
コップをテーブルの上に置いた音が聞こえたと同時に、ガウリィの嬉しそうな声。
いっ、嫌な予感が……
瞬間的に身を固めるのと、ガウリィがあたしの腕を捕まえるのとは、ほぼ同時だった。
「リナ、汗かいただろ? 拭いてやるよ」
「えっ?」
「リナを守れなかったんだ。精一杯、リナの世話をさせてくれ」
「い、……いや、あの……」
世話っていったって……、あっ、こら、服に手をかけるんじゃ……
「ガウリィっ!!」
あたしの抗議の声は、くらげ頭には全く届いていなかった。
「んっ……はぁ、ん……ふぁ」
体中を動き回る手の熱さと、ゆっくりと身体を動く冷たいタオル。
こうも器用に両手の動きを別々に出来るガウリィに、ある意味感心してしまう。
「ガゥ…リィ」
「どうした?」
すでに息の上がっているあたしに対して、いつもの変わらないトーンのガウリィの声。
悔しい…!
いつも翻弄されるのはあたしの方。
くらげのくせに、女の扱いに慣れてるなんて………詐欺だ!
そう思っていても抵抗できるわけでもなく、あたしはただガウリィの指の動きに身体を熱くさせていくだけだった。
「はぁ、ん……ふぁ……ひゃっ」
「リナ、身体を拭いてるだけでそんな声だすなんて……。いやらしい子だな」
耳に聞こえる声は、鼻歌交じりの実に楽しそうな声。
嘘吐きがぁぁぁぁ!
「ちっ……はぁん」
否定しようとした途端、胸に走るぬめっとした感触。
「ひょら、ひょんなにたぁっしぇる……」
(ほら、こんなにたってる)
たぶん、乳首を口に咥えたまま喋ってるのだろう。
声の震えがダイレクトに乳首に伝わり、あたしはびくんっと身体を仰け反らせた。
「やぁっ…ん」
いつもなら容赦なくスリッパで頭を叩くところなのだが、何処に何がどうあるのかよくわからないため、そんな反撃もいまいち行動に移せない。
くぅ―、リナ・インバースともあろうあたしが……こんなくらげに……
「はぁん……ガウ…リィ」
「はぁんだ?」(なんだ?)
視線がこちらを向いた、ような気がした。
「いっ……」
「い?」
「いつまで舐めとるんじゃぁぁぁぁ!」
ひとまず両手をぶんぶんと振り回してみたら、がこっという音と何かが拳に当たった感触があった。
「ひどい……リナちゃん」
「身体拭くだけでしょっ! 余計なことしないでいいっ」
そう言うと、『つまんない』とか、『それじゃぁ、面白くない』とかぶつぶつ言うガウリィの呟きが聞こえた、それは完全に無視。
あたしにだって、羞恥心とかはある。
目が見えないからって、ガウリィのおもちゃになるつもりは……ないんだから。
「じゃぁ、リナ」
「何よ」
「やろう」
「……はっ?」
一瞬の間。
いや、何を……やる?
意味を理解出来なかったあたしは悪くない。
相手の表情も、自分の格好もわからないこの状態で、言葉だけで意味を理解しろ、だなんて。
無論ガウリィだってそんなのはわかっていたのだろう。
あたしの頭が理解する前に、それは行動に移っていた。
「きゃぁ」
悲鳴と同時に胸に感じる指の感触。
首筋に当たる暖かい吐息。
「ガゥリィ……、だ…め」
力を入れてあたしの上にあるだろうガウリィの身体を押し戻そうと試みる。
……無理。
「リナ……、お前今、どんな格好してるか、知ってるか?」
「…はぁ?」
「胸まで服捲り上げて……、乳首もこんなに硬くさせて……」
きゅっと乳首が摘まれ、びくんっとあたしは動かす。
「下半身は下着一枚で……、やらしいよなぁ……」
そっ、そうなの?
いやいやと身体をねじらせるあたしを、それ以上辱めたのは、次の一言。
「真昼間なのに」
なっ、なんだとぉ―――!
あたしの視界はゼロだったし、包帯を巻かれていたせいか光を感じることがなかった。
だから今の時間の感覚を認識することなくいたのだが……
確かに……盗賊いじめをしたのが、まだ朝早い時間だった。
それを考えれば、今は……お昼を少し過ぎたくらい?
あっ、あたしとした事が……
突然暴れだすあたし。
頭の中に想像された自分の姿。
それが昼間の光の中にいるだなんて……、耐えられるわけないでしょ。
「やだぁ……」
「お前……それ、誘ってるとしか、思えん」
耳元で囁かれる言葉は、あたしの羞恥心をさらに煽る。
ガウリィを押しのけようとしても、執拗なまでの愛撫が身体の力を奪っていて、思うように抵抗が出来ない。
「ふぁっ……」
耳たぶにガウリィの歯が軽く立てられる。
「やっ、…ぁん。……はぁん」
「可愛い、リナ」
余裕のガウリィの声とは裏腹に、あたしは余裕を失っていく。
「はぁ…ふぁ……ぁぁん」
いやらしい声が漏れるたび、じわっと溢れ出すモノ。
「リナ……ぐしょぐしょに濡れてる」
ぴちゃりっと音を立てて、ガウリィの舌らしきものがソコを這う。
「やっ……、あっ…ん。ガゥ……リ」
ぴくぴくと身体が痙攣を起こしそうになっていた。
「すごい……。本当に……リナは、やらしいな」
ずずっと音がなると同時に、電気が走ったような快感が身体を走り抜けた。
「やっっっ!」
腰が軽く浮き上がると、つかさずガウリィの腕がその隙間に入り込み、腰を持ち上げる。
「だっ、め……」
見られているっ!
暗闇での行為には経験はある。
明かりをつけようものなら、即座にベッドから追い出していたし……
それなのに、今は……
腰をつかまれ、その部分を突き出すような格好になっているのは、何となくわかる。
そして、ソコに向けられる視線。
「ひくひくいってるぞ」
意地悪な言葉と同時に、またぴちゃりっと舌先が触れる。
「あぁぁっ」
「見られて、舐められて、感じるなんて……」
いけない子だなぁ。
「ふぁ……ひゃっ、あぁん……、ガウ、リィ……………」
自分でも、ソコがひくひくとしているのがわかるくらいに、あたしは感じていた。
見られている、という状況が、羞恥心を煽り身体を熱くさせてゆく。
「こんなに濡れてるし……。リナはやっぱり、スケベな子だ」
「あぁん……、はぁ……んんっ」
何かを言ってはソコを舐め、吸いあげるガウリィ。
「リナ……俺、もう限界だわ」
その言葉の後、舌ではない、もっと熱いものがソコに当てられる。
「……いいか?」
今さら、嫌なんて言ってもどうせ止める気なんてさらさらないくせに。
あたしは小さくこくりっと頷いた。
「ひゃっ……!」
いつも以上にそれを感じるのは、やっぱり何も見えないせいなのだろうか。
ずんっと身体の中に押し込まれてくる異物感。
「あっん……、いっ………ぁん。はぁ、やっ、……ゆっく…り」
激しい動きに、ガウリィの腕を探し当ててぎゅっと掴む。
「そんな、……声出されて……。そんな、格好で、挑発されて、……無理だろ」
こんな格好にしたのも、そんな声出させるようにしたのも、みんなガウリィの仕業なのだけれど……
「ガウ……リィが、……ぁぁぁん。いゃっ」
反論してくても激しい動きに、言葉は途切れてしまう。
「リナ……」
優しい声。
顔が見えないのが、妙に悲しく思える。
「ガウリィ……」
だからあたしは掴んだ腕をもっと強く握る。
そこにガウリィがいることを確かめるかのように。
「……もっ、…と」
するりっと唇から漏れて言葉に、驚いたのはあたし。
一瞬にして顔から火が出そうなくらい赤くなったのがわかった。
「……あぁぁぁっ!」
いっきに激しく突き上げられる。
熱く火照ったソコから溢れる蜜が、ガウリィのモノと擦れあい、ぐちゅりっと音を立てる。
「いっ……ゃぁぁぁぁぁっ!」
絶叫と共に、頭の中が真っ白になった気がした。
「……ナ……リナ?」
遠くで聞こえる声。
「……」
「リナ?」
頬に触れた大きな手を感じ、あたしは唇を微笑みの形に動かした。
「……風呂、行こうか?」
――――なにぃ?
「宿屋のおかみさんに頼んどいた。……ずいぶん汗もかいてるだろうし……」
そう言っているガウリィの声がやたら弾んでいるのは、あたしの聞き間違いではない。
「ゆっくり、あったまろうな……。綺麗に洗ってやるし」
「いっ、いや……誰かきたら」
「大丈夫だって。理由話して、おかみさんに貸しきりにしてもらった」
ふわっとあたしの身体が浮き上がる。
「ガウリィっ!」
「お風呂まで行く間に転んだ困るだろ? 大丈夫だって」
「ちょっ…と。ガウリィ――――」
あたしの悲鳴はやっぱりくらげ頭には届かなかった。
――――次の日、目が見えないのと同時に、風邪を引いたのは言うまでもない。
おわり……