むかむかする。何がどうとうまく言えないけど、とにかくむかむかする  
あたしは宿屋であてがわれた自室を、意味もなく行ったり来たりしていた。  
 あーっ、なんでこんなにむかむかすんの!?  
部屋のドアを睨み付ける。もちろんそこには誰も居ないけど。  
そう、誰も。  
あたしの旅の友、ガウリイは、一階にある食堂にまだ居るはず。  
側に綺麗でナイスバディな女の人を座らせて。  
 
 
いつものようにお宝を求めて旅をし  
いつものように立ち寄った街の宿屋に部屋を取り  
いつものように二人で美味しいご飯を食べていた時だった。  
 
背後からちらちらと、視線を感じる。  
自慢だけどあたしは有名だから、適当に潰した盗賊の残党が逆恨みでもしてるんだろう、と無視を決め込むつもりでいた。  
アイコンタクトを図ろうと、視線を目の前に座るガウリイに向けた時、彼の表情に気が付いた。  
驚愕。  
何に驚いてるんだ?コイツ。と思ったのも束の間。  
「ガウリイ……よね?お久し振り……」  
背後から聞きなれぬ声がした。  
振り向くと、そこには目を見張る程の美女が立っていた。  
けぶるような水色のロングヘアは腰まで流れ、女性特有の膨らみを隠し切れない、薄い黄色の紗で出来たワンピースを身に纏い。  
見た感じ20代前半かな。水色と黄色のコントラストが最高。  
瞳は透き通った金色だし、すっきりした鼻梁と睫もぱっちりで非の打ち所が無いって感じ。  
 ななななな、なんだこの美女はっっ!?あたしに喧嘩売ってんの!?僻んでるわけじゃないぞ、こんちきしょー  
 ってゆーか、『お久し振り』?知り合い?  
と観察しながら一人思考を廻らせてると、あんぐり口をあけたままのガウリイがやっと声を漏らした。  
 
「セリア……?いやぁ〜、一瞬わかんなかったよ!!綺麗になったなぁ」  
ぴくぴくぴくぅっ!!!!!  
目の前に美少女が居るってのに、そのあたしを差し置いて他の女に『綺麗になったな』ですってぇえ!!??  
ボイルドビーフを突き刺したフォークを持ったままこめかみを引きつらせてるあたしを他所に、二人の会話は続く。  
要約すると、どうやら数年前ガウリイが傭兵業をやっている間に知り合った人で、この街がトロルの集団に襲われた時に助けてくれた命の恩人、と言う関係らしい。  
まだ若かったのもあって無茶をしすぎ、怪我を負ったガウリイを付きっ切りで看病したそうな(だからくらげなのにガウリイが覚えていたんだろう)。  
 はっはぁ〜ん、それでね。ガウリイを見る目が潤んでるのは。ほっぺも赤いし惚れてるんだ、彼女  
 こんなくらげみたいな脳みそで筋肉と戦闘しか能が無い馬鹿でも見た目はまぁ……ソコソコだし  
 怪我が治るまででも一緒に居たら、そうなるだろうしね  
 
・・・チクン・・・  
 
何かが胸の奥で音を立てた。あたしはまだそれが何か知らない。  
きっと連れが居るのに声をかけてくる相手と、あたしを無視して話し込むガウリイにむかっときたんだろうと解釈した。  
「お連れの方が居るのは解ったんだけど、どうしても我慢できなくて……」  
畳み掛けるようにセリアの言葉があたしに突き刺さる。あたしは目線を料理から上げなかった。  
「あ、ごめん、紹介して無かったよな。彼女はリナ=インバース。で、リナ。こっちはセリア」  
「…………ども」  
口元にたこさんウィンナーをあて、もごもごと挨拶(?)するあたし。  
 今更遅いってーのよ。このくらげっ!!  
「初めまして、セリアと申します。あの……失礼ですけど、どんな……?」  
来た来た。そりゃ惚れた男が知らない女(しかも美少女)と一緒に居たら気になるってもんだよね。  
「あぁ、俺はコイツの保護者なんだ。しばらく前に出会って、それから一緒に旅をしてるんだよ」  
 …………。実際そうだけどさー……。自称が抜けてる。-5点  
「あ、そうなんですか」  
あからさまにほっとしたような声を聞いたとき、あたしの中で何かが弾けた。  
 
「なーんかお邪魔みたいだしーっ、あたしお腹いっぱいになったから、部屋に戻るわっ、じゃっごゆっくりねーっ」  
勿論嘘。だけど、何故だかもう二人の会話を聞きたくない衝動に駆られたのだ。  
まだ海老のムニエルも食べてない。ハンバーグのトマトソース添えも食べてないのに、一人慌しく席を立つ。  
「あ、おいリナー」  
追いかけるようなガウリイの声も無視して、人込みを掻き分け階段へ急ぐ。出来るだけ、急いでるのを悟られないように慎重に。  
階段を上りきって、ガウリイが追いかけて来ないのを確認すると安心して部屋に駆け込んだ。  
 
でも、独りになってからのほうが、何故かむかむかが酷くなった。  
 
 
ゆらゆらと揺れるランプの灯りが、立ち止まったあたし一人を照らす。  
 まだ、二人で話をしてるんだろうか。それとも、二人で……  
あれから…あたしが部屋に上がってから、1時間くらいが過ぎていた。  
柔らかい灯りも、訳の判らない焦燥感を掻き立てるだけで。  
あたしは帰るべき巣が無くなったアライグマのように、落ち着き無く部屋をうろうろしっぱなしだった。  
懐の懐中時計を見ると、時間は8時を少し回ったくらい。  
まだ夜は長いというのに、お風呂にでも入ろう、と言う考えも浮かばなかった。  
 なんで、こんなにむかむかするの?  
答えは出ない。だってこんな事初めてだったから。  
独りの時間ってこんなに長かった?  
いつもはガウリイが居て。心行くまで食事を楽しんで。  
食事が終わったら、二人で「明日はあの街道を抜けてどの街に行こう」とか、翌日の移動ルートを相談したりして。  
時には手に入れたお宝を吟味したり、次はもっと羽振りの良い盗賊をって…  
 
ぽたっ  
 
不意に、あたしの眼から滴が零れた。  
 
「あれ?」  
 何で泣いてるの?あたし……  
あたしの大きくて愛らしい瞳は、いつの間にか涙で溢れていた。  
たった1時間独りになっただけで!!!!  
おかしい。こんなあたしはおかしい。わけ判んない。  
コンコン、とドアがノックされる。  
「リナ?起きてるか?」  
なんて最悪なタイミング。鍵なんてかけてない、あぁー、大失敗!!!  
泣いてるあたしなんか見せたくない、見られたくない!理由も解らないのにっ!!  
あたしは慌ててランプの火を吹き消し、布団に潜り込む。そうすれば顔は見られないし、寝てる振りだって出来るから。  
ガチャ…と遠慮がちにドアが開く音がした。一呼吸置いて、ブーツの足音。ベッドの軋む音。  
あたしの右側に重心が寄った。座ったのかな?  
「寝てるのか……。ほっといちまって、ごめんな」  
優しい声と共に、頭の辺りを上掛けの上から撫でられる感触。  
あたしは布団の中で横を向き、両の掌を顔に押し付けじっと身を潜めていた。  
 優しくしないでよ。あんたなんか、あの綺麗なお姉ちゃんと仲良くやってれば良いじゃない!  
「っ……」  
しまった!!自虐的なことなんて考えるんじゃなかった。  
堪えていた嗚咽が漏れる。気付かれた?気付かれてない?  
「リナ?起きてる?腹でも痛いのか?」  
コイツの空気の変化における反応は鋭い。全然見当違いだけど。  
頭部の圧迫感が無くなる。布団を捲られてしまっていた。  
「泣いてるのか?」  
左頬にガウリイの大きな手が添えられ、上を向かされた。自分の顔を包み込んでいたあたしの手がどかされる。  
あたしの涙に濡れた顔は、頭上にある窓から漏れる、微かな月明かりで照らされていた。  
「なによ」  
じろっとガウリイを睨み付ける。  
返事のないレディの部屋に入り込んで、あまつさえ布団を捲る所業を働いたことを批難するように。  
「なんて顔してんだよ」  
 
そう、あたしの瞳からは次々と大粒の滴が零れ落ちていた。上を向いた事で、顔の両端に流れ落ち髪を濡らす。  
ガウリイはその滴をそっと指で拭った。  
「どこか具合でも悪いのか?食欲もあまり無かったろ」  
そういうところはちゃんと見てるんだな。さすが自称保護者。  
具合が悪いのかな?でも違う。お腹も痛くない。寧ろ食べ足りない。  
でも胸のどっかに何かが痞えて食欲すら押さえ込まれてる感じ。  
「違う。……さっきの人は?」  
あたしは自分の疑問に正直だった。  
ガウリイはきょとんとした顔であたしを見る。と、にったぁ〜〜〜っと笑った。キモチワルイ。  
「はっはぁ〜ん、独りで心細かったのか?置いていかれるかとでも思ったとか?」  
「んっなあぁあっ!!!ちがっ!!!!」  
反射的に物凄い勢いで否定。これじゃ『そうだ』って申告してるようなもんだろ(トホホ  
「そうじゃなくてっ!ひ、久し振りに逢ったんだし、それに彼女、ガウリイが好きなんでしょ!  
だったらもっとゆっくり話してくれば良いのにって思っただけ!!」  
思いついたままに言葉を吐く。  
「なぁんだ、ヤキモチか」  
「★※○×*▽☆!!????」  
あまりの返答に言葉が出ない。この馬鹿、今なんて言った?  
 や き も ち ??あたしが?このくらげに?  
「んなわけあるくぁああーーーーーーーっ!!!」  
がばっと起き上がって力任せにスリッパで頭をはたく。うみゅ。我ながらクリーンヒット。  
「じゃぁなんで泣いてたんだよー、子供みたいに独りで布団なんか被ってさ」  
頭をさすりながらくらげがぼやく。  
 そんなのあたしだって知らない、あたしの方が知りたい。  
ぶんっ!!と勢いつけてそっぽを向く。あれ、なんか髪が引っ張られてる?  
「彼女はさ、もう結婚してるよ。子供が二人居るんだって。幸せだって言ってたよ」  
首だけ後ろを向かせると、ガウリイの指があたしの髪をくるくると弄り遊んでいた。優しい微笑みを浮かべて。  
その顔を見て、不覚にもまた涙腺が弛んでしまった。驚きと困惑で止まっていた涙がまた零れ出す。  
「旦那さんに飲ませるワインを買いに来て俺に気付いたんだけど、お前さんが居るのを見て、恋人だったら申し訳ないと思って声をかけ辛かったそうだ。  
俺の事は思い出にしか過ぎないんだよ。所詮傭兵だったんだから」  
 
髪を弄ってるのとは違う手が、あたしの涙を拭った。  
「今の俺は、目の前のお前さんで手一杯で他の女によそ見する暇なんて無いんだけどなぁ」  
きっとあたしは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてたんだろう。ガウリイがぷっと吹き出した。  
「なんて顔してんだよ」  
さっきと同じセリフが、違うニュアンスで吐き出される。  
ガウリイの口から出た言葉の意味を、必死で解読しようと頭をフル回転させる。  
しっかり判った訳じゃないけど。あたしの中のもやもやが、むかむかがふわっと軽くなった気がした。  
いつしか、ガウリイの掌があたしの涙に濡れた頬を包み、優しくさすっていた。  
大きな手の感触が心地良い。その感触をもっと確かめたくて、瞳を閉じる。  
しっかり体育座りをしていた筈が、手の力が抜け、自然とガウリイの手に重なっていた。  
 
 あたし、心細かったのかな?ホントにヤキモチ妬いてたの?良く判らない。そんな感情、今まで誰かに感じたこともない。  
 
でも、この優しい手があたしの側にある。あたしに触れている。それだけで心が温まった。  
ぎゅうっ……とガウリイに抱き締められた。  
ドキンッと心臓が跳ね上がる。だって、今までこんな事された覚えがないっ!!  
 てゆーかくらげだよ?いつも保護者面してる、くらげでトロルだよ?  
 戦闘能力しか取柄がなくて魔術なんて何も知らなくて3歩歩けば忘れちゃうような鳥あたま・・・  
そこで思考は中断。  
ガウリイの柔らかい唇が、あたしのそれに重なる。  
「んっ……!?」  
確かめるような、触れるだけの口付け。ふわっとアルコールの匂いがした。  
ガウリイは一度離れると、こう言った。まさに寝耳に水。  
「俺の方だけ、って思ってたから、我慢してた。我慢できてた。保護者で居られた。  
でも、今日のリナを見たら、そんな我慢なんて吹き飛んじまうくらい可愛い。俺の事を想って泣くなんて、反則だ」  
 知らなかった。気付きもしなかった。いつから?いや、おまいを想って泣くって誰がよ?  
疑問はたくさんあったけど、考える暇も無かった。  
再び唇が重なる。今度は、深く。  
 
あたしの閉じられた唇を柔らかい、ぬるっとしたものがなぞる。何度もなぞられる内にくすぐったくて、唇を少し開いた。  
その隙間からぬるっとしたものが咥内に滑り込む。  
 これ、何?舌っ?ヤダ、なんか、変な感触・・・  
あたしの中に入ったガウリイの舌は、あたしの歯を舐め、中を探るように動き回る。  
閉じられた歯を優しく舌で誘導して抉じ開け、固まっていたあたしの舌に触れると、それを巻き込んで絡ませる。  
「んぅ……ふっ…」  
息苦しくて声を漏らすと、更に唇が開きガウリイの侵入を助ける羽目に。  
あたしの舌は自分の意思とは関係なく、ガウリイのそれと蠢き、絡み合い、吸われたり舐められたりしていた。  
くちゅ・・・ぴちゃっ・・・  
そんないやらしい音を自分の口が出してるなんて。  
大きく開かれた唇の端から、どちらのものともつかない涎が垂れる。  
「はぁっ……ガウ…リ…くるしっ……」  
呼吸もおぼつかず、やっとの思いで伝えると、ちゅうっと音を立てて唇が離れた。  
あたしは抱き締められたまま、必死で酸素を吸う。視界がぼやけていて瞳が潤んでる。  
ぼやけた視界の中で、ガウリイの唇がまた動くのだけが判った。  
あたしの頬に、瞼に唇が触れる。生暖かくて、先程までのいやらしいキスで濡れていて、不思議な感覚。  
ちゅっ、ちゅっ、と音を立てながら顔中にキスの雨。一度、唇にまた触れたとき、思わずビクっとなってしまった。  
でも、軽く吸われただけ。そのまま唇はあたしの顔にキスをしながら耳元へ動いていき、耳たぶを柔らかく包んだ。  
「あっ!?」  
体に電流が走ったような衝撃に、驚きの声が漏れる。  
 なに、今の?  
ガウリイはそのまま耳たぶを舐め上げる。優しく咬んだり、吸ったりしながら。  
「あっ……やっ、ガウ、リイ……っ」  
唇が動くたびに体がビクビクする。息が上がって、熱い吐息と声が漏れ出した。  
「リナは耳が弱いんだ」  
囁くように耳元で言われ、それにも反応してしまう。  
「弱いって、はぁ……何っ……んっ、ふぅっ…」  
全ての感覚が初めて与えられるもので、何がなんだかさっぱりわからない、理解できない。  
ただ、体だけが熱く反応していた。  
 
「ひゃうっ!?」  
いきなり首筋をつうっと舐められる。  
「キスでだいぶ敏感になってるな。ここもかなり弱いみたい」  
ちろちろと上下に舌を動かしながらガウリイが言う。  
「は、あっぁ、ぅうん……っゃあっん……んっ」  
ガウリイが操る舌の動きにいちいち体がびくつく。その度に声。  
 ヤダ、なんか凄くやらしーよぉ・・・  
初めて知る自分に戸惑いを隠せない。あたし、どうしちゃったの?何があたしに起こってるの?  
後ろに回されていたガウリイの手が、ゆるゆるとあたしの背中を撫で回す。  
唇は相変わらず、あたしの首筋を舐めながら。  
ガウリイの指が、あたしの腰のある部分に触れたとき。あたしの体は一際激しく反応した。  
「ん?ここ?」  
首元に顔を埋めた姿勢で聞きながら、さらに触れるか触れないかの繊細な動きでそのあたりを撫でる。  
「ひゃぁっん、あぁああっ……ぁ、はぅ、うぅんっ」  
服の上からなのに、そうだと判るほどあたしはそれに感じていた。  
キス、耳たぶ、首筋と責められて既に頭に靄がかかっていたあたしは、腰にあるその指の動きで更に翻弄される。  
体が熱い。奥の方から、何かが湧き出てくるかのような熱さ。  
胸が苦しくて、でも熱くて、今、自分がどうなってるのかも判らなくて。ただガウリイだけに反応する。  
涙が零れ落ちる。切なさと、もう一つの何かで。  
それに気付いたガウリイは、やっと手の動きを止めてくれた。  
「ごめん。泣かせるつもりは無かった」  
「は……ぁ」  
あたしは返事すらままならない。ぐったりと体をガウリイに預け、喘ぐように息をする。  
あたしの小さな体は、ガウリイの腕にすっぽりと納まっていた。  
胸に顔を埋めて、心臓の音を聞きながら深呼吸。  
「あんまり嬉しすぎて、箍が外れちまったみたいだ。リナは初めてなのにな、すまんかった」  
その言葉に嘘はないんだろう。心臓の音は、通常の倍くらいの速さで脈打ってる。あたしにドキドキしてるのね?  
「んーん、だいじょぶ。びっくりしたけど」  
これも本当。そう、あたしは嫌じゃなかった。  
 
ガウリイがあたしに触れるのがこんなにも嬉しいなんて。こんなにも……気持ち良いなんて。  
照れくさすぎて言わないけど。  
あたしは顔を上げて、ガウリイを見上げる。心配そうにあたしを見ていたガウリイと見詰め合う形になった。  
ガウリイの太い腕に手をかけ、瞳を閉じる。  
了解したようなガウリイの空気が静かに動いて、そっと…触れるだけの口付け。  
10秒?20秒?じっと触れ合わせたままだった唇が、躊躇いがちに離れた。  
あたしは瞳を開け、またガウリイを見詰めた。少し困ったようなガウリイの顔がおかしくて、微笑む。  
「笑うなよ、俺だって自分にびっくりしてるんだ。抑えが利かなくなるなんてさ」  
「仕方ないわ。だってあたしは魅力的だもの」  
自分でもよく言う、と思う。  
今では、さっきまでの真っ暗な独りの時間が嘘のように明るくて。  
ガウリイの言葉を聞いた瞬間から、ランプなんかじゃ照らせない、目の前の暗闇が開けた気がして。  
そしたら、いつも以上に元気なあたしがそこに居た。  
ガウリイを見詰めたまま問う。  
 
「ねぇ、ガウリイ。あたしの事どう思う?」  
 
事が後先、と言う気もしないではない。でも言葉で聞きたかった。  
あたしの真意を知ってか知らずか、ふわっと微笑んだ目の前のくらげはこう言った。  
 
「強いくせに危なっかしくて見てられない。大喰らいな癖に栄養は体まで行き渡らないし、お転婆で我侭で自己中で、それで居て寂しがり屋なお嬢さん」  
 
竜破斬でもかましてやろうか、と思った。チョッピリ(実はいっぱい)本気。  
 
「でも、大好きだよ。リナ」  
 
なにが『でも』なんだと問い詰めてやりたいけど。  
その一言が聞けただけで十分なあたしは現金なんだろう。  
ガウリイの胸に顔を埋める。今の表情を見られたくなかったから。  
ポタポタを頬を伝い落ちる滴。  
 
 そうなの、あたしもあんたが大好きなんだ。こんな気持ちになるなんて知らなかったけど、大好き。  
ガウリイの言葉を聞いて、判らなかった何かがやっと判った。…愛しさ。  
人を想って切なくなる気持ちが、人を愛しいと思う気持ちが、自分に芽生えていたこと。  
でも、悔しいから絶対言ってやんない。  
「リナは?」  
聞かれても、だんまりを決め込む。  
「おーい、リナー?リーナちゃん?」  
無視無視。  
「寝たのか?」  
諦めたような溜め息と共に、体に上掛けがかかる。  
「俺だけかよ、ずりーなぁ……」  
ぎゅっとあたしを抱き締めて、一人ぼやくガウリイがおかしくて。  
 そんな事無いよ。  
と、心の中で言って、心地良いガウリイの温もりを感じながら眠りに落ちて行った。  
 
「少しずつやって、慣れてきたらもっといっぱい良いコトしてやるな」  
 
 
 
・・・・・・空耳ということに、しておこう。うん。  
 
 
    ***END***  
 

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