俺達がこの街について、二日目の朝が来た。
窓からは、まだ時間が早いことを示すように柔らかい朝日が差し込む。
俺は一人、ベッドの上に座り項垂れていた。
隣には、幸せそうな寝顔を浮かべる、俺の旅の友であり、……恋人。リナ=インバースがそこに居る。
つん、と頬をつつく。
「んー……」
一瞬顔を顰め、寝返りを打つ。
かっ…………可愛いんだよもうあぁちくしょうっ!!
目が覚めてから何度も繰り返して阿呆な悶絶を繰り広げ、このままここに居たんじゃ俺が危ない、と朝風呂を決め込む。
そっと、眠る恋人の頬にキスを落として。
俺とリナは少し前に、旅の友、と言う関係から見事恋人へ昇格した訳だが
――――――実はまだ致して無いのである。昼夜問わず一緒に居ると言うのに。
理由は彼女にあって。
見た目華奢で小さく、栗色の髪に大きな瞳、一見して愛くるしいお嬢さんで、見る者が油断する外見。
とは裏腹に、実は棘を持っているのだ。とても毒の強い。
黒魔術のエキスパートで、魔力のキャパも物凄い。持ち前の運動神経とテクニックで敵を捌く剣術もかなりのレベル。
いつも自信満々で、守銭奴だし口は悪いしどこに入るんだと思うほど大食らい、自分の欲望に忠実で知識を高める事には手間を惜しまない、と言うのがリナなのだ。
その探究心と情熱、揺るがない自信が何よりも彼女の魅力だと俺は思う。
あの瞳に見詰められるだけでゾクッとするのだ。全てを見透かし、見るものを侵食する。
が、こと恋愛には全くと言って良いほど疎く、俺と『そういう関係』になったところでそれは変わらなかったのである。
悲しいくらいに全くねっ!!はははっ(泣笑)
まぁ別に?今まで我慢してたわけだし、俺だって大人だ。今更普通の状態で居ろと言われたって一向に構わんさ。今まで通りならな。
だがな?
だが、頼むから俺の寝床に潜り込んできて
「一緒に寝よv」
と頬を赤らめながら可愛く言うのは勘弁してくれぇええぇぇええぇええええええっ!!!!
さらに
「ガウリイにくっついて寝るの、安心する」「こうやってるだけでも良いんだ、あたし」
だとか…誘ってるのか牽制されてるのか、はい、俺は生殺し状態です。
そして、前の勝気で強気な彼女も俺を捕らえて離さなかったが、今の彼女はまた全く違う魅力なのだ。
なんと言うかこう……隣を歩いてる最中にぴっとりくっついてくると「ぐはぁっ!!」と内心悶絶モノの可愛さ。
話してる時にじっと見詰められると「はぐぅっ!!」と俺の脳天を貫く可愛さ。
彼女を待ってる俺と目が合い、にっこり微笑まれた日には「ごふぉっ!!」と昇天しそうな可愛さなのだ。
兎に角一挙一動が愛しいのだ。俺の貧困なボキャが悔やまれる。余すところ無く表現したいのになぁ。
でも、未だに「好き」の一言も俺は貰えてない。
態度が一変した事から、同じ気持ちで居るのだろう、それは判るんだけど、さ。
くっつくだけで安心するリナ。
抱き締められるだけで喜ぶリナ。
触れるだけのキスで満足するリナ。
彼女の全部が欲しいと思う俺が、とてつもなくケダモノに思えてしまう。
否、気付かれないように抑えてるだけで十分ケダモノだけど。(認めてますよ、ええ。)
「俺って絶対リナに遊ばれてるよなー…」
シャワーで体を流しながら一人ぼやく。
いつまで俺の自制心が保つのか、自分でも判らないというのに。
無邪気に俺の傍に寄ってくるのもまた、確かに可愛くて仕方ないのだが。
想い合ってる者同士なのに(勝手に断定)警戒心0で傍に居られたんじゃ、限界がいつ来たっておかしくない。
くっついたら二度と離れたくないと願う俺。
抱き締めたら全てに触れたいと思う俺。
触れるだけのキスじゃ満足出来ない俺。
俺のエゴなんだと判ってる。まだ、リナの心はそこまで成長していないのだから。
子供の恋愛、まさにそれ。
しかし、そんな恋愛で満足できるほどに俺は経験が無いわけでもないのだ。
でも無理強いは出来ない、したくないと思う俺も居る。とても、大切な存在だから。
いつまでこのジレンマに悩まされるのだろう。
シャワーのカランを冷水に合わせる。
彼女の温もりや表情を思い出すだけで、猛った自分を諌める為に―――――。
さすがにヤバイって、俺。(自己嫌悪)
***END***