「ガウリィ?」  
隣のベッドで、規則正しい寝息を立てている彼に、リナは声をかけた。  
「……グゥ」  
すっかり深い眠りについているのだろう。  
リナの声に答える声は無い。  
そっとベッドから這い出し、リナは気が付かれないように部屋を抜け出し、宿の外へと出た。  
外はひっそりと静まり返り、人の気配は無い。  
リナはゆっくりと歩き出し、町外れの小さな泉まで足を進めた。  
 
後を付けられている気配は無い。  
誰にも気が付かれずここまでこれたらしい。  
「……いるんでしょっ、ゼロス」  
すっと息を飲み込み、吐き出すように声を上げた。  
「おやおや、そんな大きな声を上げては、誰かに気が付かれてしまいますよ。リナさん」  
嬉しそうに微笑みながら、暗闇を割るようにすっと現れたのは、やはりゼロス。  
「昼間っから、ちょろちょろと目の前をうろちょろして……。で、用件は何?」  
ギリッ睨み付けるようにゼロスを見つめリナは言った。  
「用が無くては、現れては駄目ですかねぇ」  
用が無ければ現れないくせに。  
こぼれそうになった台詞を飲み込み、唇を噛み締めてリナはゼロスを見つめた。  
「また、なんか企んでるの?」  
「そんなぁ。いつ僕が企みをしました?」  
嫌ですねぇ、リナさんは。疑り深くて……  
そう言いながらも心底嬉しそうな顔をして、ゼロスはくすくすと笑った。  
「降りてきなさいよ。見下されるのは嫌いなのよっ」  
「―――知ってますよ」  
リナには聞こえないような、小さな声でぽつりっと呟くと、  
ゼロスは素直に地面へと足を付けた。  
「次に会う時は敵同士、そう言ったのはあんたのほうだったと思うけど?」  
「そうでしたか?そんな事言いましたっけ?」  
ゼロスはすっと体を移動し、リナの背後に回り、  
後ろから抱きしめるような形で腕を回す。  
「なっ!」  
「おや、どうしました?」  
「どっ、どっ、…どうしましたじゃ」  
「おやおや、意外と恥ずかしがりやさんなんですね、リナさんは」  
「………どつくわよ」  
ぼそっと呟くよりも早く、肘がゼロスの腹部へヒットする。  
 
「ぐほっ……酷いですね。そういうことは、どつく前に言ってくださいよ」  
人間のように目に涙を浮かべて、痛くも無いだろう腹部をさするゼロス。  
尽かさずリナは怯んだゼロスの腕からするりと抜け出した。  
「で、用件は何?」  
「ん〜、用件。用件……」  
腕を組み、考え込んでいるそぶりを見せるゼロスを見ながら、  
リナはいっそのことドラグスレイブでふっ飛ばしてやろうかと、  
真剣に考えてしまった。  
「最近、暇なんですよ」  
「へっ?」  
突然のゼロスの言葉に、口をぽかんと開けて、  
リナは間抜けな顔でゼロスを見た。  
「ですから、暇、なんです」  
「……………」  
「シャブラ二グドゥ様が復活する様子もないし、  
フィリアさんは色々と忙しいみたいだし。  
リナさん達はのほほんと旅を続けてるだけだし……」  
続けてるだけって……。そりゃそうだが  
なんでそんな事こいつに言われなきゃならないんだ?  
そう思いながらむっとした表情で、リナはゼロスを睨み付けた。  
「そんな顔しないで下さいよ」  
「で?」  
「恐怖も憎悪も快楽も、何も受けないと、魔族は辛いんですよ?」  
「……」  
嫌な予感がした。  
リナは、顔を引きつらせながら、2.3歩後ろに下がる。  
「おや? どうしました? 顔が引きつってますよ」  
本当に楽しそうにゼロスはそう告げ、リナとの距離感を縮める。  
「ゼ、ロス……?」  
「だから」  
遊んでください。  
台詞が言い終わる前に、リナは脱兎のごとくその場から逃げ出していた。  
ゼロスが何を求めてきたのかわかってしまったから……  
「おやおや、ボクから逃げ切れるわけ無いでしょうに」  
楽しそうに呟き、ゼロスは獲物を狙う獣のように、チロリッと唇をなめた。  
 
 冗談じゃないわよっ……! 魔族の糧のために、抱かれるなんて。  
逃げおおせるわけなど無い事を十分に承知している。  
なんせ相手はあのゼロスだ。  
目的の為には、どんな手段でも取る。そんな極悪魔族。  
 
「くっ……」  
 勝てる見込みは?  
自問自答しながら、それでも逃げ切れる万が一の可能性を探る。  
「本気でボクから逃げれると思っているんですか?」  
心を見透かしたような声が宙から聞こえる。  
「まあ、貴女らしいですけどね」  
揶揄したような言い方が、リナの神経にさわった。  
「本気で遊びたいの?」  
「もちろん」  
姿を現したゼロスは、やはり楽しそうな表情で頷いた。  
「あたしは、嫌よ」  
きっぱり、はっきりと拒絶。  
「わかってますよ。嫌がられてくれなきゃ、つまんないじゃないですか」  
「こっの……」  
「でも、まあ、……ボクはボクなりに、……結構本気なんですけどね」  
瞳が重なり合った途端、リナの動きが止まる。  
「えっ?」  
 動かない……うそ  
「なっ…… どうして」  
「あっ、一応ボクは魔族ですから、こんな風に簡単に自由を奪うことも出来るんですよ」  
驚愕の色を隠せないリナに、いけしゃあしゃと言ってのけると、  
ゼロスはリナに覆いかぶさるように倒れこんだ。  
ふわっと体が浮いたかと思うと、どさっと音と共に暖かい布団の感触。  
「こ、こは?」  
「リナさんの宿の部屋です」  
「なっ!」  
「大きな声を上げないで下さい。ガウリィさんが起きてしまいますよ」  
声を上げようとしたリナの口を手で塞ぎ、そうゼロスは言った。  
「リナさんも、こんなところ見られたくないでしょ?   
ボクも気づかれて戦うのも面倒ですから……」  
手間、取らせないで下さいね。  
「ゼ、ロス……」  
「まぁ、大きい声を出さなければ、気が付かれないと思いますよ。  
だから―――いい声で鳴いてくださいね」  
真っ赤になって口をぱくぱくさせているリナの首筋に、ゼロスは唇をおとす。  
「んっ……」  
「感じやすいんですね。リナさんは」  
 
恥ずかしさの為か、沸騰でもしそうなほど顔を真っ赤にして、  
リナはゼロスを睨み付ける。  
 
 それが欲しいんです。  
 
憎しみが自分へと向けられ、体内に活力が沸いてくる。  
「リナさん……初めてですか?」  
「っ!」  
 刹那、どっとリナから流れ出てくる羞恥と嫌悪。  
「そう、ですか」  
 肯定以外の何者でもないその波動に、ゼロスは嬉しそうに笑みを返した。  
「光栄ですよ。あのリナ・インバースの初めて、なんて」  
 じわっとリナの瞳に涙が浮かんだ。  
「泣かないで下さいよ。まるでボクが虐めたみたいじゃないですか。  
大丈夫ですよ、ボクは基本的に優しいですから」  
 耳元で囁き、そのままそこをそっと口に含む。  
「ゃぁっ」  
 小さく首を振り、それから逃れようとするリナだったが、  
組しかれた上に魔族相手の防戦。  
声を上げようにも、隣のベッドに寝ているガウリイに  
こんな姿を見られたくないため、全てが思うようにいかなくなっていた。  
 いやだいやだいやだ……  
 心の拒絶とは裏腹に、熱くなっていく身体に嫌悪感を抱く。  
「……っ、やぁ」  
 服の隙間から潜り込んだ手が、身体の線をなぞる様に動いた。  
 こんな奴に、こんな奴に……  
 出来る抵抗などたかが知れていた。けれど、しないわけにはいかない。  
リナは再び降りてきたゼロスの唇に自らの刃を立てた。  
 じわっと口の中に広がる鉄の味。  
 魔族のゼロスに血など流れているはずも無いのに、  
それでも噛み付いた唇から、何かが滴るような感じがし、口の中に人と同じ味が広がった。  
「……悪戯はいけませんよ、リナさん」  
 苦笑と共に、普段見られないその瞳が開かれた。  
 ぞくっと背筋が凍った。  
「せっかく優しくしてあげようと思ったのに……。  
リナさんがその気なら、仕方が無いですね」  
 すっと表情が消えた。  
 一瞬垣間見えた瞳の奥の歪み。  
「忘れられなくしてあげますよ」  
 ゼロスの声が頭の芯でこだまする様に響いていた。  
 
「ぃゃ……、お、願い……、もう」  
 やめて。  
「まだ、駄目ですよ。もっと……もっと、感じてください」  
「いやぁぁぁっ」  
 小さく首を振り、全身を駆け巡る快感に身体を震わす。  
 何度目かの絶頂。けれどそれはゼロスの愛撫だけでもたらされたもの。  
 何を考えているのか、全く分からないゼロスの動きに、リナはただ翻弄されるだけで、快楽を身体に刻み込まれていた。  
 ゼロスに噛み付き、全てを拒否した途端、ゼロスはリナの周りに結界を張った。  
『これでどんな声を上げても聞こえませんから』  
 そう言って。  
 事実、リナの声で同じ部屋のガウリイが目を覚ますことも、宿の人間が部屋を叩くこともない。  
 それはリナが助けを求められないということを指していた。  
「んっぁ……ゼ」  
 リナの爪がゼロスの肩に食い込む。  
 刹那、がくんっと身体の力が抜けてリナの身体はベッドへと沈んだ。  
「リナさん。もっと、快楽が欲しくありませんか?」  
 肩で息を切らせながら、真っ赤に欲情した表情で、リナはそれでも首を横へ振った。  
「……そう、ですか。意外と頑張りやさんなんですね、リナさんは」  
 アメリアさんはもっと早かったのに。  
 聞き捨てならない名前がゼロスの口から漏れた。  
「なっ!」  
「どうかしました?」  
「ゼッ、ロス」  
 怒りがぶわっと全身から湧き上がるのがリナ自身にもわかった。  
 それがゼロスの目的だと分かっていても、それでも許せないものがある。  
 相変わらず笑顔を絶やさないゼロスに、懇親の力を振り絞って、リナはその手を上げた。  
バチンっ!  
「あっ、あんたって、奴、は」  
 怒りで震える身体。  
 燃え上がるような瞳。  
 嘘とは思えなかった。わざわざそんな嘘をつく必要はゼロスにはない。  
 だから……多分  
「何をそんなにお怒りですか? ……ああ、先にアメリアさんを抱いたことが気に入りませんでしたか? 最初にボクに犯されたかったですね、それはすみませんでした」  
 にこにこととんでもない事をさらっと言うゼロス。  
「ゼロスっ!」  
「アメリアさんだって随分お楽しみでしたよ。最後には自分から腰振って。神聖な巫女があるまじき行為を、よりによってボクみたいな魔族としているのに」  
 アメリアとの行為を喋ればしゃべるほど、リナから流れ出る憎悪。  
 
「絶対に、……あんたを、許さない」  
「……所詮人間と魔族。相容れることなんて無理なんですよ」  
 動きを止めていた手をゼロスは再び動かし始めた。  
 何度となく絶頂へと導かされた身体は、リナの心とは裏腹にすぐに反応する。  
「ぁん」  
 つんっと自己主張した胸を突起を口に含み、ころころと転がすように舐めると、小さく声が漏れた。  
「いやらしい身体ですね」  
 見せ付けるように舌で乳首を嘗め回し、あいている胸を乱暴に揉む。  
「ひゃっ、あぁっ」  
「リナさんだってこんなに感じてくれてるじゃないですか」  
「んっ……いゃ……はぁ」  
「ここだってこんなにぐじょぐじょに濡らして……」  
 指をあてがった秘部は、ゼロスの言うとおりびっしょりと濡れていた。  
「アメリアさんを犯したと聞いて、もっと燃えちゃいましたか?」  
 くすくすと笑い声が聞こえる。  
   
 堕ちてしまえば、楽ですよ。  
 
 まさに悪魔そのものの囁きが耳元で聞こえた。  
「欲しいでしょ? もっと感じたいでしょ、リナさん」  
「ひゃっ……」  
 ぴんっと秘部の中心を弾かれ、リナは思わず側にあったゼロスの腕を掴んだ。  
「リナさん」  
 優しい呼びかけに、不覚にも一瞬心を奪われそうになる。  
 いっそ溺れてしまおうか。そう思えるくらい、ゼロスにしては優しい響きを宿していた。  
「……あた、しは……んあぁ……あんたを、絶対……っ! 許さ、ない」  
 そう言葉を発しなければ、堕ちてしまいそうだった。  
 たとえソレがゼロスの糧になろうとも、憎悪という鎖で自分自身の心を縛らなければ、快楽という波に飲み込まれそうだった。  
 必死に絶えているリナを楽しげに見つめながら、ゼロスは蜜がとめどなく溢れ出ているソコをゆっくりと嬲るように撫でていく。  
「んぁっ」  
 脳髄を溶かしそうな快感。  
 身体を痺れさせる甘い誘惑。  
「こんなに濡れて……。アメリアさんよりも感度いいですよ、リナさんは」  
「くっ!」  
 羞恥と憎悪を刺激するゼロス、リナはただ負けないとばかりに鋭い眼光を投げるだけしか出来なかった。  
「ボク、もっとリナさんを味わいたいですね」  
 クスリッと笑い声が聞こえた。  
 
「いっ!」  
 じゅるっとした音と、ソコに感じる異様な感触。  
 這い回るような何か。  
「いっ、いゃぁぁっ」  
 ソコに顔を埋めているゼロスの視線が、リナのそれと重なった瞬間、  
リナは今まで以上の拒絶をした。  
「やっ、だ……。やめ、て……ゼロ、ス、いや」  
 左右に首を振り、瞳からは大粒の涙が溢れ出した。  
「イヤ、ですか? ココは嫌がっていない、ようです、けどね」  
 動きが見えるように、舌先でちろちろと突起を刺激すると、  
どっと蜜があふれ出す。  
 首を横に振り涙を流しながらその行為から逃れようとするが、  
身体を動かすたびにかえってゼロスの舌にソコがこすり付けられ、刺激を与えてくる。  
「ひっ……んっあん。やだぁ」  
 壊れそうだった。  
 心の中でゼロスの言葉がこだましている。  
『堕ちてしまえば、楽ですよ。』  
 
 アメリアだって……、あたしがこのまま……堕……も、誰も―――責めない?  
 
 ぼんやりとした視線がゼロスと重なる。  
 魔族とは思えないほど、自愛に満ちた微笑。  
「ぁっん」  
 自分の物とは思えないほど甘い声だった。  
 耳に聞こえてくるのは、いやらしすぎる水音。  
 ゼロスの舌の動きに合わせて、くちゅっと音を立てている。  
「はぁ、ん」  
 撫でるようなその動きから、少しずつ激しく転がるように、  
吸い付くように動きが変わっていく。  
「あっ、だっ……んんっぁ。……イッ……ちゃ、う。……いっやぁ」  
 ぎゅっとゼロスの肩を掴んでいた。  
「また、イッちゃったんですか?」  
 意地悪なゼロスの声すら、遠くに聞こえていた。  
「……本番は、これから、ですよ」  
 触れるだけの優しいキスの後、聞こえた台詞。  
「リナさん、ボ……し……か?」  
 
 よく聞こえなかった。  
 否、聞こえていたのかも知れないが、  
それを理解出来るほどリナの思考は動いていはいなかった。  
「頷いてください」  
 促されるままリナはコクリと首を縦に振った。  
「いっ…………やぁぁぁぁぁ」  
 現実に引き戻されたのは、お腹あたりに感じた激しい痛み。  
 何かが圧迫していた。  
「やっ、……痛っ……んっ、イ、タ……イョぉ」  
   
『リナさん、ボクが欲しいですか?』  
 
「いいですよ、リナさん。リナさんの、ココ、ボクのをしっかりくわえ込んで……」  
「イッ、た、い……やっ」  
「締め付けて……ますよ」  
 痛みから逃れようと、じたばたと身体を動かそうとするその小さな仕草が、  
ゼロスの心にもっと火をつけることすらリナには分からなかった。  
 苦痛で顔を歪ませるリナの姿は、魔族のゼロスすら溺れそうになるほど、扇情的だった。  
 唇を重ねる。  
 ゆっくりと腰を動かしながら、同じようにゆっくりな動きで舌をリナの口の中で動かす。  
「んんっ」  
 ゆっくりと、ゆっくりと……  
 痛みは少しずつ和らいでいく。  
 同時にまた身体を支配し始める快楽。  
「はぁっん。……だっ……」  
 奥へ奥へとゼロスが入り込んで、そのたび甘い痺れが身体を支配していく。  
「んっ、はぁ……んんぁ。……ぁ……っ!」  
 一瞬、頭の中で何かがスパークしたように光に包まれ、  
そして白い靄と黒い闇が、リナの意識を包み込んでいった。  
 
 
「……もう、おしまいですか……」  
 ぐったりと身体の力を抜いてしまった少女を前に、  
ゼロスは少し悔しそうにそう呟いた。  
 リナの中に押し込めていた自分をずぶりっと抜き出し、  
少しだけ優しくリナの身体をベッドに横たえてやる。  
「もう少し、楽しみたかったんですけどね」  
 仕方がないですね。  
 ため息1つと共に、一瞬で乱れていたその場は元に戻る。  
「次は、もっと楽しませてくださいね」  
 呟いた瞬間、ぐっとゼロスの裾が引っ張られた。  
「おや?」  
「ゼ、ロス」  
 見上げるのは、気を失っていたはずの少女。  
「あんたは、……糧が欲しくて、アメリアを、……」  
「……そうですよ」  
 リナが何を言いたいのは、ゼロスには分からなかった。  
だから、正直に答える。  
今の彼女に、自分とやり合うだけの体力と魔力は残っていない、はず。  
「なら……」  
 ゆっくりと身体を起こし、リナは真っ直ぐにゼロスを見つめた。  
「なら?」  
「あんたが糧を必要としている時、あたしがそれを提供してあげる」  
「それで?」  
「……アメリアには、金輪際近づかないで」  
「それは、随分もったいない」  
「……」  
 見つめる瞳は真っ直ぐで……  
 ぞくっとゼロスの背筋に寒気が走った。  
「わかりました」  
 にっこりと微笑み、ゼロスは承諾した。  
「リナさんは、僕以外の誰のものでもない、ということですよね?」  
「……そう、よ」  
 答えた声は微かに震えていた。  
 ふっとゼロスはリナの唇に自らの唇を重ねる。  
 リナは瞳を閉じて、それを受け入れた。  
 
 契約は成立した。  
 
「貴女は、ボクのものですよ」  
「わかってるわ。……ゼロス、アメリアの」  
「はいはい。……ちゃんと記憶は消しておきますよ。ボクとの淫乱な一夜の記憶を」  
 ぎろっとリナの瞳がゼロスを射抜く。  
「でわ、また……」  
 一瞬で消えるゼロス。  
 『二度とくるな』  
そう言えない自分が悔しくて、リナはぎゅっと唇を噛み締めたまま、  
ゼロスの消えた闇を見つめていた。  
 
 
<おわり>  
 
 

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