微かに耳の奥に残る、自分の絶叫。しかし、それは遥か遠く、やがて消えていった。  
「おい、しっかりしろ」  
聞きなれた声と共に揺さぶられてあたしは目を開けた。  
「……あれ?ガウリイ」  
我に返ったあたしの目の前にいた人物は、金髪碧眼の剣士、  
見慣れたあたしの旅の連れ、ガウリイ・ガブリエフであった。  
ーーはずだった。  
 
「……誰だ?あんたは。何で俺の名を知っている?」  
そこには、いつもののほほんとした彼の姿は無かった。  
「何言ってんのよ?ガウリイ。とうとう脳みそ完全にとろけちゃったわけ?」  
「あんたは誰だ?」  
いつものように笑いを含んだ口調で言ったあたしとは対照的に、  
ガウリイの口調は冷たいままだった。  
違和感。そう。違和感を感じて、改めて彼をじっと見る。  
気のせいか、どことなく若く見えるような……。  
 
ふと目に入ったのは、彼の背にある見覚えある剣の束。  
「光の剣……?」  
つい口に出したあたしの言葉に、呼応するように、ガウリイの警戒の色が濃くなるのがわかった。  
どういうこと?光の剣はとっくの昔にあるべき処へ還ったはず。  
 
「なぜこの剣の事を?一体何者なんだ。答えろ」  
警戒の色そのままで問いかけてくる、ガウリイの言葉はとりあえず無視して、  
あたしは思いを巡らせる。  
光の剣を携えていて、あたしの事を知らない様子のガウリイ。一体何が?  
あたしは気が付く前、何をしていた……?  
 
確か、数日前あたし達は、大量発生したレッサーデーモンを退治するという依頼を受けた。  
そして、デーモン達を呼び出していた魔道士と、更に現れた魔族とも戦うことになって……。  
それから?なぜかそこから先は、記憶に霞がかかったようになってはっきりしない。  
何かあったはず。そう、とっても重要な事が。  
 
ーー怖いーー  
 
霞の向こうに手を伸ばそうとしたあたしの心に、正体不明の恐怖がどっと押し寄せ、  
驚いたあたしは思考を中断した。  
 
「おい、大丈夫か?震えてるぞ」  
「え……?」  
いつのまにかガウリイがあたしの肩を支えていた。  
気付けば脚ががくがくして力が入らない。体中が冷え切ったように寒く感じられ、  
あたしはわけのわからないまま、目の前のガウリイにしがみついていた。  
 
なんとか落ち着きを取り戻したあたしは、とりあえず陽の落ちかけた森を後にすることにした。  
今いる森には見覚えがあったが、それ以外はわからない事が多すぎる。  
とりあえず、近くにあるという村で休んでから考えよう。  
 
「つまり、記憶喪失ってやつか?」  
村へ向かう道すがら、ガウリイが問いかける。  
「うーん。それもあるんだけど、それ以外にもね」  
「そーいやお前さん、俺の名前やこの剣の事も知っているみたいだな。どうしてだ?」  
「それは……あなたに会ったことがあるからよ。」  
「俺は会った覚えはないが。」  
「そうみたいね……。」  
ガウリイもあたしと同じように、記憶がどうかなったのかとも思ったが、そうではないらしい。  
光の剣、そしてやはりあたしの知っているよりも、若いように見えるのだ。  
魔族との戦いで、結界のようなものに閉じ込められたのだろうか?  
確か、あたし達の戦っていた魔族は中級がいいところだったはず。  
ここまでの世界を作り出すことは、ちょっと考えにくい。  
今のところ、襲撃らしいものも無いようだ。泳がされている可能性も考えられるが……。  
「とにかく、あたしかガウリイのどっちかに、何かが起こった可能性が高いわよね。  
ねえ、ガウリイ。あなた最近記憶が途切れたりしたことはある?」  
普段のガウリイなら、聞くのもアホらしい質問をあたしはあえてぶつけてみた。  
「お前さんと一緒にするなよ。俺はちゃんと覚えてるぞ」  
ぐ……。なんかガウリイらしくない。しかもあたしがガウリイにこんな事言われるなんて。  
まさかこいつ魔族じゃないでしょーね?  
「なんだよ、信用しないのか?お前さんと会う前俺はー」  
……本当に覚えているらしい。ホントにこいつガウリイ?  
近づいてきた村の明かりを目にしながら、あたしの心はは魔族結界説に傾きそうだった。  
 
ガウリイの言っている事が正しかったようだ。とりあえず村に宿を取ってから仕入れた情報によると、  
サイラーグの街の崩壊など、既に起こっているはずの出来事が、まだ起こっていないようなのだ。  
まあ、あくまでも、この世界が魔族に創られたものでなければの話だが。  
「う〜〜〜〜〜ん」  
食事を終え、風呂あがりのパジャマ姿で、宿屋のベッドに寝転がり、あたしは1人考えをまとめていた。  
今までの所ではあるが、どーやらあたしがどこかに飛ばされた。という確率が高いようである。  
ガウリイの様子や、村の人達の話を総合すると、ここはあたしとガウリイが出会う以前の世界……。  
「まさかねーー。でも、それが一番辻褄が合うのよね。今んとこ」  
とにかく、途切れた記憶を取り戻せば、もっと何か詳しい事がわかるかもしれない。でも……。  
思い出そうとすると、あの森で襲われた、言い知れぬ恐怖が蘇った。  
身体の奥から沸き起こってきて、全身が凍りついていくような感覚。  
忘れていることの中に一体何があるというのだろう?  
あたしはなんだか落ち着かない気分になり、  
気が付くとパジャマ姿のまま隣のガウリイの部屋をノックしていた。  
「なんだ、あんたか。」  
聞きなれた声が放つ余所余所しい声色に、ただでさえ落ち着かない心がざわつく。  
いつものガウリイなら、ドアの向こうからでもあたしだってわかるくらいなのに。  
小さく鋭い針が刺さったような気がした。刺さったところから凍りつくようなあの感覚。  
「リナよ」  
あたしは思わず挑むように言い放っていた。  
「ああ、そうだったな。何か用か?」  
「入っていい?」  
「……ああ。いいぞ」  
一瞬のためらいの後、入ることを許されたそこは、  
あたしの所と同じくベッドとサイドテーブルくらいしか無い、簡素な部屋だった。  
促されてベッドサイドへと腰掛ける。  
ガウリイはそのベッドの脇に立ったまま、あたしを見下ろした形だ。  
改めて思い知らされる。ここにいるのは、あたしの知らないガウリイなのだと。  
とてつもない寂しさに侵食されるのを、あたしは感じた。  
訳のわからに恐怖に脅かされて、一人ではいたたまれず、ここに足が向いたのだが、  
この時あたしは余計に孤独を感じていた。  
 
あたしってこんなに弱かったっけ?ドラゴンもまたいで通ると言われたあのリナ=インバースよ?  
心の中で自嘲して、あたしはガウリイに問いかける。  
「座らないの?」  
「……ああ」  
また一瞬の間があり、ガウリイはあたしの隣へと腰を下ろした。  
 
「で、何か思い出したのか?」  
切り出したのはガウリイで、あたしは無言で首を横に振って答える。  
「そうか……。まあ、無理に思い出そうとするなよ。」  
「え……?」  
聞き覚えのあるようなトーンで言われて、あたしは訝しげにガウリイの目を見返していた。  
「いや、その……。お前さん思い出すのすごく辛そうだったから。それに」  
「それに、何?」  
「今もすごくつらそうな顔してるぞ」  
そう言ったガウリイの表情は、あたしのよく知ってるガウリイのものと同じで、  
さっきまで凍てついていた氷が一気に溶けるような感覚の中、あたしは泣いてしまっていて、  
そんなあたしを、ガウリイは黙って抱き寄せ、泣き止むまで抱きしめてくれていたのだった。  
 
「思い出そうとすると、何かはわからないけど、すごく恐ろしいの。  
きっと重要なことなんだけど、まるでそれを思い出したくないみたいに……」  
泣き止んだあたしは、ガウリイに胸の内を語り始めた。  
「さっきも言っただろ?無理に思い出すことないって」  
「でも、思い出さないと何が起こったのか、元に戻る方法だって」  
「……じゃあこういうのはどうだ?今日はとりあえず思い出すのはやめにして、明日必ず思い出す。」  
「……そうね」  
思わずクスリと笑っているあたしがいた。  
「初めて笑ったな」  
「そうだった?」  
「ああ。初めてだ。笑うと可愛いな、お前さん。」  
「な、な、何言って……」  
「耳まで真っ赤だぞ。ますます可愛いな」  
ますますガウリイらしくない事を言うガウリイに、  
あたしはこの部屋に来る前と違う落ち着かなさを感じた。  
「なあ、何もかも忘れる方法教えてやろうか。」  
気のせいか、悪戯っぽい目をしながらガウリイが言う。  
「何?……まさか変なクスリとか言うんじゃないでしょーね?」  
「違う違う。こういうことさ」  
言ってガウリイの顔がアップになったかと思う間もなく、あたしは唇を塞がれていた。  
「えっ……んむっ……」  
驚いて薄く開いたまま塞がれて、その隙間から生暖かいものが入り込んでくる。  
「んふ……」  
いきなりのことで動転してしまったあたしは、侵入してきたそれに噛み付いてやることも忘れていた。  
何も出来ないままのあたしの口内でガウリイの舌が蠢き、次第に頭の芯が痺れていく。  
それと同時に、さっき泣いていたあたしを抱きとめてくれた時の、安心感が蘇ってきて、  
あたしはそのままガウリイとの行為に身を任せていった。  
 
今は、今だけは考えたくない。あの先の事は……。  
ちらりと過ぎる恐怖を押しのけ、あたしは目の前の暖かさにすがっていた。  
自らも求めるように、ガウリイの舌に自分のそれを絡めていく。  
ガウリイも応え、何度も向きを変えながら、あたしの口内を犯していく。  
深いキスを続けながら、ガウリイの手があたしのパジャマの胸元を肌蹴、  
その内側へと潜り込んでくるのがわかっても、あたしは抵抗しなかった。  
 
「っはぁっ……」  
服の中の侵入者に胸を揉みしだかれて、一瞬開放された唇から、自分とは思えない声が零れる。  
「気持ちよさそうだな」  
にやりと意地悪い笑みを浮かべたガウリイに至近距離で言われて、あたしは赤い顔を一層赤く染めた。  
「やっぱり可愛いな」  
「なっ?はうんっ……」  
「ほら」  
硬く立ち上がってしまった胸の頂を指先で摘まれて、あたしの言葉は中断される。  
代わりにまたあたしの口を突いて出るのは、自分でも恥ずかしくなるような声で。  
ガウリイはそんなあたしをからかう様な目で見ると、今度はあたしの首筋へと顔を埋めていく。  
さっきまであたしの口の中で暴れていた舌に、首筋をねっとりと舐め上げられ、  
あたしの背筋がぞくりと粟立つ。  
その後も、ガウリイの右手に胸を、首筋から上ってきた舌に耳を愛撫されて、  
恥ずかしさに抑えようとしていた喘ぎも、次第に抑えきれなくなっていった……。  
「耳、弱いみたいだな」  
そんなこと知らないわよっ!そんな言葉も与えられ続ける刺激に、遮られてしまう。  
 
眩暈がしたと思ったら、シーツの上にあたしは押し倒されていた。  
胸の前は肌蹴られ、ガウリイに覆いかぶられた格好で、  
あたしの手は彼を押しのけるどころか、彼の服を握り締めていた。  
そんなあたしの胸の上には、手だけでなく、彼の唇と舌の動きが加わわってくる。  
逞しい手が、指があたしの両の胸の形を変え、  
その先を唇で啄ばむように、時には口に含み舌で転がされ、吸い上げられて、  
あたしの身体は火照りを増していった。  
火照りだけではない、少し前からは下腹部の奥の疼きも……。  
 
「ぅん……はぁ……ん」  
どんどん切なくなる感覚に耐え切れず、あたしは太ももを擦りあわせてしまう。  
あたしのそんな動作にガウリイが気付き、また意地悪そうな笑みを浮かべるのが見えた。  
わかってやってるのだ。この男は。……悔しい。でも奥から湧いてくる切なさは増えていくばかりで。  
「あ……はぁ、おね、がい……」  
「何をだ?」  
手を這わせていたシーツをぎゅっと握り締め、口を突いて出てしまった懇願に、  
ガウリイは白々しくとぼける。  
言えるわけないじゃない。悔しさに下唇を噛み、ぷいっと横を向いてしまったあたしに、  
ガウリイがくすりと笑いを漏らすのが聞こえた。……悔しい。  
「ここか?」  
ガウリイの手があたしのパジャマのズボンの中へと潜り込み、そのまま下着の内側へと入ってくる。  
「ああっ!」  
あたしの口から叫びにも似た声がこぼれ、身体は、指の動きに応えるようにビクンと反応してしまう。  
「ぐちょぐちょだぞ」  
布とあたしの体の間で指を前後に動かしながら、彼が耳元で囁く。  
「やぁ……っ」  
ぞくぞくとする感覚と羞恥に、あたしの熱がぐんと上がった気がした。  
気持ちいい……お願い。もっと。あたしの中で誰かが懇願する声が聞こえる。  
「邪魔だな。脱がせるぞ」  
一旦愛撫を中断すると、ガウリイはあたしのズボンと一緒に下着さえも取り去ってしまう。  
 
晒された場所に室内の空気が触れ、ひんやりとした感覚に、  
自分のそこがどんなことになっているか知らされてしまう。  
恥ずかしい……。そう思うと更に切なさが強まり、蜜が溢れてくるのだった。  
 
あたしが恥ずかしさに戸惑っているうちに、ガウリイも全てを脱ぎ捨て、  
再びあたしの上へ覆いかぶさってきた。  
どきんとあたしの心臓が跳ね上がる。恐れからではなく、これから起こる事に期待しているかのように。  
目の前のガウリイの首から下がっているのは、見覚えの無いペンダント。  
小さな小瓶のようなペンダントトップの中身が、薄暗い部屋の灯りに揺らめいている。  
あたし、なんでこんなことしてるんだろう。  
それを見て、ふと思いがよぎる。  
目の前にいるガウリイは、あたしの知ってるガウリイじゃないのに……。  
あたしの知ってるガウリイとは、まだ自称保護者のままで、  
こんな関係どころか、想いを伝え合うことさえしていない曖昧なままで。  
ガウリイなら、こういうことになっても嫌じゃないかも。とか、  
もしずっと一緒に旅を続けるなら、ガウリイがいい。今となってはガウリイ以外に考えられない。  
そう思ったことはあったけど、何年にも一緒に旅をし、生死さえ共にしたガウリイではなく、  
あたしの事なんて知らないガウリイと今こうしてるなんて。  
 
「あああっ!」  
脚を大きく開かれ、濡れ過ぎたそこを彼の舌によって舐め上げられて、  
あたしのそんな思考は吹き飛ばされてしまった。  
「誰の事を考えてたんだ?」  
脚の間から見上げるような形でガウリイが問う。  
「……あなたの、ことよっ……」  
野獣の様な瞳。射竦められる。こんなガウリイ、あたしは知らない。でも、なぜかそそられる。  
恐ろしさも感じるけれど、同時に捕まえて欲しいとも思う自分がいた。  
「嘘だな」  
言って再び脚の間へと顔を埋めるガウリイ。  
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てているようだ。耳に響く水音がやけにうるさくて、  
あたしは恥ずかしさでおかしくなりそうだった。  
 
ガウリイの舌は、肉芽を探り出すと執拗にそこを攻め立てた。  
外側を這っていた指も、ゆっくりとあたしの内部へと埋め込まれてきて、  
あたしはもう自分の嬌声を止めることが出来なくなっていく。  
そしてガウリイの唇があたしの敏感な部分を痛いくらいに吸い上げた時、  
あたしの内部は中にいるガウリイの指をきつく締め上げ、あたしは軽い絶頂を迎えた。  
 
 
霧の向こう、ぼんやりとしたイメージが浮かんでくる。  
血にまみれた手。あたしの手。助からない。助けられない。  
ーーオモイダシタクナイーーワスレテシマエーーー  
 
 
どっと襲ってきたあの恐怖に押されるように、あたしは覚醒する。  
頭がぼんやりしたままで見上げると、目の前にガウリイの顔があった。  
「大丈夫か?」  
あたしの目に恐怖の色を読み取ったのだろうか、心配そうに聞いてくる。  
ガウリイじゃないけど、この人もガウリイなんだ。  
なぜか心のどこかでそう確信出来て、あたしは頷きで問いに答え、今度はどちらともなく唇を重ねていった。  
 
お互い貪るような口付けを続けながら、ガウリイの手はあたしへの愛撫を再開していく。  
右手は親指で肉芽に振動を与えながら、今度は数を二本に増やした指が、あたしの中へ潜り込んでくる。  
そして左手は胸からわき腹、背筋と身体中を這い回る。  
ガウリイは余裕であたしの反応を楽しんでいるようで、時折確認するように一箇所を攻め立て、  
あたしはといえば、ただ与えられるまま翻弄され、彼の前に全てを晒していくだけだった。  
 
二度目の絶頂はすぐにやってきた。真っ白い世界の向こうに、あたしはまた何かを思い出しかけて、  
あたしは恐怖する。またあの感覚。嫌、思い出したくない。  
溺れるものが足掻くように、あたしはガウリイにしがみ付いていた。  
そんなあたしを、ガウリイがわかった。大丈夫だというふうに、抱きしめ返してきた。  
その途端、さっきまでの恐怖が霧散していき、代わりに安堵が心を満たしていく。  
押し上げられた意識の向こう、再び断片的なイメージがやってきたが、  
今度は今までのような恐怖はなかった。  
あたしはまた少し思い出す。  
 
戦い。散らばるレッサーデーモンたちの屍。倒され、風に散っていく魔族。  
眩い光、遠ざかっていく景色……。  
 
心地よくさえある気だるさと共に、あたしはまた還って来る。  
重なり合う二つの身体を伝う汗、吐息と淫らな音が交じり合う空気が漂うこの場所へと。  
 
まだぼんやりとしたなか、腰を掴まれ持ち上げられて、何か熱く硬いものが押し付けられるのを感じる。  
それはぬるぬるとした感触を伴い、何度か割れ目に沿ってゆっくりと擦られる。  
「うん……ああ……」  
彼の動きにあわせて、あたしは身悶え、甘い声を漏らしていた。  
擦られている場所からもぬちゅぬちゅといやらしい音がしているのが聞こえてくる。  
敏感な部分も擦られて、小さく身体が跳ねる。  
新しくあたしの中から溢れてきたものがお尻のほうへと伝っていった直後、  
ゆっくりとあてがわれたものがあたしの中へ入って来るのがわかった。  
 
濡れ過ぎているせいか、あたしのそこは押し込まれるものを意外とあっさりと呑み込んでいった。  
しかし、内部を押し広げられるような圧迫感は先ほどまでの指のそれとは比べ物にならなくて、  
あたしの体は勝手に緊張へと向かってしまうのだった。  
「力抜かないとつらいぞ」  
「……わかってるけどっ……。」  
頭ではわかっていても、かえって緊張してしまうばかりのあたしに、  
ガウリイは一旦腰を進めるのを止め、身を屈めるとあたしの耳に舌を這わせる。  
「はぁ、あん……。」  
耳の奥まで舌を入れられて、力が抜けたあたしの中に、一気に突き入れてきた。  
痛みとあまりの圧迫感に一瞬息が出来なくなるあたし。  
体が勝手に逃げようとするけれど、しっかりと腰を掴まれていてどうにもならない。  
「はぁっ……やあっ、抜いてっっ……」  
目尻から涙を零して訴えるあたしに構わず、奥まで突き入れたまま、  
ガウリイは腰をしっかりと密着した状態で抱えたまま離してはくれなかった。  
代わりに先ほどと同じく、耳元であやす様に囁くガウリイ。  
「大丈夫だ。力抜いて」  
額に、頬に首筋にキスを降らされて、あたしもだんだん落ち着きを取り戻していった。  
「痛かったか?」  
「……すっごく。つか、今も痛いんだけど」  
見下ろして当たり前のことを聞いてくるガウリイに、あたしは半ば憮然として答える。  
「リナの中はすごく気持ちいいぞ」  
「なっ、何言ってっ……。?!今?」  
恥ずかしすぎる発言に一瞬で茹で上がりながらも、  
初めて名前を呼ばれたことに気付いてあたしの心臓がまた大きく跳ねる。  
「ん?今?リナの中はあったかくてすごく気持ちいいぞ。纏わりついてくるみたいだ」  
「そ、そうじゃなくてっ!……ったく。よくそんな恥ずかしいコト言えるわね。」  
「そうか?でもリナも今俺の言葉聞いて締め付けてきたぞ」  
「ちがっ、それは、その……名前を」  
「名前?」  
「なんでもないわよっ。忘れて」  
 
どの言葉に反応したかなんてよくわからなかったけれど、  
いつの間にか痛みは徐々に治まってきているように感じられた。  
「動くぞ」  
短く発せられた言葉とほぼ同時に彼が動き出し、治まったと思った痛みが蘇ってくる。  
ぬぷ……ずちゅ……。  
最初の数回はゆっくりと引き抜かれ、そしてまたゆっくりと侵入してくる。  
「くぅ……ん……はぁ……ガウリイ……」  
呼んでいるのはどっちの名前だろう?そんな風に思いながら、  
あたしはだんだん速く強くなってくる抽送に身を任せていった。  
痛みはまだ確かにあったが、ぬめりきっているそこからは、密かにではあるが別の感覚も生まれてきていた。  
それをガウリイに知らせるように、あたしの声音も変化していく。  
そして、ガウリイの方もそれに応えるように、自らをあたしの奥へと突き込んでくるのだった。  
今はさっきまでの淫猥な水音と、あたしの喘ぐ声、ガウリイの吐息に加えて、  
お互いの腰が打ち付けあう音が響いていた。  
あたしの中の一番奥の壁は、何度も突き上げられる衝撃で、じんじんと痺れたようになっていた。  
彼に揺さぶられて感じているそれが、痛みなのか快感なのかもうわからなく、  
あたしはガウリイから逃れるようにか、それとも応えるようにか、自らも腰を振っていた。  
 
どのくらい経ったのだろう?とてつもなく長いようでも、一瞬でもあったような気もする。  
あたしは、またあの真っ白な波が近づいてくるのを感じた。  
「あっ、あっ、がう、りぃ……あた、し、また、きちゃうっ……」  
「イッていいぞ。俺も、そろそろ、ヤバイかも」  
今までとは比べ物にならない程の波が押し寄せて、あたしは全身でガウリイにしがみ付いていた。  
真っ白な光の中、またあの記憶がそれに混じる。  
 
あたし達は戦っていた。いつものように……。  
終わったはずの戦い。あたしをかばって倒れ付すガウリイ。血に塗れている。  
駆け寄って呪文を唱えるが止まらない血。何か小さい丸い物体。  
そしてあの眩い光に包まれ、遠ざかっていく景色……。  
 
次第に遠ざかっていくイメージと入れ替わるようにやってきた、  
身体の内部に熱いものが叩きつけられる感触に、あたしは吐息を漏らしていた。  
どうやらあたしが目一杯しがみついてしまったせいで、  
ガウリイはあたしの中で達してしまったらしい。  
一瞬躊躇ったものの、次の瞬間には一層あたしの腰を引き寄せ、奥へと注ぎ込んでくる。  
びくびくと脈打ちながら、それはあたしの内部を満たすかのように長く続いた。  
そしてあたしのほうもそれに応え、搾り出すような動きで締めつけるのだった。  
やがて身体が弛緩し、シーツの上へと下ろされたあたしのアソコからは、  
鮮血混じりの大量の白濁液が零れだしていた。  
 
「すまん。中に出しちまった」  
息が整ってきたあたしに、ガウリイが言う。まるで叱られた子供みたいに。  
またあたしの知ってるガウリイが感じられて、あたしは黙って微笑み返す。  
さっき断片的に蘇った記憶がふいに思い出された。  
大怪我をしたガウリイ。あの後一体どうなったの?  
まだ全部思い出せていない。早く思い出さなくちゃ……。  
もう思い出す事に全く恐怖は無かった。あたしは傍らにいるガウリイにこう切り出した。  
「ねえ、もう一度抱いて」  
 
「あ……はぁっ……う、ん」  
今度はいきなり入ってくる彼を、あたしは恍惚の表情で受け入れていた。  
彼とあたしが吐き出したもので、どろどろになってしまったそこから生み出される感覚は、  
言い知れぬ快感がそのほとんどを占めていて、あたしはそれに酔うように身悶えるのだった。  
ガウリイの肩に脚を担ぎ上げられた格好で激しい抽送が行われる。  
腰を持ち上げられ、折り畳まれた体勢の為、結合部分があたしからも丸見えでとても恥ずかしかったが、  
リズムを変え捻じ込まれ、突き入れられ、擦られる動きに、あたしの内側の襞も纏わりついていく。  
あたしの絶頂はすぐに訪れた。また新たな記憶が蘇ってくる。  
 
 
ラグナブレードで最後の魔族を倒した直後、横手から放たれる複数の刃。  
こちらももう一体の魔族を倒した直後のガウリイがあたしを庇うように回り込んでくる。  
既に怪我をしているようで、いつものガウリイの動きではない。  
あたしに迫るいくつかは弾き飛ばしたものの、弾ききれなかったひとつがガウリイを捕らえる。  
「くっ……」  
そのまま倒れ伏すすガウリイ。  
あたしは刃を放った魔道士姿の敵を魔法で打ち倒し、ガウリイに駆け寄る。  
腹部からは、止まらない大量の血。とりあえずリカバリイを。唱え始めたが、とても追いつかない。  
リザレクションが使えれば……。  
「リナ……」  
明らかに体力を失いつつあるガウリイが、弱々しくあたしの名前を呼ぶ。  
「大丈夫、必ず助けるわ。だから頑張って」  
自分の声に悲痛な色が混じっているのを自覚する。  
助けることが出来ない?このまま置いて行かれてしまう?ミリーナとルークの事が心をよぎったその時、  
目の端に完全にこと切れていなかったらしい、敵が動きを見せた……。  
 
それは一瞬の事だったのか、再び現実に引き戻される。  
そう。今はこっちが現実。安物のベッドをぎしぎしと軋ませて、  
今日出合ったばかりの男に抱かれているあたし。  
 
何度も体位を変え、身体を重ねた。あたしはその度に波に呑まれ、そして思い出していく。  
ガウリイが再び限界を迎えた時には、あたしは全てを思い出していた。  
「おねがいっ……なかにっ、ちょうだい……」  
今度は腰を引こうとしたガウリイを引き留めて、あたしは言った。  
また一瞬の躊躇があった後、彼が一気に腰を押し付けてきて、  
びくびくと脈打つものが、あたしの中に二度目の大量の精を注ぎ込む。  
「リナ……」  
耳元で囁かれる聞きなれた声が、懐かしい声と重なる。  
「ガウリイ……」  
あたしが呼んでいるのは、どっちのガウリイの事なんだろう?  
ぼうっとしてしまっている頭の隅で考える。  
きっと、どっちでもあるのだろう。なんだかそう思えた。  
 
目を覚ますと、もうすっかり明るくなっていた。  
傍らには、先ほどまで身体を重ねていた男。あたしを囲い込むように、その腕に閉じ込めている。  
ガウリイがしてくれたのだろうか、あたしの身体はきれいに拭われていて、  
汗や体液による不快感はなかった。  
 
彼の腕の中で彼の鼓動を聞きながら、行為の中、思い出した事を考える。  
あたしは重症のガウリイに回復呪文をかけようとしたところを、  
敵のいまわの際に放たれた、オーブのようなアイテムで、この世界に飛ばされたらしい。  
戻らなくちゃ。ガウリイが待ってる。  
 
あたしはガウリイを起こさないように、静かに身体に絡みつく腕を抜け出そうとした。  
しかし、反対により拘束されてしまう。  
「行くなよ」  
抱きしめられ、耳元で囁く声に、心が、そして身体がざわめく。  
「行かなくちゃならないの」  
そう。ガウリイが待ってる。あたしは押しのけるように身体を離すと、彼の瞳をまっすぐ見つめた。  
海のような深い蒼。あたしはこの瞳を知っている。  
「……また、会えるわ」  
緩んだ腕を逃れて、あたしは身支度を整える。あちこち身体が痛いけれど、じっとしてはいられなかった。  
 
「なんで着いて来るのよ?」  
宿を引き払い、あの森へと向かうあたしの後ろには、まるでいつもと同じように、ガウリイの姿があった。  
「だってお前さん、そんなあちこち痛そうな状態で途中で何かあったらどうするんだ?」  
「……大丈夫よ」  
「あんまりそうは見えないけどな。それにリナがそうなっちまったのは、俺にも責任があるわけだし」  
「わかったわ。勝手にして。」  
改めて昨夜の出来事を思い出し、耳まで赤くなりながら吐き捨てて歩き出すあたし。  
後ろでガウリイが可笑しそうに小さく笑うのが聞こえた。  
結局、あっちでもこっちでも着いてくるのね、こいつは。  
嬉しいような、呆れたような気持ちになりながら、あたしは道を急いだ。  
 
森へ向かう途中で、あたしは止血に効く魔法薬か何かが手に入らないかと、  
村に唯一の魔法医の元を尋ねたが、何分それほど大きくない村のことである、これといった解決策は見つからなかった。  
「もっと大きな街へ向かうしかないのかしらね……。」  
いい方法が見つからず、呟いたあたしに、ガウリイが服の中からペンダントを取り出し、あたしへと渡してくる。  
「ばあちゃんにもらったんだ。どんな大怪我もあっという間に治してしまう薬が入っているらしい。」  
「え……?」  
「必要なんだろ?持っていけよ。俺は使った事がないが、効き目は確かだぞ。」  
「あ、ありがと」  
他に方法がない以上、これに賭けてみるべきだろうか。  
彼の事を信じないわけではないが、ついあたしは慎重になっていた。もうあんな思いはしたくないから。  
 
あたしの記憶通りならば、戦った魔道士は森の近くの遺跡に潜伏していたはず。  
そこへ行けば何か手がかりが見つかるかもしれない。  
記憶通り遺跡はすぐに見つかり、その遺跡の地下奥深く見覚えのあるオーブもやがて見つけることが出来た。  
ここがあたしのいた過去ならば、おそらくこの先、これをあの魔道士が見つけるのだろう。  
「俺が着いて来て正解だったろ?」  
「そうね。さすがに今のあたし1人じゃここまで辿り着けなかったわ。ありがと。」  
ガウリイに笑いかけて、あたしは目の前のオーブを手に取り、調べてみる。  
表面に刻まれたルーン文字を解読すると、刻まれている呪文の詠唱と、強い精神集中とによって、  
別の場所への移動が可能となるようだった。  
「とにかく試してみるしかないわね。」  
オーブを元の台座に戻し、心を決めたあたしに、一段低い場所で見守っていたガウリイが声をかける。  
「行くのか」  
「行かなくちゃ。きっと待ってるから」  
あたしは段の上に腰を下ろし、ちょうど横にあるガウリイの首へと腕を回す。  
「また会えるわ。」  
そう言って、あたしは自ら唇を重ねた。  
唇を離すと、あたしを捕らえようとするガウリイの腕をかわし、再びオーブの元へと戻る。  
表面に刻まれた呪文を詠唱し、願いに集中する。  
ガウリイに会いたい。ガウリイを助けたい。置いていかれたくなんてない。  
そう強く願った瞬間、あたしを覚えのある光が包み、あたしは戻っていった。  
 
気が付くと、あたりは真っ暗だった。  
「ライティング!」  
魔法の光に映し出されたのは、さっきまでいた遺跡の一室のようだったが、  
目の前には、オーブもそしてガウリイの姿もなかった。  
どうやら同じ場所には転移されたらしい。果たして無事元に戻れたのか?  
たとえ元の場所でも、間に合わなければ意味が無い。  
あたしは急いで来た道を駆け戻った。  
魔道士が住居としてかなり手を加えたらしく、地上へ戻るのにさほど労力は要しなかった。  
遺跡を後にすると、あたしはレイウィングで、自分が消えそして現れた場所、大樹の根元を目指した。  
 
あたし達に倒されたのだろう、レッサーデーモンの死体がごろごろ転がっている。  
大樹の根元、倒れているガウリイが見えた。  
おそらくリカバリイをかけているのだろう、あたしの姿もその隣に見える。  
二人のいる、すぐ近くの茂みに魔道士が倒れているのが見て取れた。  
倒れたままのそいつが小さく身動きするのが見える。きっとあの呪文を唱えているのだろう。  
その魔道士がいる場所から、オーブらしき物が、ガウリイの傍らにいるあたしの元へと転がっていき、  
眩い光に包まれた、もう1人のあたしがどこかへ消えていく……。  
 
風の呪文を解き、降り立つついでに倒れている魔道士を完全に沈黙させ、ガウリイの元へと走り寄る。  
向こうの世界のガウリイにもらった薬は、驚くほど効き目があり、  
瀕死状態だったガウリイは、本当にあっという間に回復した  
 
「まさか本当にこんなすごい効果とはねー」  
森を後にして、並んで歩きながらあたしは呟いた。  
「なんだ。信じてなかったのか?」  
まるでさっきまでの怪我が嘘のように元気そうなガウリイがあたしに向かって言う。  
「いやー、信じてなかったわけじゃないけど、こんなに即効性も回復力もすごいとは……  
って!あんたなんでそんな事を?」  
「何でって、それは俺の家に伝わる秘薬だし。あの時だって効き目の事は説明しただろ?」  
あたしの手にしているペンダントを指して、ガウリイが言う。  
「え……えええっ?そ、それって?」  
「なんだ?忘れたのか?」  
「いや、覚えてるけど……。」  
「リナのイク時の顔可愛かったなー♪」  
「ちょっ!ガウリイ!!あんたもしかしてっ」  
そりゃー、そうじゃないかなー?なんて推測したりもしたけど、まさか本当にあたしは「過去」に行ってたの?  
「えーと、ということは、昨夜、じゃなかった。あの夜の事も……?」  
嫌な汗が流れるのを感じながら、あたしはおずおずと聞いてみる。  
「覚えてるぞ。リナの初めての夜だもんな。あんなこととか、こんなことも全部覚えてるぞ」  
「だーーっ!!言わんでいいっ!!大体何で今まで黙ってたのよっ?」  
全身が茹で上がったような状態のあたしに、ガウリイがこう答えた。  
「だって、『また会える』って言ったじゃないか」  
「あ……」  
あたしは自分があの時ガウリイに言った言葉を思い出して納得した。  
ガウリイは今やっと「あの時のあたし」に会えたのだと。  
「やっと会えたな」  
いつもの笑みを浮かべてガウリイが言う。  
「そうね」  
あたしも笑顔で答える。  
 
「でも、こういうのも嫉妬っていうのかなー?」  
村までもうすぐという所で、ガウリイが呟く  
「へ?どういうこと?」、  
「昔の自分に好きな女を獲られたっていうのは、嫉妬になるのかな?ってさ」  
「な、何言ってんのよ。」  
「これでやっと自称保護者を卒業出来そうだな。あ、ほら、宿屋が見えてきたぞ」  
またしても何やら意味深なガウリイの発言に、  
さっきから赤くなったり青くなったり忙しいあたしが目にしたのは、もう見慣れた気がする宿屋で、  
あたしはなんとなく嫌な予感と共に深いため息をついたのだった。  
 
ちなみにそれから約1年後、あたしは子供を出産したのだが、  
それがどちらのガウリイとの子供なのかは、永遠の謎である。  
 
おわり。  

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