大丈夫、大丈夫だから……
今にも震え出しそうな身体を抱え込み、あたしはぎゅっと唇を噛み締めた。
既に周囲は日が完全に落ち、夜の鳥が鳴き始めていた。
自称保護者のガウリイとはぐれてから、もうすぐで丸1日。
はぐれた時は悪態を付いていたけれど、時間がたつにつれてだんだん不安が募り、焦りが出始めていた。
夜、森を徘徊するのは得策ではない。
あたしは仕方が無く野営を出来そうな場所に腰を下ろして、小さなたき火をすることにした。
「……」
いつもなら2人で取り合いになる夕食。
1人で食べるといやに味家のない物だった。
「くらげ……」
不安になる要素はもう1つ。
昨日あたりから、極端に魔力が弱まりつつある事。
たぶん……もうすぐあの日、なのだ。
魔力がなければ、ガウリイを探すのにもっと手間取る。
何かあっても、すぐに、側に行けないかもしれない。
「あー、もう、やめやめっ。こんなに不安になるなんて、リナ・インバースらしくないぞ」
焼けた魚にがぶっと噛み付き、不安になる心を叱咤してどうにか食事を終えた。
おなかがふくれれば、自然と眠気が襲ってくる。
ガウリイを探して1日中森を彷徨っていたせいもあって、小さく燃える火をじっと見つめていると、瞼が重くなっていった。
「……ナ、……リ……、リ……ナ」
聞き覚えのある声と、ぐらぐらと揺さぶられるあたしの身体。
「ガ、ウリイ?」
目の前にあるのは、金色の髪をなびかせ、今日1日散々探し回って、見つからなかった男。
「心配したぞ?」
それはこっちの台詞だ!
と言い返したかった。言い返したかったのだけれど、言えたのは『馬鹿』の一言だけだった。それもどうにか声を出した程度の、小さな声だった。
見つけた?事への安堵か、ガウリイはいつものように笑っていた。
「腹ヘッタァ」
あたしの横にどんっと座り込み、目の前の火に当たりながらお約束の言葉を口にするガウリイ。
ほっとした。
1人じゃないことが、こんなにほっとするなんて……
「リナ? 何泣いてるんだ?」
「何言ってるのよ、泣いてなんか」
ガウリイの大きな手が、あたしの頬に触れた。
「泣いてる」
「泣いてなんか……」
ない。
触れられた指先は、確かに濡れていたけれど、泣いてなんか、ない。
「意地っ張りだなぁ」
そっと頭を撫でられ、そのままガウリイの大きな腕に抱きとめられた。
トクンッ、トクンッ、という心臓の音が聞こえ、赤面しながらもあたしはその腕の中から逃げることは出来なかった。
怖かったから。
離れた瞬間、ガウリイがいなくなってしまったら……
そう思ったら、急に怖くなって、その温もりや鼓動を感じていたかった。
怖かったから。
離れた瞬間、ガウリイがいなくなってしまったら……
そう思ったら、急に怖くなって、その温もりや鼓動を感じていたかった。
どのくらいそうしていたのだろう。
あたしの涙が止まるまで、ガウリイは何も言わずに頭を撫でてくれていた。
「心配したか?」
「……してなんかいないわよ」
ズズッと鼻をすすって言い返すと、微かにガウリイの笑い声が聞こえた。
本当は、すごく心配した。
何故だかわからないけど、すごく、すごく……心配だった。
このままガウリイと会えなかったとか。
実はガウリイは1人で行ってしまったんじゃないかとか。
そんな事ばかり考えて、不安だけが心を占めていっていた。
「俺はお前を置いて何処にも行かないよ」
まるで心を見透かしたようにガウリイが言った。
止まりかけていた涙がまた溢れそうになり、あたしはそれをぐっと飲み込むように抑えるので必死だった。
「なぁ、リナ」
名前を呼ばれた瞬間、心がドキンと高鳴った。
「なっ、何よ」
「……腹減った」
ズズっと身体の力が抜ける。
まったく……
溢れ出しそうだった涙がしっかりと奥に引っ込んで、あたしはガウリイにいつもの笑みを返していた。
「適当に残り物でも食べれば? 全く……、ガウリイの頭の中には食欲しかないんだから」
ぶつぶつと言いながらも、弱くなりだしていた火にマキをくべる。
「そりゃ減るさ。ずっと我慢してたんだから」
「適当に食べればよかったじゃない。ガウリイの野生の感なら、食事くらいすぐに見つけられたでしょ?」
「……、まぁ、な」
急にトーンが下がったような気がした。
そんなにお腹すいてたのかな?
すこし冷めてしまったあたしのお食事の残りを火にくべて、早く温まらないかな、なんて思ってしまい、ちょっとそんな自分に顔を赤くした。
「なあ、リナ」
「なに?」
「もう、いいよな?」
「んー、もう少し待ったほうがいいんじゃない?」
「……腹へって、もう我慢できない」
「ちょっと、もう少し待ったほうが、おいしく……あれ?」
まだ温まりきらない食事に手を伸ばそうとしたはずのガウリイの手が、何故かあたしの肩を捕らえ、そのまま地面へ倒れこんでいた。
少しだけ冷たい土の感触。
目の前にはガウリイの顔と、その向こうにはすごく綺麗な星空。
「あれ?」
「……」
「大丈夫? ガウリイ」
「は?」
ガウリイはあたしの質問に間の抜けた顔で返事を返した。
えっ? 倒れただけじゃ? ……ち、違う? ……あれ? えぇぇぇぇぇぇっ!!!!
突然の出来事に、あたしの思考回路は真っ白。
組み敷かれているような状態で、じたばた、じたばた
ガウリイの顔が目の前にある。
ちょっとだけ困ったような、喜んでいるような、そんな表情を浮かべて。
「ど、どうしたの?」
……何言ってる、あたし。
際どい状態に、どうしていいか分からずに、あたしは勤めて冷静にそう言ったつもりだったんだけど、声は完全に裏返っていた。
「どうしたって……腹減ったから」
「……で、どうして?」
腹減った、とあたしを押し倒した、どう結びつくんだろう……
「だからさぁ」
「うん」
真面目な顔で真っ直ぐガウリイを見つめていたら、少しガウリイが照れたように頬を赤くしていた。
「……うまそうなもんが寂しそーにしてたから、食べようかなっ、て」
うまそう? 寂しそう?
「それって、……あたし?」
「うん」
語尾に可愛らしいハートマークでも飛んでそうな笑顔で頷くガウリイ。
ちょっとまてぇ―――
言いかけた時には、あたしの口はガウリイの口によって塞がれていた。
「んっ……」
息をしかけてほんの少し明けた口の中に尽かさずガウリイの舌が割り込んでくる。
ねっとりとした熱い舌が、あたしの思考を絡め取るように動き、いつの間にか服の隙間から滑り込んでいたガウリイの指先に、あたしはびくっと身体を振るわせた。
あたしの身体が熱いのか、やけにその指先が冷たく感じた。
「やっ……んっ」
あたしから離れたガウリイの唇が耳に軽く触れただけで、あたしの身体が急激に熱を帯びる。
「感じる?」
いつもとは違う、低い響くような声に、あたしは首を横に振った。
「リナの意地っ張り」
ガウリイが少しだけ笑った。
ガウリイの指先が、あたしの胸の突起に触れる。
「やぁ」
びっくりした体が、反射的にその手を払いのけようとするが、びくとも動かなかった。
ガウリイの腕って……
その腕に触れた時、初めて男を感じてしまった。
瞬間、体中の血が沸騰したように熱くなる。
「やだぁ……」
半分泣き声状態だった。
ガウリイに男を認識したせいと、身体が熱くなる感覚が、あたしを確実に追い詰めていた。
「怖いか?」
一瞬手の動きを止め、あたしの顔を覗き込むようにガウリイは尋ねた。
「……怖い」
「なら、……止めるか?」
ガウリイの顔が悲しそうに歪んだ。
どこまでも……あたしを考えてくれている人。
たぶん、一生あたしは勝てない。
一緒にいないだけで、あれだけ不安になったあたし。
見つけた瞬間に、安堵で泣き出したあたし。
置いていかれたかもと思い、傷つきかけたあたし。
抱きしめられて、安心したあたし。
…………………あたしは、ガウリイが、好き。
「いい」
「……?」
「このまま、続けて、いい」
「リナ……」
嬉しそうな、楽しそうな、そんな子供のような笑顔が振ってきた。
「んっぁ」
怖くないといえば嘘になる。
熱くなる身体も、悶えるような感覚も、全てが、怖い。
「リナ……可愛い」
「うるさいっ」
恥ずかしくなる台詞を言うんじゃない。
いつもの癖でスリッパで叩こうとしたあたしの手首を、ガウリイが素早く押さえ込んだ。
「こういう時に、スリッパはなし」
簡単にそれを取り上げられ、暗闇の中へ放り投げられてしまった。
「やっ……だ」
胸を弄られ、まるで生き物みたいに動くガウリイの指と唇に、あたしは放浪され、完全にペースはガウリイのものだった。
「はぁん、ひゃ」
「気持ちいい?」
余裕のある笑みが、悔しくてぷいっと視線をそらすと、ガウリイの指が行き成り付け根に触れる。
ぐちゅっという聞きたくもない音をわざとたてて。
「んっぁ」
ぴくんっと腰が浮いた。
「すごいぞ、リナ」
「やぁ……んっ……ひゃぁ」
ガウリイの言葉にすら答えを返せない。
返させないように、ガウリイが指の動きを止めてくれない。
撫でるように、2本の指があたしのソコをいじめ続ける。
痺れるような甘い感覚が、ソコだけでなく体中を支配していた。
まさに陥落目前。そんなあたしを引き止めていたのは、乙女の意地?
「リナは、我が儘だなぁ」
「やぁぁっ」
予告もなしに指があたしの内部へ押し込まれ、悲鳴とも喘ぎとも聞き問える声が唇から漏れた。
「あったかい」
こんな状況に似合わない笑顔を見せるガウリイ。
「ぐっしょり濡れて、指に絡んでるよ」
笑顔とは無縁の台詞をはくなぁ。
言い返そうとするが、やっぱり言い換えさせないようにガウリイの指があたしの内部をかき回した。
「ぁぁっ」
わざとだ。
絶対わざとだ。
潤みかけた瞳でガウリイを睨みつけると、悪戯の見つかったような子供のような顔をした。
「可愛いよな、リナは。ほんとに」
「やぁっっ、ん……ああっ」
羞恥を煽られ、どくんっと心臓が高鳴った。
「そんなに、気持ちいい?」
ぐっと両足を持ち上げられ、ソコにガウリイの視線が集中する。
「いやぁぁぁぁぁっ」
見ないで、とは言葉が出ない。
「すごいな」
嬉しそうな声だった。
そして、何とも表現しにくい感覚がソコに走った。
「はぁ……んっ、やぁ」
ぐちゅっと音がたち、生暖かい感触と、身体を駆け巡る快感。
「はぁ……んっ、だっ…ん…」
「気持ちいい?」
ガウリイの息がソコに当たった。
「やだぁ…ん…」
泣きそうだった。
恥ずかしさと、快感と、訳がわからなくて……
事実、泣いていたのかもしれない。
そっとガウリイが優しく髪を撫でてくれて、それがいやなくらい暖かく感じられて。
「ごめん、な」
そっと耳元で囁かれた言葉に、ほんとにもう、どうして……
こんなに、くらげなんだろう、と思ってしまった。
「ガウリイ……」
「ん?」
「馬鹿、くらげ」
「……リナが悪いんだぞ。うまそうな顔してるから」
まだ言うか、こひつはっ!
乱れたままの姿であたしはそっとガウリイの唇にキスをした。
「リナ」
「少しは、……ムードとか考えてよね。あたしだって、女の子なんだから。いきなり、こんな、……ところで」
ぶつぶつと声を沈めて言うと、ガウリイの顔が嬉しそうに笑った。
「そうか、……じゃ、続きは宿でな」
「ちがっ」
「なんだぁ。そう言ってくれよ。我慢してた俺が、馬鹿みたいじゃないか」
決してそういうつもりで言ったんじゃない。
そんなつもりは……
そう思いながらも、ちゃんとベッドの上でしたい、とか、今度は少しは積極的も求めようとか、そんな事を考えている自分に赤面しながら、ぼんやりと空を見つめていた。
その後―――
野生の感は見事なもので、夜だというのに見事に森を抜け、宿屋でガウリイの気が済むまで、されたのは、もちろん言うまでもないこと。
おわり