それはなんでもない、いつも通りの一夜のはずだった。  
あたしは、ストレス解消と実益を兼ねた趣味のひとつである、盗賊いぢめに出かけた。  
ガウリイが寝静まったのを確認した後、こっそり窓から宿を抜け出し、  
適度に攻撃呪文をぶっ放し、ひじょーに協力的な盗賊達のおかげもあって、  
収穫もまずまず。後は宿に戻ってふかふかベッドで休むだけ。  
だったはずなのに……。  
 
宿へ戻る道の途中、行きとは違い、陸路をほくほく顔で歩いていたあたしの鼻を、  
何ともいえない魅力的な香りがくすぐった。  
好奇心に臨時収入の浮かれ気分も手伝って、  
あたしはその未知なる香りの元へと足を向かわせていた。  
 
満月に照らされた森の奥深くに、その香りの元はあった。  
それは、見たことも無い巨大な花だった。  
地面に大きく広がった葉の上には、あたしの背丈くらいはありそうな壷状の花があり、  
月明かりだけではなく、自らも光を放ち、ぼうっと蒼く輝いていた。  
 
くらり……。と眩暈を感じてあたしはやっと気付く。  
今はもうむせ返る程になっている花の香りのせいなのか、  
それとも不思議な蒼い光のせいなのか、あたしは緩慢にしか動けなくなっていた。  
どさりとお宝さん達の入った袋が手をすり抜け、草の上へと落ちる。  
マズイ……何かわからないけど、かなりマズイ状況かもしんない。  
しかし、警鐘は遅すぎ、とうとう膝をついてしまったあたしの足元には、  
新たなる危険が忍び寄っていた  
 
しゅるしゅるしゅる……。  
何本もの蔓状の植物が足元の草を掻き分け、あたしへと向かってくるのがわかった。  
「くっ……。」  
しかし、起き上がろうと試みるものの、ほとんど力が入らない。  
それどころか、一層力が抜けていくようだった。  
しゅっ!しゅしゅっ!  
焦るばかりのあたしの手足をとうとう辿り着いた蔓が絡め取っていた。  
「うわきゃっ!!」  
そのままぐんっ!と勢いよく上へと持ち上げられるあたし。  
呪文で断ち切ろうと考えたが、キツイ香りのせいで、頭がぼうっとなり、  
意識集中も詠唱さえも上手くいかなかった。  
 
結局何も抵抗出来ないまま、あたしは蒼い巨大な花の上へと宙吊りにされてしまったのだった。  
両手は頭の上で一つに束ねられ、  
両脚もそれぞれ別々の蔓にしっかりと絡め取られ、身動きもかなわない。  
げ……。  
見下ろした細長い壷状の花びらの内側には、  
正体不明の液体で満たされていて、蒼白い光を放っていた。  
どうやらあの光の正体はこの液体だったようだ。  
……もしかしてあたし溶かされる?  
冗談じゃない!あたしはハエじゃないっつーの!  
しかし、もがく事さえ出来ないまま、あたしは想像通り花びらの内側へと下ろされていった。  
 
「う……やあ……こんなの……ガウリイ」  
無駄だとは知りつつも、ここにはいない相棒の名前を呼ぶあたし。  
 
とぷ……。  
 
蒼く光る液体に、あたしは首まで沈められた。  
消化液だと思われる得体のしれない液体が、衣服に染み込んできて気持ちが悪い。  
このままじわじわと何時間もかけて溶かされるんだろうか?  
虫の気持ちなんぞ今までも考えたくなかったが、これからだって考えたくないっ!  
なんとか溶かされる前にこの蔓から逃れて……。  
「ひゃうっ」  
くらくらしてしまいがちな頭で考えようとしていたあたしは、  
ふいに与えられた感触に思わず声を上げた。  
足下のどこからか新たな物体が現れて、あたしの股の間を擦リ始めたのだ。  
「や、やめっ……」  
言ってもどうにもならないのはわかっていたが、あたしは制止の声を上げた。  
もちろんそれで事態が変わることは無かったのだけど。  
 
蔓に拘束され、開かされた脚の根元を、  
同じような蔓状の物が前後に往復運動を繰り返していた。  
布ごしに敏感な所への刺激を受け、あたしの息は知らず上がっていく。  
息を乱していたのは、植物に似つかわしくないその動きのせいだけではなかったようだ。  
外側から布を通して染み入ってくる液体が肌にまで到達すると、  
あたしは身体中にじんじんと痺れるような火照りを覚え始めていた。  
「はうっん!」  
まるで日焼け後の皮が剥けるように、  
擦られていた部分の衣服がずるりとあたしの肌から離れた。  
今まで布越しだった物体の動きを直に感じ、あたしは呻いた。  
「あ……う……いやぁ……」  
直に感じるその感触は、植物というより動物の感触に近く、  
蒼く光るどろっとした液体を纏わり付かせながら、変わらず動き続けていた。  
今や遮る物の無くなった肌の上を、お尻の方から前の肉芽の部分まで、  
溝にぴったりと張り付くようにして動いている。  
その動きに呼び起こされるように、あたしの息は乱れ、  
あたしの中からも蜜が湧き出してきていた。  
切ない感覚がどんどん強くなってきて、あたしはより強い刺激を求めて自ら腰を動かし始めていた。  
それでも増大していく焦燥感は満たされない。  
「おねがい……このままじゃあたし……おかしくなっちゃう……」  
伝わらないとは思いながら呟いたあたしの言葉にまるで反応したように、  
股間を蠢いていた蔓が離れていった。  
そして、再び上に持ち上げられていくあたし。  
なぜ?開放してくれるの?  
ほっとしたような、残念なような気持ちになりながら持ち上げられていくあたしの身体は、  
一旦花の外へと出されたものの、しかし開放されはしなかった。  
 
それどころか、新たな蔓が植物の根元から現れ、腰へと絡みつき、一層戒めは増えてしまった。  
他にも何本かの蔓が身体に纏わり付いてきて、水気を含んでずっしりと重くなった衣服は、  
ぼろきれと化してぼたぼたと花の周りの地面へと落ちていく。  
その周りには、あたしの身を守るはずのショルダーガードやショートソードなどが散らばっていた。  
衣服と違って溶かされたりはしていないようだが、この状況では、本来の目的を果たしてはくれない。  
あたしの身体には絡みつく幾本もの蔓と、それにかろうじてひっかかっている布の切れ端が、  
わずかに残っているだけだった。  
 
またしても身体が下降させられていく。  
降ろされていく花びらの中を見ると、蒼く光る液体に変化があった。  
どこへかはわからないが、水面が下がっているようだった。  
代わりに花の中央からせり出してくる物が見えた。  
それは普通の花にあるようなおしべのようだった。  
ただし、眼下にあるそれは、この花の大きさに似合う、巨大なものだったが。  
あたしの身体はそのおしべに向かって下ろされているようだった。  
「ま、まさか……」  
背筋を嫌な汗が滑り落ちるが、状況は変わらないまま嫌な予感は的中してしまった。  
「あ、う……いやぁ……やめ……くぅ……」  
腰と両脚に絡みついた蔓に引っ張られるようにして、  
あたしのあそこにおしべが押し込まれていった。  
心の拒絶感とは反対に、身体はぞくぞくとした悦びを感じてしまっていた。  
入ってくるものを身体は待ち望んでいたようであっさりと呑み込んでいく。  
ああ……だめ……すごく気持ちいい……。  
やだ、あたしってば、何考えて……。  
何とか理性を保とうとしたあたしだったが、その直後に開始された蔓達の動きに  
悲鳴じみた嬌声をあげることに没頭させられていくのだった。  
 
腰に絡みついた蔓があたしの身体を激しく上下に揺さぶり、  
あたしの内側を花の一部が擦っていった。  
「あっ!あうんっ!はぁ……ん……」  
揺さぶられるまま、あたしは声をあげていた。  
蒼く光る液体はもうすっかり引いていて、代わりにあたしと花とを繋ぐ所から、  
ぐちゅぐちゅという水音が聞こえていた。  
半ば密閉空間のような花びらの内側に、あたしの出すいやらしい声と音が篭って耳に響き、  
あたしは一層いやらしくなっていくようだった。  
腰の揺さぶりに加えて、身体の他の部分に絡みついた蔓も愛撫のような動きをみせていた。  
あたしの脇腹を首筋をおへそを、さわさわと這い回る。  
硬く立ち上がってしまった胸の先にも細い蔓が挟み込むように絡みつき、  
細かく風に震えるような動きを続けていた。  
 
「あっ、あっ……っはぁ、はぁ……も……だ、めぇっ……!!!」  
ついに達してしまったあたしは背を仰け反らせて咥えこんでいるものを締め付けた。  
その時あたしは気付かなかったが、同時に花の方にも変化があった。  
「おしべ」の根元から送り込まれた何かが、その先端から吐き出されてくる。  
「ああ……ぅん……はぁ」  
自らの身体の奥でそれを受け止めているあたしは、気持ちよさに酔うだけで、  
危機感を持つ事は無かった。  
達してしまったせいで余計に力が抜けてしまったあたしの身体がまた持ち上げられた。  
咥えこんでいたものをずるりと引き抜かれ、あたしは沈んでいた意識から呼び起こされた。  
「おしべ」が出て行くのと入れ替わりに、幾本かの蔓がその入口を塞ぐように動いた。  
さっき中に注ぎ入れたものを少しでもそこに留めておこうとしているようだった。  
 
あたしは快感の中、受け入れてしまったものの事をやっと思い出し、背筋を凍らせる。  
さっき中に出されたもの、あれって一体……。  
自分の腹を食い破って巨大な蒼白い花が咲く映像を想像してしまって、  
あたしは無駄とは知りながら、恐怖の誘うまま、もがこうと試みる。  
しかしやはり虚しく、拘束の解けぬままあたしは自分の身体が降下していくのを感じるしかなかった  
 
その先に待っていたのは、今度は真っ赤な花だった。  
形は蒼の花とほとんど変わらず、おぞましいことにその花びらの内部にも  
先ほどのおしべとほとんど同じ形状の突起が中央に待ち構えていた。  
「うそ……」  
つい数分前の出来事が思い起こされて、拒絶感と期待感がせめぎ合うように押し寄せてくる。  
あたしの身体を拘束し、操る蔓達はそんなあたしの心情などにはもちろんお構いなしに、  
淡々とした動きで花の内部、中央へとあたしを下ろしていった。  
そして赤い花の突起があたしのあそこにあてがわれるようにすると、  
入り口を塞ぐようにしていた細い蔓がするすると退いていった。  
既に赤い花の一部を受け入れかけているあたしの内側から、  
トロトロと金色の液体が零れてきて、赤い花の突起へと滴っていった。  
これが、さっき出されたもの?  
そう考えた直後、ほとんど落とされる勢いで身体が落ちる。  
「はくぅっ!!!」  
自分の体重も手伝って一気に奥まで貫かれてあたしは一瞬息が止まった。  
そして再び間を置かずに上下に動かされる。  
「あっ!ああっ!はあぁんっ!」  
先程と同じく、いや更に激しく体中を弄られながら、体内を突き上げられて、  
あたしはまた感じてしまっていた。  
ぐちゅぬちゅと音を立てながら、あたしの内側の襞が赤い花の一部へと絡みつき、蜜をすりこんでいく。  
それはあたしのものなのか、あの時蒼い花に注がれたものなのかわからなかったが、  
身体が求める気持ち良さに溺れてしまったあたしには、どっちでも構わなかった。  
やがて激しく揺さぶられるまま、声にならない声をあげ、あたしは赤い花の中、背を反らせた。  
 
今度は射精に似た行動は花には見られなかった。  
あたしはきっとめしべだろうその突起を体内に沈めたまま、絡みつく蔓に体重を預けて意識を失った。  
 
「リナ!リナ!どこだ?!」  
聞きなれた声があたしを覚醒させた。まだ頭がどこかぼんやりしている。  
「ガウリイ……?」  
囁くように発せられた声を聞きつけたのか、足音が急ぐようにやってきて、  
見慣れた手が赤い壁を押しのけ、固まった。  
「リナ……?」  
目の前には月明かりの中、ガウリイが驚いた顔をして立っていた。  
何でそんな顔してんのよ?と言おうとして、そういえば自分がどんな格好だったか思い出して青くなる。  
全裸状態で何本もの蔓に絡め取られ、しかも巨大な花の突起を身体に埋めているのだ。  
驚くのも無理はない。……なんて他人事装ってる場合じゃないのよね。恥ずかしいったら。  
 
あれほど強靭だった蔓達は、ガウリイの剣に逆らうようなこともなく、  
切られた後はすっかりしおれたようになっていた。  
蒼や赤の花の本体もまるで役目を終えたようで、それぞれの花びらを散らしていった。  
後日文献で調べた所によると、この花は数十年に一度、満月の夜に咲く花で、  
その際、受粉の為に人間を使うらしい。  
あたしはたまたまくそ珍しいタイミングに居合わせて、世にも珍しい花の受粉に一役買わされたようなのだ。  
まあ、あたし自身に何か孕まされなかっただけマシか……。  
あたしは借りてきた本を閉じてそう思いながらため息をついた。  
この本には記されていないが、あの夜の後遺症としてあれから数日媚薬のような効果が抜けなかったのと、  
ガウリイに発見時の事を散々からかわれたり、しばらく盗賊いぢめの監視が厳しくなったりしたのは、  
ちょっぴり苦い思い出である。  
 
おわり。。  
 

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