いつも元気な奴が弱っている姿というのは、居心地が悪い。  
 
 
熱く荒い息を吐きながら、ベッドに横たわる男。  
体力だけが取り柄だろうと思っていたのに、昨夜から高熱を出して寝込んでいる。  
 
「まだあるわね」  
ベッドに横たわったガウリイの額に手をあて、熱を計ったリナは伝わる熱に溜め息をついた。  
「うー」  
「情けないわねぇ」  
ガウリイの額にあてた手で、ぺちりと叩くと、熱に弱った男は恨めしげな視線をリナに向けた。  
「…誰のせいだよ」  
「ガウリイ」  
「おひ」  
きっぱりすっぱり答えたリナに、ガウリイがひきつった笑みを浮かべた。  
「あは…ははははは。やだなー怒んないでよ」  
語尾にハートをつけたようなブリっ子口調で誤魔化そうとするリナ。  
「ほら、不可抗力っていうか」  
「リナ」  
「あぅ」  
「で、誰のせいだ?」  
ジト目で睨み、低くガウリイが問う。  
「ゴメンナサイ。あたしです」  
視線を泳がせていたリナは、観念したように謝った。  
ガウリイはひとつ溜め息をついた。  
「…ったく。また怪しげな薬を人に使いやがって。俺だからこんな熱で済んだけど、他の奴だったら  
死んでるぞ」  
「やだなあ。ガウリイ以外に使うわけないじゃない」  
「リナ」  
「スミマセン」  
 
リナがどこからか手にいれてきた怪しげな薬を、ガウリイで試すことは珍しくない。  
その度ガウリイに色々な副作用が出たりするのだが、せいぜいが腹を壊す程度だった。  
 
(まさか体力くらげが熱出すなんて思わないじゃない)  
食後の酒に混ぜたのだが、酒との相性がすこぶる悪い薬だったらしい。飲み終って間もなく倒れた  
ガウリイに、心臓が止まりそうになったリナだ。  
(そりゃまあ、あたしが悪いんだけど)  
いつも元気なガウリイが寝込んでいる。動くのも辛いのだろう。普段は穏やかな雰囲気を持つ彼が、  
眉を寄せ瞼を下ろしている。  
 
普段が普段なだけに、ガウリイの弱った姿というものは居心地が悪くてたまらない。  
心配と罪悪感から世話をやいてはみるものの、素直に謝って優しく介護するには気恥ずかしい。  
 
「……リナ」  
横たわったままのガウリイが、来るしげな息の下からリナを呼んだ。  
「なによ」  
本当は優しく言いたいのだが、ついついぶっきらぼうな物言いになってしまう。  
ガウリイも分かっているのか、小さく苦笑する。  
「水」  
「ん。今持ってくるわね」  
ちゃんと寝てなさいよ、と一言付け加えて、リナは部屋を後にした。  
 
「……ふう」  
熱を出すのはどれぐらいぶりだろう?  
ぼんやりと古びた天井を見上げて、ガウリイは溜め息をついた。  
 
(なんかヘンな感じだな)  
熱を出してから、リナはなんだかんだ言いつつも側でガウリイの世話をやいている。  
リナは弱っているガウリイに、どう接していいか分からないようで、ふいに心細げに視線が泳ぐ。  
罪悪感も感じているんだろう。気にはなるのに素直になれないあたりが、幼い子供のようだ。  
 
 
ガチャリ。  
ドアを開けると、部屋の中にベッドがふたつ。  
そのうちのひとつに、ガウリイが横になっている。  
「ありゃ。寝ちゃったのか」  
水を持って戻ってみれば、ガウリイは眠っていた。高熱のせいか、寝苦しそうだ。  
端正な顔が苦痛で歪んでいる。  
リナは持ってきた水を側のテーブルに置き、自分は備え付けの椅子に座った。  
飲む用の水とは別に、盥に氷と水を入れて布をひたしている。濡れた布を軽く絞って、ガウリイの額  
に乗せた。  
(黙ってるとイイ男よねー)  
「こうしてると中身がくらげにゃ見えないわね」  
のほほんとした笑みは柔らかく、暖かくて好きだけど、と胸の内で付け加えてリナは苦笑を浮かべた。  
 
「ん……」  
髪が汗で肌に張り付くのが気持ち悪いのか、ガウリイの手が動く。  
丁寧に張り付いた髪を退けてやると、少しだけ表情が柔らかくなったようだ。  
(汗かいてるわね)  
触れた肌は熱く、汗で湿ってぺとぺとになっている。ガウリイの額に置いた布を氷水に浸け直し、軽く  
絞ってからガウリイの汗を拭った。  
「………ん」  
冷たさが心地良いのだろう。ぽやんとした無邪気な寝顔になっている。  
 
首筋を辿り、胸元へ濡れた布を滑らせる。パジャマのボタンを外して、脇や腹の汗も拭った。  
 
「………………」  
 
思わず目を反らす。  
 
(目に毒だわ)  
チラリと反らした視線を戻せば、パジャマをはだけられたガウリイの肌。  
「………………」  
目を反らしても、どうしてもその肌に視線が戻ってしまう。  
 
(あたしゃ変態かいッ!)  
 
どきどきどきどき……  
自分を罵ってみても、ガウリイの肌に視線が固定されてしまった。  
――はぅ。  
 
やはり自分は堪え性がないと溜め息をついて、リナはガウリイの肌に指先を伸ばした。  
 
自分の欲求に従い、ガウリイに触れる。  
しっかりとしたしなやかな筋肉が覆う胸に手をあてれば、強い鼓動が熱と共に掌から伝わる。  
リナは頭の芯が痺れるような錯覚に、ごくりと唾を飲み込んだ。  
獲物を前にした猫のように、ゆっくりと確実に狙いを定める。  
この熱い素肌に噛みつきたい衝動を必死で押し殺して、ゆるゆると男の肌を撫でる。  
(くらくらする……)  
掌から伝わる確かな熱と、力強い筋肉に酒に酔ったような酩酊感がリナを蝕んでいる。  
ガウリイの胸元を撫でていた掌は、いつの間にかその胸の突起を押し潰していた。  
「…………」  
熱い吐息が眠っているガウリイから漏れる。  
それは高熱故の苦しげな息なんだと分かってはいる。  
それでも唇の端が笑みにつり上がるのをリナは意識の隅で自覚していた。  
ひどく興奮しているのは、自分が優位に立っているからだろうか。  
 
「………ん」  
ガウリイの瞼がぴくりと動いた。  
「リナ………?」  
素肌に感じるヒヤリとした感覚に、ガウリイが目を覚ませば側の椅子に座ったリナが微笑んでいる姿  
が見えた。  
どこかいつもと違うリナの表情に、ガウリイがもう一度名を呼ぼうとすると唐突にリナが動いた。  
 
「!?」  
喉元に湿った感触。  
「り、な……?…っ」  
小さく名を呼べば、リナの小さな歯が肌に触れた。  
「ガウリイ、じっとしてて」  
それだけを言うと、リナはガウリイの首筋に自らの顔を埋めた。  
 
リナの掌は、あいかわらずガウリイの肌の上をさ迷っている。  
時折、首筋に舌を伸ばして彼の肌を味わった。  
「…………ぁ」  
触れているのは自分なのに、気を緩めると甘い声がリナの唇から漏れる。  
とろりと自分の中が潤っていることに、リナは知らないフリをしながらガウリイの肌の感触を楽しんでいた。  
 
「…んぁ……………」  
「リナ?」  
「なにも言わないで」  
リナの動きが変わる。ずっとガウリイの肌を撫でていた掌は、リナ自身の下腹部へ移動し、ガウリイ  
の首筋に自分の顔を強く擦りつけている。  
触れていただけで、我慢が出来なくなったのだろう。  
熱で荒い息をつくガウリイと、悦楽に乱れたリナの吐息が満ちる部屋に、ヂィ…っと微かな音を立て  
ジッパーを下ろす音が聞こえた。  
自身のズボンの前を寛げたリナは、ゆっくりと自分の指をズボンと下着の下へと滑り込ませた。  
伸びない布地のせいで狭い空間は、熱くなっている。  
「……あぁ」  
リナが漏らした熱い吐息が、ガウリイの首筋にかかる。  
リナは男の匂いを確かめるように、鼻先を擦りつけ、味わうようにガウリイの肌をしゃぶった。  
「リナ」  
「ん………んぅ…。ガウリ………あぁ」  
 
リナは蜜に濡れた場所に指を滑らせる。たっぷりと指先に蜜をすくって、柔い茂みの中心にある花芽  
に蜜を塗りつけた。  
「だめ……」  
震えが体を走り抜ける。  
「ガウリイ、見ちゃ…だめ」  
じんじんとした快感に、夢中で花芽をいじった。  
「おねがい。みないで」  
涙声で訴える言葉も、甘い吐息の下では誘い文句のようだ。  
「ひゃ…ぅ」  
感じていることを教え込むように、ガウリイの耳元でリナは甘く声をあげる。  
「んー…ん、んぅ」  
快感に濡れたリナの吐息が肌に触れて、ガウリイは目を細めた。  
「がうり……」  
最初はベッドの横にある椅子に座っていたリナだったが、その姿勢では満足に指が動かせないためか、  
いつの間にかガウリイの上に覆い被さっている。  
重たく感じる腕を持ち上げて、ガウリイはリナの髪を撫でると、仔猫のような甘えた声でリナが鳴いた。  
リナの下半身を隠していたものは脱ぎ捨てられて、床に散乱している。  
リナは一度身を起こして妖艶に微笑みを浮かべた。  
 
「ああぁ……っ!」  
男の顔の上に跨り、淫らに腰を振る。  
リナから溢れた蜜がガウリイの口許を汚している。  
もっと、もっととねだるように擦りつければ、熱くぬめった舌が秘唇をかきわけて中に侵入を果たす。  
ジュル…っ、じゅっぢゅく  
「ガウリイっ、がうり………」  
名を呼びながら髪を振り乱したリナの背が、一度大きくしなって崩れ落ちた。  
「んぅ……」  
満足気な吐息を漏らし、自分の唇を舐めるリナはまるで娼婦のようだ。  
「………っ」  
するりと伸ばされたリナの掌が、パジャマの布越しに男の象徴を撫でた。  
「ガウリイもしてあげる」  
「…り、な…………」  
男の股間を撫で上げながら、ガウリイの胸元へ唇を滑らせる。  
荒い吐息、かすれた低い声に熱い肌。  
その全てを愛しく感じながら、リナはガウリイの胸の突起を軽く噛んだ。  
ちらりと見上げてみると、ガウリイは目を細めてリナを見返した。  
いつもならばもう少し反応があるはずなのだが…高熱のせいか多少、彼の感覚は鈍っているらしい。  
執拗に撫でている掌の下の肉塊の反応も、いつもより鈍いようだ。  
 
「!!」  
いつもと違うガウリイの反応に焦れたリナが、強くガウリイのソレを握った。  
リナはすねて唇を尖らせると、噛みつくようにガウリイに口付けた。  
飢えた獣のように男の唇を吸えば、自分の出したいやらしい蜜の味がする。  
ガウリイの下腹に置いた手で、ズボンをひき下ろし、それを取り出す。  
荒々しく扱きたてれば、ガウリイの表情が歪んだ。  
それに気を良くしたリナは、手にした雄を自らの秘唇に導く。  
「んあ…」  
僅かに唇が離れて、思わず吐息が漏れる。ゆっくりと体重をかけてそれを飲み込んだ。  
「リナ、待………っ」  
制止の声をあげたガウリイの言葉を遮るように、もう一度唇をあわせた。  
「ん…んく……」  
奥深くまで飲み込んだリナのあえぎが、合わせた唇からガウリイの口腔内に響く。  
きゅうきゅうと蠢き、締め付ける肉壁が別の生き物のようだ。  
感じるままにリナが動き始めると、中に含んだ雄が大きく脈打ちだす。  
「く…っ…ぁ」  
「ガウリイ…あたしの中、きもちいい?」  
「リナ」  
「ひゃうっ!!」  
ガウリイは重く感じる腕を伸ばし、リナの腰に添えると、強引に位置を入れ換えた。  
 
「がうり…?」  
「…やられっぱなしで、たまるかよ」  
「あ、あっあああッ!」  
位置を入れ換え、リナを組伏せたガウリイが強く腰を打ち付ける。  
じゅぷじゅぷと卑猥な水音と同じリズムで甘くリナが声をあげる。  
溢れ、混ざり合った二人の体液が、結合部から続く溝を伝ってシーツに染みを作った。  
「あぁん、ん…っんぅ…ふぁ」  
「リナ、りな…っ」  
ガウリイの動きに余裕がなくなる。すべて飲み込むように、男の腰に白い脚が絡み付いた。  
「だめ、もぉ……っ、いっちゃう!」  
「りな…っ」  
強く締め付け、ひくひくと痙攣するリナの中に、たまらずガウリイは己の熱を吐き出した。  
 
「ん……ガウリイ?」  
「……………」  
「ぅわきゃあッ!」  
荒い息を整えながら、絶頂の余韻に甘い視線をガウリイに向ける。  
ぐらりと体が揺れて、そのままリナの上に大きな体が倒れ込んだ。  
「ガウリイ!?」  
情けない声でガウリイが言った。  
「すまん。動けない」  
「あー…。ごめん」  
「いや……」  
急に激しく動いたせいで、軽くめまいをおこしたらしい。  
「っいしょ」  
リナはガウリイの下から何とか抜け出す。突っ伏したままのガウリイに小さく口付けて、ベッドを降  
りた。  
 
 
激しい運動のせいか、あと三日ほど寝込むハメになる。  
今後『薬の人体実験をオレでやらないこと』の約束と、今回の薬のお仕置きで二人が宿を立つのは  
さらに三日後になったのだった。  
 
 
 

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