もそもそ……。
「うーっ」
頭まで毛布を被ったあたしは、寒さで目覚めた。
心の中まであったか気分で寝たものの、実際の寒さには耐えられなかったようだ。
もそもそ動いて手足を擦りつけても、冷えた体はなかなか暖まらない。
外は寒さをあおるように静かに雨が降り出していた。
(眠れない〜っ!)
心の中だけで叫んで毛布を強くかきあつめた。
じっと寒さに耐えていると、安らかな寝息が聞こえる。
隣のベッドで眠るガウリイだ。
(こんなに寒いのに、よく眠れるわね……)
羨ましさ半分、憎らしさ半分。
「………」
頭までしっかり被った毛布を僅かにずらして、暗闇の中で静かに眠るガウリイに視線を向けた。
彼は今、あたしに背を向ける形で眠っている。
広い背中が呼吸をするたびに、僅かに動くのが見えた。
彼の眠りに乱れはない。
眠れる時にしっかり眠る。旅の基本だけど、ガウリイの場合は何も考えていないだけなのかもしれない。
子供のような表情で眠るガウリイを想像して頬が緩んでいくのを止められない。
寒さを思い出さないように、じっと彼の背中を見ていた。
広く大きな背中はあったかくて、ひっつくとじんわり熱が伝わって気持良い。
「……………」
その感触を思い出してしまうと、落ち着くあたしだけの場所を求めて体がうずうずしてきてしまった。
それはまるで親にくっつきたがる子供のような感覚で、彼の優しい熱が恋しいと思った。
(ちょっとだけ……)
頬を擦り寄せた時の暖かさや匂いを思い出して、肌に感じる寒さが強くなったようだ。
「うっしゃ!」
あたしは小さく気合いを入れてベッドを降りた。
(さ〜む〜いぃーっ!)
裸足に感じる床の冷たさに泣きそうになりながら、ガウリイの眠るベッドにそろりと潜り込む。
ガウリイが起きやしないかとドキドキしながら、恐る恐る彼の背中に身を寄せた。
なんだか悪戯をする子供の気分だ。
(あったかい……)
ベッドの中はガウリイの体温で優しく暖かい。
じんわりとした温もりに、あたしは目を細めてひっついた。
背中に頬を寄せて、規則正しい呼吸にうとうとし始める。
確かに感じる鼓動が、子守り歌のようだ。
「んー……」
「ぅきゃっ!」
ガウリイが寝返りをうって、あたしは思わず悲鳴をあげた。
もぞもぞとしばらく動いて、こちら側を向いたガウリイがあたしを抱き締めた。
「………………っ!」
自分の心臓がバクバク煩くなって、顔に熱が上がる。
「むー…………」
寝惚けたままでガウリイがあたしに頬を擦り寄せる。
あたしは抵抗することも出来ないまま、硬直していた。
「んー……。……り、な?」
寝る前との違和感から、ガウリイが目を覚ます。寝惚けたままの声でガウリイがあたしの名を呼んだ。
「……あれ?お前さん、なんでこっちに居るんだ?」
「……………………寒くて目が覚めたのよ」
あたしを抱き締めたままで問掛けるガウリイに、あたしは頬を染めながら答えた。
「……………」
「……どうせまた、子供だって言いたいんでしょ」
ガウリイの笑う気配に、怒ったような声になってしまう。
「いや……。そういうんじゃなくて」
「なによ」
「かわいいなー、と」
ぼふっ
耳まで一気に熱くなるのが自分でも分かった。
この男はひどく幸せそうな声で、あたしを甘やかす。
「あたしはいつも可愛いわよ」
「そうかー?」
憎まれ口を叩くあたしに、喉の奥で笑いながらガウリイがぐりぐりと頬を擦りつけた。
抱き締められた腕は暖かく、誂えたようにぴったりとはまる彼の胸は心地良い。
心地良くて幸せなのに、高鳴る心臓が耳の奥で煩く感じた。
「……あ」
ガウリイが僅かに体を離した。
その隙間から感じる冷気に、身も心も冷える心地を味わう。
思わず心細い顔でもしてしまったのだろう。ガウリイは苦笑してから、あたしに口付けた。
軽く触れて離れた唇。柔らかく熱く、少しだけカサついた感触が擽ったかった。
「なんて顔してんだよ、お前さんは」
すぐ間近で青い瞳が、あたしを覗き込む。
あたしは何も言わずに、目を閉じて新たな口付けをねだった。
「ん……ふぁ、あ……。………ふ」
角度を変え、何度も絡められる舌は甘くあたしを痺れさせる。
交わった唾液は飲み込みきれずに、口端を伝って落ちた。
堪えようとしても漏れる吐息は、鼻にかかった甘い声になった。
薄目をあけてみれば、ガウリイの長い睫がすぐそこにあって、頭がクラクラしてしまう。
優しく甘く、うっとりと潤んだような青い瞳は、毒のように体の芯をうずかせた。
「は……ぁっ」
戯れるように小さく音を立てるキスが続いたかと思えば、卑猥な音を立てる濃厚なキスに変わる。
ガウリイから与えられる口付けは、数えきれないほどの色を伴って、あたしを翻弄する。
拙いキスを返すと、繋がった唇からガウリイが嬉しそうに笑うのが直接伝わってくるのが、恥ずかし
いのに嬉しかった。
「………ふっ」
抱き締められ、背に回された腕がするりとお尻を撫でて息が詰まった。
体の芯から溢れ出した熱をあおるように、思わせ振りにガウリイの掌がゆるゆると背中とお尻のあたり
を行ったり来たりしている。
柔らかな生地のパジャマは、直接そうされる以上にガウリイの掌の感触をリアルに伝えて、背筋を
ゾクリとした何かが這ってめまいを覚えた。
ガウリイの腕の中で身を捩ると、掌がパジャマの中に忍び込んで背中をなだめるように撫でられた。
「んー……っ」
擽ったさに瞼をきつく閉じて、抵抗にもならない抵抗をすれば、耳元でガウリイの吐息を感じた。
「リナ」
低く名を呼ばれただけなのに、あたしの中でうずく熱はとろりと溶け始める。
耳朶を甘噛みされ、舐められると濡れた音に思わず自分の内腿を擦りあわせた。
「いやらしくて、かわいい」
耳元で熱を孕んだ声で囁かれて、あたしは堪らなくなった。
「がうり……」
彼の上着を握り締めて、名を呼んだ。恥ずかしくて顔は上げられなかった。
腕が離れてパジャマを脱がされると、夜の空気が冷たく肌を撫でてぶるりと体が震える。
優しく包み込むように素肌を重ねて、熱を分けあった。
「ぁ……はあっ」
ぬるりと蜜で潤んだ場所に、ガウリイが指を這わせる。
あたしは堪らず、ガウリイに肌を擦りつけた。あたしの太股にガウリイの熱い塊があたっている。
いやらしいと思いながらも、その熱が嬉しくて少し力を込めてガウリイのそれを太股で刺激した。
「ん……」
目を細めて、ガウリイが低く吐息を溢す。
心臓がドキドキと痛いほどに強く、あたしの中で騒いでいる。
ガウリイの唇に自分の唇を寄せて、口付けた。
「……んぁっ、ああっ」
ゆっくりとガウリイの指があたしの中へと侵入を開始する。
太く節ばったガウリイの指を、熱く潤んだあたしの中が喜んで迎え入れる。
普段はあまり外に出さない淫らな本心を、体が全て語っている。
中に沈めた指とは別の指が、ゆっくりと花びらの回りを撫でて、充血してぷっくりと膨らんだ肉芽を
弄りだした。
体を小さく強い電流が突き抜ける。
「あぁっ!」
背をのけぞらせたあたしの胸の突端を、ガウリイが濡れた舌で舐め上げてチカチカと白く視界が染まった。
「だめ……がうり……ああっ、んぁ……はぅ」
「駄目って言ってもきかない」
「んーっ!ゃぅん……ぁ、あッ」
こりこりと舌と歯で挟まれた乳首が、もぞもぞするような快感を訴える。
下肢の蕾に与えられるピリピリとした快感に、熱く潤んでもっともっとと強張る秘部。
蜜をすくって、何度も蕾に擦りつけられて体が震えた。
「がう……り」
まともに呼吸することも出来ないまま、ガウリイの腕に爪を立てた。
「……………え?」
達してしまいたい、と思った瞬間に全ての愛撫が中断された。
「あ……っ」
太股を抱えられて、熱いガウリイ自身がぬめる割れ目をなぞった。
何度か確かめるように、潤いを纏わせるように擦りつけて、ガウリイが一気にあたしの中に侵入する。
「…………っ!!」
きつく瞼を閉じてその衝撃を耐える。
いつもに比べてあまり慣らされなかったそこは、キツくガウリイ自身を食んで蠢いた。
「………はふ」
熱い溜め息が首筋にかかって、そこからまた新しい快感が波紋のように広がる。
「ガウリイ………?」
「悪ィ。ちょっと我慢きかないかも」
困ったような笑顔に失敗したような顔でガウリイが情けない声を出した。
「オレ、全然ヨユウないかも」
「…あ、きゃぅっ!」
言って、急に動き出したガウリイにあたしは悲鳴を上げてしがみついた。
「あーっ、あ、あ。ん……ぅやぁ……ッ!」
深く浅く突き挿して掻き回されると、動きに合わせて嬌声が溢れだしてしまう。
「んっ、んん……っ」
「リナ……りな……」
「あぁっ、らめ……がうり……あたし、あたし……もうっ」
「ん……もう、ちょっと。リナ、我慢して」
首を振って無理だと訴えると、ガウリイが苦笑した。
「ふぅ……っ!」
ガウリイ自身であたしの奥のイイトコロを激しく貫かれると、あたしは意識を手放した。
眠りに落ちる前のおぼろ気な意識の中で、あたしの中からどろりとガウリイの放った熱い液体が溢れ
るのを感じていた。
その日の夜は、あたしが寒さで目覚めることはなかった。
……翌朝、ガウリイに抱き締められてぽかぽか暖かくて寝過ごしたことは、誰にも言えない。
【終】