―――誰がこうなることを予想しただろうか。
「んあっ…んんぅ…が、うりぃ…」
殺風景な宿屋の一室、月明かりだけが照らす部屋の中で、あたしは声をあげていた。
太くて、長くて、大好きなガウリイの指が、あたしの中をかき回す。
焦らされて、焦らされて、あたしが望むものを与えてはくれない。
「…んんんっ」
口をふさがれ、舌が絡まれる。
耳に響く水音と彼の舌の動きに、意識が飛んでしまいそうだった。
もっとも、もうすでに正気じゃなくなってたケド…
そう、あたしとガウリイは、いわゆる恋愛関係にある。
そもそもあたしの理想といえば
・相手はどこかの国のおうぢさま。(お金持ち)
・まばゆいばかりのハンサム
・いろんな知識が豊富なインテリジェンス。
・つおくて頼りになる
えとせとら、えとせとら。
上げていけばきりがない程の理想を持っていたはずなのに、
なぜかお相手は脳みそクラゲな剣術バカ。
まぁ、普通に強いし何だかんだ頼りにはなるし…
それに顔のことを言えば、正直あたしの理想以上のものだったのだ。
理想はどうあれ、あたしたちは一緒にいろんなことを乗り越えてきた。
お互いがこういう関係にあることに、別に何の疑問もないだろう。
あたしは心底彼のことが好きらしい。あんまり本人には言えないけどさっ。
「ふっ……や…んぁっ!」
上り詰める直前で、ガウリイの手が止まる。
長い間焦らされ続けて、あたしの身体は限界に近かった。
「ね…ガウ…りぃ……」
荒い呼吸を吐きながらぼんやりと目を開け、ガウリイの顔を見る。
汗で髪が濡れていて、いつも以上に色っぽい彼を見ただけで、あたしは胸がきゅうっとなった。
「おね…がい………あたし…もぉ…っ」
いつもより高くなった声が小さく響いた。
ギュッと目をつぶると、ガウリイの大きな手があたしの頬をなで、
汗でくっついた髪を耳にかけてくれる。
「ふあっ!」
それでもガウリイは与えてはくれなかった。
変わりに胸をきつく掴まれ、片方の先端を強く吸われる。
あたしはたまらず声をあげた。
「やっ、あ」
「リナ、お前さん大分胸が大きくなったなぁ」
低く甘く、耳元のあたりでガウリイの声がする。
そりゃあ…そうでしょうよ。
初めての日を迎えてから、それこそほとんど毎日してるんだから。
最初のうちは痛くて痛くて、何が気持ちいいのかさっぱりわかんなかったけど、
ただ…ガウリイとひとつになれるっていうことが嬉しくて…
重なる肌の体温とか、名前を呼んでくれる声とか、あたししか知らないガウリイ。
それだけで十分幸せだった。
だけど、段々それだけじゃあ足りなくなってくる。
快感を覚えてしまった身体が、彼を求めてやまない。
精神的な愛情も、肉体的な繋がりも、そのどちらも欠けてはいけなくなったのだ。
「おねがい…ガウリイ…」
目に涙を浮かべて、あたしはそう言った。
それでもガウリイは黙ってあたしの首筋に紅く跡をつける。
たまらず彼の首に両腕を回し、しがみついた。
と、思ったら。
力では到底敵わないのを見せ付けられるように、ガウリイがあたしをベッドに押し戻す。
「ちょっ…!」
上体を起こそうと思ったけど、与え続けられる刺激で身体が思うように動かなかった。
上がりきった呼吸をしながら、あたしはかろうじて声を出す。
それなのにガウリイはまたきわどいところを愛撫しはじめた。
「やっ、やだ!…ふっ!」
今度は両足を持ち上げられ、彼の舌があたしの中に入れられる。
抵抗したくても、出来るわけがなく…
ただされるがままに、声をあげることしか出来ない。
わざと大きく水音を立てられ、羞恥心が湧き上がる。
いくらそういう関係になっても、あたしだって乙女。やっぱりこれは恥ずかしいのだ。
「あっ…ん!くぁっ」
またしても。
直前で止められて、あたしは荒く息をついた。
足の間から、口の周りをあたしの愛液でぬらしたガウリイが顔を上げる。
こんなことをされてもなお、あまりの色っぽさに胸が締め付けられるのを感じた。
「…ど……して…こんな……」
あたしはほとんど声にならない声で訴える。
ガウリイはただ身体を起こし、あたしの上に覆い被さった。
「今日」
「…え……?」
「今日、お前さん何を話してたんだ?」
「な…に……」
ガウリイの顔は怖いくらい真剣だった。
わけがわからず、静かな部屋の中にはあたしの乱れた息遣いだけが響き渡る。
無意識に伸ばしかけた両腕が、ちょうど顔の横辺りで押さえつけられた。
「ふたりだけで…何を話してたんだって聞いてるんだ」
「いた…ガウリイ…痛いよっ…」
手首に力が込められる。
逃げられない…
「なんであそこにあいつがいたんだ」
ひどく冷たく響く低い声に、あたしはようやく事態を理解した。
話は今日の昼間にさかのぼる。
ここの宿を取ったあと、あたしとガウリイは街の中へ買い物をしに出掛けた。
これからしばらく分の食料や、あたしはマジックアイテムなんかをさがして…
ちょうど街の中心辺りへ行った時に、ふと魔道士協会を見つけたのだ。
いろいろと見てみたいものもあったし、旅の途中でためたレポートなんかを高く売りつけようと、
ガウリイとしばし別行動をすることになったのである。
あたしが協会にいる間、ガウリイは近くの武器・防具店を見て回ると言って
1時間後に噴水の前で待ち合わせ。
ところがあたしの方が思ったより早く終わり、かと言って他の店に入るには間に合いそうにも
ない時間だったため、結局噴水の前で待ちぼうけをしていた。
そう、ちょうどその時だった。
どこからともなく現れたあの生ゴミ魔族こと・獣神官ゼロス。
それこそ一体何の用なのかも忘れたくらい、ほんとにくだらないことであたしに話しかけてきた。
何しに来たのか、それはそれで疑問の残る登場だったケド。
確かゼロスがいたのはほんの数分。ガウリイが来る直前に姿を消した。
そうか…ガウリイはあれを見てたんだ。
別に合流した時は何も聞かれなかったし、ほんとーーに大した用でもなかったみたいだし、
あたしもゼロスのことは口にしなかったのだ。
―――誰がこうなることを予想しただろうか。
「…ぷっ」
ようやくわけがわかった途端、ついついおかしくなってしまう。
「何がおかしいんだ」
相変わらず冷たい声で言い放つガウリイ。すごく不機嫌そう。
そうか…そうだったんだ。
「ガウリイ…嫉妬してるの?」
「悪いか」
「…うぁっ」
ついつい顔を緩ませてたら、不意打ちとも言える攻撃を耳にくらう。
「だ…って……ガウリイ…いっつも、んっ!」
「…いつも、どうしたって?」
ああ、もうだめ。
すでに限界が近かったあたしの身体は、再び再開された彼の愛撫にやたら敏感に反応する。
「い……つも……っ……のんきそう…だし…あんま、そういう…のっ」
「俺だってな」
ふと、ガウリイの手が止まった。
やだ…止めないでほしいのに…
「何にも考えてないわけじゃないんだぞ」
「ふえ?そうなの?」
「お前さんのことになると、正直冷静でいられる自信はないな。
ほんとは…ゼルなんかとも話してほしくないし」
うわぁ…どうしよう…
そりゃあ、あたしだってそうだけどさ…
それ以前に、あたしの理想で言えば“束縛とかは大嫌い!”っていうか
とりあえずあたしはあたし、誰のものでもない!っていうようなポリシーがあるし
正直、昔はあんま想われすぎても迷惑かもしんない…とか思ってたトコあるし…
でも…何て言うか…こりはちょっと、嬉しすぎるかも?
「あのさ、ガウリイ。あたし…別にゼロスと何があったってわけじゃないよ。
まぁ…今となったらあのすっとこ魔族、わざとやったんじゃないかとも思うけど…
ほんとに、何の用があって出てきたってわけでもなかったの。」
「ふうん」
それでもガウリイはまだ不機嫌そうだった。
「それにしても…ガウリイがこんなことで嫉妬するなんて、思いもしなかった」
そう言ってまた笑い出しそうになった途端、ガウリイ自身があたしの中に入ってきた。
「っあ!ん、はっ、ああっ!」
いつもより激しいそれは、さんざん焦らされ、求め続けていた身体には刺激が強すぎた。
「がう…り…あンっ、や…ふっ…ぅ」
「リナ…っ」
息を切らして、せつなくあたしの名前を口にするガウリイ。
あたしは必死で力を入れて、彼の背中に両腕をまわした。
強すぎる刺激に、思わず爪あとを残す。
「あ…たしっ…」
うまく、言葉が出ない。
ガウリイはペースをさらに速めていく。
「っは!ああ、んっ、あっ」
生々しい水音、喘ぐ声、ふたりの荒い息遣い、肌が当たる音、ベッドの軋み。
静かな部屋の一室に響きわたる。
ガウリイ、ガウリイ、ガウリイ―――…
薄い壁の向こうに人がいないことを願うほど大きな声を上げて、あたしは果てた。
「…ん……」
さやさやとカーテンが揺れる音がする。
きつくあたしを抱きしめたまま眠るガウリイの顔が目に入る。
下半身の違和感…まだ繋がったままなんだろうか。。
あんまりに敏感になりすぎて、もう何がなんだかわからなくなっていた。
「長いまつげ…」
ぽそりとそんなことをつぶやいてみる。
規則的な寝息が耳に心地よく響いた。
―――あたしはガウリイだけだよ―――
ちゃんと言えてたのかなぁ…恥ずかしくて面と向かっては言えないかもしんないけど、
たださっきふたりで愛し合いながら、そんなことを口にしたかった気がする。
とても喋れるような状態じゃあなかったけどね。
…まぁ、男女のふたり旅だし
何度も生死を分けるようなピンチを一緒に潜り抜けてきたし
あたしたちがこうなることには、多分誰も疑問なんてなかっただろうな。
アメリアだってこうなることを望んでたみたいだし。
だけど…お互いがここまで溺れるなんて、誰が想像しただろう?
あたしでさえ、自分が、ガウリイが、こんなふうになるなんて思ってなかったし…
でも、そういうのもわるくないかな…なんて。
甘くてけだるい疲労感に襲われて、あたしはまたまぶたを閉じた。