ミガワリ。  
 
 
彼女はチガウ。リナデハ、ナイ。  
ガウリイ=ガブリエフは涙をこぼす。  
 
 
 
 
 
彼女は違うのだと、そう気づかなかったわけではなかった。  
確かに始める前なら、たんに記憶が無いだけかもしれないと、自分を騙すこと  
が出来た。  
しかし、行為を始めてしまえば、腕の中の少女が無垢かそうで無いかなど、一  
目瞭然だった。  
男を知らぬげに、捩る華奢な躰。  
いや文字道理、彼女は異性をしらないのだろう。  
 
初めてか、そうでないかなど、よく知った身体ならなおさらなのだ。  
わずかに感じていた、違和感。  
彼女が記憶を失っていることが原因だと、彼がそう思いこんでいたのは、そう  
思いたかった彼自身の責でもあった。  
あんなに優しく彼の心を受け止めてくれていた彼女は、どこにいるんだろうか。  
また、探しに行かなければならない。  
 
敏感な彼女は、身をよじり。吐息を漏らす。  
痛みに寄せる眉さえ、愛しい。  
そっと抱きしめ、蹂躙する。  
 
彼女ではない。  
よく知った身体、声。吐息さえ同じなのに。  
この彼女は間違いなく初めてで。まさか、とか、やっぱりとか思いつつも、彼  
女ではない彼女に涙がこぼれた。  
リナではない、リナ。  
真っ直ぐな眼差しも、甘い肌の匂いも。  
髪もひそめた声すら彼女と同じだというのに、彼女と同じ過去を持たない、リ  
ナ。  
自分の腕の中にいるのが、彼女では無いというそれだけで、これほど悲しいこ  
とは、無かった。  
 
「あたしは、リナのコピーかも、知れないから」  
涙を浮かべて訴えた、先ほどの少女を思い出す。  
確かめて欲しい、と。そう密かに、毅然として、ささやくリナ。  
彼女の不安を思えば、どれだけ本物であることを願ったことか。  
 
 
故郷に行くのだと、笑っていたリナを見失ってから、この半年。  
半狂乱であちこち探し回った。  
なのにようやく見つけだした彼女は、共に旅した過去の全ての記憶を失ってい  
たように見えた。  
まるで見知らぬ人を見る目で、見上げる少女。  
 
その目は初めて街道で出会った時のようで、生涯を共にするべく契った相手と  
は思えなかった。  
けれども、考え方も、腕の細さも仕草も。上げる悲鳴さえ、同じリナ。  
 
渦巻くつむじから、足の爪先まで隈無く口づける。  
 
 
髪の先まで愛しい彼女。  
 
『コピーホムンルクスという可能性も、ある』  
 
そう言ったのは、ゼルガディスだ。  
そのコピーなんとかは、血肉や髪の毛、爪などから作られるのだと。  
魔物と合成された経験のある彼は、眉をひそめ、そう教えてくれた。  
 
「もし、あの”リナ”が、リナ=インバース当人ではなく、コピーならば、  
リナの身体の一部を原料として作られたのは間違いない」  
 
少し先を歩く栗色の髪の少女に聞こえないよう。  
声を潜めて苦しげに彼は口にしていた。  
アトラスという街で、一人暮らすルビアという女の存在を彼は知らない。  
 
リナの物だと思えば、髪の毛の一筋さえ愛しいのだ。  
ましてや、同じ考え方をし、同じ瞳をもった、同じ姿の物なら。  
 
 
 
夜が明けても、オレは真実を口にしはしない。  
 
不安に揺れる瞳に向かって、実はお前はコピーであると。  
リナ=インバースの姿を象った、単なる写し身に過ぎないのだとは。  
そしてたとえ、写し身に過ぎないと知っていても。  
惚れた女の絵姿を抱きしめるのと同様に、愛しくて堪らないなどとは。  
 
手の届かない処で、リナの姿を持つ者が、オレ以外の人間に笑い掛ける事を思  
うと胸が苦しくなる。  
たとえ当人でなくとも、側にいて欲しいのだなどと。らちの無い事など、口に  
出せる筈もない。  
 
脳裏に浮かぶのは、残酷な現実。  
何人も現れる、リナの姿をした女達。その憎悪に満ちた瞳。  
 
憎しみさえ込められた彼女達の視線に耐えることが出来たのは、本物の彼女が  
横にいるのだと思えばこそだった。  
彼女の姿を持つ者を害しても、狂わずにいられるのは、本物の彼女が無事でい  
ると信じていたからだ。  
 
もしも、あの中の一人でも、本物のリナが混ざっていたら?  
そう考えることは、自分にとって恐怖以上のものだと知る。  
 
 
置き忘れられた、彼女の手袋と同じくらい。大事で愛しい少女。  
なんと卑怯な男なのだろう。  
ああ、リナ。お前さんが知ったら、怒るのだろうな。  
 
本人では無いと判りながら、何故最後まで抱いたのかと。  
真っ赤になって怒鳴るその顔が浮かぶ。  
お前によく似た心と姿を前にして、心安らかでいられなかった。  
もしかしたら気のせいで本人なのかもしれないと、最後まで希望を捨てられな  
かったのだ。  
そう、言い訳しても、きっとなかなか許してくれまい。  
 
だけど、奪われたままのリナを取り返さなければいけない。  
無事ではないかもしれない、そう思うだけで心が竦むのだ。  
もしも、一生あえないと知れば、その時から時間は歩みを止めるのだろう。  
 
だが、たとえ自分の生命の火が消える最後の一瞬までも、本物のリナを腕に抱  
くことをあきらめないとも思う。  
 
骨の最後の一片までも。リナを取り返すまでは、あきらめてたまるかとも思う。  
 
疲れ切って眠る少女を胸に抱いたまま、夜更けの寝床の上で仰向けに転がった。  
たとえリナ当人でなくとも、リナの一部分である。  
そう考えるだけで愛しさに気が違いそうになる自分を嗤う。  
 
奪われたままの彼女も、腕の中の”彼女の一部分”も誰にもやれない。  
そんな狂った独占欲が我ながらおかしい。  
声も立てずに、嗤う。  
 
どこまでもリナと同じ柔らかな髪、そのこめかみに口づけし、ぎゅっと抱きし  
める。  
そして鳩尾に空虚を抱きながら、ただ目を閉じて、じっと空が白むのを待つ。  
 
不安に滲む笑顔に、すまん、よくわからなかった、そう謝罪する朝が、再び始  
まる探索の始まりなのだと知って。  
 
涙がこぼれた。  
 
 
終わる。  
 

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