「そのぱんつを、か?」
「そうよ」
宿の一室で、面食らったような顔のガウリイに、あたしは頷いた。
「だけど。どう見ても…単なる普通のレースだぞ」
あたしは、手の中の布きれをみる。
ガウリイはパンツと言ったが、正確に言うならば、白いショーツだ、華麗な程に全面総レースの。
形状は、広げると砂時計を横から見た図に似ていて、その上下左右の各四隅に、着用時身体に固定する為の細い紐が一本ずつ付いている。
ようするに、ごく普通のバタフライショーツ。つまり、今時女性なら誰だって履いているアンダーウエア、な訳だが。
「そう見えるわね、だけど…」
「オレは絶対イヤだぞ」
ガウリイが心底いやそうな顔で拒否する。
「えええええっ!なんでよガウリイ。その辺で買えば、10万はするのよ!」
「賊からちょろまかしたんだから、元手はゼロだろーが!」
「そんなこと言わないで、一回ぐらい」
「そんなに試したいんだったら、リナが自分で履きゃいいだろう!」
今朝たまたま道ばたで出会った、追い剥ぎの更正を手伝ってみた所、その人物は涙を流して感謝し。
お礼の印にと、彼が差し出したエルフの魔道具、というのが、今回の議論の元であった。
「それにしても、本当にそれ、エルフの道具なのか?」
と、疑わしそうに白い布切れを見る。
「あなた、エルフのスレイブ織りをしらないの?」
「……なんだそれ?」
「あたしも効能は詳しくは知らないんだけど!元々はエルフ懇意のとある城主が、エルフに依頼した作らせたモノだって、もっぱらの噂よ!」
「詳しくは知らないって……リナお前なあ、んなの他人に薦めるな!」
「だって、姉ちゃんが、子供は使っちゃいけないんだって、ちゃんと教えてくれなかったんだもん!」
「お前さんの姉ちゃんが?」
「そうよ、あたしの故郷の大人の人は、み〜んな持ってるんだから!」
嘘ではない。衣料としては、かなり高価な部類に入るスレイブ織りなのだが、郷里の女性の間でもてはやされていて、成人女性なら誰でも一枚は持っているという、ちょっとしたオトナのステイタスであるアイテムなのだ。
もちろん魔道具としての、効果もある。
ごく子供の頃の仲間内での噂だと、なんでも身体にもの凄くイイらしい。
もっとも、成長期の子供には刺激が強すぎるということで、あたしは姉ちゃんに大人になるまでは触っちゃいけないと、言い聞かされている。
まだまだ伸び盛りの筈のあたしには、まだ早いアイテムなのだ、たぶん。
ちょっと、いやかなり残念だけど。
「大体なんで、コレが魔道具なんだ?」
「知んないけど、これを着ければなにかスゴイことが、起こるはずなのよ!」
「凄いことってなんだよ?」
「分かんないから、ガウリイに試して貰おうとか思ったんでしょうが!」
「やっぱり実験台なんじゃないか!そもそもコレ、デザインからして女向けだろ? なんでリナが自分で試してみないんだ?」
「だって…」
「だって?」
「なんかちょっっぴり怖いじゃない。それに、副作用は無いって言うしー」
子供にとってはキビシイものでも、ある程度大人になると無害なのだ。
母ちゃんが言っていたのだから、間違いはない。
しばらくガウリイは考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。
「……本当に副作用は無いんだな?」
「間違いないわ」
どうやら、使ってみる気になったらしい。
魔道具に手を伸ばしてくる。
その節だった大きな掌にそれを乗せてや―――
「うにゃあ!なんであたしを担ぎあげるのよっっっ!」
白いスレイブ織りを手にしたガウリイは、素早くあたしをひっつかまえると、あぐらをかいたまま。
米俵を扱うようにヒョイとあたしを担ぎ上げた!
「そんなに試したいんだったら、協力してやるよ」
ガウリイは、にやりと笑う。
あ、言い忘れたが。
あたしとガウリイが今いるのは、宿のガウリイのベッドの上で。
おまけに、ふたりとも全裸であった。
「降ーろーせぇぇ〜!」
あたしは暴れた。
ガウリイの肩に担ぎ上げられた不安定な状態で、いやもう、しっちゃかめっちゃか、暴れまくった。
あんまり効果は無かったけど(泣)
この際、すっぽんぽんだとか、夜中でご近所にご迷惑だとかは、気にしていられない。
なにしろ、スレイブ織りである。オトナ専用の魔道具なのである。
それはもう、興味はある。尽きせぬほどにある。が、しかし。
姉ちゃんが昔あたしに言った、『成長期の子供はダメよ』という言葉が、あたしを不安にさせていた。
あたしはある意味大人である。
世間に出て、ある程度経験も積んでいるし、そこらの駆け出しの兄ちゃん達に比べれば、精神的にも十分オトナだと思う。
おまけに、某エロ保護者のおかげで、性行為の経験も、やや初心者ぎみではあるが、ちゃんとある。
しかしながら、肉体的にも完全に大人かと問われれば、若干不安の残るところだった。
いやむしろ、身長と胸囲に関しては、まだまだ改善の余地がある筈なのである。
……あると思わせてもらいたいっ(泣)
そんなわけで、ここで下手に余計なことをして、運悪く成長を止める羽目にでもなれば……おそらく生涯、悔やんでも悔やみ切れない重荷を、あたし達は背負うことになるのである!
おっぱい大きくなんなかったら一生涯、枕元で恨み言、つぶやいちゃる!
とかなんとか言っているうちに。
「あ!こ、こらガウリイっ!」
「はいはい、黙った黙った。そんなに大声だすと宿屋の亭主が飛んでくるぞ♪」
ばたつく足を片手であっさり押さえられ、器用に問題の布きれを装着させられる。
「おにょれ〜! ガウリイっ、後で見てなさいよー!!
おっきくならなかったら、あんたの所為だかんねー!!」
相棒の肩の上で上半身逆さ吊りの状態のままでは、どうもこうも、上手く暴れることが出来ない。
素肌の背中が、あたしの胸とか、乳首とかに当たってこすれて、なんともかんとも。
くそお。こうなったら、このでっかい背中を思いきし引っ掻いて……。
「ほーら、リナ。これで出来上がったぞ」
ごっつい指が、細くて白い紐をゆっくり、チョウチョ結びに結わえる。
ご機嫌なガウリイの声が聞こえる、が。
「どうだリナ?凄いことって何なのか分かったか?」
つつつ、と紐の上を彼の指が走るのを、歯を食いしばり、必死で目をつむって、耐える。
「どうした、えらく、静かになったな?」
腰を抱える太い腕が、支える大きな掌が、純白のレースの縁に擦れる。
「っっ!」
叫びだしそうになるのを堪えるのが精一杯で、返事をする余裕なんてない。
「…んっ」
息を詰めて、襲ってくる波をやり過ごす。
「リナ?」
さすがのガウリイも、あたしの様子がおかしい事に気付いたのか慌てて、あたしの体を下に降ろす。
その降ろす時に触れた、手の動きと温度、シーツに触れた刺激で、流石のあたしも悲鳴をあげた。
「あああっ、いやぁぁぁぁーーー!」
仰向けに降ろされた状態のまま、必死で腰を上げ、紐に手を伸ばす。
簡単に結わえられただけのそれは、少し引っ張るだけで、容易くほどけるはず、だった。
「なんでぇ…」
びくともしないチョウチョ結びに、あたしは唖然とした。
必死でほどこうとするその行為を嘲笑うかのように、その紐は全く弛まず、あたしの指に絡みつく。
「あっ、あっ」
さっきとは違う意味で、半泣きになりながら、紐をむちゃくちゃに引っ張ってみるが、まったく意味をなさない。
「リナ!苦しいのか!?大丈夫なのか!?」
「ちが…、あう!!!」
解いてくれようとしたガウリイの手指が、表面のレースに触れたとたん走った、よりすごい刺激に悶えて、叫んだ。
「あああ、さわっちゃ、さわっちゃ、だめーっ! 中が…中が…感じちゃう!!」
スレイブ織り。その本来の機能を知ったのは、ガウリイがそれの左の留め紐を、結んだ時だ。
まず初めに感じたのは、ものスゴイ官能の疼きだった。
あたしの総てが、一瞬で濡れ、あらゆる部分が刺激を求めた。
そして、右の紐を留められると同時に、一番感じる部分へ刺激が―――。
たぶんこの魔道具は、女性の性的欲求を高める為の小道具なのだ。
仕組みはよく分からないが、布の表面が性感帯に、リンクしているのは間違いない。
つまり、一見ただのレースに見えるが、一度これを着用すれば、その表面に軽く触れるだけで、着用者に快楽を送り込めるという寸法である。
もっともあたしの見たところ、どうやら単に触覚を繋いでいるわけではなく。
おそらく魔道の技術を作って織られたレースが、疑似的な性的触覚を作りだし、それを着用した者に、性的刺激を錯覚させているのだろう。
しかしながら、その擬似的な触覚は、現実の快感と寸分かわらず。
このような事態を全く予期していなかった、このあたしを瞬く間に翻弄した。
まあよーするに、ガウリイが両方の紐を結ぶ、すなわちパンツの装着を完了させた途端、あたしは感じて悶えだしたのである。
「あっ、あっ、あっ」
あたしは、快感に悶えながら、いっこうに解けようとしない紐をいじくった。
面倒な事に、先ほどからのガウリイの手による刺激や、ベッドに降ろされた時の衝撃から察するところ、布表面は膣内の触覚に干渉しており、そして紐は……。
「あうっ、さわっちゃ、だめだったらっ!感じちゃうよお!!」
再度解いてくれようとする、ガウリイの腕を遠ざけようと、もがく。
「だけど、リナ。そんな風にひっぱったら…」
叫ぶあたしに驚きつつも、困惑したまま紐を離さない彼の手を捕まえて、あたしは息も絶え絶えに囁く。
「…それ……さわっちゃ…だめぇ」
「それ?」
ガウリイは自分の手の中に視線を落とす。
手にあるのは、二本の紐。蝶々結び。さっき彼が自ら結わえたものだ。
「やだ、だって、それ、あたしの…あああ」
「リナのっ…て、何が? おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫…だ、けど。あん、いや。先っぽもっちゃ」
「でも、持たなきゃ、解けないぞ」
「あ…、しごいちゃっ…ああ」
「へ?なんだって?」
「そ…な風に…、んああ。そんな、ふうに、したら…きもちよく、なっちゃう…よお」
もうあたしは、自分で何を言っているのか判らなくなっていた。
結わえられた紐の表面は、あたしのクリトリスの性感帯にリンクしていたのだ。
すでに異様なほど感じている状態で、その紐をいじり回されたらどうなるのか。
すでに何時イッてもおかしくない状況に、あたしは追い込まれていた。
絶え間のない、ぞくぞくとした快感の白いしびれが全身を走り。
視界は紗がかかった様な有り様で、チカチカしていた。
口から流れ落ちる唾液を、止める余裕すらない。
ガウリイのがっしりした腕に、爪を立ててしがみつき、意識が何処かに飛ばされるのを、こらえる。
もうだめ、イっちゃう!
そう思った瞬間に、刺激が止んだ。
(続く)