それは、突然現れたのだ。  
真夜中の寝室に、にっこりと変わらぬ笑みを浮かべた影が覆い被さるように。  
 
「こんばんは、フィリアさん」  
 
その懐かしい声に、フィリアは固まる。  
それを変わらず楽しそうに見つめながらゼロスは口を開いた。  
 
「遊びに来てみました♪」  
「来ないでくださいっ!!」  
 
ただでさえ気掛かりなことがある日なのに、と。フィリアは小さく呟いて上体を起こそうとするが、それはたった一本の指で止められた。  
 
「おやおや。まったく貴女は酷いですねぇ。一緒に戦った仲じゃありませんか」  
「…何のことですか、生ゴミ魔族」  
「ああーっ!!なんでそう言うこと言うんですかっ!?生ゴミって言った方が生ゴミなんですよ!!」  
「貴方と一緒にしないでください!!穢らわしいっ」  
 
もはや会った頃から決まったような子供の喧嘩を繰り返すと、日付が変わることを知らせる鐘が夜の街に鳴り響く。  
それをきっかけに、もう。と先に折れたのはゼロスだった。  
 
「フィリアさんのことを思ってきた僕に対してこういう態度をとるなんて……僕はとーっても傷つきましたので、少し仕返しさせてもらおうと思います」  
「なんで私が貴方に―――ッ!?」  
 
溜め息を付きながら言うゼロスに歯向かうようにフィリアは叫ぶがその直後、世界が豹変し一瞬にして異空間に変わる。  
 
「なっ…」  
 
変わらないのはベッドとそれに沈むフィリアの姿。  
そして、ベッドの横で立つゼロスの笑みだけだった。  
 
 
先に動いた影はゆっくりと芝居がかったお辞儀をして見せる。  
 
「僕はこれでも高位魔族でして。これくらいなら出来るんですよ」  
 
これでも、と言うところを些か強調して、ベッドに沈むフィリアを覗き込むように近づいていく…。  
 
「貴方、何を考えてっ…!!」  
「それは秘密です」  
 
そう言いながら緩やかに覆い被さるゼロスに対してようやく硬直が治まったのか枕元にある筈の鈍器に手を伸ばしたものの――フィリアの手は空を切る。  
 
「…あ、れ?」  
「駄目ですよ、フィリアさん。僕って魔族では珍しい、コメディ体質と言いますか…演技派なもので、ついつい大袈裟に反応しちゃうんですよー。  
だから、隙が出来ちゃうでしょう?僕が困っちゃいますから」  
 
鈍器を軽々と持ちながら、変わらぬ笑みを浮かべるゼロスを顔を視界に据えると――思いきり拳を叩き込む。  
 
「ぶへぁっ!?」  
 
見た目は可憐な女性であるフィリアも、元を正せば黄金竜。  
もちろん腕力も比べものになる筈もなく、遙か闇の星になるよう飛んでいく。  
 
「まったく。コメディ体質だか何だか知りませんけど、帰ってください」  
 
殴った勢いで起き上がったフィリアはパンパン、と手のひらを叩いて埃を払ってベッドから降りる―――と。  
 
「嫌ですよー。僕の用事済んでないんですから」  
「ひぃ!抱きつかないでくださいっ」  
 
闇の星になったかと思えばまた戻ってきてちゃっかりと背後から抱き締めていた。  
そんなゼロスにまた反抗するようにみぞおちに肘鉄を食らわすが、今度は通用しないらしく涼しい顔をして笑みを浮かべる。  
 
「ねぇ、フィリアさん。僕の暇潰しに付き合ってくださいよ」  
「はぁ!?どうして私が…!!」  
 
涼しい顔をしていてもなお肘鉄で無駄な抵抗をするフィリアに苦笑いを浮かべる。  
 
 
「ほら。僕とフィリアさんの仲じゃないですか」  
「抱きつかれるような仲になった覚えはありませーんっ!!」  
 
キィキィと長く叫び喚くフィリアを見て諦めたのか疲れたのか。  
 
「ちょっと失礼しますよ」  
 
くるんとフィリアを回して向かい合わせると不意に口付けを落とす。  
それが思わぬ行動故か、身を強張らせゼロスの体を押そうするが、フィリアの体はゼロスの腕で拘束されていて然程力は入らず。  
元々次元の違うゼロスはびくともしない。  
 
――それどころか。  
 
 
「んんっ…!?」  
 
唇の隙間からするりと入る舌がフィリアの上顎を撫でて、その身を軽く震わせる。  
 
「んっ…ぅ…ふ」  
 
それに気分を良くしたのか舌はその口内を蹂躙し始める。  
初めは擽るような感覚だったものが、徐々にフィリアの意識を奪っていき、唇を離すときには唇の端から涎を少し足らしながらとろんとした涙目でゼロスを見つめた。  
 
「ふふっ…誘ってくれてるんですか?」  
「えっ…は?」  
 
未だにまだはっきりしないせいか、とんでもないことを言われているのにフィリアは理解出来ずにいた。  
だから余計に凝視してしまう。  
 
「そういう目で見つめられて、誘われない男って少ないんですよ?知ってましたか?」  
「っ、…きゃ!!」  
 
抱き締めていた腕はするりと下りてフィリアの尻を軽く撫でていた。  
 
「ちょっと、ゼロス…っ!!」  
「ああ…――」  
 
判断力が戻ったのか反抗しようとするフィリアの耳に口を近づけて、なぞるように舌を這わせながら低い声で呟く。  
 
「神に仕える巫女でしたから、初めてでわかりませんか?」  
「……いやっ、耳は止めて…っ」  
 
普段人目にも晒さず触れさせもしなかった耳はフィリアにとって屈辱的であり、同時に何より敏感になる箇所。  
 
だからかその身体は強張って、目をキツく瞑る。  
 
「おやおや。そんな可愛らしいことを言われて僕が止めると思います?」  
「……思いません」  
「じゃあ諦めてくださいね♪」  
「そんな明るく言わないでぇー―っ!!!」  
 
叫ぶと一度中断したかと思えば再開するその舌の動きにフィリアは嫌悪感と同時に甘い痺れを感じていることに戸惑う。  
 
「…っ…いやっ…」  
「とか言って、耳で充分感じているみたいですよ?」  
 
抱き締めていた腕が形を作り始めていた乳首を擦る。  
それに思わぬほど身体を揺らして反応したのにフィリアは驚いていた。  
 

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