サンタガール  
 
「メリークリスマス、リナさん!」  
 脱力を通り越して、リナはベッドから転がり落ちた。  
 サンタガール姿。  
 の、獣神官に寝室にやってこられたら、恐らく誰でも似たようなリアクションをするだろう。  
「リナさん、大丈夫ですか?」  
「な……な……」  
「どうかしましたか?」  
 ガバッと跳ね起きる。「何なのよっ、アンタのそのカッコは!」  
 にっこり笑って、くるりと一回転。「似合うでしょう?」  
「キモいわっ!」怒鳴ると、げんなりした顔になってうつむくリナ。  
「……大体、アンタ、クリスマスとは犬猿の仲じゃないの?」  
「どうせ皆さん、クリスマスなんて宗教的な意味はないんでしょう?僕にも関係ありません」  
 関係ないにしても、とにもかくにも、やめて欲しい。  
「それにしてもリナさん、クリスマスデートの相手、いないんですか?」  
「いないわよっ、悪かったわねっ!」思いっきり怒鳴り返すと共に、咄嗟に呪文を口にしていた。  
「うわ、わわわわ、ストップ!どうしてそんなにご機嫌斜めなんですか?」  
 呪文の代わりに、溜息が漏れた。  
『こんなことなら、ガウリィの仕事、手伝えば良かった……』後悔しても、もう遅い。  
 クリスマスに仕事なんかできるか、と用心棒を頼まれた彼を放って、一人ホテル。豪華な部屋に  
豪勢な食事も、一人じゃさみしいだけ。  
『別に、ガウリィとも恋人ってわけじゃないけどさ……』ぼーっとしていたリナだが、自分をじっく  
り見ているゼロスに、我に返る。  
「な、何よ」  
「ですから、メリークリスマス!」  
「その前に、そのキモい服、脱いでよっ」苛立ちもあって、殊更大きな声になってしまう。  
「えー、こんなに似合ってるのに」  
「回るんじゃない!」  
 うーん、と考えるふりをするゼロス。  
 ポン、と手を打ち。「じゃあ、こうしましょう」  
 パッ  
「ひゃっ!?」一瞬にしてゼロスはいつもの姿に戻り、代わりにサンタガールと変わるリナ。  
「今度は何なのよっ!」  
「うーん、リナさん、とても良くお似合いです」  
 やっとリナは理解した。  
 こいつ、ヒマなんだ。  
 時々こうやって、用もないくせにやってきては、人にちょっかいを出して帰っていく。大抵一人で  
いる時に。  
 最初は、何か企んでいるのか、と警戒していたのだが、本当に何もないとわかって、気を抜いてい  
た今日この頃。  
 つまり、ヒマで、上司にも相手してもらってなくて、退屈でアタシにちょっかい出しに来て  
るんだ。  
 本気でドラグスレイヴをかまそうと、意識を集中させると。  
 ちゅっ  
 
 抱き寄せられて唇にキスされたのだと理解するまで、間があった。  
 
「……あ、あ、アンタ、な、な、何すんのよー!」怒りのあまり呪文など忘れて、思いっきり神官の  
 
頭をどついた。  
「もう、乱暴なんだから。今日はクリスマスでしょう?」  
「チカンの日じゃないわよっ!」  
「そして、リナさんは今サンタさん。ですから、僕にプレゼント、下さいね」  
「ふざけんなー!何でキスをやらなきゃなんないのよっ!」  
「いいえ、キスじゃなくて、リナさん全部を」  
 びくっ。  
 普段、笑顔と閉じた瞼の裏に隠された目が、赤毛の少女を射抜く。  
 途端、リナは崩れるように男の腕に転がり込んだ。  
「な……ゼロス、アンタ、一体何したのよ……」口も重い。これでは、多分呪文を唱えるのも無理。  
「ちょっとだけ、ね。僕が望みをかなえる間だけ、こうして大人しくして下さい」最後の方は、ひど  
 
く熱く響く声。  
 魔法で着せられたサンタ服は、脱がされていく。  
「や、やめなさいよ、ゼロス……」  
「おや、女性に服を贈るのは脱がす意味って聞いてますけど」  
「贈られた、覚え、ないわよ……無理矢理着せたんじゃないの……」言葉が途切れるのは、ゼロスの  
術のせいだけではない。ゼロスの、繊細そうに見えて意外に大きな手が、少女の胸を愛撫しているた  
めだ。  
「や、やめて、よぉ……」  
「いや、こうすれば、胸も大きくなるかと」  
「誰がペチャパイだって!?」  
「言ってませんってば」苦笑すると、硬くなったつつましやかな乳首を、ぱくんと咥える。  
「ひゃあっ」  
 悶える少女を、ゼロスは、そっとベッドに横たえた。  
 自分も服を脱ぐと、小さな身体に覆い被さる。  
 不思議な感触だ。確かに身体は感じるのに、何か雲にでも抱かれているような、不確かな気分。  
 戸惑うリナにお構いなく、ゼロスは身体の隅々に手で、唇で愛撫を施していく。  
「ひっ、ひゃ、あああっ……やだあ、ゼロス、やめてってば……」静止する声が、愛撫をねだってい  
る響きを伴っていることに、少女は気付いていない。けれど、確実に獣神官に届いている。  
 応えるようにゼロスは少女の脚を大きく割り開いた。  
「や、やだあ、見ちゃダメっ」泣いて顔を隠そうとする彼女の手を、ゼロスは強引にはぐ。  
「ダメですよ、ちゃんと顔も、何もかも、見せて下さい」  
「こ、このヘンタイ魔族っ」  
 
「ヘンタイはひどいですね」そう言うと、ゼロスは少女の股間に顔を埋める。  
「ひっ、あ、ああっ、いやあっ」ひどく感じてしまって、リナはあられもなく乱れる。  
「リナさん……」そっと少女の名前を呼ぶと、ゼロスは屹立している自身を、熱く濡れた少女の中に  
埋め込んだ。  
「ああああんっ」ひどく甘い声が上がってしまう。男の律動と共に、切羽詰ったトーンが混じる。  
「リナさんっ」  
 ゼロスの声もまた、切羽詰ったものとなる。それを耳にして、何故かリナに、笑みが漏れた。  
『このヘンタイエロ魔族!』心の中で悪態をつきながらも、男の背に腕を回すと、しっかり抱き着いた。  
 ゼロスもまた少女をしっかりと抱き締め、激しく攻め立てる。  
「や、も、もう……あああーっ!」  
 二人、同時に達して、リナは男の精を受けながら意識を飛ばした。  
 
 
 
 気がつくと、ベッドに一人きり。外では、空が白みはじめていた。  
 かけられた術はもう解けている。それでもだるく重い身体を何とか起こし、リナは部屋を見回した。  
 あの意地悪な魔族の姿は、もうどこにもない。  
「……何よ」つぶやく。  
「何よ、エロ魔族!勝手に、人のこと……」  
 いつも勝手にやってきて、からかっていくだけなのに。  
 昨夜、見せたあの優しさは何よ。魔族のアンタに、本当にそんな気持ちがあるって、信じられると  
思う?  
 人間にある、アタシの中にある、アンタへの思いがアンタにも同じようにあると思えるわけないで  
しょ!?  
 人を弄んで。クリスマスのデートを真似してみて、アタシをからかいたかっただけ?  
「……バッカみたい」  
 アタシが。  
 よりによって、魔族なんかに心惹かれてるアタシが。  
 なのに、クリスマスに一夜を共に明かせて、うれしくなってしまっている自分がいる。  
 リナは、身体に残る感触を振り払うように、バスルームへと向かった。  
 

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