「ねえ。リナ」  
同室のベッドで眠っていた筈のアメリアが、不意に寢返りを打って、こっちを向いた。  
 
彼女の呼び掛けより『さん』がとれてから久しい。  
セイルーンの王宮で育ったという彼女は、おそらく同じ年頃の人間に、それほど多く関わったことなど無かったのではないだろうかと、あたしは思う。  
それが証拠に彼女はやけに、仲間とか、友人とか、親友などといった言葉に強くコダワリを持ってる。  
なにしろ現実の人間関係というのは、実際にはそれほどお綺麗なモノでは無い。  
普通、こういうコダワリを長期に渡って保持しようとすることは、並大抵の事では無いのである。  
もっとも、ずっとこういう関係に憧れていたのだと、拳を握り締めて熱く語っていた先ほどの彼女の様子を思い出すと、わざわざ夢を壊すのもどうかと思って、口をつぐんでいるのだが。  
 
まあ正直言って、あたしも同世代の人間にはとんと縁の無いタイプなので、似た様なモノかもしれないが……。  
いや憧れとかは別として。  
 
「なあに?」  
動かしていた手を止め、自称あたしの親友を見上げる。  
その拍子に羽織っていた毛布がずれて、夜風が吹き込んで来た。  
秋にはまだ早いとはいえ、山岳地帯のこの辺りの夜間は冷える。  
膝の上のモノをいったん床におろし、毛布をかぶり直していると、アメリアが意味ありげに笑った。  
 
「本当、器用よね、それ」  
「?」  
一瞬なんの話か分からなくて、掴んでいた毛布を見る。勿論普通の毛織の毛布である。  
「違うって、それ、ガウリイさんのでしょう?」  
「あ、うん」  
促されるままに膝元に目をやれば、先ほどまで手にしていたブツが目に入る。  
針道具一式と、例のブツ。  
一見、小さなクッションをいくつか繋げた様な代物だが、その正体はなんと、甲冑と身体の間に付ける単なる詰め物の一種である。  
自称保護者のものなのだが、だいぶ縫い目がほつれていたので、自分の物を修繕するついでに引き受けていた。  
 
「リナって、ガウリイさん好きよね」  
「まあ、あれでも自称とはいえ保護者だしね」  
からかうように、にんまり笑うアメリアを軽くいなす。  
彼女のからかいにもかなり慣れて来た今日この頃。  
もう当初の頃のようには、いちいち真っ赤になってはいられ無い。  
「それで、もうやった?」  
「ななな何をっ!」  
訂正。まだこの手のからかいには付いてけない。  
「んもうトボケちゃって。毎晩遅くまで二人っきりで、汗だくでくんずほぐれつヤってないの?」  
「どこでそんな言葉覚えてくんの、あんた?」  
 
毎晩。二人っきり。汗だく。  
これらの単語に心辺りがないでは無いが、誓ってアメリアが言う様な状況では無い。  
それは、少し前から毎晩寝る前に行なっている剣の鍛錬の時間を示しているのに過ぎず、決して彼女が言う様な色事めいた事柄では無い。  
 
「あれ?違った?まだなんだ。変だわねー」  
「何が変なのよ?」  
あたしの反応から何を読みとったのか、首を捻っているお姫サマ。  
「だって、ガウリイさんもの凄く嬉しそうな顔してたじゃない、リナが『毎晩付き合って♪』って言った時。だから私てっきり……」  
「テッキリ、な・に?」  
「ゴメンナサイモウイイマセン。ダカラソノイスオロシテクダサイ」  
さりげなく両手で抱えていた木製の椅子を元の位置に戻し、再び繕いものに戻る。  
「あたしとガウリイはそんなんじゃ無いのよ。第一、あっちは保護者、だそうだし」  
単に綻びを縫いあわせるだけだと今一つ芸が無いので、ついでに銀糸で宝石の護符をいくつか縫いつけて置く。ごく小さい地味なヤツなので、ゴツゴツしたり重くて邪魔になったりはしないだろう。  
 
「それに……。あっちには小さな子供に見えるらしいし、このあたしが」  
 
護符の周囲に、針に残った糸で風の結界を意味する小さな図案を刺繍し、糸を切る。  
おおっ、なんか妙にカッコよくなったぞ!  
うん。リナちゃんてば何やらせてもやっぱし天才!  
 
「ねえ、アメリア。結構いい感じに仕上がったとか思わない?コレ!」  
 
言いつつ振りかえるが、アメリアは何か考え事をしているらしくなかなか返事が返らない。  
 
「アメリア?」  
「ああ、うん、素敵じゃない、ガウリイさんも見直すわよきっと」  
「そ、そうかな」  
「所でリナ、何でそんな風に思うの?」  
「へ?」  
「ガウリイさん、リナが、子供に見えるっていうの」  
「知んない。ガウリイに聞いてよ」  
「まあ判らないでも無い気もするけど。リナってば胸も無いし、背も小さいし、色気もないし、胸も無いし……」  
……本気で殴っちゃろうかこいつ。  
 
「でも、だいじょーぶよ、あのヒト、それ程胸の大きさとかには興味なさそうだし」  
「なんでそんな事がアメリアに分かるのよ」  
「そりゃあ、見てたら分かるわよ」  
「あたしは判らないわよ!ガウリイいつもぼーっとしてるし」  
「まあ、当人には分からないかもね〜」  
「ど、ど、どういうことよ?」  
「うふふ。教えて欲しい?」  
にまにま笑う、その様子に何だか不穏なものを感じて思わず後じさると、アメリアはベットから身を乗り出す様にして囁いた。  
「彼、いっつも見てるもの」  
「?」  
「リナのオ・シ・リ」  
「!!!」  
吃驚仰天、驚愕、晴天の霹靂とはこの事か。  
目を向いて言葉も出ない程驚いているあたしに、アメリアは笑った。  
「嘘よ」  
「ウソってちょっとあんた!」  
 
「でも、まるっきり嘘って訳じゃないわ、リナがマントをしてない時、限定」  
そらそうだ。あたしは普段、ふくら脛までの長さのマントをつけている。  
オシリなんぞカケラも見える訳が無い。  
だがしかし、いつもとは言わなくとも、ガウリイがあたしの……を見ている?本当に?  
 
「やだ、リナ顔色悪いわよ、ゴメン、こういう話駄目だった?」  
あたしの優しい保護者がアメリアの一言で、一瞬にして、性欲の塊の化け物、世に言う男は狼なのよ的な、野獣に変身、もとい変貌してしまったように思えて来て、正直あたしは気分が悪くなっていた。  
彼には何度も抱き上げられた事があるし、襲撃にあった時には、カンペキに押し倒された事だってある。  
空中を移動する時なんぞは、ほとんど抱擁と呼んでいいような格好だったし。  
あの場でそういう余裕があったとは考えたくもないが、後々あの状況を夢想して、彼がまるで普通の男のヒトの様に、あたしを性欲の対象として、夢や想像の中で、どうこうしていないと誰が言えるだろう?  
いやいやいや彼の性欲を否定するまい。  
そもそも彼はれっきとした男性なのである。  
例え根っから善人で、剣の達人で、他のどの他人より頼りになって、あたしに優しくっても、紛うことなき男なのだ。  
それに、あの父ちゃんでさえ、若かりし日々には母ちゃんといちゃこらして、姉ちゃんやあたしを拵えるべく、日夜精を出していたに……。  
やっぱ、駄目!  
どれほど我儘だの、潔癖症だの言われようと、駄目なものは駄目なのである。  
あのガウリイが甘い顔をして、あたしや他の女の子の、手足や手足でない処をさわりつつ、好きだの愛してるだの言ったり。  
陰でその娘にあたしには想像もつかないイヤラシイ事をアレコレして、乙女でなくさせたりするのかと思うと、もうガウリイとは、一生顔を合わせることなんぞ出来無い様な気分になってくる。  
 
「リナ、リナ、大丈夫?」  
 
ぺちぺち頬を叩かれて目を上げると、アメリアが心配そうに覗き込んでいる。  
ぜんぜんだいじょぶぢゃないやい。  
 
「ほんっきで、彼の事そんな風に考えた事無かったの?」  
「う~」  
「やだ泣かないでよ、大丈夫、リナがその気にならない限り、あのヒト無理に迫ってきたりしないって」  
「なんでアメリアがそんな事言えるのよぉ」  
「だってガウリイさん、リナの事一番大事にしてるもの。どうして彼、貴女とそういう関係にならないのかなー?なんて思ってたんだけど、リナの今の反応を見ていたら私にもわかったし」  
「?」  
「リナって、ズバリ、処女でしょ?」  
「当たり前でしょう!」  
「それに、自慰もした事がない?」  
「じ?」  
「男の人のアレって見たことある?」  
「え、えっと…あれ?」  
「どうやって、赤ちゃん出来るか知ってる?」  
「知ってるに決まってるでしょう!!」  
 
意味のつかめない問答の末、ようやく話の流れがつかめて来たので思わず叫ぶ。  
ヒトをどんだけ無知だと思ってるんだか、この姫さんわっ!  
赤ちゃんってえのはアレだ。  
男のヒトと女のヒトが、結婚したりしなかったりして、ごにょごにょやって。  
女のひとの体内に密かに隠し持っている卵子に、男のヒトが精子とかいうものをこそっと掛けてやると……十月十日後にはそれが、立派な押しも押されぬヒトの赤子となるのである。  
三っになったばっかりの正月に、物知りで有名な、近所の煙草屋の婆ちゃんに教わったんだから間違い無い。  
以前に、ヌンサとかいう魚人にエッチをこまされそうになったことがあるが、その時ことなきを得たのは、ヒトの生殖行為のシステムが、魚類のそれとは違って体外で行なわれるわけではないからである。  
「----でしょ?それぐらい三っつの子だって知ってるわよ!」  
生殖行為のなんたるかを、今更こんな深夜に語るのもどうかとは思ったが、取り敢えずヒトをガウリイか何かの様に、言われてしまっては黙っておれない。  
思わず小半時ばかし掛けて、熱弁を振って見る。  
これでアメリアもあたしの事を、この手の事では無知とか何とか言い積れまい!  
うんうん。  
などと満足していたあたしの耳に、溜息が聞こえて来た。  
「なんでリナがそこまで頑ななのかわかったわ私」  
「誰かガンコなのよ」  
「リナ」  
指さされてもよく分から無い。  
自慢じゃないが、自分の思考の柔軟さには自信がある。よく他人から『既成概念に捕われ無い』とか『応用力に優れている』だとか誉められるしー。  
「余計な知識が多過ぎて、実地の方面に興味が向く余地がないのね、きっと」  
これは聞き捨てならない。  
「余計とはなによ!昨今流行りの性病の治療における、近代魔道医学の真価は……」  
「でも、リナ。自慰って何か知らないでしょ?」  
くくう…。ごまかし切れ無かったか。  
最初にその「ジイ」とかいう単語を聞いた時。  
咄嗟に話の流れに当てはまる語彙が浮かばなかったのは事実ではあった。  
侍医?辞意?爺?  
そんな風に考えてしまったら、もうアメリアのトコの白髭のお爺ちゃんの顔しか思い浮かんでこない。  
辞意ってのは、やっぱちょっと苦しいし。  
「なんでお医者さんが関係あんのよ?」  
そう返せば。  
パチクリと、目をさせた後、  
「それ、間違ってるわよリナ」  
と、言われた。  
 
それから更に小一時程の白熱したディスカッションを経た後、ようやくあたしにも、そのジイとかいう未知の分野が世に存在するという事が、おぼろげながらにも分り始めて来たのであった。  
 
「どうして、これだけ説明したり、図解したりしてるのに、まだおぼろげながら、なの?」  
女のヒトが大の字になってる様子を、簡単な線画で羊皮紙に描き散らしていたアメリアが顔を上げる。  
「だって、アメリア。ソコとかアソコ、とかアレ、とかばっかで、ぜんぜん具体的に言ってくれないし。  
指が初めは痛いとかって言われても、何が痛いのかサッパリよ?一定のリズムってのだって、抽象的過ぎるし。第一、あたしの体の仕組みがガウリイとなんの関係があるのよ!」  
始めはガウリイの話だったはずなのに、なんだってこんな話になってるんだろう?  
なんだか話が随分脱線しちゃってない?  
 
「関係あるわよ」  
「何処がよ?」  
「リナが自慰も出来無い、お子様だから、ガウリイさんも二の足踏んでるんでしょ?」  
ガッチョーン!!!  
正直これは、さっきのガウリイ野獣疑惑よりショックが大きかった。  
言うにことかいて、お子様。  
外見年齢が実年齢よりもちょっとばかし低いのは自覚しているが、こう見えても野郎のあしらい方は知ってるつもりだし、魔道だって剣だってそれなりに自信がある。  
商売の基本は郷里にいた時に散々叩きこまれているし、何処に出されても恥ずかしくない一人前だと自ら自負してもう結構たつ。  
だというのに、お子様?  
それもガウリイがそう考えている?  
バッサリと剣でプライドを一斬された気分だった。  
「リナだって、実際の性欲の意味がよくわかってないから、ガウリイさんがそんなものを持ってるなんて、考えたくもないんでしょ?」  
そうアメリアに問いかけられて、あたしは頭の中で自問自答する。  
本当の性欲って何?  
あたしの知らない『ジイ』とかいう世界がまだまだあって、アメリアやガウリイはそれを知ってて、だからあたしはお子様なの?  
その世界に足を踏み入れれば、あたしはガウリイの性欲を肯定することが出来て、そしたら、あたしもガウリイに、一人前だとちゃんと認めさせることが出来る?  
ならば……。  
 
「わかったわ、アメリア!」  
すっくと立ち上り、あたしはまっすぐ前を見すえて言い放つ。  
 
「とうとう分かってくれたのねリナ、嬉しいわ!」  
「そうと決まれば、早速っ、ガウリイのトコロに行って、その本当の性欲ってヤツを一刀両断にっ!」  
「ちょっと待ってリナっ!それはいくらなんでもまずいわよっ!」  
壁に立て掛けておいたショートソードを手に取った途端に、がっぷりと背後から手足を押えられた。  
ちぇっ、良いアイディアだと思ったんだけどなあ。  
 
「だって、アメリアのさっきの説明じゃあ、具体的じゃ無さすぎてサッパリだし!あたしの感触じゃあどうやらそっち方面の才能が必要そうじゃ無い?  
多分あたしには向いてないのよきっと!男は下半身でものを考えるっていうけど、だいじょーぶ。元々ものを考えたりしないガウリイなら、大して変わりゃしないわよ、たぶんっ!」  
「そういう問題じゃないわよ!」  
「なら、どうすりゃいいのよ!?」  
「だからって、手当たり次第に相手を去勢して歩く訳にもいかないでしょ!」  
「手当たり次第じゃないわ、取り敢えずガウリイだけで!」  
半分やけになって叫んでいると、不意にトントンと遠慮がちに扉が叩かれた。  
話していた内容が内容なので、ギョッとして二人で顔を見合わせていると、廊下側から聞き慣れた声。  
「お前さん達、ちょっと騒ぎ過ぎてるぞ」  
「が、が、が、ガウリイ?」  
あたしもアメリアも寝間着姿で、そうそう戸を開けるという訳にもいかず、顔を赤くして途方にくれていると……  
 
「……それからアメリア。リナを刺激してくれるのは結構なんだか、ああいうのはそれこそ向き不向きがあるから、いくら言っても無理だと思うぞ」  
 
どこから立ち聞きしていたのか、ガウリイは決定的な科白を述べると。  
 
「じゃあ、おやすみ」  
 
と立ち去った。  
 
隣室の扉がパタリと閉まる音。  
気がつくとアメリアの拘束から開放されていた。  
 
ボトリ。掌の中のショートソードが床に落ちる。  
 
誰が、無理?  
誰が、不向き?  
 
さっき自分で出した結論と全くもって同じ科白だといえ、他人の口から出るのと自分で言うのじゃあ天と地程も差がある。  
屈辱、困惑、気後れ、羞恥。  
今込み上げているのは、そんなものでは無い。  
これは、純粋なイカリであった。  
 
ふっふっふっふ。  
 
見てなさいよガウリイ!  
いずれその余裕な顔にほえづらかかせてやるんだからねっ!  
 
「アメリアっ!」  
「ええと、リナ? やっぱり殺人とかはちょっと……」  
 
あたしの目のなかに何をみたのか、おびえた様な顔でアメリアが後ずさる。  
 
「誰が殺人者よ。さっき実地がどうとかって言ってたわよね?」  
「去勢?」  
「それはもういいわ、そっちじゃなくて……」  
「自慰?」  
「そうそれよ!その自慰ってヤツ。実地で簡単にさらっと教えてよ」  
「えええ!私が?」  
「他にダレがいるのよ」  
「ガウリイさん、とか」  
「却下。さっきのガウリイの科白聞いたでしょう?あたし決めたわ、あいつを見返してやる。絶対!  
よく分からないけど、そっち方面にもちゃんと才能があるって認めさせてやるんだから!」  
「え、えらく燃えてるのねリナ」  
「あたしを怒らせるとどういうことになるか、あいつに思い知らせてやるわ!アメリアも協力してくれるでしょう?」  
「わかったわ、リナがそこまで言うんだったら、私も親友として協力を惜しまないわっ!一緒にガンバリましょう!」  
ガッチリ手を組んで、乙女二人誓い合う。  
嗚呼、美しきかな女同士の友情よ!  
 
 
「うえええええ!?脱がなくちゃいけないの?」  
 
いざ実地となった時、あたしは新たな試練に直面していた。  
「まあ、女の子の自慰の場合、大抵直接触ったりしないんだけどね」  
「じゃあ別に下着まで脱がなくても……」  
「でもそれじゃ上手く説明出来無いのよ!」  
女同士とは言え、恥ずかしいものは恥ずかしい。  
お風呂の脱衣場で脱ぐのとは違い、場違いな所でストリップを行なってる気分になる。  
それでも、ガウリイの憎たらしい顔を思い浮かべ、えいやあ!と下着を引き抜くと、ちょっと恥ずかしさが薄らいだ。  
まあ脱いで仕舞えば、お風呂とか医者とかとそう大差ない。  
 
「大抵の女の子は、興奮してない限り、あんまりお乳は感じないわ」  
アメリアがたんたんとした声で説明する。  
「実際のところ、ここだって、ある程度タイミングを整えてやらないとそんなに気持ちよくならないし」  
鏡の前に立った全裸のあたしの横で、アメリアがあたしの恥部を指差す。  
促されるままに胸を触ってみるが、成程、別にどうということもない。  
淡いしげみにかくされた密かな部分は、前から押さえてみても、柔らかな感触を伝えるだけで、快楽?とは縁遠かった。  
 
「リナはガウリイさん以外に好きになった異性っていないの?」  
ベッドの上に楽な姿勢でよこたわる様に指示されて、俯せになってると、アメリアがなにやら考え込みながら言う。  
「考えた事無かったわ」  
「でも、リナってナイスミドルのオジサマとかに弱いって言ってたじゃない」  
「カッコ良いオジサマとかは今でも好きよ。でもこういうのあんま興味無かったし」  
「そっかじゃあ、ちょっと目を瞑って。  
女の子は男の人とは違ってメンタル的な要素がないと、こういうのではちゃんと気持ちよくならないから、イメージトレーニングから入る事にしましょう」  
「あ、うん」  
「何が見える?」  
「えっと、暗い」  
「まあそうだわよね。それでどんな感じ?」  
「うー、寒い」  
「あはは。ゴメンゴメン」  
 
怒りでさっきまで寒さを忘れていたのだが、落ち着き出すと当然のことながら寒さを感じ出してくる。  
さっと毛布を全身をかけられて、ほっと息をついた。  
 
「そうねじゃあ、暖かいどこかの野原に目をつむって寝転んでいる事にしましょうか」  
「野原?」  
「そう」  
「風は暖かいし、お天気はすごく良いの。リナの好きなお花が沢山咲いてるわ。はい、イメージして」  
 
アメリアが作るイメージを、俯せた姿勢のまま、自分の中で再構成する。  
真っ青な空。  
ぽかぽかと背に降り注いで来る金色の春の光。  
フンワリ暖かく乾いた大地と、優しいタンポポの香り。  
くつろいだ安心感をイメージする。  
 
「どう?リナ。イメージ出来そう?」  
「だいじょーぶ。こういうの得意だから」  
「それじゃ第二段階。  
今度は相手をイメージしましょう。  
向こうから、誰かがやってくる足音が聞こえるわ。まだすごく遠くよ」  
 
言われるがままに、心の中の耳をすます。  
規則正しい、だけどゆったりとした足音。  
 
「彼はリナを抱き締めるためにやってくるわ。リナはどんな人にやって来て欲しい?大きな人、それとも小さな人」  
 
抱き締められるイメージが先行して、勝手にガウリイが浮かんで来てしまうのを、慌てて消し去る。  
ガウリイとは逆のイメージを求めて、小さな人を想像してみるが、どうも抱き締めるというシチュエイションに合致しない。  
 
「まだ心の目を開けちゃ駄目よ。触感だけに集中してね」  
 
視覚情報のイメージを全て消し、ぎゅっと抱き締められている、安心感だけをイメージする。  
大きな手。ゴツゴツした、だけど温かい広い胸。  
 
「イメージ出来る?どんな人?」  
「うん。……大きな人」  
温かい体温。どこかで嗅いだことのある、でも心地よい汗の匂い。  
大きな手が後ろ頭を撫でる。規則正しい鼓動の響き。  
すっぽりと、守られているイメージ。  
 
すっかりリラックスして、今にも眠りこけてしまいそうになっていた、あたしだったのだが。  
その安心感もアメリアの次の台詞を、耳にするまでだった。  
 
 
「その人はリナの事がすごく好きなの。ほら、リナの全身をキスしたいって、目が言ってるわ。」  
 
いきなし青い目のイメージがどっと、真っ青な空に替わって押し寄せて来て、全身がぶるっと震えた。  
え? ウソ! やだ、恐い。  
逃げ出したい!!  
 
「リナ、どう?」  
「やだ、もう止める!」  
「駄目よ、リナ。もう逃げられないわ。  
だって、貴女、目に見えない透明の鎖で手足が繋がれてるんだもの」  
 
アメリアの言う通り、イメージの中のあたしは、繋がれていた。  
白昼堂々、全裸で!  
 
さっきまで優しく抱き締めてくれていた筈のイメージは、暖かい温度はそのままに、見えない鎖となって、ガッチリと四肢を大地に固定する。  
暖かい楽園のイメージは一瞬にして消え去り、青い目をした獣に与えられる贄のイメージが広がった。  
さっきまでのぽかぽか青い空が、今では恐い位の欲望を湛えた熱い眼差しに変わって、あたしの全身をなめるように見下ろしていた。  
さっきのガウリイのイメージのように消し去って、違うイメージを構築しようとしても、なんだか上手く変更出来ない!  
 
うにゃああっ。  
こうなりゃ最終手段っ!  
イメージトレーニングなんかうっちゃってって、なんで目があかないのよ!  
ちょっと待って!もしかしてコレってイメトレじゃなくて、催眠術じゃあ無いの??  
 
「イメージ出来た?じゃ、第三段階」  
あたしの様子に気付いているのがいないのか、アメリアの声が容赦なく降り注ぐ。  
だからちょっと待っててば!  
「相手の視線を想像しながら、足の間を触ってみて」  
やだ、なんで!?  
青い目のイメージが、俯せになったあたしの下半身に集中する。  
アメリアはそんな事ひとっことだって言って無いのに、勝手にあたしの頭はこの上もなく恥ずかしいイメージを作り出していた。  
大きな手がぐいっとあたしの両腿を背後から、上から持ち上げ、あたしのソコをじっと注視しているイメージだ。  
イメージの中のあたしは恥ずかしさに泣きそうになりながら、見られているその部分にそっと触れ…  
 
「あ…」  
 
予期しなかった痺れに声が零れた。  
単に軽く触っただけだというのに、甘い痺れの糸が全身に響き渡る。  
 
「最初はそれほど感じ無いかもしれないけど、イメージを壊さ無いように注意しながら、ちょっとの間ソコを軽く揺すってみて」  
 
アメリアの指示を聞き取ったあたしの掌が、驚くあたしの意志を無視して小刻みに動き出す。  
 
始めは糸だと思っていた。  
だが断続的に全身に走るその甘い感覚は、気付くと鐘の音の様に終りと始まりの無い、響き渡るような快楽へと変貌している。  
快楽を産みだすソコに感じる青い視線、全身を震わす羞恥。  
 
「ある程度気持ちよくなってきたら、相手にあっちこっち触って貰ったり、キスするイメージとかも有効よ」  
 
ちょっ、ちょっと待ってよ!?  
誰もそんな所、キスするなんて言って無いってば!  
なのに、なんであたしの頭の中のあんたわ、そんな所に顔突っ込んで、やだやだ何するつもり!!!  
 
―――リナの全身をキスしたいって…  
―――彼、いっつも見てるもの、リナのオ・シ・リ  
 
アメリアの発言が今頃になって、よみがえってくる。それもごたまぜのイメージとして!  
んにゃゃ〜〜〜!!!   
ガウリイっ駄目だってば〜〜!!!  
綺麗に消し去った筈のガウリイのイメージがっ!  
 
いつもは無造作に髪に触れてくる、大きな両手があたしの、女の子の部分に触れてくるイメージ。  
金色だからほとんど分から無いくせに夜間になると出てくる、触ると意外とコワい無精髭と、熱く感じる吐息と、唇のイメージ。  
そんなもんを、ありありと脳裏、いや、そっと当てて震わせているてのひらの内側に載せたまま、あたしは快楽を貪る。  
 
「あ、あ、あ、あ、ああ、ああ」   
きもちいいよお。  
 
どれくらいそうしていたのか。  
女の子の部分が湧きおこすその悦楽に酔っていたあたしは、ベットの枕を濡らす唾液に気付いた。  
え、ウソ! 知らぬ間に涎をたらす程、この『ジイ』に夢中になっていた?  
心の片隅で驚きながらも、別の部分ではもっと快楽が欲しくてたまらない。  
両手をアソコにそえて震わせながら、気持ちの良い動きを捜して両腿をゆっくりと動かす。  
 
「お互いに舐めあったり、軽く咬んだりすると結構イイわよ」  
 
……もうあたし、ガウリイと一緒にゴハン食べらんない。  
ガウリイの唾液に光る舌があたしの気持ち良い部分で優しく動くのを感じながら、あたしはそう思う。  
やってみてわかったけど、自慰なんて冒涜だ。イヤラシ過ぎる。  
こんなヤらしいことを彼の姿形を想像してするなんて、最低だ。  
もう彼の顔をまともに見られない。でも……。  
でも、でも、  
 
気持ちいいよお!!!  
 
彼の指があたしのここを刺激しているのだと、そう想像しながら、ふと思う。  
ガウリイもあたしの事、こんな風に想像しながら、こういう事するのだろうか?  
ガウリイの想像の中でのあたしは、どんなことするんだろう。  
やっぱし、ガウリイの好きな部分を嘗たり、咬んだり、触ったり?  
やっぱ一刀両断だ。  
 
 
ガウリイの大きな躯の上にのしかかって、あっちこっち齧ったり、触ったりする光景を連想しているうちに、あたしはもう、随分高まっていたらしい。  
結局その後、なにがなんだかわからなくなってしまったのだった。  
 
 
「ちょっとアメリアあんた、なにがイメトレよ!アレじゃあ催眠術じゃないの!」  
「大袈裟ねえ。初心者でもわかり易いように、ちょっとそういう要素を組み込んだだけじゃない。別にリナの個人的秘密をしゃべらせたりしてないし」  
 
いつのまに眠り込んでしまっていたのか結局あの後、あたしが気がついた時には、すっかり朝だった。  
 
「リナってば、眠ちゃったから、風邪ひかないように、おふとんもしっかり掛けてあげたのに」  
「そりは感謝してるけど……。でも!」  
 
「朝からなに、白熱してるんだ、リナ」  
「あ。ガウリイ」  
 
見上げると、無駄に爽やかなハンサムな笑顔。  
 
この顔を、ゆうべはもう絶対、金輪際、正面からは見られない!などと思っていたのだが。  
実際は、意外と平気なもんである。うん。  
想像より産むが易しとはこのことか。  
そんな事をのほほんと思っていると。  
椅子の背を引く、彼の長い指先が目に入った。  
 
『はじめは指でも痛いけどね、そのうち…』  
ゆうべのアメリアの図解やらレクチャーやら実地指導やらが、一つの形になった瞬間であった。  
 
 
じゅわわ〜ん。と、とある部分から広がる暖かい感覚。  
何故か一気に上昇を見せる、息、体温。  
そして感じ始める、あたしの……  
 
「ゴメン、あたし部屋に忘れもんしてきたわ。先食べてて!あそうそうこれ昨夜のヤツ!」  
「あ、おい、リナ?」  
 
例の預かり物を投げつけるように、ガウリイに手渡すと、あたしは慌てて席を立った。  
たちまちこみ上げてきた、赤面せずにはいられないその感覚。  
本当の性欲の意味が、今度こそあたしにも分かった。分かってしまった。  
アメリアのヤツ!清純で清廉な昨日までのあたしを返せ〜〜!!  
 
 
「なんかわからんが、えらく焦ってたな」  
「うわ、効果覿面ですね。あ、そう言えばガウリイさん! 立ち聞きはルール違反ですよ!」  
「でもなあ、オレの名が宿中に響き渡ってたぞ? えらく物騒な単語と一緒に」  
「それは、ええと。あはは、その……。あ、そうそう、ガウリイさんは、リナの理想の人ってどんな人だと思います?」  
「?」  
「大きい人だそうですよ」  
「……えっと、そうなのか?」  
「はい。よかったですね!」  
 
 
結局、あの一晩の修行程度ではガウリイを見返すことなど出来ず、かえってあたしの未熟さを浮き彫りにしただけだったが。  
この件で、得たことも多かった。  
あれから少々の時間と経験を必要とはしたが、結局アメリアの催眠誘導による指導によって描き出されたあたしの無意識の願望が、あたしの心と体を速やかに大人にしてゆく大きな要因の一つとなったのであった。  
そして、あっち方面のあたしの才能は、いずれガウリイのソレを越えることが予期出来るレベルにまで、磨かれることとなったと追記しておこうと思う。  
 
「ところで巫女のあんたがなんでこんな事を熟知してんのよ!」  
「やあねえリナ、閨房術は王族のタシナミじゃないの♪」  
 
終り  
 

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