「リナさん、昨日もまた盗賊いぢめに行ってたんですかぁ?」  
気持ちうんざりしたような口調で、朝っぱらからアメリアがあたしに言った。  
「へ?あ、ああ・・・」  
「まったくもー!夜中に目を覚ませばベッドにリナさんがいないし、  
 朝だっていつのまにかちゃっちゃと部屋を出てるし!」  
んな怒んなくてもいいじゃん・・・とは何となく言えず、ちらっとガウリイの方を見た。  
こっちを見てるわけでなく、まったく関係なさそうな涼しい顔でメニューを開いている。  
「最近いっつもですよね?起きたらリナさんがいないの。まさか夜通し盗賊いぢめてるんですか?」  
「んなわけあるかいっ!」  
「じゃあどうして・・・」  
ジト目であたしを見るアメリア。どーやら・・・ほんとのところはバレてはいないよーだ。  
とはいえ、あんまよくないことでもしてるとか思われてるみたいだけど・・・  
いやまぁ、別にやましいことをしてるつもりは・・・ない・・・・・・って言っていいのかどーかわかんないけどさ。  
「別にっ・・・あんたより起きるのが早いだけよ」  
言ってあたしはヤケでメニューを開く。  
勢いだけで手に取ったせいで、よく見ると上下さかさまだった。  
「ふぅん」  
まだ何か言いたげなアメリアを無視して、とりあえず上から下まで2人前ずつ注文を取る。  
「・・・ったく、朝っぱらから何を騒いでんだ。リナ?お前、顔が真っ赤だぞ。」  
あたしたちとは別の宿を取っていたゼルがやってきて、椅子に腰掛けながらそう言った。  
いつものことだとでも言いたいのか、言いながら呆れ顔である。  
「う、うるさいやい!なんでもないわよっ!」  
くそー  
何だってあたしだけがこんな目にぃぃ・・・・・・  
そりゃあっ、ここんとこずっとそうだけど・・・  
ふ・・・と、あたしの頭にぽんぽんっと手が置かれる。  
ちょうど右隣に座っているガウリイだ。  
彼はただ左手であたしの頭をわしゅわしゅっと撫でて、また何もなかったよーに澄ました顔でどっかを見ている。  
なんだかなぁ・・・  
 
 
最近、あたしはちょっと困ったことになっている。  
ゼルやアメリアには言ってないのだか、というかとてもじゃないけど言えない、って方が正しいのかもしんない。  
実はあたしと、あたしの自称保護者・・・つまりガウリイは、何ていうか・・・一線を越えてしまってるのだ。  
俗に言う、恋人同士ってやつだろうか?  
まぁ、こんだけ長い間男女が一緒に旅してて、あれだけいろんなことを乗り越えて―――  
何もない方がおかしいのかもとは思うけど。  
とりあえず、そういう肩書きが変わった以外は、あたし達は何ら変わらず旅を続けていた。  
ところがひょんなことから、またアメリアやゼルと旅することになってしまったのである。  
嫌じゃないし、もちろん嬉しいし・・・昔みたいにいつまでかわからない旅ってわけじゃない。  
ふたりをセイルーンに送り届けて、あたしたちはまたふたり旅に戻ることになるだろう。  
でも、なんとなくふたりにはこのことを言えずにいる。  
なもんだから、そういう手前、ふたりの前ではろくにイチャつくこともできなかったりして・・・  
いやぁ、別にふたりの前でいちゃつきたいわけじゃないけどさ。  
だけど、やっぱりガウリイの体温が恋しい時だってあるし・・・  
そんなわけで、ここんとこいつもこうなのだ。  
宿に泊まる時、ゼルはいつもあたしたちとは別のところに行く。  
何しろあの外見だ、なかなか田舎の普通の宿では難しいもんがある。  
施設は最悪、飯はまずい、料金は別の意味で破格の値段―――法外って言ったほうが正しいのかもしんない、  
その代わり客の素性は一切問わない。そういう宿が、案外あったりするもんなのだ。  
となると残るあたしたちは大抵、ガウリイがシングル、あたしとアメリアでツインの部屋を取ることになる。  
あればあたしとアメリアもバラバラにシングルの部屋を取ったりすることもあるんだけど・・・  
ただこの辺は本当に小さな村や町がある程度で、なかなか部屋数も少なかったりする。  
ま。宿に泊まれるだけありがたいんだけどね。  
そういうわけで、あたしは毎晩アメリアが眠った頃を見計らってこっそりと部屋を抜け出し、  
ガウリイの部屋でそのまま夜を明かしていたのだ。  
あの心地よさを覚えてしまって、もう彼の腕の中で目覚めることに慣れてしまい、  
あれがないと眠れないっていうか・・・ほとんど中毒みたいな感じだ。  
うーみゅ、あたしってば、何でこんな乙女チックなことになっちゃったんだろ・・・・・・  
 
 
「そろそろ来る頃だと思った」  
真夜中、着替えやら荷物やらをちゃっかり抱えたパジャマ姿のあたしを、いつものようにガウリイが迎えてくれる。  
「入れよ」  
「・・・うん」  
やわらかい声に促されて、あたしは少し俯き気味にガウリイの腕の下を通る。  
ドアの両淵に手をかけたまま、彼は上半身を突き出し、廊下を右から左へ覗き込んだ。  
ぱたん、とドアが閉まる音とほぼ同時に、あたしは荷物を床に降ろし、ガウリイの方を向いた。  
「さすがにアメリアが怪しみだしたなー」  
少し苦笑交じりに、ガウリイがそう言う。  
「今朝の話、覚えてたのね」  
今度はあたしがちょっと皮肉っぽく言った。  
「まぁ・・・オレにまったく無関係ってわけじゃないしな」  
「大丈夫、今日はしっかり呪文かけてきたから。朝までぐっすりよ。もしかしたら、効きすぎてちょっと寝坊してくるかもね」  
一歩一歩近づいてくるガウリイに、内心ちょっとどきどきしながらも、どうにかいつもの調子を保つ。  
「それなら大丈夫か。ま、明日ここを出ればまたしばらくは野宿だろうし・・・アメリアにはちょっと悪いけどな」  
「別に、悪いことしてるわけじゃないじゃない」  
「それもそうだ」  
ゆっくりと―――彼の腕の中に包み込まれる。  
あたしは大きく深呼吸しながら、ガウリイの背中に腕を回した。  
少し、あたしを抱きしめる腕の力が強くなる。  
「盗賊いじめは・・・行かなくていいのか?」  
真夜中で少しかすれたガウリイの低い声が、耳元から身体中に響いた。  
あたしは、ガウリイのやわらかい声がたまらなく好き・・・  
「行って欲しい?」  
「行きたいのか?」  
「まさか。」  
たまにならいいけど、今はガウリイから離れたくない。  
夜は特に、彼のそばにいたい。  
「そんなの、昼間で十分よ」  
同じく真夜中のかすれた声で、あたしは小さくそう言った。  
ガウリイは小さく笑って、そして彼の顔がゆっくりと降りてくる。  
 
「ん・・・・・・」  
始めは、触れるだけのキス。  
それだけなのに身体の芯に走るあの感覚。  
どこかよくわからない場所がぎゅっと締め付けられて、それが直通するように下半身が熱を帯びる。  
少しずつ角度を変えて、徐々にキスが激しくなっていく。  
ガウリイの舌があたしの唇をゆっくりとなぞり、それに応えるようにあたしは唇をうっすらと開いた。  
進入してきた舌が待ち構えていたあたしの舌と重なり、さらに深みを増していく。  
「・・・ふぁ・・・・・・っ・・・・・・ン・・・」  
息を吸うために一瞬唇が離れると、それを嫌がるようにあいだに細い糸がひいた。  
ゆっくり呼吸をする間もなく、ふたたび強くふさがれる。  
すでにあたしの身体は全身が熱く、力が抜けていくのがわかった。  
きつく、きつく抱きしめるガウリイの腕がなければ、多分今もこうして立っていられないだろう。  
一歩ずつ、ガウリイが歩みを進め、そのままベッドへふたりで倒れこんだ。  
背中に布団の柔らかい感触と、組み敷かれたガウリイの腕の力を手首に感じる。  
しばらくして両腕が自由になると、ガウリイは自分の着ていた服をばさっと脱ぎ捨て、  
やがてその両の手のひらはあたしの頬へと移り、彼の体重があたしに覆いかぶさった。  
多分ガウリイのことだから、結構気をつかってくれてるんだろう。  
それでも重いことには変わりないけど・・・でもこの重みがすごく心地よくて、安心する―――  
「・・・やっ」  
唇が離れると、今度は耳を甘噛みされる。  
あたしの呼吸はもう上がりきっていて、胸が大きく上下すると同時に、肩が揺れる。  
耳から首筋、首筋から鎖骨、段々ガウリイの唇があたしの肌をなぞっていく。  
時々痛いくらいに吸い付いて、そこに確かな跡を残していく。  
紅い花びらを作りながら、彼の手は服の下のあたしの胸を包み込んでいた。  
「・・・っ、・・・んぁ・・・・・・」  
あたしは無意識に自分の手の甲を口にあて、必死で声を抑える。  
「リナ」  
「え・・・・・・」  
あたしの胸を弄んでいたガウリイの手が、あたしの口を押さえている手を引き離した。  
「ちょ・・・ちょっと・・・」  
荒い息のまま言うと、ガウリイはあたしの手首を上に押しやり、片手で軽々と押さえ込む。  
そして空いたほうの手で器用に服を脱がしてしまうと、解放されたあたしの胸に強く吸い付いた。  
「あぁんっ!・・・ん、・・・ガウ、リ・・・」  
口に含んだまま舌で転がし、時々不意に歯を立てられる。  
そのたびに押さえをうしなったあたしの口からは、甘い声が遠慮なく漏れた。  
両腕の自由を縛られ、彼の頭をかき抱くことも出来ない。  
「お・・・ねがぃ・・・・・・っ」  
「んー?」  
「手・・・はずして・・・」  
 
ガウリイがあたしの胸から顔を上げて、じっとあたしを見つめる。  
半分涙目になっているせいか、一瞬うっすらと彼の顔がぼやけて見えた。  
「じゃ、約束な」  
「や、約束ってなに?」  
「今日は声、我慢するなよ」  
う・・・  
「だ、だって・・・まわりに聞こえるじゃない・・・」  
ただでさえ夜中は小さな音でも響くのだ。  
ましてこんな壁の薄い宿で、隣の部屋にはほとんど丸聞こえなんじゃないだろうか・・・  
「大丈夫だって。ここ角部屋だし。隣も今朝出てったからちょーど空いてるみたいだし。」  
「でも・・・」  
「その向こうはお前とアメリアの部屋だろ?アメリアには呪文かけてるから、ちょっとやそっとじゃ起きないって」  
そ、そりゃーそうかもしんないけどさ・・・  
それなりに肌を重ねて、始めのころに比べれば大分慣れてきた・・・方だと思うけど、  
でもやっぱり理性が残ってるうちは、なんとなく恥ずかしい。  
「何ならお前さんお得意の魔法でも使って、どうにかしてみるか?ほら、風の結界作ってみるとか・・・」  
こーゆーとこにはとことん変な知恵が回るんだよなぁ、この男・・・  
「無理。今もうすでに魔法唱える集中力がない。」  
「じゃあここは素直に、言うとおりにするしかないな」  
言ってガウリイは再びあたしの唇を自分のものでふさいだ。今度は少し強引だ。  
反論する暇もなく、あたしはまたガウリイに与えられる熱におちていく。  
けれど、やめてほしくないと思うのもまた事実だったりして・・・  
ようやく自由になった両腕をガウリイの首にまわし、むさぼるように求め合う。  
いつの間にやら下着すら全部脱がされていることに気付いたけれど、今はただ、ガウリイの体温を全身で感じたかった。  
片手でまた胸への愛撫が再開され、もう片方の空いた手があたしの下半身へと滑り降りていく。  
「ん、ぅん・・・・・・っく・・・むぅっ」  
十分に濡れたそこに指が入り、なれた手つきでかき回される。  
唇は未だふさがれていて、声にならないような声が口の中に響いた。  
「・・・はぁっ・・・」  
長いキスが終わると、顔にかかっていたガウリイの髪の毛が離れていくのがわかった。  
口の周りにはどちらのものとはわからない唾液がこぼれていく。  
彼に与えられる快感に、あたしはもう目を開けることすら出来なくなっていた。  
やがてあたしの秘部を責める彼の指が2本に増え、ぴちゃぴちゃといやらしい水音が響く。  
「あっ・・・あ・・・ぁ・・・・・・っは・・・」  
「リナってほんとかわいいな」  
「・・・ふ・・・」  
言うとガウリイは、頬にかかる汗で濡れた髪をいとおしそうに耳にかけてくれる。  
下の指が抜かれたと思うと、硬くて熱いガウリイ自身が、一気にあたしを貫いた。  
 
「・・・・・・い、っ・・・あ、ああん、んっ!」  
ひざ立ちになってあたしの両足を抱え、ガウリイが勢いよく攻め立てる。  
何度も何度も子宮の奥を突いてくるガウリイ自身を感じながら、あたしはただされるがままに声を上げた。  
肌と肌がぶつかる音と、水音と、それに比例するあたしの声。  
時々それに混じって、うっすらと、ガウリイの喘ぐ声が聞こえた。  
「ガウ・・・リ、イっ・・・あっ、・・・ああっ!」  
「リナ・・・っ」  
ベッドの古いスプリングがぎしぎしと音をたててきしむ。  
止まることを知らない快楽を与えられて、もう何も考える余裕なんてなくなってしまう。  
「・・・っう」  
力が抜け切った上半身を、ガウリイがあたしの両腕を掴んで、ぐいっと引き寄せた。  
突然体制を変えられ、角度が変わり、あたしは少し大きな声を上げてしまう。  
抱き合うような形になると彼は再びあたしを責め始め、と同時に唇をふさいだ。  
舌が、唾液が、息が絡み合う。  
途切れ途切れにガウリイの名前を呼びながら、その広い背中に爪をたてていく。  
強く抱きしめられながら、腰の動きがさらに激しさを増した。  
角度を変えて唇をせめられるたび、彼の胸に強く抑えられたあたしの胸が形を変え、まるで胸を愛撫されているようだ。  
「あぁっ・・・んっ・・・ガウリイっ!も、・・・もう・・・」  
いつ飛んでしまってもおかしくない意識の片隅で、波が押し寄せてくるのがわかった。  
「や・・・っ!ガウリイ・・・っ」  
突如、それまで続いていた快楽を中断され、あたしはうっすらと目をあける。  
同じように汗で濡れたガウリイの、いじわるっぽい目が笑っている。  
「やだ・・・ッ・・・なんで・・・やめないでぇ・・・」  
抜かれてしまったものに自ら求めていくものの、ガウリイは絡みつくあたしの腕を引き離し、ベッドへ沈ませた。  
「今日のリナ、なんかすごくエロいな」  
「だ・・・って・・・」  
「オレが欲しい?」  
組み敷かれたまま、挑発的な目があたしを誘う。  
普段のノホホンとした脳みそくらげとは思えない、ガウリイの男の顔。  
いつもなら恥ずかしすぎてどうしようも出来ないはずなのに、今はもう理性なんてどこかに飛んでしまっている。  
「ほし・・・い・・・・・・お願い・・・・・・」  
自然なほどするりと、あたしの口から言葉がもれた。  
ガウリイはその言葉を聞いて笑みを浮かべると、あたしの肩を掴んでうつぶせにさせる。  
「そんなお願いされたんじゃ、断れないな・・・」  
「んあぁっ!」  
またも一気に、今度は後ろから貫かれ、悲鳴にも近い喘ぎがこぼれた。  
ガウリイはあたしの腰に両手を置き、何度も何度も責めてくる。  
あたしはぎゅっと両手でシーツを掴み、ただ声を上げ続けた。  
 
 
「・・・ん・・・」  
身体がだるい。  
まぶたが重い。  
ゆっくりと目を開くと、ガウリイの顔がそこにある。  
「・・・もう朝・・・?」  
カーテンの隙間から差し込む朝日がまぶしい。  
まだ、あんまり思考が働いてないようだ。  
「リナ・・・?」  
「あ、ごめん・・・起こしちゃった?」  
眠そうにガウリイが目を開け、あたしをじっと見つめる。  
「・・・お、おはよ」  
何となく恥ずかしくて、とりあえずそう言うのが精一杯だった。  
ガウリイは何も言わずに、あたしを抱きしめる力を強くする。  
「ちょ、ちょっと・・・」  
ようやく気付いた。  
まだ、繋がったままだ・・・  
「ガウリイ、ほら、アメリアが起きる前にあたし部屋に戻らないと・・・」  
「別にいいだろー」  
寝ぼけた声であたしの髪に顔を埋めながら、ガウリイは適当な返事を返してくる。  
「と、とりあえずあたしお風呂入りたいの!」  
「・・・・・・」  
ようやく顔を上げ、無言であたしをじっと見た。  
「ほら、起きるわよ」  
ガウリイは小さくため息をつくと、あたしのまわりにまわしていた腕の力を緩める。  
「・・・っ」  
同時に、彼が繋がったままの部分をゆっくりとあたしから引き抜いた。  
思わず声が漏れそうになる。  
気だるい身体をどうにか起こし、ベッドから降りると、鏡に映った自分の姿に思わず赤面してしまった。  
あちこちにつけられた、ガウリイの跡が、そこらじゅうに散らばっている。  
「と、とにかくお風呂!お風呂入んなきゃね!」  
照れを必死で隠すように、シャワールームに入ると、後ろからガウリイまで着いてきた。  
「ちょ、ちょっと!何やってんのよ!」  
「何って・・・オレもシャワー使いたいんだけどな」  
「じゃあ後から入ればいいじゃないっ」  
「何を照れてるんだ?」  
「ちがわいっ!!」  
って違くないけど・・・  
 
結局朝っぱらから一緒にお風呂に入って何もないわけもなく、寝坊したはずのアメリアにまたも追及されたのは言うまでもない。  
あう。  
 
 
 

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