油断していた。
そうとしか言いようが無い。
火竜王の神殿までの旅の途中、立ち寄った割と大きな街。
一泊した次の朝、旅に必要なものを色々買い込もうという話になった。
ひたすら荒野を歩いてきて久々の大きな町である。
長期戦に突入した女性陣の買い物に、ガウリイはさすがに付き合いきれなくなって宿に戻ってしまい、
ゼルガディスは別行動で寺院と図書館に行き、ゼロスはどこかに消えしまっている。
女ばかりの気楽さで、店員に出されたお茶を何の警戒もせずに飲んでしまい……。
気がついたら手足を縛られ、薄暗い部屋の床に転がされていた。
ひんやり冷たい石の床を頬に感じながら、フィリアは意識を取り戻した。
「う……」
ここはどこなんだろうか。
徐々に視界がはっきりして辺りを見回してみると、
安宿のような薄汚れた部屋にいることがわかった。
薄暗い所をみると地下室かもしれない。
「気がついたかい、ぺっぴんさん」
へっへと、あざける様な声が頭上から聞こえた。
「!」
驚いて顔を上げると、数人の野卑な顔の男達が自分を取り巻き、見下ろしている。
「あなた方は誰ですかっ! 私をどうするつもりですかっ!」
気丈なフィリアの言葉に、男たちはにやけ笑いを浮かべる。
「俺たちか? 俺たちは盗賊だよ。あんたみたいなふらふらしてる女をとっ捕まえて、
助平な金持ちや娼館に売り飛ばしたりもするがな。
あんたのその服、巫女だろ? 巫女ってことは処女だから高い値がつくだろうし嬉しいねえ」
フィリアの顔がさっと青ざめる。
とはいってもこの時点ではフィリアはまだ冷静だった。
ゆっくりと周りを見ると、この部屋にいるのは人間の男が数人ばかり。
部屋の外にはまだ何人かいるかもしれないが所詮は人間、竜の姿に戻れば相手にもならない。
その時ドアが開いて、別の男が顔を出した。
「おかしら〜、3人もいるんだから1人くらいまわしてくれって、
他のやつらがうるさいんですけど〜」
「うるせえ! おまえらの好きにさせたら壊しちまって、売り物にならなくなるだろうがっ!!
今まで何人壊したと思ってるんだ!」
「そう言ったんですけど、あいつら聞かないんですよ〜。
あんな上玉、2人も目の前にしてお預けってのもきついっスよ」
上玉? 2人?
そういえば、確かリナとアメリアも一緒だったはず。
嫌な予感が現実となってフィリアを襲う。
「リ……リナさんと、アメリアさんは! どこにいるのですかっ!!」
「あぁ〜ん、あの可愛らしいガキどもか」
必死のフィリアを面白そうに盗賊の頭が眺める。
「安心しな。他の部屋でちゃ〜んと指一本触れずに丁重に扱ってるぜ。
……今の所はな」
ひゃっひゃと下衆な笑い声をたてる男たちに、フィリアの目の前が真っ暗になった。
あの2人がこんなやつらに乱暴される……考えただけで身の毛がよだつ。
そんなことになったらガウリイやゼルガディスに会わせる顔がない。
「まあしかし……あいつらの気持ちもわかるな。
3人もいるんだし、この女だけでも結構な金になるし、
あのガキどもだって、あれだけの器量なら傷物でも金になる」
舌なめずりする盗賊頭に、フィリアの顔から見る見る血の気が引いていく。
「や、やめてくださいっ! お願いやめてっ!」
いざとなれば竜に戻って戦えばいいと思っていたが、
リナとアメリアが今どういう状態にいるのかわからない。
魔術に長けているリナやアメリアも、もし眠っていたら身を守ることができない。
「やめてってか? 頼める立場だと思ってるのか? ええ!」
ぐいと盗賊の指がフィリアの顎を捉える。
「あ、あの2人には……リナさんたちには手を出さないで下さい! わ、わたしはどうなってもいいです。
あの2人は……」
「ほう、健気なもんだ。そんなにあの2人が大事かよ。ここには飢えた男が数十人ばかりいるんだが、
全員あんたが相手するってか?」
「は、はい……」
震える声でフィリアは答えた。
「わたしが……みなさんのお相手をいたします。
で、ですから、……リナさんとアメリアさんには手を出さないと約束して下さい」
「おお、約束するぜ」
ひゃっひゃと笑い声があちこちからあがる。
「んじゃまず、これをしゃぶってもらおうか」
目の前に恐ろしいほど怒張した性器を目の前に出されて、思わず息を呑む。
これを……どうをしろと?
「おい、何ぼーっとしてやがる! 真面目にやりやがれっ! こうだこうっ!!」
「う、ぐっ……」
髪をつかまれ無理やり口の中にねじ込まれ、男の匂いが口に広がる。
「多少下手でもしゃーねーから、しっかりやりな! 舌もちゃんと使えよ!
……そうそう、中々うめえじゃねえかよ」
ぴちゃ、ぴちゃ……。
言われた通り男のものを口に頬張り舌を這わせると、自分が立てる水音が嫌でも耳に付く。
「んんっ……うっ!」
熱く生臭い精液が喉に流れ込んできて、むせ返る。
「ぐっ……うう」
思わず咳き込んで吐き出そうとするが。
「ちゃんと飲めよ。……それともあの2人の所に行ってやろうか?」
……吐き気に耐えてなんとか飲み込む。
火竜王に仕える巫女がこんな……屈辱と悔しさに涙がにじんだ。
誰かが後ろからフィリアのスカートをまくりあげ、乱暴に下着を降ろした。
「な、なにを……ああっ!」
「おお、けっこう濡れてるじゃねえか。そんなに突っ込んでもらいてえのか。淫乱な巫女さんだな」
「だ、だれが……うぅっ!」
フィリアの秘所に無遠慮な指が差し込まれ、乱暴に肉壁を擦られてフィリアは苦痛にうめき声をもらす。
胸元がいつの間にか大きく開かれて、豊かな胸が鷲づかみにされ乳首を乱暴に捻られた。
「ぐ!」
痛みに顔をしかめ、つい声が出る。
ふいにフィリアの秘所に指とは違うものが強引に押し入ってきた。
「!」
裂かれるような痛みに、喉の奥から声にならない叫びが漏れる。
「い、い……たい、ううう……」
手付かずのフィリアの奥に男のものがギリギリと押し入ってきて、
男の腰が打ち付ける度に下半身に激痛が走る。
「あ……あ、ううう……」
フィリアの目から涙がこぼれる。
よつんばになって獣のように犯されて、歯を食いしばることしかできない自分が情けない。
「おお、泣くほどいいのかよ、好き物だな!」
「こっちの口がお留守だぜ!」
さっきとは違う男が立ちふさがる。
前髪をつかんで顔を上げさせられ、再び張り詰めたものを咥えさせられる。
「歯立てんなよ」
「うう……」
(時間を……なんとか時間さえ稼げば)
自分たちがいないことに気付けば、ガウリイたちがきっと助けに来てくれるはず。
ゼルガディスならリナのタリスマンやアメリアのアミュレットの魔力を辿れるだろうし、
いざとなればゼロスだっている。
男達に陵辱される中、それだけがフィリアの唯一の望みだった。
あれから何人相手にしたのかわからない。
男の匂いが充満する部屋で、ひたすら男達を受け入れ続ける。
巫女服は破かれ、ただの布切れになって部屋の隅にうち捨てられた。
入れ替わり立ち代り部屋に入ってくる男たちの中に、頬に引っかき傷のある男がいた。
「おっ、どうした?」
「ああ、ひでえ目にあった。あの赤毛のガキ気が強くてまいったぜ」
「あれだけやられてもまだ抵抗すんのか。たいしたガキだな」
「でもいい女だしお前も喜んでやってたじゃねえか。へっへっへ、胸がちいーっと残念だけどな」
「乳がでかい方がいいならこの女か、もう1人のちっこい黒髪の方に行きな。
正義がどうとか妙なこと言ってる変なガキだけど、いい乳してたぜ」
気の強い赤毛?
……正義がどうとか言う黒髪?
音が消えた。
体中からすとんと血が引いて、目の前が真っ暗になった。
頭にガンガン響くのは、心臓の音だろうか。
「そ……んな」
2人さえ無事なら、それだけを望んで野卑な男達に身を投じたのに。
「た……助けると」
喉の奥から振り絞るようにして、やっと声が出た。
「リナさんたちは助けると……約束したではありませんか!」
「あ〜、約束どおり大切に扱ってるぜ」
「大切な売り物だし、壊しちゃいないぜ。なあ」
げらげらと人さらいたちが笑い出す。
「おら休むんじゃねえっ! まだまだ順番待ちがいるんだ。終わりゃしないぜ!」
髪を掴んで顔を上げさせられふたたびフィリアは男のものを咥えさせられる。
「う、うぐっ!」
喉の奥まで突っ込まれて吐きそうになる。
再び陵辱が始まった。
後ろから何度も貫かれ、痺れた頭にリナとアメリアの姿が浮かぶ。
乱暴され汚されて、泣き叫ぶ二人の姿。
『い……いやぁー、ガウリイーー!!』
『ゼルガディスさん! ゼルガディスさん、助けてーっ!』
想像とはいえ、この建物のどこかで同じような光景があるのだろう。
締め付けられたように胸が痛む。
二人の姿が消え、代わってガウリイとゼルガディスの姿が現れる。
幻の彼らは街中を走り、リナたちを探し回っていた。
(はやく、はやく助けに来てください……。このままだとリナさんとアメリアさんが……)
誰かが面白がって小さな鞭でフィリアの尻を打った。
「ああーっ!」
悲鳴だけではないその声に、男達が笑ってはやし立てる。
「なんだこいつ、感じてやがるのか!」
「こらこら、傷をつけるなって言ったろ」
「淫乱な巫女ってのもいいな。こいつは売らずに、俺たちで飼うか?」
豊かな白い胸を乱暴に掴まれ、再び歓喜の混じった悲鳴をフィリアは上げた。
「あぐっ!!、ああん……あ……」
再び後ろから貫かれ、今度は自分から口を開いて盗賊たちのものを受け入れて舌を絡める。
どうして自分はこんな扱いに快感を覚えているんだろう。
自分が自分でなくなってくる。
(たすけて、……ゼロス、たす……けて)
大嫌いなはずの黒髪の魔族にフィリアは助けを求めた。
もう何時間たったのだろうか。
顔も髪も男たちの精液で汚れ、白い肌には幾つもの擦り傷や切り傷が痛々しく浮かび上がっている。
指一本動かせなくなり、ぐったりしたフィリアの尻を男が乱暴に蹴り上げた。
「おら、サボるんじゃねえ! しっかり締めつけねえかっ!」
「…………」
もう痛みも感じないし、さんざん泣き叫び枯れた喉には悲鳴すら上がらない。
その時、部屋に吹くはずのない風が渦を巻いた。
フィリアを蹴った男の足が体から切り離されて、鮮血が噴出す。
「うぎゃあああああーーーーっ!!!!」
膝を抱え転がり回る男の姿が、次の瞬間肉が焦げた匂いと共に蒸発した。
「な……なんだ?!」
「何かいるぞ、逃げろーっ!!」
我先に逃げようとした男達の姿が、鈍い蒸発音とともに次々と消滅していく。
「ゼ……ロス?」
旋風と共にマントを翻し、現れたのはゼロスだった。
掲げた杖を降ろし、ゆっくりとフィリアを振り返る。
(竜族の巫女ともあろうものが、なんという有様ですか)
フィリアを見下ろす冷ややかな紫の瞳が、そう言っているようだった。
「は……やく、リナさんたちを……助けて」
弱々しく手を伸ばすフィリアに、ゼロスは無言で部屋の入り口に顔を向けた。
視線を追うと、黒いマントに包まれたリナを抱き上げたガウリイと、
白いマントに包まれたアメリアを抱いたゼルガディスが立っている。
ああ、助かったのだ。
「遅くなってすまなかったフィリア。……大丈夫か?」
悲しみに満ちた目で、辛そうにガウリイが尋ねる。
安堵するフィリアだが、ガウリイの抱えたシーツから見えた足首には血が滲んでいる。
胸がズキリと痛む。
「ガウリイさん、ゼルガディスさんすみません……。お二人をこんな目に合わせてしまっ……て……」
力を振り絞ってそれだけ言うと、限界まで張り詰めた糸が、切れた。
気を失う寸前にフィリアが目にしたのは、
ゼルガディスに何か言われてこちらに歩いてくるゼロスの姿。
そしてその後、ふわりと体が浮き上がる感覚と共に、フィリアの視界は闇に飲まれた。