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「づ、づがれた〜〜〜〜〜」
やっとのことで仕事を終えて、あたしとガウリイは重くて動かなくなった足を励ましながら、
のたくたと宿の階段を昇っていた。
さすがの体力馬鹿のガウリイも今回の仕事はきつかったらしく、口数が少ない。
手持ちの路銀が少なくなってきて、盗賊アジトも近くにはない、
ということで、この街で小さな仕事を二つ請負うことにしたのだった。
効率を考えてあたしとガウリイ、ゼルとアメリアに分かれて受けた、のはよかったんだけど、
「手紙を隣町に届けるって話だったけど何十キロも先なんて聞いてないわよ!
おまけにモンスターうじゃうじゃ出てくるし、雨まで降ってくるし山道のケモノ道だし、もーーー最低っ!」
「お、落ち着けよりナ」
……とまあ、うっかり予定日数はオーバーしたものの、くたびれ果てて帰って来た。
「……じゃあね、ガウリイ。後で」
「……おう」
ガウリイに軽く手を振って、女部屋の扉を開けた。
とにかくひたすら疲れたので、夕食まで眠りたい。
ノックの返事はなく鍵が閉まっていたので、アメリアは帰ってないと思ったけど水音が聞こえる。
どうやら風呂に入っているらしい。
「あー、疲れた」
あたしはごろりとベッドに横になった。
――――――――――ッ!
「いっだーーーーッ!」
お尻に何か刺さった痛みで、あたしは声を上げて飛び上がった。
「な、何? 何が刺さったの?」
あたしはベッドの上で目を凝らして、あたしを刺した不届き者を探した。
見ると銀色に輝く針がシーツの上に落ちている。
「あ、帰ってたんですか。どうかしたんですか? リナさん」
バスタオルに包まれたアメリアが、のんきに風呂から上がってきた。
「どうしたもこうしたもないわよ! アンタね縫い物するのはいいけど、後始末はちゃんとしなさいよ!」
「は?」
「ベッドに針が落ちてたの! 針が! すっごく痛かったんだから!」
「針が落ちてた? わたし、今日は縫い物してませんけど」
アメリアが首を傾げる。
「それにそっちは、わたしのベッドですし。リナさんが窓際がいいって言ったんですから、
自分のベッドで寝てくださいよ」
「うるさいわね! 今はそんなこと言ってないでしょっ! これが刺さったの! この針が、あたしに!」
針を摘みあげてびしっとアメリアの前に突き出して、はたと気がついた。
よく見ると、これ針じゃない。
針にしちゃ長いし糸を通す穴がないし、弓のようにしなっている。
針というより、先が細いただの針金。
でも、どっかで見たような気がするんだけど。
いやむしろ、ほとんど毎日見ているような。
それの正体にようやく気がついて、あたしは半眼でアメリアを見つめた。
アメリアにもわかったらしく、見る見る顔が青ざめ引きつる。
「夕食……おごります」
「いい心がけね」
アメリアのベッドから飛び降りて、あたしは自分のベッドに潜り込んだ。
「あたしたちがいない時にいちゃつきたいのはわかるけど、個室とった時にしてよ。
さっきみたいなことだってあるんだし、あの針ネズミにもそう言っといて」
はい、というアメリアの小さな声を聞いて、あたしは今度こそ眠りに落ちていった。
終わり