「あああもうっ!! 何で急に降ってくんのよっ!」  
「おいっ!! あそこになんか小屋があるぞ!!」  
「でかしたガウリイっ! とりあえずそこに避難するわよ!!」  
突如降り出した大粒の雨に打たれながら、二人は街道をひた走っていた。  
 
ばぁん!!  
 
ようやく辿り着いた小屋の、簡素な作りの扉をこじ開けて、二人揃って中に転がり込む。  
「もうっ、マントの中までびしょびしょだわ!!」  
不機嫌そうにショルダーガードやマントを引き剥がすリナ。  
濡れて纏わりつくような感触に眉をしかめている。  
「とにかく火を熾そう。 リナ、頼めるか?」  
ガウリイは手早く装備を解くと、小屋の中央に設置されていた囲炉裏に薪を積み上げる。  
「これ脱いだらね。早くしないと風邪引いちゃうわ・・・って、  
ガウリイあんたも上着位脱ぎなさいよ。  
いくらあんたがお馬鹿でも、そんなナリしてたら鬼の霍乱しちゃうかもよ?」  
上着・・・ねぇ。こいつを脱いだら下にゃ何もないんだよな。  
この状況は世にいう据え膳状態って言うんじゃなかろうか。  
薪を手に、一瞬。完全にガウリイは油断していた。  
 
べしゃっ。  
リナの手から貫頭衣が落ちる。  
「どうした?」  
急に黙り込んだリナに不審を憶えてガウリイが顔を上げると。  
「んんん・・・っ!!」  
リナの身体に、触手のようなものが巻きついていた。  
子供の腕ほどの太さのソレがリナの口を塞ぎ、  
やや細い触手が手足を絡め胴に巻きつき、完全にリナの自由を奪っていた。  
「んっ! んんっ〜っ!!」ギュッと眼を閉じて激しく首を振るリナ。  
ぬめぬめとした質感の触手が肌の上を這い回る感触に嫌悪感を催されるのだろう。  
暴れる獲物を押さえつけようと、細い首にも触手が絡み、  
ゆっくりと締め上げるような動きを見せ、同時にリナの口を  
犯している触手が喉の奥へと突っ込まれる。  
抵抗の術を奪われたリナの目の端から一筋、光るものが伝い落ちた。  
「てめぇ!!」  
ぎゃりんっ!!  
リナの涙に怒りに染まったガウリイの動きは素早かった。  
居合い一閃、斬妖剣がリナに巻きつく総て触手を断ち切って。  
触手は断末魔すら残さずに、あっけなく塵と消え果て。  
拘束から解放されて、リナの身体は床に崩れ落ちた。  
急いでリナの元へ駆け寄ろうとしたガウリイは、すんでの所で立ち止まり。  
「ガッ!!」脇の土壁に躊躇なく斬妖剣を突き立て、言った。  
「余計なちょっかいをかけてくれるな」と。  
感じていた気配が完全に消失したのを確認すると、ガウリイはリナの元へと駆け寄った。  
「大丈夫か!?」軽く身体を揺さぶってやると、ようやくリナの身体に力が戻る。  
「あれ、なんだったのかしら?」ゆるゆると頭を振りながら、リナは怪訝そうな顔をしている。  
「わからん。けど、とりあえずさっきの触手は倒したし、もう一個の方も退散したみたいだ」  
「これ、もしかして罠だったりする?」あたし達が油断する隙を狙われた?  
ブツブツと口の中で呟きながら思考の海に沈みかけてるリナの手を引いて、  
ガウリイはそのまま囲炉裏の傍まで連れて行った。  
 
「今は服を乾かすのが先だろ? ほら、お前さん、こんなに冷えちまって・・・」  
ぐい、と。ガウリイの腕がリナの背中に回された。湿った髪の束が水滴を滴らせている。  
「た、タオルとか持ってなかったっけ? ちょっと、ガウリイ! ないか荷物の中探してみてよ」  
肌に触れたガウリイの腕の熱さに、ようやくリナは  
自分がアンダーシャツ一枚の無防備な格好だと思い出した。  
それすらもじっとりと濡れて、身体に張り付き下着のラインも露わな。  
「なんだよ。先に火を熾してくれって」  
ぎゅむ、と、いっそう身体を密着させてくるガウリイに  
リナの心臓はバクバクと張り裂けんばかりに鼓動を刻む。  
「ガウリイ。ちょ、はな・・・」『離して』と。最後まで言う事はできなかった。  
ガウリイが、有無を言わさぬ力でリナを抱きすくめたからだ。  
「リナ・・・」端正な、いつも見慣れているはずの顔が近づいて来る。  
吐息が頬に触れた時、リナはぎゅっと眼を閉じることにした。  
こうなるのは、ずっと前から望んでいたことだ。  
やはりずぶ濡れのままのガウリイのシャツに縋って、逃げたくなる心を押さえつける。  
 
重なった温もりは、泣きたくなるほどに心地良く。  
そのまま自然に唇を開いて、ガウリイのそれを迎え入れる。  
いつの間にか添えられた手が、優しくリナの頬をなぞり、  
栗色の髪を梳きながら頭の後ろに回される。  
「・・・くぅ・・・ん・・・」  
「リナ・・・」徐々に激しくなるキスに、リナはもう成す術がない。  
ゆっくりと床の上に押し倒されても、抗う気にもなりやしない。  
そろりそろりとシャツの裾から侵入してくる大きな手に、リナも自分の手を重ね。  
「ガウリイ・・・あんたも、脱いでよ。冷たいんだから」  
羞恥心を堪えて、もう一方の手をガウリイのシャツに伸ばす。  
「すまん。余裕なかった」グイッと、一息に服を脱ぎ。  
上半身を露わにしたガウリイをリナは直視できない。  
今まで何度も見てきた筈なのに、状況が違うとこんなに恥ずかしいものなの!?  
とても見ていられずに、リナは両手で顔を覆って視界を閉ざした。  
こんな事をしても自分の肌を隠せるわけじゃないのに。  
これからもっと恥ずかしい事をするのに。  
「本当に、いいのか?」  
ガウリイは、顔を隠したリナの手を、自分の手で優しく床に縫いとめると。  
低い声で、身体の下の、真っ赤に染まったリナの耳朶に囁いた。  
「もうっ、この期に及んで良いも悪いもないでしょーが。  
あたし、ずっとずっと待ってたんだからね!」恥ずかしそうに言ったリナに  
「じゃあ、もう遠慮はいらんな」と。  
ガウリイは幸せそうな笑みを浮かべて、ふっくらしたミルク色の肌に唇を落とした。  
 
初めて触れた肌は、雨に打たれたせいで少しだけ冷たく。  
そしてとても柔らかかった。  
リナの許しを受けて、ガウリイは薄い皮膚を押し上げる鎖骨の上に唇を寄せると、  
痛みを感じさせない程度に吸いあげて、赤い印を残した。  
印を刻んだ時。リナは小さく息を吸いこんだだけで声をあげる事はなかった。  
恥ずかしいのかくすぐったいのか、かすかに身を捩っただけで。  
だが、ガウリイには判っていた。リナが、どう振舞えばいいのか途惑っている事を。  
その証拠にまるで苦行に耐えるかのように固く目を閉じ、歯を食いしばったままなのだから。  
『どうしたものか』  
日頃クラゲと称されるガウリイにしては珍しく、次の出方を考えてみるが、  
『今日はここまでで諦める』という選択肢だけはあっさりと捨てる。  
リナは『待っていた』と言ったのだ。  
この好機を逃すのだけは、どう考えても最悪だと判りきっている。  
なら、リナの緊張が解れるまで耐えればいい。どうせ時間はたっぷりとあるんだ。  
こっそりと口の端を上げて、ガウリイは密やかに心を決めた。  
「リナ、全部オレに任せとけよ」  
「まかせる、って・・・?」  
ガウリイは恐る恐る薄目を開けたリナに微笑みかけると、  
布越しの胸の尖りに唇を寄せ、そのまま軽く噛みついた。  
「ひゃうっ!」突如与えられた強過ぎる刺激に、リナは悲鳴のような反応を返す。が。  
「これ、邪魔だな」そんな事お構いなしに、ガウリイは齧る力を緩めると  
布だけを銜え直して、邪魔な服をたくし上げにかかった。  
ガウリイの意図を察したリナは、緩慢な動きで自ら服に手を掛けると  
そのまま遠くに放り投げた。・・・まるで自ら退路を断つように。  
「ね。ほんとに全部、任せちゃってもいいの?」  
圧し掛かる男の顔は見ないまま、恥ずかしそうに問いかけたリナは、  
ほっそりとした両腕を彼の広い背中に回して、小さく安堵の息を吐いた。  
彼の目の前に素肌を晒すよりも、この方が緊張しなくてすむ。  
そのまま逞しい胸板に頬を摺り寄せると、力強い鼓動が伝わってきた。  
「あんまり聞くなよ。 柄にもなく緊張してるってバレちまうだろうが」  
ガウリイにしては珍しくも照れたのか、いつもの癖で頬を掻くと  
そのまま手をリナの頭に乗せ、髪をくしゃくしゃにかき混ぜてしまう。  
「ばかっ! これ以上乱れさせてどーすんのよ!!」  
慣れた仕草に安心したのか  
「あたし。どうすればいいかなんて、判んないわよ?」  
開き直って、リナが笑った。  
「知っていられる方が、もっと困る」  
釣られてガウリイも笑うと、しっかりと彼女を抱き寄せて唇を奪った。  
 
それからは、今までのぎこちなさが嘘のように、順調に進んでいった。  
ガウリイの指が、手の平が。そして唇と舌が。  
リナの柔肌を慈しむように撫でては離れ、不意を突いて  
尖った胸の先端を摘んだり臍を掠めながら、徐々に下方へと移動する。  
同時に敏感な耳にも、ガウリイは舌を這わせたり息を吹き掛けたりしながら、  
愛撫の一つ一つに敏感に反応するリナの姿に、嬉しそうに目を細めた。  
頃合を見て、さりげなくリナの脚の間に自分の脚を割り込ませる。  
リナにはそういう自覚はないのだろうが。  
噛み殺そうとして堪えきれずに、唇から零れる嬌声も。  
時折、恥ずかしそうにガウリイに向けられる眼差しも。  
広い背中に突き立てられる爪先さえもが、早く早くとガウリイに訴えてくる。  
少しだけ力を込めてリナの脚を割り広げ、一番奥に手を伸ばすと  
そこは充分に濡れていて、指で軽くくつろげると小さな水音を立てた。  
「・・・痛くないか?」  
静かに指を差し入れながら、ガウリイは顔を寄せると舌を突き出して  
たっぷり溢れる蜜を舐め取っていく。  
「ん・・・や・・・はぅ、んうっ!!」  
敏感な箇所を刺激されて、恥ずかしそうに震えるリナに満足しながら、  
空いている腕を伸ばして、尻の丸みや腰のくびれやらを軽く握りこんだり引っかいたりと、  
ガウリイはたっぷり時間をかけてリナの身体の隅々にまで愛撫を施していった。  
ひっきりなしに溢れ出す蜜の源の、少し上。  
ちまりと尖った芽を吸い上げた瞬間だった。  
「や・・・やぁっ・・・がうっ、ガウリイっ、あたし・・・も、だめぇ!!」  
悲鳴のような嬌声と共に、ガクガクと背筋を反らしてリナがイった。  
 
ガウリイは身体を起こすとリナが落ち着くのを待ってから。  
がっちりと太腿を抱え上げて細い腰を引き寄せて、そのまま硬くなった自身を  
リナの秘所に押し当てると狭い胎内に侵入を開始した。  
「ん・・・がう・・・くる、し・・・」  
襲い来る圧迫感と疼痛に苛まれて、苦しげな息を吐きながらもリナは、  
一切拒絶の言葉を口に出さなかった。  
それどころか、腰を捕らえるガウリイの腕に自分の手を重ねると、  
意識的に浅い呼吸を繰り返して、できる限り身体から無駄な力みを逃そうとする。  
そんなリナを見て、ガウリイは「すまん」と一言詫びてから、  
グッと強く腰を押しつけて最後まで中に侵入を果たすと、動くのを止めてしまった。  
リナの身体がガウリイの大きさに馴染むまでじっと、辛抱強く。  
「・・・ガウリイ」  
しばらく後。  
リナは細い声で愛しい男の名を呼ぶと、両腕を彼の背中に回すと  
髪を軽く引っ張って「ねぇ」と続きを促した。  
「辛かったら言えよ。・・・なるべく、優しく、って!こら!!」  
「・・・そーやって、子ども扱いされる方が、嫌なんだってば」  
ついついリナに対して甘くなるガウリイに対し、彼女は自ら動く事で遠慮無用と示したらしい。  
「おまえさん・・・いや、オレが悪かった。じゃあ、本気で行くぞ?」  
改めて逃げられないようリナの身体を完全に押さえ込んで、ガウリイが笑った。  
今まで決してリナにだけは見せてこなかった、男臭い笑みで。  
「あっ、あっ、あうっ!・・・やっ、あふっ。・・・ガウリイっ!!」  
ようやく力強く動き出したガウリイに揺さぶられてながら。  
送り込まれる熱を一つたりとも取りこぼさずに受け止めたいと、  
リナは目を閉じて、与えられる快感に身を委ねていった。  
 
キシキシと鳴る床の上。  
男の肩に担ぎ上げられて揺れる、白い脚。  
荒く吐き出される吐息が、狭い小屋の中を満たして。  
積年の思いを遂げて絡み合う二人の熱は、まだまだ醒めそうになかった。  
 
 
・・・計画決行時刻から数時間後。  
吉報を待ち望むアメリアの元にようやく現れた魔族は、人の形を保っていなかった。  
かつて魔竜王をも貫いた、霧を凝らせたような黒い円錐。  
純粋なる精神体。赤眼の魔王に連なるモノ。  
今や輪郭すらもはっきりとせず、虚ろに霞んで揺れる高位魔族。  
獣神官ゼロスの、本体である。  
「・・・ガウリイさんが絡んだ時点で、初めから僕らの負けだったようです。  
せっかく用意した触手魔族もガウリイさんに一刀両断されちゃいましたし、  
アストラルサイドに身を潜めていた僕の事まで、すっかりお見通しでしたよ。  
いやぁ。元々人間離れしたお人だとは思っていましたが、  
ガウリイさんはリナさんが絡むと、魔族より性質が悪いですね。  
・・・では、僕はこの辺で。あ、しばらくこっちには寄り付きませんのであしからず。  
好奇心は猫をも殺すと言いますが、いやはやどうも・・・」  
こんなボヤキを置き土産に、黒い魔は空間を渡り姿をくらませ。  
「魔族の弱体化と、リナさん達の関係進展。  
当初の予定とは違ったけど、結果オーライって事で♪」  
アメリアは一人、満足そうに微笑んだのでした。  
 
 

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